日本透析医学会雑誌
Online ISSN : 1883-082X
Print ISSN : 1340-3451
ISSN-L : 1340-3451
40 巻, 10 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
原著
  • ―チューブ聴診―
    本岡 精, 上原 和彦, 河崎 正直, 高田 茂樹, 井上 博隆, 三原 裕治, 床次 誠一, 力武 修
    2007 年 40 巻 10 号 p. 841-849
    発行日: 2007/10/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    バスキュラーアクセス (以下, シャント) 管理法の一つとして, 聴診器により血管雑音を聴取する方法がある. しかし, シャント音を聴取するのに聴診器が適しているかどうか, 十分検討されていない. われわれは聴診器のチェストピースを取り去り, チューブの先端を皮膚に垂直に軽く密着させ血管雑音を聴取した. チューブ聴診と命名し, 聴取される血管雑音を従来の聴診法 (以下, チェストピース聴診) による血管雑音と, 高速フーリエ変換を用いて比較した. チェストピース聴診では, 低調性血管雑音が広範囲にわたって, ほぼ一様に聴取された. 狭窄部では高調性雑音の聴取が困難な場合があった. 一方, チューブ聴診では, 乱流を生じている部位ではチェストピース聴診と同等の大きさの血管雑音が聴取されたが, 乱流部位から離れると急に小さくなった. また, 狭窄の前後で音量が急激に増加し, 狭窄部で高調性雑音となり, 狭窄部を過ぎると低調性雑音に変化していた. このことから, チューブ聴診は狭窄部位の判断に有用と考えられた. 高度の狭窄によりスリルが消失し拍動のみとなったシャント血管において, チェストピース聴診では低調性雑音が聴取されたが, チューブ聴診では雑音の聴取が困難であった. しかし, チューブの先端に超音波用ゼリーを塗り, 血管壁を圧迫しないようにすると, 低調性血管雑音が聴取された. 以上のことから, 血液の乱流により生じた振動は, 血管壁を介して乱流がない血管にも伝播しており, チェストピース聴診ではこの伝播した振動を聴取していると考えられた. 一方, チューブ聴診では, チューブの先端が周囲から伝播してくる血管壁の振動を抑えるため, 実際に乱流が生じている血管で雑音が聴取されると考えられた. チューブ聴診は内シャントの管理に適した聴診方法であり, 従来の聴診器のチェストピースを取るだけで使用できるため安価で, いつでも誰でも行うことができるという利点を有する.
  • ―へばりつき発生因子の実験的検討―
    武藏 健裕
    2007 年 40 巻 10 号 p. 851-858
    発行日: 2007/10/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    血液浄化療法におけるダブルルーメンカテーテル (DLC) 使用時の主要な問題点の一つに脱血孔が血管壁へ付着する「へばりつき現象 (へばりつき)」がある. 本研究では, へばりつきを発生させる要因を明らかにするため, 血管を模擬したセルロースチューブ内に模擬血液を灌流させDLCを挿入し, DLC先端部のセルロースチューブへのへばりつきを観察した. その結果, 実験に用いた10種類のDLCのうち, 脱血孔がDLC円周の片側に集中している8種類のDLCでへばりつきが観察された. 特にDLC円周の1/3周以下に脱血孔が集中する5種類のDLCではへばりつきが発生しやすかった. 一方, 脱血孔が全周に位置する2種類のDLCではへばりつきは観察されなかった. そこで, 後者のDLCの脱血孔を人為的に閉塞させていき, 開存脱血孔の数・配置とへばりつきとの関係を調べた. 脱血孔が6つあるDLCの場合, 開存脱血孔数を3箇所に減らすと初めてへばりつきが認められた. 開存脱血孔数が2箇所の場合, 開存脱血孔間のDLC円周方向での距離が短くなるにつれて, へばりつき発生率が高くなり, 2箇所の開存脱血孔がDLCの長軸方向に位置している場合に最も高くなった. この2つの開存脱血孔を1箇所に減少させると, へばりつき発生率はさらに上昇したが, 模擬血液が脱血孔を流れる抵抗も大きく増加した. また, へばりつきが発生した8種類のDLCでは, DLC内流量 (脱血流量) は増加させるほど, セルロースチューブ内流量 (静脈流量) は減少させるほど, へばりつき発生率が上昇した. これらの実験結果から, 脱血孔のDLC円周方向での偏在, および脱血孔での血流抵抗の上昇, 脱血流量の増加, 静脈流量の減少がDLCへばりつき現象の発生要因であることがわかった.
症例報告
  • 青木 明日香, 菊地 勘, 永井 佳子, 岩崎 富人, 塚田 三佐雄, 池辺 宗三人, 三和 奈穂子, 木全 直樹, 秋葉 隆, 新田 孝作
    2007 年 40 巻 10 号 p. 859-864
    発行日: 2007/10/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    症例1は29歳の女性. 1歳5か月にオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症と診断された. 以後, 感染や疲労・ストレスで高アンモニア血症 (100~300μg/dL) をきたし入退院を繰り返していた. 平成13年3月23日, 嘔気があり当院外来を受診. アンモニア345μg/dLと上昇を認めL-アルギニン20g/日の点滴を施行した. しかし, 意識障害の改善なくアンモニア536μg/dLと上昇を認めたため血液濾過透析 (HDF) を施行した. 2日間のHDF施行でアンモニア72μg/dLと低下, 意識障害の改善を認めた. その後, 安息香酸ナトリウムの内服でアンモニアの上昇, 意識障害の出現なく退院となった. 症例2は筋緊張性ジストロフィーの28歳, 女性. 歩行困難, 脱力, 意識障害で入院となった. 入院翌日のアンモニアは717μg/dLと上昇し昏睡状態, 呼吸不全となった. 肝不全の所見なく原因不明の高アンモニア血症に対しHDFを施行した. 3日間のHDF施行でアンモニア40μg/dLに低下し意識状態の改善を認めた. 入院後の血漿アミノ酸分析により高シトルリン血症を認め, 成人発症2型シトルリン血症と診断した. L-アルギニンと安息香酸ナトリウムの投与を開始し, アンモニアの上昇, 意識障害の出現なく退院となった. 尿素サイクル異常症による昏睡を伴う高アンモニア血症にはL-アルギニンの経静脈投与が施行されている. 本症例のように急性期にL-アルギニンの投与が無効な症例, 昏睡を伴う原因不明の高アンモニア血症の症例には急性血液浄化の施行が有効と考えられた.
  • 麓 由紀子, 大納 伸人, 川口 博明, 前田 拓郎, 山下 恵里香, 西田 知夏, 徳永 公紀, 阪本 卓爾, 曽我部 篤史, 鈴木 紳介 ...
    2007 年 40 巻 10 号 p. 865-869
    発行日: 2007/10/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    59歳, 女性. 2005年6月皮疹が出現し, 皮膚生検にて成人T細胞性白血病 (ATL) と診断され, 内服治療を開始した. 2006年4月まで経過は良好であったが, 5月より表在リンパ節腫脹, 7月には腎機能障害, 高カルシウム血症が出現し, 8月11日当科に入院した. 入院時尿素窒素80.9mg/dL, 血清クレアチニン5.1mg/dLと著明な上昇を認めた. さらに全身浮腫と胸腹水の貯留を認めたために急性腎不全と診断し, 血液透析を併用しながら多剤併用化学療法を行った. 化学療法前の腹部エコー検査では両側腎ともびまん性に腫大し, 皮質の輝度上昇と錐体のエコーレベルの低下も認められたが, 腎盂, 腎杯の拡張は認められなかった. 腹部単純CT検査でも腎臓は両側ともびまん性に腫大し, 内部に不整な高吸収域が散在していた. 化学療法後には両腎腫大は改善し, 腎機能も改善したために血液透析から離脱可能となったが, ATL増悪のために死亡した. 病理解剖所見では, ATL細胞浸潤が糸球体や尿細管への浸潤は認めず, 間質へのびまん性浸潤とそれによる尿細管の圧迫所見を認めた. ATLで腎腫大のみられる場合には, ATL細胞の浸潤が急性腎不全の原因となることがあり, 透析療法の併用を考慮した化学療法が必要となる場合がある.
  • 塚田 有紀子, 中村 眞, 中尾 正嗣, 鈴木 孝秀, 松尾 七重, 山本 亮, 濱口 明彦, 花岡 一成, 若林 良則, 小倉 誠, 横山 ...
    2007 年 40 巻 10 号 p. 871-875
    発行日: 2007/10/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎 (ulcerative colitis : UC) は若年女性に好発し, 患者の妊孕性は健常人と差がない. また, 妊娠によってUC自体が増悪しやすいこともあり, 患者の妊娠時の治療が問題になる. 症例は24歳時にUCを発症した35歳経産婦. 30歳時には治療薬を中断中に妊娠8週で流産しており, 32歳時にはステロイド療法を継続しながら第1子を得ている. 2006年7月, Prednisolone (PSL) 5mg/日とmesalazineの内服中であり, UCの活動性は臨床重症度分類で中等症であったが, 妊娠のため自己判断で内服を中止した. 同年9月妊娠8週0日で排便回数10回以上, 腹痛, 顕血便が増悪し入院となった. PSL20mg/日を使用し, 絶食と中心静脈栄養により腸管安静をはかったが症状は改善せず, 腹部の反跳痛も出現して開腹手術の適応が検討された. 10週2日からPSL50mg/日の静注を行い, 加えて11週1日から顆粒球除去療法 (granulocytapheresis : GCAP) を週2回計10回施行した. GCAP3回施行後から諸徴候は好転し, GCAP5回施行時 (14週1日) には, CRP0.5mg/dLと陰性化し, 解熱して緩解に至った. PSLは漸減し, 16週1日にPSL20mg/日で退院した. 退院時点で胎児の大横径・大腿骨長はいずれも16週相当であった. 治療に難渋したUC合併妊娠症例に対してGCAPを併用したところ, 速やかに緩解し妊娠継続が可能となった. UC合併妊娠では, 通常の薬物療法に加えて, 胎児への影響が問題とならないGCAPを積極的に活用するべきである.
  • 池田 祥子, 横井 秀基, 向山 政志, 笠原 正登, 森 潔, 吉岡 徹朗, 齋藤 陽子, 小川 喜久, 〓原 孝成, 今牧 博貴, 深津 ...
    2007 年 40 巻 10 号 p. 877-881
    発行日: 2007/10/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    近年CAPD施行症例の増加に伴って, CAPD横隔膜交通症の報告が増加しつつある. 今回われわれは, CAPD導入14か月後に左側胸水を発症し, 99mTc-Sn-colloidシンチによりCAPD横隔膜交通症と診断した1例を経験した. 症例はCAPD導入14か月後の62歳, 女性, 咳嗽を認め, 体重が7kg増加した. 胸部X線写真では左胸水多量貯留を認め, 胸水穿刺では胸水中の糖濃度の上昇を認めなかった. 左胸水の精査のため, 99mTc-Sn-colloidを腹膜透析液に混入し, 腹腔内投与を行ったところ, 4時間後に放射性同位元素の左胸腔内への集積を認め, 横隔膜交通症と診断された. 1か月の腹膜透析中断の後, 透析液注入量を減らしCAPDと血液透析の併用を行い, 胸水の再発を認めていない. CAPD横隔膜交通症において左側胸水は比較的まれであり, 放射性同位元素を用いて診断できた1例を経験したので報告する.
feedback
Top