今回われわれは, 深部出血を繰り返す重症血友病Bにステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を合併した症例に対して, 体外限外濾過 (ECUM) を施行することにより浮腫のコントロールを可能にした. また, インヒビター治療剤である乾燥血液凝固因子迂回活性複合体 (APCC製剤: FEIBA
TM) を使用することにより, 体外循環療法時の止血管理を可能にしたので報告する. 症例は31歳男性. 1歳時に関節内出血を起こし, 第IX因子活性が1.0%未満であったことから, 血友病Bと診断された. 13歳時に第IX因子インヒビターを有するようになり, 乾燥ヒト血液凝固第IX因子複合体 (PCC製剤: PROPREX ST
TM) によるバイパス療法を行っていたが, 頻回に関節内出血を繰り返していた. 2003年8月より全身の浮腫, 嘔気が出現し, 低蛋白血症, 蛋白尿を認めたため, ネフローゼ症候群の診断で入院となった. ネフローゼ症候群に対しループ利尿剤, アンジオテンシンII受容体拮抗薬とプレドニゾロンの投与を開始したが, 治療抵抗性であった. 全身浮腫の悪化と, 消化管浮腫に伴う嘔吐のため全身状態が悪化した. そのため, 体液量の管理を目的に, ECUMを施行した. ネフローゼ症候群は寛解しなかったが, 全身浮腫は消失した. また, 関節内出血は改善せず, 進行性の貧血を認めた. そのため, PCC製剤からAPCC製剤によるバイパス療法に変更したところ, 関節内出血はコントロール可能となり, 有意な止血効果が認められた. また, APCC製剤を使用することにより内シャント造設術の際には, 出血による合併症を回避することができた. また, 抗凝固剤nafamostat mesilateを使用し, 体外循環療法も可能であった. このような症例はこれまで報告がなく, 今後血友病B患者のネフローゼ治療や体外循環療法を選択する上での指標として極めて貴重であると考える.
抄録全体を表示