日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
11 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 中村 彩子, 高橋 智子, 大越 ひろ
    2007 年 11 巻 3 号 p. 169-178
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2021/01/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,カラギーナン製剤,ゼラチン,寒天を用いて調製した軟らかなお茶ゼリーについて,動的粘弾性測定を行った.測定に用いたゼリーは,20℃ 20h静置時の硬さが1×103 (N/m2) となる添加濃度で調製した.そして,動的特性値と高齢者での官能評価結果との対応について検討を行った,

    その結果,以下の知見を得た.

    1.寒天ゼリーの線形領域は,10℃,20℃のいずれの温度においても,カラギーナン製剤ゼリーおよびゼラチンゼリーよりも狭いことが示された.つまり,寒天ゼリーは,カラギーナン製剤ゼリーおよびゼラチンゼリーに比べ狭く,小さな力で変形するゼリーであるといえる.

    2.本研究で用いたゼリーは全て,10℃および20℃のどちらの温度においても,周波数の減少に伴い緩やかにG' 値が減少する weak gel であることが確認された.つまり,ごく軟らかな硬さに等しく調製されたゼリーであれば,ゲル化剤の種類に関係なく,しなやかで飲み込みやすいと言われる weak gel が得られる可能性が示唆されたといえる.

    3.20℃お茶ゼリーは,官能評価における飲み込みやすさには有意差が認められなかったが,硬さ以外の力学的特性値には有意差が認められた.つまり,ごく軟らかな硬さに等しく調製されたゼリーであれば,ゲル化剤の種類が飲み込みやすさに与える影響が小さくなる可能性がある.

  • 木口 らん, 藤島 一郎, 松田 紫緒, 大野 友久
    2007 年 11 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2021/01/17
    ジャーナル フリー

    【目的】健常成人に唾液腺上皮膚のアイスマッサージを行い,唾液分泌が減少するかを検討した.

    【対象と方法】嚥下障害の既往がなく,唾液分泌に影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用していない健常成人で書面にて本研究の目的を説明し同意を得たボランティアを対象とした.氷を入れた金属製の寒冷刺激器を用いて耳下腺,顎下腺,舌下腺各々の表面皮膚上を1分間ずつ合計10分間マッサージする方法を1クールとした。唾液測定は各々30分間とし,吐下法を用い重量計で測定し唾液分泌速度(SFR)ml/minを計算した.日内変動を考慮し測定は夕方に統一した.実験1:即時効果判定目的.健常成人36名(男性14名,女性22名,年齢29.2±6.5歳).唾液腺皮膚上のアイスマッサージ1クールを行い,前後のSFRを比較した.対照群として同一被験者でアイスマッサージをせずに10分間の休憩の前後でSFRを測定し,比較した.実験Ⅱ:長期効果判定目的.アイスマッサージ群:健常成人22名 (男性11名,女性11名,年齢30.4±5.8歳).10分間のアイスマッサージを1日3クール7日間行い,開始前と終了日のSFRを比較した.対照群:健常成人15名 (男性2名,女性13名,年齢26.9±5.0歳).アイスマッサージを行わず,7~8日の間隔をあけて2回のSFRを比較した,

    【結果】実験Ⅰ:アイスマッサージ後にSFRは有意に減少した (p = 0.002).アイスマッサージなしの休憩前後でSFRに有意差はなかった (p=0.120).実験Ⅱ:7日間のアイスマッサージ後のSFRは有意に減少した (p=0.033).対照群ではSFRに有意な減少はなかった (p=0.885).

    【考察】健常成人において,唾液腺上の皮膚アイスマッサージによりSFRが有意に減少し,即時効果と長期効果を認めた.流涎治療としてアイスマッサージ継続の有効性が示唆された.

短報
  • 髙橋 摩理, 内海 明美, 向井 美惠
    2007 年 11 巻 3 号 p. 187-194
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2021/01/17
    ジャーナル フリー

    【目的】ヨーグルト(以下YG)は,摂食・嚥下機能不全の小児に高頻度に摂取される食品のひとつである.現在数多くのYGが市販されており,商品により特性にも差が認められると推察される.そこで,障害児の口腔機能に適したYGの要件を知ることを目的に,本研究を実施した.

    【対象と方法】医療機関および療育センター各施設の摂食外来を継続的に受診している障害児50名の保護者を対象に,YGの摂取状況に関する聞き取り調査を行った.次に,対象児が摂取している市販のYG12品及び市販のベビーフードの機械的物性試験を行った.

    【結果】 1.YGを1日2回以上摂取する児は42%であった.対象児の82%はYGを10分以内に摂取しており,「摂取時にむせる」と回答した保護者は認められなかった.

    2.対象児が摂取している市販のYGの機械的物性はYG間で差が認められ,市販のベビーフードの離乳初期~中期食の物性に相当していた.

    3.YGは,かたさ応力が大きくなるに従い付着性が有意に高く,凝集性が有意に小さくなっていた.

    4.嚥下機能獲得不全と評価された小児の約40%が,付着性の高いYGを摂取していた.

    【考察】聞き取り調査の結果,YGは対象児の食生活において重要度の高い食品であった.対象児が摂取するYGの機械的物性は,YG間で差が認められ,市販のBFの離乳初期~中期食の物性に相当していた.このことより,摂食・嚥下機能に問題のある小児の口腔機能に適したYGを選択する必要があると思われた.一般に食品の付着性が大きくなり凝集性が小さくなると嚥下しにくくなると推察される.YGはかたさ応力が大きくなるほど付着性が高く,凝集性が小さくなっていたことより,YGのかたさがYG選択の目安になると考えられた.

症例報告
  • ―病巣の類似性とその症状について―
    鈴木 正浩, 堀 智恵
    2007 年 11 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2021/01/17
    ジャーナル フリー

    嚥下造影にて食塊が患側輪状咽頭部を優位に通過した延髄外側梗塞の症例を2例経験した.いずれも損傷部位が酷似しており,症状にも特徴的な共通点が見られた.そこで,この2症例の病巣と症状との関係について検討した.

    症例1は62歳男性.MRIで左延髄外側梗塞(橋境界部),左椎骨動脈狭窄を認めた.嚥下不能を主訴とし,左中枢性顔面神経麻痺,非交代性右温痛覚障害などの非典型的症状も見られた.経口摂取は第12病日より再開した.症例2は58歳男性.回転性眩暈で近医受診し,MRIで橋梗塞と重度の右椎骨動脈狭窄を認めた.第22病日にBalloon angioplastyを施行したが,術後より嚥下不能,右中枢性顔面神経麻痺,嗄声,非交代性左温痛覚障害が出現.術翌日のdiffusion MRIにて右延髄外側(橋境界部)と右小脳半球に梗塞が確認された.経口摂取は約1か月後に再開した.

    2症例とも嚥下障害は重度に発症したが,予後は概ね良好だった.病巣は延髄上部に位置し,比較的限局していた.温痛覚障害はともに非交代性であり,また延髄病変ながら中枢性の顔面神経麻痺も共通して認めた.温痛覚障害については,典型例よりも背内側に損傷が及び三叉神経視床路が交叉後に損傷したため,非交代性に出現したと考えられた.また中枢性顔面神経麻痺については,延髄レベルまで下降した同神経の核上線維の損傷(Cavazosら,1995)が示唆された.食塊が患側を通過した詳細な機序は不明であるが,2症例はともに損傷部位が酷似していることから,延髄上部の損傷と食塊の患側通過との間に何らかの因果関係がある可能性が考えられる.食塊の優位通過側と病巣部位との関係について,今後多角的な検討を加えていく必要があると思われる.

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