日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
8 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 瀬田 拓, 稲田 晴生, 安保 雅博, 杉本 淳, 宮野 佐年
    2004 年 8 巻 2 号 p. 127-134
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    【目的】「上部食道造影パターン分類」の信頼性を検討することを目的に,造影パターンの再現性を検討した.この分類は,瀬田らが健常成人を対象に嚥下造影を施行,正面像の検討から,食道入口部通過の左右差を反映していると考えられる13種類の分類を考案し,定義したもので,左右梨状窩より流出したバリウムが左右食道側壁に沿って流れるところに着目し,梨状窩通過直下での左右差より左(右)梨状窩のみ通過,左(右)梨状窩優位通過,両側梨状窩通過に大分類する.さらに上部食道内で左右に分かれて流れる造影剤の合流の有無から細分化される.【対象と方法】健常成人52人を対象に,透視下に5mlバリウム嚥下正面像を連続3回施行.3回中2回以上出現したパターンを「初回パターン」とした.一昼夜以上間隔を空けて再度5mlバリウム嚥下正面像を3回施行.2回以上出現したパターンを「再検パターン」とし,「初回パターン」と「再検パターン」を比較した.【結果】全対象者において3回中2回以上同パターンが出現したため,全対象者の「初回パターン」および「再検パターン」が決定できた.「初回パターン」と「再検パターン」が一致した対象者は49人(94%) であった.【考察】食道入口部機能の個体差によって健常人でも上部食道造影パターンの差異が生じるものと考えられたが,同一被験者においては,造影パターンは一定しており,少なくとも短期間には変化しないものと考えられた.造影パターンの決定は,VF正面像3回施行し, 2回以上出現したパターンを採用すれば十分信頼できるものと考えられた.しかし,定性的な分類のため,分類定義の境界付近の再現性は不十分で,分類する際には限界があることに注意する必要がある. 【結論】「上部食道造影パターン分類」は信頼できる分類であることが示唆された.

  • 稲本 陽子, 小口 和代, 保田 祥代, 才藤 栄一
    2004 年 8 巻 2 号 p. 135-142
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    【目的】急性期病院における脳血管障害による摂食・嚥下障害患者の退院後の摂食状態帰結について調査し嚥下機能の長期的な変化について分析した.

    【対象と方法】平成13年4月1日から平成15年3月31日にSTが嚥下訓練を施行した脳血管障害による摂食・嚥下障害患者149名(平均年齢70.2歳)を対象とした.カンファレンスシートとカルテから,対象者の退院時の摂食状態の分布を見た.さらに退院後の追跡として,質問紙調査法を用い,患者本人および家族に対し,調査時の所在,摂食状態について電話による聞き取り調査を施行した.発症から調査までの平均日数は419日,退院から調査までの平均日数は338日であった.

    【結果】退院時の摂食状態は,経管のみ33名 (22%),経管経口併用10名 (7%),経口のみ94名 (63%),死亡12名(8%)であった.退院後追跡調査では,生存退院した137名中, 133名 (97%) から有効回答を得た.退院後調査時までに死亡したのは17名であった.調査時に生存し自宅に所在していたのは76名(50%)であり,このうち9割が経口のみであった.経管栄養を必要とする7割が自宅以外の所在であった.全対象者の摂食状態の帰結は,経管のみ20名 (13%),経管経口併用7名 (5%),経口のみ89名 (60%),死亡29名 (19%),不明4名 (3%)であり,常食を経口摂取可能となったのは42%であった.退院時摂食状態と調査時摂食状態の相関係数は0.768であった.

    【考察】発症約1年後で半数以上に摂食・嚥下障害が持続した.経口のみ例のうち,約8割が自宅に所在しており,嚥下障害が改善した例は自宅退院になりやすい傾向にあった.退院時の摂食状態で,退院後の摂食状態がある程度予測可能といえた. しかし,退院後に大きく改善する例や低下する例もあった.脳血管障害の摂食・嚥下障害は長期的に介入を要する障害であることが確認でき,退院後も,合併症等のリスク管理,機能評価, QOL,介護負担の視点で定期的なフォロ一体制が必須である.

  • 第1報:誤嚥可能性検出票作成の試み
    村山 恵子, 神田 豊子, 近藤 和泉, 北住 映二, 児玉 和夫
    2004 年 8 巻 2 号 p. 143-155
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    【目的】脳性麻痺児・者 (以下CP) では,誤嚥性肺炎の管理が生命予後を規定する.我々は1999年より厚生労働省障害保健福祉総合研究事業の一環として,CPにおける「誤嚥」の簡便な評価を作成してきた.2000年度試行を経て, 252項目から33項目を抽出し,2001年版評価 (ver.2.0)を作成し,多施設で試用した.その統計学的解析結果から,誤嚥の可能性を検出する新たな評価システムを作成した.

    【対象】協力8施設でVF適応とされた81例 (男49,女32例.年齢:1~47歳).基礎疾患はCP 61例,CP以外 (脳症後遺症・頭部外傷後遺症など) 20例.

    【方法】2001年版評価 (家族アンケート,全身状態把握票,マニュアル.Ver.2.0)を使用した.VFは施設毎の基準に従って実施したが,造影食品の形態を二種類 (液体と,高粘度液体または固体)とし,摂取姿勢も二種類とすることを原則とした.VF上の誤嚥判定は医師二名以上が明らかな誤嚥があると判断したものを「あり」とした.統計学的検討は,誤嚥の有無と誤嚥の種類を別に検討した多変量ロジスティック回帰分析を行った.

    【結果】欠損値を除いた75例をVF結果によって3群に分類した.Ⅰ群:誤嚥なし18例,Ⅱ群:液体のみ誤嚥あり20例,Ⅲ群:食物または高粘度の液体も誤嚥あり37例.統計分析の結果,誤嚥の有無は8項目,誤嚥の種類は14項目の組み合わせで100%判別可能であった.この結果から各項目の重み付けを行い,誤嚥検出シートを作成,併せて評価票とマニュアルについても検討し,2002年版評価票 (ver.3.0) を作成した.

    【考察】新評価票の各項目は,評価時点の経口摂取の状態や口腔機能のみではなく,気道感染の罹患期間,呼吸器系の症状を中心とした全身状態,食物認知能力等を広く含み,臨床的に有用性が高いと考えた.今後,信頼性,有用性,妥当性を検討し,改訂の予定である.

  • ―舌切除、口腔底切除、下顎切除症例の比較―
    難波 亜紀子, 山下 タ香里, 高橋 浩二, 道脇 幸博, 平野 薫, 石野 由美子
    2004 年 8 巻 2 号 p. 156-166
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    口腔癌術後の摂食・嚥下障害に対して系統的に訓練を実施し,改善過程を詳細に検討した報告はほとんど見られない.そこでわれわれは,独自に考案した効率的な機能訓練法 (以下,摂食機能療法) に基づいて訓練した口腔癌術後症例の改善過程を切除範囲別に検討した.対象症例は昭和大学歯学部第一口腔外科学教室で手術を行った15症例 (舌部分切除4症例,舌半側切除2症例,舌亜全摘1症例,口腔底切除1症例,口腔底および下顎辺縁切除1症例,下顎区域切除4症例,下顎区域および頬粘膜切除1症例,下顎区域および中咽頭切除1症例) である.術後2~3週日に,「嚥下器官運動検査」を実施し,選択された訓練項目について週1回の頻度で摂食機能療法を実施した.訓練過程の評価は1か月毎に嚥下器官運動検査を用いて行った.症例によっては水飲みテスト,摂食・嚥下に関する自覚の聴取,嚥下造影も同時に実施した.その結果,訓練による改善過程には切除範囲により特徴がみられた.舌部分切除の運動障害は軽度であったが舌運動機能訓練を実施すると更に改善が得られた.舌半側切除では舌側方運動障害が長期間残存した.舌亜全摘では舌後方部挙上訓練が有効で,広範囲にみられた運動障害が半年以降に改善した.口腔底のみ切除の症例は1ヶ月という早期に改善したが,切除範囲が口腔底に加え下顎に及ぶと運動障害が長期間残存した.下顎区域切除では顎運動と頸部の可動性の障害が顕著であった.下顎区域切除および頬粘膜切除では術直後は口唇・頬運動の障害が顕著であったが最終的には舌挺出運動の障害が残存した.中咽頭および下顎区域切除では頬ふくらましの障害が特徴的にみられた.口腔癌術後患者の摂食・嚥下機能の改善過程は切除範囲により様々であるため,訓練内容を症例に応じて選択できる摂食機能療法が有用であると考えられた.

臨床報告
  • ―摂食・嚥下機能支援外来の設立とチームアプローチの試み―
    大部 一成, 金城 亜紀, 松永 和秀, 渡邊 和子, 岩永 亮子, 小峰 佐夜子, 倉田 智恵子, 白砂 兼光
    2004 年 8 巻 2 号 p. 167-172
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    九州大学歯学部附属病院 (現 九州大学病院歯科医療センター) において2002年4月に摂食・嚥下機能支援外来が設置された.摂食・蝶下機能支援外来設立の経緯,九州大学病院内での位置づけおよび設立から現在までの活動状況について述べるとともにチームアプローチの課題,地域との連携について検討した.当院の摂食・嚥下機能支援外来チームは口腔外科,補綴科,小児歯科,歯科放射線科,予防歯科,総合診療部の歯科医師,病棟および外来の看護師, 言語聴覚土,管理栄養士で構成され,入院患者 (おもに口腔癌手術後の摂食・嚥下障害) および外来患者の評価とリハビリテーションを行っている.支援外来スタッフ間の情報の共有やスタッフ相互のコミュニケーションを充実させることがチームアプローチを行う上で重要と考え,毎月1回定例会を行っている.また,支援外来スタッフのレベルアップや院内医療従事者の啓蒙を目的として看護師や医師を対象として摂食嚥下に関する講演会や間接訓練や直接訓練の実技講習を年に3~4回主催している.限られた人数の兼任スタッフで増加しつつある患者に効率的に対応するために,毎回の診察に必要な記録様式,摂食・嚥下機能評価表,リハビリテーションの説明パンフレットなども基準になるものを作成し,スタッフが利用できるようにしている.2004年4月には九州大学病院内の医科部門と連携した摂食・嚥下障害支援体制も確立した.今後,さらに活動の幅を広げるためには院内だけでなく地域とのネットワークをさらに充実させる必要がある.また,地域や適切な施設へつないでゆく見極めも行ってゆく必要があると考えられた.

研究報告
  • 尾形 明美, 若林 健司, 宮本 泰徳, 大塚 義顕, 向井 美惠
    2004 年 8 巻 2 号 p. 173-181
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    目的:小児における服薬は,嚥下障害の有無に関わらず保護者にとっては大きな問題である.特に嚥下障害のある重症心身障害児(者)では,服薬に加え嚥下障害も考慮した製剤が求められている.しかしながら,服薬方法の実態についての報告は少なく,適切な剤形に関する検討も少ない.そこで本研究では,服薬補助に必要な要件を探るべく,アンケート調査ならびに試作した服薬補助ゼリーに関するモニター調査を実施した.

    対象と方法:対象は,通所療育施設,大学病院,国立病院で摂食指導を受けており,経口で服薬している重症心身障害児(者)34名.対象児(者)の主たる介護者に対し,服薬に関するアンケート調査を実施し,普段の服薬状況として,①剤形,②種類, ③服薬方法について,併せて現在,服薬で困っている点や不満などを調査した.次に,今回試作した2種類の服薬補助ゼリー (A・B) について,使用感などについて調査を行った.

    結果:薬の剤形は,顆粒または散剤が全体の9割以上の者に処方されていた.他にシロップ,錠剤が処方されていたが,中にはカプセルを処方されている者もみられた.薬の種類は, 2種または3種が最も多く,中には9種類処方されている者もいた. 服薬方法は剤形別にみると,顆粒・散剤では8割近くが,水以外の食品に混ぜての服薬だった.普段の食形態と剤形,あるいは嚥下障害程度と服薬方法が一致していない対象が多く認められた.服薬における何らかの問題を感じていると答えた介護者は9割を超え,特に量や確実な服用ができないことに不満を抱えていた.試作した服薬補助ゼリーの使用感は,特にサンプルBについて,普段の服薬より飲ませやすく,使ってみたいという回答も6割を超えていた.

    考察:以上の結果から,嚥下障害児における服薬補助においては,嚥下障害程度を考慮した剤形や適切な服薬方法の指導が求められていると考えられた.

  • 久保 高明, 湯ノ口 万友, 内藤 正美, 王 鋼, 下川 より子, 木村 隆
    2004 年 8 巻 2 号 p. 182-185
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    【目的】:頸部聴診法は,非侵襲的で簡便な検査であり,客観的な評価法としての確立が期待されている.現在,頸部聴診による検出音は,音圧レベルや周波数,嚥下持続時間のパラメータによって誤嚥の有無を判定する場合が多いが,それらは単一のパラメータのみでの検討がほとんどであり,健常者でも嚥下音圧が低かったり,嚥下持続時間が延長したり,障害者ではその逆であったりなど,その検出音によって誤嚥か否かを判別することは困難となることも考えられる.そこで,今回の研究は,頸部聴診法による誤嚥の判別精度の向上を目的として,嚥下時産生音の3変量 (音圧レベル・嚥下持続時間・嚥下音産生回数) を用いてマハラノビスの距離による判別分析を試みた.

    【対象と方法】:対象は健常成人5名および誤嚥ありと判断した嚥下障害患者12名である.5ml水を嚥下させ,その嚥下時産生音を頸部より検出した(サンプリング周波数は11KHz).検出音の音圧レベル・嚥下持続時間・嚥下音産生回数の3変量を用いて,その観測データから,健常者母集団と誤嚥者母集団へのマハラノビスの距離の2乗を求め,後者から前者を減じて値が負の場合を“誤嚥”,正の場合を“健常”と判別し,その判別的中率を確認した.そして,判別効率の推定値も算出した.さらに,交差妥当性についても検討した.

    【結果】:嚥下障害患者の判別的中率は86%,健常者で72%,嚥下障害患者と健常者を含めた全体では75%であった.そして,判別効率の推定値は,嚥下持続時間の値が最も高く,次いで嚥下音産生回数,音圧レベルの順であった.さらに,交差妥当性の検討における判別的中率は約87%であった.

    【考察】:多変量解析であるマハラノビスの距離を用いての誤嚥の判別は高率で可能であり,そして,今回用いた3変量の中では,嚥下持続時間がその判別に最も寄与することが示唆された.

臨床ヒント
  • 平岡 有香, 松下 文彦, 福與 悦子, 高橋 福佐代, 小栗 聖, 薗田 直志
    2004 年 8 巻 2 号 p. 186-190
    発行日: 2004/12/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    【口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効であり摂食・嚥下の機能訓練にもつながるといわれている.しかし,煩雑な看護業務の中では,口腔ケアに十分な時間をかけることは難しい.そこで,当院では口腔内のよりよいケアと管理を目的に平成10年より歯科衛生士が口腔ケアに参加している.今回,当院でのシステム紹介と,歯科衛生士を加えたチームアプローチによる口腔ケアが有効に機能し始めている現状について報告する.現在までの6年間に歯科衛生士が介入した患者数は772人であり,1日あたり平均して30~40人のケアを実施している.入院直後から退院までを通して,歯科衛生士が中心となり,時間をかけた口腔ケアを行い,その他,入院中の口腔内の清潔維持と退院後のケアの継続に向けて,家族指導,退院指導を行っている.また,当システムでは,細菌培養検査を実施し,患者の口腔環境の把握と,院内感染の予防に役立てている.歯科衛生士が口腔ケアに参加し,より時間をかけた口腔ケアが可能となり,著しく汚染の見られる患者は減少した.特に急性期においては,早期から介入することで,口腔内の清潔と健康な粘膜の維持につながっている.細菌培養検査においても,健康な粘膜の維持は病的な環境に定着しやすい菌の増殖を防ぐ有効な手段であり,このことからも早期からの徹底した口腔ケアが必要と思われる.また,慢性期の状態においては,積極的に家族と関わりをもち,指導を行うことで,家族の口腔ケアに対する関心も高まり,口腔内の清潔につながっている.歯科衛生士が病棟に常駐することで,ケア時間の制約が少なく,家族と関わる時間が十分にもてるため,患者の状態や家族の介護力に合わせたプランをたてやすい.患者個人に合わせた方法を,時間をかけて繰り返し指導することで余裕をもって手技が習得される.また,在宅での口腔ケアにも結びつき,退院後の口腔内の清潔にもつながると考える.

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