アレルギー性疾患, 炎症性疾患の病態が, helper T細胞のサブタイプの分化によりコントロールされる細胞性, 液性免疫系のバランスの破綻に関係していることが知られてきた. 本研究は, 免疫系の異常を持つことが指摘されている慢性腎不全患者においてもこのhelper T細胞のサブタイプ (Th1, Th2) 分化に異常が存在するか否かについて検討することを目的とした.
対象は28名の非糖尿病性の維持血液透析患者と年齢を一致させた健康成人 (コントロール) 12名である. 11名の血液透析患者は, C型肝炎ウイルスに対する抗体 (HCV) が陽性であった. Helper T細胞のサブタイプ (Th1, Th2) の同定には, 細胞の分泌するサイトカインを直接蛍光色素標識されたモノクローナル抗体で染色し, それをフローサイトメーターにより解析する, いわゆる細胞内サイトカイン分析法を用いた. Th1細胞は, CD 4陽性・IFN-γ陽性・IL-4陰性とし, Th2細胞は, CD 4陽性・IFN-γ陰性・IL-4陽性とした.
全血液透析患者では, 患者とコントロール間にTh1, Th2の有意差を認めなかったが, Th1/Th2比は患者群において有意に上昇 (Th1優位の偏位) を認めた. また, コントロール, HCV陰性患者群 (17名), HCV陽性群 (11名) の3群間で検討すると, Th1は健常コントロールとHCV陽性患者群間でのみ有意な上昇を認めた (p=0.01). Th2には各群間に有意差はなく, Th1/Th2比は, コントロールとHCV陽性患者群間においてのみTh1上昇に伴うと考えられる有意な上昇を認めた (p=0.01). したがって, 全血液透析患者での結果にはHCV感染有無が大きく影響していたと考えられた. また, 血液透析操作による影響を検討するため, 7名のHCV抗体陰性患者で, 血液透析前後での変化を観察したが, 有意な変化は認められなかった.
結論: 一般に血液透析患者では, helper T細胞分化による細胞性, 液性免疫系の振り分け機構は正常に維持されているが, HCV感染に起因すると考えられるTh1/Th2バランスの異常 (Th1優位) が認められる症例もある. 血液透析操作自体はTh1/Th2バランスに影響を与えないものと思われる. 血液透析患者における免疫異常の病態解明には, helper T細胞振り分け前後での個々の免疫担当細胞レベルでの機能を検討する必要があると考えられた.
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