日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
17 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • ―多変量解析による嚥下機能低下の要因の解析―
    斎藤 徹, 小池 早苗, 小澤 照史, 臼井 洋介
    2013 年 17 巻 3 号 p. 201-208
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】統合失調症の嚥下障害者における嚥下機能低下の要因を,重回帰分析を用いて解明することを目的とした.

    【対象と方法】2008 年4 月から2012 年11 月の間に当院歯科口腔外科を受診した統合失調症の嚥下障害者272 例を対象とし,後方視的研究を行った.男性:147 例,女性:125 例で,平均年齢は68.6 歳(標準偏差:12.7 歳)であった.歯科口腔外科初診時(嚥下機能評価時)に投与されていた種々の抗精神病薬の投与量を,chlorpromazine(CP)の力価に換算したCP換算量の平均は454 mg/日(標準偏差:603 mg)であった.嚥下機能は,Functional Oral Intake Scale(FOIS)に基づき評価した.

    【結果】年齢,日常生活の自立の可否,屋内生活の自立の可否,座位の可否,CP 換算量および口腔顔面dyskinesia 発症の有無を説明変数,FOIS を目的変数として,重回帰分析を行った.その結果,日常生活の自立の可否(p<0.05),屋内生活の自立の可否(p<0.0001)および座位の可否(p<0.01)とFOIS との間に,有意な相関が認められた.しかし,年齢(p=0.990),嚥下機能評価時のCP 換算量(p=0.092)および口腔顔面dyskinesia 発症の有無(p=0.056)とFOIS との間には,有意な関連は認められなかった.

    【結論】統合失調症の嚥下障害者の嚥下機能は日常生活自立度(ADL)と有意に相関することが認められたが,年齢,嚥下機能評価時の抗精神病薬の投与量および口腔顔面dyskinesia 発症の有無との間には,有意な関連は認められなかった.

  • 後藤 拓朗, 村田 尚道, 前川 享子, 神田 ゆう子, 小林 幸生, 森 貴幸, 宮脇 卓也, 江草 正彦
    2013 年 17 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】カプサイシンは赤唐辛子に多く含まれる成分で,嚥下反射の促進効果が認められている.咽頭の知覚神経からサブスタンスP(以下SP)を粘膜中に放出させ,SP濃度が上昇することによって反射が惹起されやすくなるとされている.現在,嚥下障害のある患者が容易に摂取できるように,フィルム形状のオブラートにカプサイシンを含有させたカプサイシン含有フィルムが市販されている.しかし,摂取後の嚥下反射促進効果については,十分検討されていない.そこで,本研究では,カプサイシン含有フィルム摂取後の嚥下反射と咳嗽反射への効果,および唾液中SP 濃度への影響について検討した.

    【方法】対象は,20 歳から40 歳までの成人男性(17 名)とした.カプサイシン含有フィルム(カプサイシン含有量1.5 μg/枚)とプラセボフィルムを用い,クロスオーバー二重盲検法にて行った.フィルムを摂取する10 分前の安静時の値を基準として,摂取後10 分ごとに6 回の嚥下反射および咳嗽反射を評価した.嚥下反射の評価として,簡易嚥下誘発試験による嚥下潜時を測定した.咳嗽反射の評価は,1% クエン酸生理食塩水を用いて咳テストを行った.さらに,摂取前10 分,摂取後10,20 分に唾液を採取し,ELISAキットにて唾液中SP 濃度を測定した.プラセボフィルム摂取時の値をコントロール群,カプサイシン含有フィルム摂取時の値をカプサイシン群として,両群を比較した.統計学的分析はFriedman test およびWilcoxon の符号順位和検定を用いて行った.

    【結果】カプサイシン群では,摂取前と比較して摂取後40 分で嚥下潜時の短縮を認め,コントロール群では差は認められなかった.また,コントロール群と比較して,カプサイシン群は嚥下潜時が摂取後20,40 分で有意に低値を示していた.その他の時間および他の評価項目では,有意差を認めなかった.

    【結論】カプサイシン含有フィルム摂取により,嚥下反射の促進効果が,摂取後40 分に認められた.

  • 山田 康平, 近藤 和泉, 尾崎 健一, 吉岡 文, 杉山 慎太郎, 尾澤 昌悟, 田中 貴信
    2013 年 17 巻 3 号 p. 217-225
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食嚥下障害に関連して,咽喉頭感覚と誤嚥性肺炎との関係についての報告がいくつかみられる.しかし,われわれは日々の食事で,Stage II transport の存在を認識することはまずない.そこで今回,Stage II transport による食塊到達時の喉頭蓋知覚を,実際の食品を使用して評価検討を行った.また,摂取食品のテクスチャーの違いが食塊到達時の喉頭蓋知覚に及ぼす影響についても,比較検討を行った.

    【方法】酵素均質浸透法を使用してテクスチャーを3 段階に調整した食品を,健常成人20 名に咀嚼させた.官能評価法を用いて,被験者がStage II transport により,食塊が喉頭蓋に到達したと感じた時点での合図を指示した.同時に,VE を使用して,咽頭における実際の食塊位置を観察し,官能評価より得られた結果と比較検討を行った.

    【結果】「咀嚼開始から合図までの時間」「咀嚼開始から食塊先端の喉頭蓋到達までの時間」はいずれも,食品テクスチャーの違いによって統計学的有意差を認めた.「咀嚼開始から合図までの時間と咀嚼開始から食塊先端の喉頭蓋到達までの時間との差」は,さまざまな値を示し,各テクスチャー間で有意な差は認められなかった.合図時の食塊先端位置は,奥舌(舌根部のうち咽頭に接する表層部位)から喉頭蓋にかけての領域で知覚している者が大半を占めた.

    【考察】Stage II transport により移送された食塊を,喉頭蓋で正確に感じ取ることは,健常成人であっても容易ではないことが明らかとなった.さらに,喉頭蓋での食塊の知覚は,摂取食品のテクスチャーに影響されないことも明らかとなった.このことから,摂取食品のテクスチャーに応じて咀嚼時間を変化させることにより,嚥下前の食塊は,類似したテクスチャーに調整されている可能性があると推測できる.

短報
  • ―自律神経系の反応と主観的評価から―
    光貞 美香
    2013 年 17 巻 3 号 p. 226-232
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】食形態が高齢者の心身に及ぼす影響について,自律神経系の反応(収縮期血圧,脈拍,唾液アミラーゼ)および主観的評価から検討する.

    【対象】A 地区で在宅生活を送っている高齢者18 名(男性6 名,女性12 名)で,平均年齢は69.1(±4.5)歳であった.

    【方法】準実験的なクロスオーバーデザインを用いた.食形態を,固形バナナとつぶしたバナナとし,両形態摂取前後の自律神経系の変化は二元配置の分散分析,主観的評価はWilcoxon の順位和検定を用いて分析した.

    【結果・考察】自律神経系の反応では,摂取前後で主効果があり,収縮期血圧値・脈拍値・唾液アミラーゼ値ともに摂取後で有意に低下していた(p<0.01).さらに,摂取形態と摂取時期による交互作用は認められなかった.以上より,固形・つぶしにかかわらず,自律神経系の活動は低下する傾向がみられ,これは,食べるという行為により安心感を得られた結果ではないかと考える.一方,主観的評価では,見た目・におい・味・温度・食感の5項目について評価した結果,5 項目すべてにおいてつぶしたバナナの場合のみ,有意に低下した(p<0.05).この結果より,バナナとわかってはいても,やはり固形での摂取を望んでいることが推測された.よって心理的な食欲の増進には,食形態が影響していると考えられる.

    【結論】高齢者における自律神経系の活動は,食形態の違いにかかわらず低下し,主観的評価は,つぶしたバナナに対する評価が低く,固形での摂取を望んでいた.このことから,味と形は記憶の中でつながっており,それが一致しない場合に食欲低下を引き起こす可能性が考えられる.高齢になると,機能障害などから高齢者が経験していない食形態をとられることが多くなる.しかし,高齢者にとっては食べたい意欲を感じてもらうことが何よりも大切であり,高齢者の食欲を刺激するような食形態に整えることの重要性が示唆された.

  • ―健常者における予備的検討―
    池田 真弓, 三鬼 達人, 西村 和子, 田村 茂, 渥美 雅子, 濱 健太朗, 稲垣 鮎美, 目黒 道生, 金森 大輔, 中川 量晴, 渡 ...
    2013 年 17 巻 3 号 p. 233-238
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】口腔ケアの手技においては,物理的清掃による汚染物の刷掃とともに,誤嚥性肺炎予防のためにも,その後の汚染物除去が重要となる.汚染物除去のために,注水洗浄が一般的に行われるが,洗浄液の誤嚥が問題となる.そこで,今回われわれは,効果的な汚染物除去方法を明らかにすることを目的に,健常者において予備的検討を行った.

    【対象と方法】健常者20 名(平均46.1±8.1 歳)を対象に,食後4 時間以上経過した後に被験者自身でブラッシングを行ってもらった.ブラシの直前,直後,汚染物除去後とその1 時間後に,舌,口蓋,歯肉頬移行部(移行部)の細菌数を細菌カウンタ(パナソニックヘルスケア社製)にて測定した.汚染物除去方法は,1.カテーテルチップでの注水洗浄,2.口腔用ウエットティッシュ(WT)での拭き取り,3.スポンジブラシ(SB)での拭き取りの3 種類とし,各手技は別々の日に行った.各除去方法における口腔内細菌数の変化を,Friedman テストを用いて比較検討した.多重比較には,Bonferroni の補正によるWilcoxon検定を用いた.

    【結果】洗浄では,移行部において,細菌数がケア前,直後から汚染物除去後にかけて有意に減少したが,舌,口蓋では,有意な減少を認めなかった.WT では,舌,口蓋,移行部すべてで,ブラシ前と比較して除去直後で有意に細菌数が減少していた.また,口蓋,移行部では,ブラシ直後と比較して1 時間後でも有意に細菌数が減少していた.SB では,移行部でブラシ前,直後から除去後で有意に細菌数は減少したが,舌では有意差を認めなかった.

    【結論】本検討では,ウエットティッシュでの拭き取りが最も効果的に汚染物を除去していた.本結果により,摂食・嚥下障害者への口腔ケアでは,注水洗浄によって誤嚥のリスクを高めるよりも,口腔用ウエットティッシュ等での拭き取りが汚染物除去に有用である可能性が示された.今後,摂食・嚥下障害者を対象に検討していく予定である.

症例報告
  • 池ノ内 紀祐, 稲垣 智則, 大立 知子, 林 修平, 黒田 浩一, 松澤 令子, 髙橋 幸子, 富田 康裕, 原 徹
    2013 年 17 巻 3 号 p. 239-244
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【緒言】非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation; NPPV)は,気管内挿管をすることなく非侵襲的に換気補助を行う方法として,各種疾患の治療に用いられている.当院では2007 年より,呼吸不全の患者の気管支鏡検査の際に,NPPV による換気の補助を行うことにより安全に検査を施行できた症例を経験している.今回われわれは,Ⅱ型呼吸不全を併発した筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)の患者で,NPPV での呼吸管理により安全に胃瘻造設を施行しえた症例を経験したので報告する.

    【症例】67 歳,女性.2010 年,ALS を発症.2011 年12 月,呼吸困難を主訴に来院.呼吸筋麻痺の進行によるⅡ型呼吸不全として加療目的で入院となった.

    【経過】入院同日よりNPPV による呼吸管理を施行.呼吸不全は速やかに改善したが,球麻痺の進行および全身の筋力低下による喫食量の減少のため,経管栄養を目的とした胃瘻造設を行うこととなった.経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy; PEG)が予定されたが,呼吸筋の萎縮に加え,術中の鎮静剤の使用による呼吸不全の悪化が危惧されたため,NPPV による補助換気下での施術となった.使用したマスクは,内視鏡挿入孔を有するスミスメディカル社のエンドスコピーマスク® を用い,NPPVの機種はフィリップス・レスピロニクス社のV60®を用いた.ミダゾラム10 mg の経静脈的投与にて鎮静を得たのち,NPPV によるマスク換気下PEG を施行.呼吸状態の悪化をきたすことなく胃瘻を造設した.

    【考察】呼吸状態の不良な患者の胃瘻造設において,NPPVによる呼吸補助は有用な方法のひとつであると考えられた.ただし,その適応は,各施設のNPPV への習熟度やチームとしての医療体制によっても異なってくるものと思われる.

  • 原 豪志, 戸原 玄, 中山 渕利, 阿部 仁子, 鰕原 賀子, 植田 耕一郎, 安細 敏弘
    2013 年 17 巻 3 号 p. 245-250
    発行日: 2013/12/31
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【はじめに】大脳皮質基底核変性症(CBD)の発症4年後の嚥下障害に対応し,声帯の外転障害による著しい呼吸障害を呈した1 例を経験したので報告する.

    【症例】72 歳女性,平成20 年2 月にCBD との診断を受けた.平成22 年10 月に誤嚥性肺炎にて入院,胃瘻造設後に自宅退院となった.その後,平成23 年3 月当科を訪問,嚥下評価の依頼により介入を開始した.

    【経過】初診時平成23 年3 月,ゼリー等を用いて嚥下内視鏡検査(VE)を行ったところ,著しい口腔期障害が認められたが,一口量を少なくすれば誤嚥なく摂取が可能であった.その後2~3 カ月に1 回往診にてVE を行い,フォローアップしたところ,徐々に嚥下障害が進行し不顕性誤嚥の出現を認めた.平成24年3 月,家族より日中の閉口に伴う息こらえ,体位変換中のチアノーゼ,夜間のいびきが増えたとの情報があり,呼吸に伴う声帯の動きを観察した.呼気時に声帯の過内転が観察された後,吸気時に声帯の外転障害が生じ70 秒程度継続した.そのため経口摂取を中止し,デイサービスおよび夜間の酸素飽和度を測定させたところ,朝方,胃瘻からの経腸栄養滴下中に急激な酸素飽和度(SpO2)低下をきたしていたことがわかった.呼吸障害がある旨を即時主治医およびケアマネージャーに報告し,SpO2 低下時に酸素吸入を行うこととした.

    【考察】パーキンソン病や進行性核上性麻痺などで,後輪状披裂筋の麻痺を伴わない声帯の外転障害が報告されているが,われわれの検索の限りでは,CBD において同様な症状は知られていない.これは錐体外路症状による内喉頭筋の持続的な筋緊張による呼吸中枢機能と,声帯運動の協調不全と考えられる.稀な症例であるが,VE を施行する際は声帯の観察も行い,嚥下評価だけでなく呼吸の評価も行うことが重要であると考えられた.

臨床ヒント
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