透析医療における治療技術が確立した現在でも, 透析患者の難治性愁訴は少なくなく, その原因として種々の炎症性サイトカイン変動との関連が示唆されている. 一方, 近年漢方処方を始めとした西洋医学以外の治療アプローチ, すなわち補完・代替医療の重要性が見直されている. 本研究では, 十全大補湯投与の慢性透析患者に対する効果を検討した. 対象は外来通院可能な慢性維持透析患者29例 (男性20例, 女性9例, 平均年齢62±12歳, 平均透析期間54±48か月) で, 十全大補湯を4週間投与し, 投与前後で自覚症状, QOL評価, 臨床検査値の変動を観察した. QOL評価にはKDQOL-SF
TMを用いた. 全症例の解析で, 投与後血漿TNF-α値の有意な低下を認めた (投与前vs. 投与後=5.5±2.5vs. 4.2±2.5pg/mL; p<0.01). KDQOL-SF
TMのサブスケールである腎疾患特異要素 (KDCS) の中で, 自覚症状 (食欲がない, ひどい疲れや消耗感) の有意な改善を認めた (食欲がない; 1.9±1.3vs. 1.6±1.0; p<0.05, ひどい疲れや消耗感; 2.4±1.2vs. 1.8±0.8; p<0.05). 血漿TNF-α
に変化のみられた症例の背景をQOL改善の観点から解析するために, 投与前におけるKDCSスコア総点を平均値で二分したところ, 高QOL群 (15例, 70.7±6.0) において, 投与後TNF-α値の有意な減少を認めた (投与前vs. 投与後=5.6±2.7vs. 3.5±1.2pg/mL; p<0.01). さらに症状スコア (ひどい疲れや消耗感) とTNF-αの変化量は, 高QOL群において有意な正の相関関係 (R=0.492, p<0.05) を示した. 維持透析患者に補完・代替医療の一環として十全大補湯を投与することで, 患者QOLの向上, 既存の治療では対処できない症候に対する有用性が観察され, TNF-αの低下作用との関連が示唆された.
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