日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
29 巻, 3 号
日本嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 重政 光彰, 服部 宜裕, 竹岡 雅美, 矢富 嘉昭, 栢下 淳
    2025 年29 巻3 号 p. 101-110
    発行日: 2025/12/31
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     【目的】誤嚥性肺炎は日本の死亡原因上位であり栄養や嚥下機能障害が発症・重症化に関与する.経口摂取,特に普通食を摂取することは,誤嚥性肺炎患者の栄養管理や生命の質(Quality of Life: QOL)維持に重要である.入院前に普通食を摂取していた患者が誤嚥性肺炎で入院した際,入院中・退院時の普通食摂取の可否の関連要因を検討した.

    【対象・方法】誤嚥性肺炎で入院した65 歳以上の患者2 例のうち,入院前に普通食((Food Intake Level Scale: FILS)8–10)を摂取していた123 例を対象に入院7 日目のFILS で「普通食群」と「嚥下調整食群」に分類し,退院時転帰を比較した.さらに,生存退院患者101 例(男性61 例,女性40 例)における入院7 日目と退院時の食形態の変化,ならびに普通食摂取に関連する要因を分析した.

    【結果】生存退院率は,普通食群63 例(91.3%)で,嚥整食群38 例(70.4%)と比較して有意に高かった(p<0.01).嚥下調整食群38 例のうち9 例(8.9%)は非経口摂取であった.普通食群は嚥下調整食群と比較して,生存退院率,退院時FILS,元の居住地への復帰率が有意に高く,入院時の体格指数(Body Mass Index: BMI)・簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form: MNA-SF),入院7 日目のBarthel Index(BI)・エネルギー摂取量も良好であった.退院時の普通食維持率は,入院7 日目時点での普通食群の患者63 例のうち57 例(90.5%)であった.入院7 日目に普通食摂取に関する多変量解析では,BI(OR 1.04,95% CI: 1.02–1.07,p=0.002),BMI(OR 1.22,95% CI: 1.01–1.47,p=0.040),体重1 kg あたりのエネルギー摂取量(OR 1.08,95% CI: 1.01–1.16,p=0.025)の3 項目において有意な関連がみられ,退院時普通食摂取においても同様の項目に有意な関連がみられた.

    【結論】誤嚥性肺炎患者において,入院7 日目に普通食取していた患者は,退院時にも普通食を継続している割合が高かった.退院時に普通食を摂取するためには,早期から十分なエネルギー摂取を確保し,日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL),嚥下機能評価を含む多職種による包括的な介入が重要である.

短報
  • 中野 雅徳, 藤島 一郎, 中江 弘美, 篠原 千尋, 吉岡 昌美, 十川 悠香, 藤澤 健司, 大熊 るり
    2025 年29 巻3 号 p. 111-117
    発行日: 2025/12/31
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     【目的】地域の高齢者が摂食嚥下障害の徴候を早期に把握して予防法の実践や早期治療に繋げることは,健康寿命を延伸する上で大変重要である.摂食嚥下障害を簡便にスクリーニングするために,聖隷式嚥下質問紙の15 の質問項目から5 項目程度を選択した簡易版の質問紙を開発することを本研究の目的とした.

    【方法】聖隷式嚥下質問紙開発時に用いた「摂食嚥下障害有り」と診断された脳血管障害患者50名,「摂食嚥下障害無し」と診断された脳血管障害患者145 名および健常者170 名のデータを本研究に用いた.聖隷式嚥下質問紙の15 の質問項目から5 項目程度を選択する方法として,① 先行研究に準じ,義歯などの影響を受けて特異度を低くする項目「硬い物が食べにくくなりましたか?」を除外した.② 残る14 項目から,摂食嚥下障害有り患者において,各質問項目に対して重い症状A と回答した数の多い方から7 項目を抽出した.③ さらに,冗長性を減ずるために項目間の相関関係,回答一致度を類似項目除去の判断基準とした.④ 7 項目から5,6 項目を選ぶ組み合わせについて,ROC 解析によって最適カットオフ値,感度,特異度およびROC 座標の左上隅からの距離を求め,最も優れた組み合わせを最終的に決定した.

    【結果】項目「お茶を飲むときにむせることがありますか?」を冗長性項目として除外した.項目「食事中にむせることがありますか?」を含む5 項目を簡易版聖隷式嚥下質問紙の質問項目として決定した.この質問紙は,カットオフ値3 点,感度88%,特異度87.3%,AUC 0.92,Cronbach α 係数0.78 であった.

    【結論】本研究で開発した簡易版聖隷式嚥下質問紙(Swallow-5)は,感度,特異度に優れ,摂食嚥下障害の簡易版スクリーニングツールとしての活用拡大が期待される.

  • ―BIA との比較―
    七戸 翔吾
    2025 年29 巻3 号 p. 118-125
    発行日: 2025/12/31
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     【緒言】サルコペニアと摂食嚥下障害が併存する状態はSarcopenic Dysphagia(以下SD)と呼ばれている.SD の判定フローチャートでは生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis;以下BIA 法)による骨格筋指数(Skeletal Muscle mass Index;以下SMI)の他,下腿周囲長(Calf Circumference;以下CC)を用いることも可能である.しかし,SMI とCC を用いたSD の判定率を比較した研究はない.また,我が国ではSD の判定にFood Intake LEVEL Scale(以下,FILS)が多用されるが,CC とFILS によるSDの判定への影響は不明である.従って,本研究目的は以下の2 点とした.一つは,SDの判定率にSMI とCC に差異があるかを評価し,もう一つはCC とFILS によるSD の判定への影響を評価することである.

    【方法】北海道札幌市内の通所介護3 施設を利用する要支援・要介護高齢者78 名を対象とした.2023 年12 月から2025 年2 月にデータを収集した.BIA 法によるSMI 基準とAsian Working Group for Sarcopenia によるCC の基準値(以下AWGS 基準)でサルコペニアを判定し,FILS ≦ 8 点をSD と定義した.SMI 基準とAWGS 基準でサルコペニアと判定された高齢者において,SD の判定率のクロス集計より感度・特異度・κ 係数を算出した他,SD の要因に関する単変量解析の結果を比較した.

    【結果】対象者78 名のうち,サルコペニアと判定された者は,SMI 基準では,51 名(65.3%),AWGS 基準では52 名(66.7%)であり,SD と判定された者は両基準共に13 名(16.7%)であった.SMI 基準とAWGS 基準におけるサルコペニア判定の感度は0.90,特異度は0.78,κ 係数は0.69 であり,SD 判定においてはκ 係数1.0 であった.

    【結論】FILS を用いることで,AWGS 基準とSMI 基準において同等の妥当性でSD を検出し得る.一方で,FILS は食物形態の変更によって摂食嚥下障害を検出する.FILS はSD を見落とさないが,食物形態の変更が必要となるほど嚥下関連筋のサルコペニアが進行しなければ,SD の評価が難しい可能性がある.本指標だけでは評価が不十分な可能性があり,他のスクリーニングツールでSD と判定された者との比較も必要であると推察された.

  • ―マイクロCT を用いたX 線造影性評価―
    室岡 茜, 谷口 裕重, 勝又 明敏, 飯田 幸弘
    2025 年29 巻3 号 p. 126-133
    発行日: 2025/12/31
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     【背景】ビデオ嚥下造影検査(VF)では,炊飯した米に硫酸バリウムを混和したものを用いる.しかし,内部まで造影剤が浸透しないことが知られている.近年では非イオン性水溶性ヨード系造影剤(ヨード系造影剤)が米の内部に浸透したことを,電子顕微鏡で観察した報告がされている.今回,著者らはヨード系造影剤を用いて炊飯した米,粥の造影剤浸透の様相を,マイクロCT を用いて検討することとした.

    【結果】「造影剤非含有炊飯米・粥」の画素値は60~65 程度であった.造影剤含有炊飯米は低圧で170~190 程度,高圧で220~250 程度であった.造影剤含有粥は低圧で150~170 程度,高圧で180~190 程度であった.造影剤を加えることにより有意に画素値が上昇した.高圧の方が低圧より画素値が高い傾向にあり,有意差を認めたものが多かった.圧力条件は同じで作製時間の違いにより有意差を認めたものは僅かであった.

    【結論】造影剤含有炊飯米・粥の造影性を画素値化すると,造影剤を含有しない炊飯米・粥と比較して有意に高い画素値を示した.圧力炊飯器とヨード系造影剤を用いることにより,炊飯米,粥内部に造影性を付与できた.マイクロCT は客観的,定量的,三次元的に造影剤の分布を観察できる.

症例報告
  • 蓼内 博樹, 貴田 浩之, 森田 昌代, 長谷川 節
    2025 年29 巻3 号 p. 134-143
    発行日: 2025/12/31
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     【緒言】COVID-19 ワクチン接種後に筋炎を発症した症例が複数報告され,一疾患単位としてCOVID-19 ワクチン関連筋炎(COVID-19 vaccine-associated myositis:CVAM)とする概念が提唱されている.しかし,この病態の嚥下機能について着目した報告はなく,嚥下障害の詳細は不明である.今回,COVID-19 ワクチン接種後に筋炎となり嚥下障害を呈した症例を報告する.

    【症例】86 歳女性.独居でADL は自立し常食をむせなく摂取していた.X-48 日に3 回目のCOVID-19 ワクチン「スパイクバックス筋注®(モデルナ・ジャパン製)」を接種した.2週間後,四肢の筋肉痛や両上肢挙上困難が出現したが,経過観察で改善した.その後,発熱と頸部・体幹・四肢の筋力低下が出現し,X 日に緊急で当院入院となった.来院時,両前腕・体幹に発赤があり次第に皮疹が増悪し,一部びらんを伴う水疱が出現した.上肢優位の近位筋筋力低下も進行し起居動作困難となった.嚥下調整食4 を摂取していたが嚥下障害が増悪し経口摂取が困難となり,中心静脈栄養管理となった.炎症性筋疾患(筋炎)と考え,X+13 日にメチルプレドニゾロンパルス療法を行うも無効であった.X+41 日,免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)を開始した.投与直後のX+46 日から開鼻声や体幹・近位筋群の筋力は比較的速やかに回復した.しかし,咽頭残留を主体とした重度嚥下障害は遷延した.嚥下関連筋の筋力増強訓練などを継続し,最終的に嚥下調整食4 を摂取可能となりX+132 日に自宅へ退院した.本例は筋炎特異抗体が陰性であることや臨床経過などから最終的にCVAM と診断した.

    【結論】CVAM により嚥下障害を呈したと考えられる症例を経験した.本例はIVIg が有効で頸部屈筋群と四肢近位筋に比べ嚥下障害の回復は緩やかであった.

調査報告
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