ダム貯水池には,ゲート閉塞や流木流出を防ぐために網場が設置されている。経年劣化した網場のネット部が破損して流木捕捉機能が損なわれれば,ダムの安全管理上大きな問題となるが,その劣化メカニズムは十分に明らかにされていない。そこで,本研究ではネット部の経年劣化メカニズムを明らかにするために現地調査と室内実験を行った。その結果,ネット部は,紫外線・流木接触・法面接触により劣化し,ネット配置ごとに劣化要因が異なることがわかった。また,劣化による破網の発生確率は,外力の大きさで変化すると想定し,摩耗に対するネットの劣化対策と網場への想定外力とを考慮した破損開始時期を求める方法を提案した。
本研究では,河川水辺の国勢調査結果に掲載の来訪理由や潜在的な観光動向を分析するため,人流オープンデータ,SNSの一つであるTwitterおよびGoogle Trendsを用いて,ダム来訪者の観光動向分析を行った。分析の結果,ダムカードやダムカレーといったダム誘致の取り組みや,国勢調査結果に挙げられたダム来訪理由がTwitterデータにも現れる結果となった。また,Google Trendsと組み合わせた分析を行った結果,人気漫画による観光効果や各ダムの周辺施設やイベントなどの特色を確認することができ,国勢調査に掲載のない潜在的な来訪理由を把握できた。
フィルダム基礎岩盤内に間隙水圧計を配置し,人為的に岩盤内水位を変動させた際の実測間隙水圧挙動とFEM解析により複雑な水理地質構造の同定を試みた事例を報告する。上下流の岩盤間隙水圧計データを利用しカーテングラウチングの施工時品質や完成したカーテンの原位置遮水性能を評価,試験湛水に向け活用する事例を示すと共に,岩盤間隙水圧計とグラウチング施工履歴の関係やカーテン遮水性能の三次元可視化が可能なICT現場品質管理システムについても紹介する。
堆砂量測量は多くのダムで義務付けられていると同時に安全・持続可能なダム運用を行うための重要な情報源である。近年はナローマルチビームの登場により従来と比べ遥かに高精度な堆砂測量が可能となった。一方,測深では誤差の発生が不可避であり,これは過去と比して堆砂量がデータ上で減少する「負の堆砂量」という問題として顕在化することがある。本研究ではナローマルチビームを含む音響測深が抱える誤差の発生要因を紹介する。また,奈良県室生ダムで得られた20年分の測深データを分析し,誤差が貯水池斜面部で頻発することを示す。
本報告は,砂床河川である千葉県養老川に位置する高滝ダムで約10年間実施されてきた土砂還元試験における置土の工夫,環境モニタリング調査について報告する。置土については,施工時期・頻度・置土形状等の見直しを重ね,年間の土砂還元量を1,500 m3から10,000 m3に増加させた。モニタリング調査では,下流河川で魚類調査,物理環境調査,トレーサー追跡調査などさまざまな調査を継続的に実施した結果,影響は特に認められなかった。一方,砂分の堆積範囲の拡大に伴い,砂地を好む魚種の割合が増加する傾向が確認された。今後も土砂還元を推進することが望まれる。
本研究では奈良俣ダム(独立行政法人水資源機構・群馬県みなかみ町)の地震記録に基づいて堤体のP波速度,S波速度とその振動特性を検討した。その結果,S波速度は (1) コアゾーン上部で350~360 m/s,下部で540~570 m/s,(2) 上流側,下流側ロックゾーンではともに560~600 m/s,P波速度は (3) コアゾーン下部1,950 m/s,上部では520 m/s,(4) ロックゾーンでは上流側1,800 m/s,下流側1,100 m/s程度となり,貯水による飽和の有無と整合する結果が得られた。また,(5) FE-BE解析による堤体の固有振動数は観測スペクトル比による固有振動数とほぼ一致する結果が得られた。