マグネシウム (Mg) 代謝が高血圧, 脂質代謝異常, 虚血性心疾患や不整脈などの循環器疾患の成因と病態に関与している可能性が指摘されている. そこで, 慢性透析患者 (非糖尿病群250例, 糖尿病群64例) におけるMg動態と血清脂質, 大動脈石灰化および虚血性心疾患との関連について検討した.
血清総Mg値および血中イオン化Mg値を透析患者全体と年齢をマッチさせた健常成人間で対比すると, いずれも有意に透析患者で高値を示した. 非糖尿病群と糖尿病群間で比較すると, 総Mg値およびイオン化Mg値はいずれも有意に糖尿病群で低値であった. 非糖尿病群, 糖尿病群の両群において, イオン化Mg値はいずれも有意にHDL-コレステロール値と正に, 動脈硬化指数と負に相関した. X線像上の胸部大動脈石灰化の頻度は非糖尿病群に比し糖尿病群で有意に高率で, 両群とも石灰化を有する例では有さない例に比しイオン化Mg値は有意な低値を示した. CTによる腹部大動脈石灰化係数は糖尿病群が非糖尿病群に比し有意に高値で, かつ, 両群においていずれも有意に動脈硬化指数と正に, イオン化Mg値と負に相関した. 重回帰分析の結果, 糖尿病群における腹部大動脈石灰化係数には, イオン化Mg値が有意に寄与していた. 一方, 虚血性心疾患合併の頻度は, 非糖尿病群に比し糖尿病群で約2倍有意に高率であった. また, 糖尿病群では, 虚血性心疾患を有する例は有さない例に比し, いずれも有意に腹部大動脈石灰化係数は高値を, イオン化Mg値は低値を示した.
以上より, 慢性透析患者, とくに糖尿病性腎症透析患者における脂質代謝異常や胸部および腹部動脈石灰化病変さらには虚血性心疾患の発症にMg代謝異常, とくに血中イオン化Mg値低値が密接に関与していることが強く示唆された.
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