日本透析医学会雑誌
Online ISSN : 1883-082X
Print ISSN : 1340-3451
ISSN-L : 1340-3451
34 巻, 8 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 大橋 宏重, 小田 寛, 大野 道也, 渡辺 佐知郎, 琴尾 泰典, 松野 由紀彦
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1169-1173
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    冠動脈疾患 (coronary artery disease, CAD) の発症頻度が慢性血液透析 (hemodialysis, HD) 症例で高いことが問題になっている. HD症例では中性脂肪 (triglyceride, TG) の上昇とHDL-コレステロール (high density lipoprotein cholesterol, HDL-C) の低下が脂質代謝異常の特徴と考えられてきたが, 近年, lipoprotein (a) 〔Lp(a)〕 の上昇しているHD症例の多いことが報告されるようになり, なかでもCADとの関連が注目されるようになった. また, apolipoprotein (a) 〔apo(a)〕 phenotypeのうちlow molecular weight (LMW) がHD症例でのCAD発症に関与していることが報告されるようになった. このような背景をもとに本研究では冠動脈疾患の既往が明らかでないHD症例を5年間, 前向きに (prospective) に経過観察し, Lp(a) ならびにLMWがHD症例でのCAD発症の危険因子となるかを検討した.
    268名のHD症例のうち37名 (13.8%) にCADが発症した. その内訳は心筋梗塞22名, 狭心症7名, 無症状であったが何らかの機会に冠動脈造影 (coronary angiography, CAG) が施行され, 75%以上の有意狭窄を認めたもの8名であった. また今回の検討では年齢が高く, 基礎疾患が糖尿病性腎症 (diabetic nephropathy, DN) であり, LMWでLp(a) が高値を示すHD症例にCADが多く出現した. 多変量解析による検討からはLp(a) が30mg/dl以上, DN, LMW, 年齢65歳以上がCADの独立した危険因子であった.
    以上により, HD症例では年齢, DNという基礎疾患を背景に, 遺伝的に決定されているapo(a) phenotypeのLMWならびにLp(a) が高値を示す症例でCADの発症する可能性の高いことが示唆された.
  • 赤松 眞, 春口 洋昭, 唐仁原 全, 中島 一朗, 渕之上 昌平
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1175-1179
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    尺側皮静脈を用いた内シャントの累積開存率について, 1994年4月より1998年10月までの期間に作成した45例を対象とし, 年齢, 性別, 透析歴などと累積開存率 (primary patency) について検討を行った.
    16例が開存, 26例が閉塞, 3例はシャント流量が極めて不良なため新たなブラッドアクセスを作成した. 1年, 3年, および5年の累積開存率はそれぞれ51.1%, 35.5%, 25.4%であり, 橈側皮静脈を用いた内シャントと比較して開存率は不良であった. また統計学的有意差は認めなかったものの女性, 50歳以上および透析導入後1年以上の症例の累積開存率は低値であり, 内シャント閉塞の危険因子と考えられた. 閉塞症例では, シャント作成後1か月以内に10例 (34.5%), 2-6か月間に7例 (24.1%), 7-12か月間に5例 (17.3%) と1年以内に75.9%の症例が閉塞していた. この結果から, 使用した尺側皮静脈はもともと内シャントに適していなかった可能性があると推察され, 尺側内シャントを作成する時点ですでに閉塞する可能性が高いと予想できていた症例も含まれると考えられた.
    尺側皮静脈を用いた内シャントの累積開存率は決して良好とはいえなかった. しかし今後も成績が不良であることを十分理解した上で, 人工血管移植やカテーテル留置を選択する前にアクセスの-選択肢として尺側内シャントを考慮すべきであると考える.
  • 土井 研人, 杉本 徳一郎, 明石 真和, 田中 哲洋, 多川 斉, 西尾 恭介, 小倉 明子, 佐藤 利知子, 西 忠博, 木村 典子
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1181-1184
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    背景: HCVコア蛋白質測定法は, 酵素免疫測定法によりHCV構成蛋白質を定量する方法であり, HCV-RNAを測定するPCR法に比べて簡便かつ安価である. 今回, 血液透析患者におけるHCVコア蛋白質測定法の意義について検討を行った.
    対象と方法: 対象は慢性血液透析患者で, HCV抗体陽性90例と対照のHCV抗体陰性49例. 全例にコア蛋白質定量および血清トランスアミナーゼ値を測定し, HCV抗体陽性例90例についてはRT-PCR法を用いてHCV-RNA量を測定した.
    結果: HCV抗体陽性例90例のうち, RT-PCR法にて73例にHCV-RNAが検出され, そのうち54例にコア蛋白質が検出された. また, HCV-RNAが検出されなかった17例の全例にコア蛋白質は検出されず, RT-PCR法をスタンダードとすると, コア蛋白質測定法の検出感度は74%, 特異度は100%であった. RT-PCR法によるHCV-RNA量とコア蛋白質量との間には, 相関係数0.53, p<0.01の正の相関を認めた. 一方, HCV-RNA量とトランスアミナーゼ値との間には相関を認めなかった.
    考察: 今回の検討では, 血液透析患者におけるHCVコア蛋白質測定法の検出感度は74%であり, 正常腎機能者における検討での検出感度 (73-79%) とほぼ同等であった. RT-PCR法によるHCV-RNA量とコア蛋白質量との間での相関を認めたが, HCV-RNA量とトランスアミナーゼ値の間には相関がみられなかったことは, 慢性C型肝炎の活動性の評価, すなわち血中のウイルス量の多寡を把握するには, トランスアミナーゼ値の推移では不十分であることを示す. 一方, HCVコア蛋白質測定法によって, 血液透析患者においても, 簡便かつ安価にHCVのウイルス量の推移が検出できることがわかった.
  • 大河原 晋, 鈴木 昌幸, 宗村 美和, 矢作 友保, 斎藤 幹郎, 田部井 薫, 浅野 泰
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1185-1192
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    目的: plasma refilling coefficient (mean Kr) はHD施行中の血管透過性を表すものとして近年, 提唱された新たな指標である. 今回, mean Krがドライウェイトの設定に有用であるか否かについて検討した.
    対象および方法: 安定維持HD患者41例で12か月にわたりHD前後の体重とともにHD前のヘマトクリット, HD前後血清総蛋白濃度を測定し総計446回のmean Krを得た. 得られたmean Krを0<mean Kr≦1 (n=148, I群), 1<mean Kr≦4 (n=218, II群), 4<mean Kr (n=45, III群), mean Kr<0 (n=35, IV群) の4群に分け, DW設定に用いられる臨床的パラメーターとの関係を検討した.
    結果: 1) mean Krと除水速度およびHD前TPとの間には一定の傾向は認めなかった. 2) CTRにおいてI群はIII, IV群に比し, II群はIV群に比し有意に小さかった. 3) HD前後の平均血圧変化率においてI群は他の3群に比し有意にその変化率が大きい, すなわちHD後に血圧の低下を認めた. 4) 昇圧処置の必要性ではI群は他の3群に比し有意にその必要性が高かった. 5) HD中の時間あたりの循環血液量変化率ではI群: -4.2±0.1, II群: -2.4±0.1, III群: -0.6±0.1, IV群: 1.0±0.1 (%) で, 各群間でそれぞれ有意差を認めた. 6) 経時的な体液量変化の比較を目的として各月毎のmean Krの比 (mean Kr/mean Kr) とANPの比 (ANP/ANP) との関連においては, 弱いながら有意な正相関を認めた. 以上より, I群はCTRは小さいもののHD中の血圧は低下しやすく昇圧処置の必要性も高い, さらに循環血液量の低下も大きいということでDWが厳しすぎる可能性が, また反対にIII群, IV群ではHD中の血圧低下は少なく昇圧処置の必要性も少ないもののCTRは大きく, 循環血液量の減少は少ない, もしくはかえってHD後に増加を認めることよりDWが甘くなっている可能性が考えられた.
    まとめ: 今回の検討からmean Krは従来より用いられているDW設定の臨床的パラメーターを反映することよりDW設定の指標の一つとなりうるものと思われた. 目安とすべき適正なmean Krは1-4の範囲である可能性が考えられた.
  • 大城 義之, 梅名 幸生, 岸本 信康, 藤本 壮八, 柏原 直樹
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1193-1196
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は64歳, 男性. 慢性腎不全にて1992年7月より血液透析に導入となり, 導入期内シャントが成長するまでの間, 左鎖骨下静脈よりダブルルーメンカテーテルを使用し, 血液透析を受けていた. 1998年6月頃よりシャント側の左上肢の腫脹が顕著となったため, 同年8月シャント造影を施行したところ左無名静脈が上大静脈へ流入する部位での狭窄を認め, 経皮的血管形成術 (percutaneous transluminal angioplasty PTA) を行い症状は改善した. 近年, ダブルルーメンカテーテルによる静脈の狭窄および閉塞が報告されており, 可能な限り同カテーテルの挿入回避, および挿入期間の短縮が望まれ, また大血管の狭窄病変に対してもPTAによる治療の有効性が報告されている. 本症例のように狭窄範囲が短い症例に対してはPTAが最も有効と考えられた.
  • 宮崎 健一, 坂本 憲穂, 金沢 佑星, 渡邊 尚, 下前 英司, 原田 孝司, 宮崎 正信, 大園 恵幸, 河野 茂
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1197-1199
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は71歳女性. 1991年1月より血液透析を開始した. 1999年10月13日に転倒し, 左上肢内シャント造設部の打撲により, 同部位に4×3cmの腫瘤を形成した. 転倒日に施行したシャント造影で2.1×1.5cmの仮性動脈瘤を認めた. 11月1日に明らかに瘤が増大し, 11月5日に手術を施行した. 術前の造影にて, そのサイズは4.0×3.6cmまで増大していた. 術式は術中にシャントが閉塞したため, 瘤形成部の静脈を切除し中枢側にて再吻合し, シャントを再建した. 術後の病理学的検討で瘤を形成していたのは薄い外膜のみで, 瘤形成部の静脈の一部に内・中膜の断裂を認めた. 仮性動脈瘤の原因として静脈の内・中膜断裂によるものも考慮する必要があり, この場合には早急な手術が必要である. 打撲により急速に仮性動脈瘤が形成された報告はこれまでになく, 貴重な症例と思われた.
  • 米田 達明, 白川 浩希, 滋野 和志, 椎名 浩昭, 井川 幹夫, 姫野 安敏
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1201-1204
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    1999年1月から2000年4月までに, 維持透析患者数が約90名の1施設においてnafamostat mesilate (メシル酸ナファモスタット) により5例にアナフィラキシー様症状を経験したので報告する. 各症例において透析歴, 原疾患に一定の傾向はみられず, 症状の発現は全例とも30分以内であった. 著明な血圧低下がみられた3例では症状の消失までにおよそ1時間を要した. 血圧下降の軽度な2例はアナフィラキシー様症状のみで20分以内に改善した. 全例において過去に複数回のメシル酸ナファモスタットの使用歴があった. DLSTでは4例中3例が陽性であったが, IgE抗体はいずれも陰性であった. 全例で薬物アレルギーの既往歴はなく, 使用したダイアライザー膜の材質は様々であった. 本薬剤によるアナフィラキシーショックは最近散見されるようになったが, 症状の発現を予測することは困難なため, 常にアナフィラキシー様症状が発現する可能性を考慮して本剤を使用する必要がある.
  • 西岡 克章, 金本 康秀, 川野 弘茂, 宮崎 正信, 原田 孝司, 大園 恵幸, 河野 茂
    2001 年 34 巻 8 号 p. 1205-1210
    発行日: 2001/07/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は48歳, 女性. 平成11年12月下旬より感冒様症状が出現し, 近医で抗生剤を処方されていたが, 次第に眼瞼の浮腫を自覚するようになったため, 1月19日当院に入院した. 入院時には検尿にて尿蛋白 (+), 赤血球50-100個/視野を認め, 血液検査にて尿素窒素64.2mg/dl, 血清クレアチニン値8.2mg/dlの腎不全と, 血中ヘモグロビン値5.6g/dl, MCV 57.1fl, MCH 17.8pgの小球性低色素性貧血を認めた. 血痰, 喀血はなく, 胸部X線写真でも異常は認めなかった. 抗生剤による薬剤性の急性腎不全を疑っていたところ, 1月30日に肺野に異常陰影が出現し, 気管支鏡検査にて肺胞出血を認め, 抗糸球体基底膜抗体 (抗GBM抗体) が300EU/mlであったため, Goodpasture症候群の診断に至った. メチルプレドニゾロン500mgの点滴注射を3日間と6回の血漿交換で治療を行い, 抗GBM抗体は次第に低下し, 肺胞出血は軽快したが, 腎機能は回復せず, 透析を離脱できなかった. Goodpasture症候群は予後不良の疾患であり, 早期診断による早期治療が重要である. 急性腎不全の患者で著明な血尿と小球性低色素性貧血を認め, 原因疾患が明らかでない場合には, その鑑別診断としてGoodpasture症候群を考え, 早期診断と治療に努める必要がある.
feedback
Top