血液透析患者の心筋トロポニンT (cTnT) の臨床的意義について検討した. 血液透析患者 (HD群): 45例, 非血液透析患者 (non HD群): 45例において, 心エコー検査を行い, 各種左室の計測と心機能を評価し, 左室心筋重量係数 (LVMI) の算出および日本コーリン社製フォルムPWV/ABIを用いて, 上腕・足首脈波伝播速度 (ba PWV) を測定した. また, 頸動脈エコーから頸動脈内膜中膜複合体 (IMT) を測定した. 患者の病歴, 合併症の有無, 一般検査所見とともに, cTnT濃度を測定し, 左室肥大, 心機能および動脈硬化との関係を検討した.
HD群ではnon HD群にくらべて, 有意にcTnTが高く (p<0.0001), さらに虚血性心疾患 (IHD) 合併者では非合併者にくらべて, 有意にcTnTが高かった. HD群のcTnTは, LVMI・LVDd・LVEDVと有意に正の相関を示し, 左室肥大が著しくなるほど, 有意にcTnTは高値を示し, 特に, 遠心性肥大において, その程度が顕著であった. つまり, HD群のcTnTは心機能が低下するほど高値を示した. また, HD群においてcTnTはba PWV・IMTと有意の正の相関を示し, ABIとは有意の負の相関を示した.
このように透析患者では, 心筋からのトロポニンTの微量放出が持続しており, 動脈硬化の程度が著しく, 常に心筋に負荷がかかっており, 心筋の虚血や心筋障害に陥りやすいと考えられた. また, トロポニンT濃度は, HD患者の心筋障害の重症度をあらわしていると考えられた.
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