1987年1月から1997年8月までに三愛記念病院ならびに市原分院にて慢性維持透析を行った979例 (男性614例, 女性365例) を対象に悪性腫瘍の罹患率を人年法により検討した. この間に57例 (男性39例, 女性18例) の悪性腫瘍が発生し, 内訳は大腸癌14例, 胃癌10例, 腎癌7例, 肺癌6例, 甲状腺癌5例, 乳癌4例, 卵巣癌, 食道癌が各2例, 肝癌, 膀胱癌, 十二指腸乳頭部癌, 多発性骨髄腫, 悪性リンパ腫, 中咽頭腫, 悪性黒色腫が各1例であった. 各腫瘍の罹患率は, 大腸癌で男女それぞれ人口10万人年対272.9, 329.6であり, 胃癌が272.9, 109.9, 腎癌が204.6, 54.9, 肺癌が136.4, 109.9, 甲状腺癌が136.4, 54.9と高頻度で, 全部位では1330.3, 988.7であった. 千葉県の特定地域の1991-1993年の年齢階級別悪性腫瘍罹患率を用いて, 対象の罹患期待数を求め, 実際の罹患数と比較した. その結果, 男女合わせて罹患数/期待数の比は悪性腫瘍全体では2.6倍 (p<0.05) であった. しかし, この比は各腫瘍でかなり異なっており, 甲状腺癌が24.2倍と最大であった. しかし, 甲状腺癌はすべて副甲状腺摘出術の際偶然見つかった潜在癌であるので, 検討から除外すべきと考えられた. 次に多かったのが腎癌で16.2倍, 大腸癌が4.2倍, 胃癌2.1倍, 肺癌2.1倍であった. 一方肝癌は0.42倍と唯一罹患数の方が期待数より少ない腫瘍であった. 以上より, 維持透析患者においては, 非透析患者に比し, すべての腫瘍の発生頻度が増加するわけではなく, 腎癌, 大腸癌などの特定の腫瘍のみ高頻度で発生する可能性が示唆された.
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