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安達 厚子, 亀山 良亘, 石川 悠, 武井 祐介, 山内 正憲
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
85-89
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
フリー
心臓大血管手術時の脳循環異常の発見に局所脳酸素飽和度(regional cerebral oxygen saturation:rSO2)使用が推奨されているが,単独で異常の判断が困難な症例がある。脳灌流の異常検出のために瞳孔記録計NPi-200TM(アイ・エム・アイ株式会社,埼玉,日本)があり,神経学的瞳孔指数(Neurological Pupil Index:NPi)として0.0~5.0までの数値で定量的に測定される(<3.0異常)。今回術中NPi値が脳灌流障害の判定に有用であった症例を経験した。83歳女性,真性大動脈瘤にて弓部大動脈置換術中に送血管挿入後のrSO2値低値から大動脈解離発症に伴う脳灌流異常を疑ったが経食道心エコー,術野での大動脈の性状,開始していた人工心肺送血に異常なく断定できなかった。しかし,NPiが同時に0であり脳灌流障害を確信し大動脈解離の診断前に早急に26度の低体温導入と脳分離体外循環開始を計画できた。上行大動脈を切開した際に右腕頭動脈から上行弓部まで解離を認めたが,予定術式範囲で手術は終了し術後神経学的後遺症はなかった。心臓大血管手術においてNPiモニターは非低体温時に発生した術中灌流障害の判定に有用と考えられる。
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富田 寛生, 宜野座 到, 垣花 学
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
91-95
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
フリー
胸部大動脈ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair:TEVAR)での対麻痺の発生率は,外科手術での発生率と比較すると低いとされているが,ひとたび起こしてしまうと患者予後に関わる重篤な合併症であることには変わりはない。また,脊髄保護戦略の一つとして知られる脳脊髄液ドレナージ(cerebrospinal fluid drainage:CSFD)は200 mm以上のステント長,腹部大動脈手術の既往など対麻痺の高リスク症例に選択的に施行することが推奨されているが,時に重篤な合併症を生じるため,慎重に管理する必要がある。
今回我々は,Crawford分類Ⅱ型の胸腹部大動脈瘤に対してTEVAR,開窓型大動脈ステントグラフト内挿術(fenestrated endovascular aortic repair:F-EVAR)を一期的に施行した78歳男性において,術後急性対麻痺を生じた症例を経験した。CSFDをはじめとした種々の治療を行い,対麻痺の改善を得ることができた。しかし,CSFDによると考えられる脊髄硬膜外血腫も同時に問題となった。脊髄保護戦略に関して慎重な考察を要する症例であった。
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大久保 涼子, 森川 洋平, 平岡 敬士, 樋下 徹哉, 我喜 屋徹
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
97-101
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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若年女性の大動脈解離は稀で約半数は妊娠と関連する。帝王切開や分娩後の大動脈置換術ではヘパリン使用による産科出血が問題となる。分娩直後に急性大動脈解離を発症し,大動脈基部置換術を施行された若年女性の麻酔を経験したので報告する。
症例は38歳女性で経腟分娩後に胸背部痛を訴えて当院に搬送され,急性大動脈解離Stanford A型及び冠動脈解離疑いにてBentall手術及び冠動脈バイパス術を施行された。術前に産科出血の対応について産科医師を含めて協議し,冠動脈解離疑いから大動脈基部置換術が最優先と判断し予防的子宮全摘術は行わなかった。子宮収縮薬は血圧上昇による冠動脈解離進行の懸念から予防投与は避けた。鎮静薬は子宮筋弛緩作用の少ないプロポフォールを用い,産科出血量は手術室スタッフと血液汚染や循環血液量喪失の有無を確認して推察した。産科危機的出血の際は子宮収縮薬投与・子宮内止血バルーン留置・子宮全摘術等を行う体制としたが,出血無く手術を終えた。経過良好にて13病日に退院した。
分娩直後のBentall手術は産科出血への対策が重要だった。関連各科や手術室スタッフと連携して安全に管理出来た。
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菊池 幸太郎, 濱松 勇輝, 濱田 泰輔, 谷島 明秋, 小西 周, 萬家 俊博
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
103-106
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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急性心筋梗塞に対して心拍動下冠動脈バイパス術が行われた。全身麻酔導入後,超音波ガイド下に右内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入した。ガイドワイヤーを抜去しようとしたが抵抗を感じ,経食道心エコーでガイドワイヤー先端にユースタキオ弁が絡み付いていることがわかった。長いダイレーターでガイドワイヤーを直線化して絡まりを解除しようと試みたが失敗した。心臓を損傷する危険性があるため,開胸後にガイドワイヤーを体外から引っ張り,抜去に成功した。右心房内に胎生期遺残構造物が残っている場合,中心静脈カテーテル挿入時にガイドワイヤーが絡まる可能性があり十分注意が必要である。ガイドワイヤーが三尖弁などの正常構造物に絡まっている可能性もありその鑑別には経食道エコーが有用である。抜去するには,侵襲の低い方法から試み,損傷に備え心臓外科医のバックアップのもと手術室で行うべきである。
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槐島 愛子, 長野 真行, 井上 敏, 神山 拓郎, 井ノ上 博法, 上野 正裕
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
107-111
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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動静脈瘻(Aortocaval fistula:ACF)は破裂性動脈瘤の稀な合併症であり,特異的な臨床症状を呈するが救命率は低い。今回ACFにより高拍出性心不全を呈したため緊急ステントグラフト内挿術によるACF閉鎖の麻酔を経験したので報告する。
症例は70才,男性。前医で腹部大動脈切迫破裂と診断された。当院での腹部エコーによりACFが判明,高拍出性心不全のため肝逸脱酵素上昇と軽度肺うっ血を合併していたため緊急ステントグラフト内挿術となった。麻酔導入によりカテコラミンの補助を必要としたが,ステント挿入により循環動態は著明に改善した。
ACFの閉鎖前は高拍出性心不全のため循環を保つ事が困難で,大動脈閉塞バルーンにより姑息的にACFを閉鎖してから手術を行う事もある。ACF閉鎖により即時に血圧は上昇するが,手術後もうっ血の治療や抗凝固薬の使用など複雑な治療を行う事があり,慎重な麻酔管理が要求される。
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柚木 一馬, 米澤 侑汰, 野住 雄策, 美馬 裕之
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
113-117
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
フリー
88歳女性,Stanford A型大動脈解離に対して緊急で上行大動脈置換術が行われた。術後胸部造影CTおよび右室造影検査により右室心尖部仮性瘤形成を認め,肺動脈カテーテル挿入操作が原因として疑われた。保存的加療の方針となり,手術から半年後の胸部造影CT検査で仮性瘤の消失を認めた。右室仮性瘤形成は肺動脈カテーテル挿入における極めて稀な合併症であり,かつ致死的となりうる合併症である。肺動脈カテーテルの挿入においては,右室仮性瘤形成も含めた心筋損傷の可能性を念頭に置き,リスクが高い症例ではカテーテル心室内操作の過剰な繰り返しを避け,肺動脈内への誘導が困難な場合は撤退も考慮に入れるべきである。さらに習慣的な肺動脈カテーテルの挿入を行っている場合は肺動脈カテーテルの適応も再考すべきである。
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安藤 太一, 白水 和宏, 小佐々 翔子, 辛島 裕士, 山浦 健
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
119-123
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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先天性心疾患術後の肺動脈弁閉鎖不全症が顕著化する成人患者が増加している。しかしながら,複数回の手術歴により,開心術のリスクが大きいと判断される症例に対し,米国では経カテーテル肺動脈弁留置術(TPVI:transcatheter pulmonary valve implantation)が2010年より行われている。本邦においては2023年3月にHarmonyTM経カテーテル肺動脈弁システム(日本メドトロニック株式会社,以下Harmony TPV)の臨床使用が開始された。Harmony TPVは自己拡張性ニチノールフレームに取り付けられたブタ心のう膜を用いた生体弁を,バイプレーンX線血管撮影装置を用いて経カテーテル的に留置するシステムである。TPVIは低侵襲である一方,非手術室麻酔管理を要すること,術者の技術不足による合併症,手技に伴う不整脈の出現,弁展開時に循環動態が不安定となるなど注意点が多い。今回,TPVIの麻酔管理を2例経験したので,管理上の注意点を報告する。
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堀内 俊孝, 山本 藍紗, 石川 智喜
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
125-128
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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人工心肺を用いた心臓血管手術における人工肺入口圧の異常上昇は,人工肺の緊急交換などの危機的な状況を惹起する可能性がある。今回われわれは,当院において2015年4月から2021年3月の期間に人工心肺を用いた成人心臓血管外科手術を受けた患者について,人工心肺記録をもとに人工肺入口圧が300 mmHg以上に増加した症例を異常圧上昇症例として抽出した。人工心肺を用いた心臓血管手術を受けた463例中5例(1.1%)に人工肺入口圧の異常圧上昇がみられた。5例中1例のみ人工肺入口圧が一時的に400 mmHgを上回ったが,それ以外の4例では400 mmHg以上の圧上昇は示さなかった。日本心臓血管外科学会は人工肺入口圧が400 mmHg以下の状態で人工肺の緊急交換は不要と報告している。本症例報告でもすべての症例で規定の循環動態指標の維持が可能で人工肺の交換を要さなかった。
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和久田 千晴, 川島 信吾, 杉村 翔, 小林 賢輔, 中島 芳樹
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
129-134
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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先天性心疾患を合併する妊婦は,妊娠経過に伴う循環血液量や心拍出量の増大により循環動態が大きく変化する。今回,妊娠中に喀血をきたした部分肺静脈還流異常症の1例を経験したので報告する。症例は36歳女性。19歳で部分肺静脈還流異常症と診断された。前回妊娠時に喀血があり,気管支動脈塞栓術を施行した。妊娠34週に喀血と呼吸困難感のため救急搬送された。来院時,呼吸困難で仰臥位がとれなかった。血液検査で貧血を認めたが,凝固能は正常範囲内であった。胸部CT検査で右上肺静脈は奇静脈に流入し,右主気管支にほぼ内腔を閉塞する血餅を認めた。部分肺静脈還流異常症に伴う肺血流増加に加え,妊娠に伴う循環血液量や心拍出量の増大により喀血が生じたと推測された。妊娠継続は困難と判断され,緊急帝王切開術を行うこととした。呼吸苦で仰臥位になれないことや術後の疼痛に伴う呼吸・循環動態の変化を懸念し,麻酔方法は硬膜外麻酔併用全身麻酔を選択した。術中の循環動態は大きく変動することなく,手術は終了することができた。
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髙松 渥子, 工藤 雅響, 國澤 卓之, 小出 康弘, 小田 利通
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
135-140
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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右冠動脈(RCA)の起始異常を伴う患者でStanford A型急性大動脈解離(AoD)を発症した症例を2例経験した。この2例はRCAが左冠尖(LCC)側で左冠動脈(LCA)の前方より起始し,大動脈と肺動脈の間を走行して大動脈の前方へ向かい,RCA領域を灌流した。2例はRCAに大動脈解離が及んでいないにもかかわらず,術前からもしくは術中にRCA領域の虚血症状を呈した。RCA起始異常を伴う患者におけるAoDは通常とは異なるメカニズムで虚血症状を起こすことがあり,経食道心エコー(Transesophageal echocardiography:TEE)による冠動脈起始や走行,冠動脈における解離の有無の確認,および局所壁運動異常や治療後の同部位の観察は重要である。
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張本 英男, 孫 慶淑, 横田 菫, 山田 高之, 山地 芳弘, 坂口 雄一
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
141-145
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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Löffler心内膜炎は好酸球増多症候群に合併する心合併症である。今回重症僧帽弁閉鎖不全症を合併したLöffler心内膜炎患者の症例を経験したため報告する。
症例は74歳女性。胸痛と呼吸困難を主訴に救急搬送され,うっ血性心不全の診断となった。初診時の血液検査で好酸球上昇(3,240/μl),心エコー検査で左室内血栓を認め,Löffler心内膜炎が疑われた。ステロイド・抗凝固薬等の内科治療で効果がなく,経過中に重症僧帽弁閉鎖不全症(MR)が出現した。内科治療抵抗性のため,外科手術の方針となった。僧帽弁テザリングの程度は軽度であること,また血栓による可逆性変化である可能性が否定できず,まずは左室内血栓除去のみを行う方針となった。しかし血栓除去,自己心拍再開後の経食道心エコー所見では重症MRの所見が残存した。術中所見では乳頭筋や腱索の変性が高度であったことから僧帽弁置換術を追加した。Löffler心内膜炎は稀な疾患でありガイドラインによる僧帽弁形成術の治療方針の応用が困難である。線維化など組織変性が強いLöffler心内膜炎に併発したMRでは弁置換術が必要になる可能性があることが示唆された。
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嵯峨 卓, 小玉 早穂子, 石野 寛和, 堀越 雄太, 合谷木 徹, 新山 幸俊
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
147-152
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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症例は20代の女性。166 cm,64 kg。先天性心外膜欠損症合併妊娠に対して入院管理していたが,経過中に胸痛が出現したため妊娠34週4日で緊急帝王切開術を行った。事前のMRIで左室心尖部の心外膜に約3 cmの欠損を認め,体位による心電図変化がみられた。術前には左側臥位で胸痛が出現し,仰臥位では無症状であった。麻酔方法は脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔を選択した。右側臥位で穿刺し,仰臥位に変換後も手術台の左横転は行わなかった。術中に胸痛や動悸の訴えはなく循環動態は安定していた。本症例は左側臥位になることで心外膜欠損部に心尖部が逸脱し,胸部症状を呈したと推察される。症状増悪の要因として,妊娠経過に伴う子宮増大による物理的要因や循環血漿量増加による前負荷の増加が考えられた。陽圧換気が母児に与える影響が不明だったため全身麻酔は避け,当院の帝王切開術の周術期管理において最も慣れている脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔を選択した。心外膜欠損症合併妊娠に対する帝王切開術において麻酔方法の選択に一定の見解はないが,本症例は脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔で安定した麻酔管理が可能であった。
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渡邉 萌衣, 和田 涼子, 千田 雄太郎, 簑島 梨恵, 西部 伸一
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
153-157
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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純型肺動脈閉鎖の1歳1か月の男児に,両方向性グレン手術を行なった。上大静脈へ脱血管を挿入し,脱血管周囲の上大静脈を絞扼した4分後には中心静脈圧が上昇し,患児の顔面うっ血を認めた。上大静脈脱血管の位置調整を行ったが改善せず,脱血管を抜去したところ管内に血栓様物質を確認した。新しく同型の脱血管を挿入し,その後は脱血不良の問題なく手術は終了した。回収した血栓様物質の病理組織学的所見は白色血栓であった。
本症例では,脱血管内の白色血栓による閉塞が脱血不良の原因であった。脱血管内に血栓が形成された原因として,患者要因,抗凝固剤の不足・効果の低下,脱血管自体の問題が挙げられるが,人工心肺開始後のACTは1500秒以上であり,脱血管以外の人工心肺の回路には血栓形成は認められず,患者要因の凝固能の問題や,抗凝固剤の不足・効果の低下は考えにくい。閉塞した脱血管についてメーカーに精査依頼をしたが,原因は特定できなかった。
脳障害につながる上大静脈脱血不良は,人工心肺中の灌流圧や灌流量,混合静脈血酸素飽和度の異常がなくても発症しうるため,中心静脈圧や脳内局所組織酸素飽和度モニタリングに加え,頭頸部のうっ血や結膜浮腫の観察が重要である。
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佐藤 浩毅, 和泉 博通, 北川 麻紀子, 竹野 典子, 土谷 祐輝
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
159-163
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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症例は78歳女性。sino-tubular junction(STJ)の狭窄を伴う重症大動脈弁狭窄症に対して外科的大動脈弁置換術を予定した。高度に石灰化したSTJは17 mmと狭窄し,通常の人工弁の通過は困難と判断した。高度な石灰化のため経カテーテル大動脈弁置換術もリスクが高く,小さく折り畳んで留置するPerceval生体弁®(Corcym Japan)であれば,狭窄したSTJを通過できると考えた。STJ通過から弁留置の間,大動脈壁と留置デバイスとの間隙がほとんど無く,留置位置は目視で確認できなかったが,胸腔鏡を留置デバイスと大動脈壁の間に挿入する事で視野を得ることができた。弁留置後の経食道心エコー(transesophageal echocardiography;TEE)では,弁の開閉や位置の異常,冠血流の低下を認めなかった。微量の経弁逆流を認めたが経過観察可能と判断した。術後8日目の経胸壁心エコーで弁逆流は認めなかった。Perceval生体弁留置後は,TEEによる弁の適切な展開,冠動脈との位置関係,逆流の有無とその重症度の評価が必要である。弁座部分は通常の生体弁と同様に高エコーで観察が困難な場合がある。本症例はSTJの狭窄により術野で弁の位置を目視で確認することが困難であり,TEEの重要性が通常の手術に比べて高い症例であった。
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宮﨑 絵里佳, 木村 斉弘, 伊藤 慎也, 大西 佳彦, 坪川 恒久
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
165-168
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
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65歳男性,僧帽弁閉鎖不全症・心房細動に対しロボット支援下僧帽弁形成術・左心耳クリップによる左心耳閉鎖術が施行された。人工心肺離脱時の経食道心エコーにて左室側壁・下壁の局所壁運動低下を認め,心室細動となった。ICG蛍光法で左回旋枝(Left Circumflex Artery:LCX)の血流を認めず,左心耳クリップによるLCXの圧迫が疑われ,左心耳クリップが除去された。その後は左室局所壁運動低下を認めず,人工心肺からの離脱も容易であった。左心耳基部の近傍にはLCXが走行しており,左心耳クリップにより左心耳閉鎖をした際は,経食道心エコーで左室壁運動異常やLCXの血流を確認することは有用である。
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黒江 泰利, 池田 遼太郎, 安富 苗波子, 村上 遙香, 西山 波南, 岩川 明日香, 亀田 奈々, 小畑 ダニエル, 大西 淳司, 井上 ...
原稿種別: 症例報告
2024 年 28 巻 1 号 p.
169-173
発行日: 2024/09/01
公開日: 2024/09/12
ジャーナル
フリー
鈍的胸部外傷による外傷性三尖弁逆流は初診時に見逃されることも多い。原因として,非常に稀であり認知度が低いこと,随伴する他の鈍的胸部外傷により所見を得にくいこと,特異的初期症状が乏しいこと等があげられる。また外傷後しばらくして弁損傷を生じた報告もある。加えて本病態では症状が顕在化しにくいため右心不全が進行するまで診断が遅れることも少なくない。以上を考慮し,鈍的胸部外傷の存在や心筋バイオマーカーの上昇など鈍的心損傷の鑑別が必要な症例では,初診時,更にはその後も反復して心エコー等の検査を行うべきである。治療のコンセンサスは乏しいが,重症の一次性三尖弁逆流では外科的治療が推奨となりうる。特に外傷性三尖弁逆流は若年で生じうる病態であり,弁形成が可能な時期を逃さないことが重要と考えられる。我々の症例は,初診時の経胸壁心エコーで三尖弁の異常は指摘できないまま外傷性大動脈損傷に対し緊急手術となった。しかし人工心肺で心停止となる前に経食道心エコーで外傷性の重症三尖弁逆流を発見できたため,一期的に修復することができ良好に経過した。
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