症例は60歳の男性で, 慢性糸球体腎炎による末期腎不全のため, 20年の血液透析歴を有していた. また3年前より上室性頻拍のためdisopyramide (DP) 200mg/日が処方されていたが, とくに問題なく経過していた. 1996年10月頃より下痢と便秘を繰り返し, 意識障害が出現し, 低血糖 (40mg/d
l) と麻痺性イレウスを認め, 4000kcal/日に及ぶ高カロリー輸液管理下に, 消化管検査などの精査を行ったが, 原因不明で改善も認められなかったため, 12月27日当科に紹介入院となった. 入院後, DPの血中濃度は6.6μg/m
l (治療域1-4μg/m
l) と軽度の上昇であったが, 他に原因が認められないため, DPの投与を中止したところ, イレウス症状は速やかに改善し, 血糖値も徐々に回復し, IVH中止後も再発は認めなかった.
DPはIaクラスの有用な不整脈薬として頻用されているが, その抗コリン作用に起因する副作用の他, 時に低血糖をきたすことが知られている. しかし, 本症例のように3年間にわたり問題なく使用していた症例で, イレウスまできたした症例の報告は稀である. この症例患者はHCV陽性者であり, 肝機能低下の進行が, こういった副作用の出現を増長している可能性もある. このため, HD患者や, HCV陽性のような高リスクの患者では, こうした副作用は致命的ともなりかねないため, 有効血中濃度の下限に維持するように努め, 他剤への変更を考慮する必要がある.
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