日本透析医学会雑誌
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40 巻, 4 号
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総説
第51回日本透析医学会ワークショップより―(社) 日本透析医会共催―
原著
  • 加藤 琢磨, 炭谷 晴雄, 川原 和彦, 水口 潤, 川島 周, 金山 博臣
    2007 年 40 巻 4 号 p. 333-337
    発行日: 2007/04/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    一般には内シャントの早期穿刺は避けるべきとされ, 日本透析医学会の「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」 (以下, 日本透析医学会ガイドライン) でも自己血管内シャントの使用は作製後14日目以降を, 人工血管内シャントの使用は術後3~4週目以降を推奨している. しかし, 透析導入が早期に求められる症例に対するカテーテルの挿入は, 感染, ADLの低下といった患者のQOLの低下をもたらす可能性がある. 当院では内シャント早期穿刺を行っており, 2001年4月から2003年3月までの2年間に作製され, 早期穿刺された内シャント95例 (内自己血管内シャント68例, 人工血管27例) の長期成績を, 個々の穿刺開始から3年間までを観察期間とし検討した. 自己血管内シャントの一次開存率は術後1年, 2年, 3年でそれぞれ72.1%, 64.7%, 60.3%であり, 二次開存率はそれぞれ76.5%, 70.6%, 67.6%であった. 人工血管内シャントの一次開存率は術後1年, 2年, 3年でそれぞれ70.4%, 48.1%, 44.4%であり, 二次開存率はそれぞれ85.2%, 81.5%, 74.1%であった. 術後1か月以内の早期合併症は, 縫合不全によるグラフト露出1例, 内シャント閉塞5例 (自己血管内シャント5例) であった. 内シャントの早期穿刺を行うことで, 一時的に挿入されるカテーテルによる合併症とそれに伴う入院を回避することができる. このことは患者のQOLの維持だけでなく, 医療経済にも貢献が期待できる.
  • ―透析看護責任者からの調査より―
    林 一美
    2007 年 40 巻 4 号 p. 339-345
    発行日: 2007/04/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    石川県の透析センターにおける要介護透析患者の実態を把握することを目的とする実態調査を行った. 県内の透析センター36施設に勤務する透析看護責任者を対象に質問紙を配布し, 回答結果より, 透析看護について検討した. 要介護透析患者の30.0~42.6%は要支援・要介護1の軽症者であり, 23.7~40.7%の者が要介護2~5の, 身の回りの世話全般にわたり, なんらかの介護を要する者であった. 透析患者総人数の11.4~19.1%は移動障害があった. また透析患者で認知症状・意思疎通障害者は, 5~10%前後であった. 透析患者の81.0~90.5%が自宅通院者であった. 他施設・他病院から外来通院している患者は, 2%前後と少なかった. 以上のことから, 石川県においては, 透析患者の施設入所や他病院の受け入れは難しい状況にあり, 要介護透析患者や機能障害者は, 在宅サービス活用と家族の支援によって, できるだけ透析療養を継続していくことが必要であると明らかになった. 今後は要介護透析患者の看護において, 透析療養における在宅サービス活用と, 家族ケアの重要性に着目していくことが示唆された.
  • 阿岸 鉄三, 佐藤 敏夫
    2007 年 40 巻 4 号 p. 347-350
    発行日: 2007/04/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    日本透析医学会は, 毎年末に「わが国の慢性透析療法の現況」を集計し, 発表している. この集計の中で最も基本であり, したがって重要であると考えられる部分は累積慢性透析患者の推移であろう. 患者数の推移については, 過去40年間ほどにわたって直線的な増加を示していると表現されるのが一般的であった. この報告は, 患者数推移の状況を数学的に分析・検討すれば, もはや直線的増加の表現では適切でなく, 増加が頭打ち状況にあることを指摘するものである. 累積患者数 (Y) と年度 (X) の関係を多項式近似式で表すと, 次数=1 (直線) では, R=0.9779であるが, 次数=5では, R=0.9996の高い近似が得られる. この5次多項式近似式の1次微分値, 2次微分値は, それぞれ累積患者数の年次推移速度, および年次推移加速度を表すものと考えられる. これらに現れた数字を検討すると, 1991年に患者数推移の加速度の減少傾向が現れ, 1999年に推移速度は減少し, 加速度は負に転じたことがわかる. その原因は, 1992年に, いわゆる包括化として始まった透析医療に対する保険適用の締め付けにあることが推定される.
  • 沼澤 理絵, 中尾 康夫, 久木田 和丘, 米川 元樹, 川村 明夫
    2007 年 40 巻 4 号 p. 351-359
    発行日: 2007/04/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全による透析患者数の増加に伴い, 手術を受ける症例も増加傾向にある. 透析患者は麻酔のリスクも高いとされる一方で, 透析患者のみを対象とした麻酔関連偶発症の調査報告はない. 当院麻酔科管理で手術を施行した慢性腎不全で透析療法中の998症例において手術室における危機的偶発症 (心停止および心停止寸前の高度低血圧, 高度低酸素, 高度徐脈) の発生率, 転帰, 原因を調査した. 症例をASA-PS別に分類すると, クラス3, 3E, 4, 4Eの順に895例 (89.7%), 72例 (7.2%), 13例 (1.3%), 18例 (1.8%) であった. 全体の3%に相当する30例に手術室内で危機的偶発症が発生しており, 1.1%に相当する11例が術当日または術後7日以内に死亡転帰をたどった. 麻酔科管理1,000症例あたりの偶発症の発生率および死亡率は30, 11であった. 心停止は3例で発生し, 発生率は1,000症例あたり3であった. 偶発症の主因としては23例 (76.7%) が術前合併症, 7例 (23.3%) が麻酔管理であった. 術前合併症としては心不全が最も多く, 敗血症がこれに次いだ. 麻酔管理の問題点としては, 区域麻酔 (脊椎麻酔や硬膜外麻酔) に関するものが最多であった. 偶発症の発生率 (1,000症例あたり) はASA-PS4, 4EではASA-PS3, 3Eより高かった. ASA-PSで評価される術前状態が偶発症の発生率に関与していることが透析患者でも示された. 透析療法を受けている慢性腎不全患者の麻酔リスクは高いと認識すべきであり, 安全な麻酔管理には術前評価, 麻酔計画が特に重要と考えられた.
症例報告
  • 足利 栄仁, 本田 浩一, 横地 章生, 佐藤 かすみ, 秋澤 忠男
    2007 年 40 巻 4 号 p. 361-366
    発行日: 2007/04/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    患者は50歳代女性で, ループス腎炎 (LN ; type Vb) にてステロイド療法中 (プレドニゾロン10mg/日) であった. LNの活動性は落ち着きクレアチニン (Cr) 1.2mg/dL, 尿酸 (UA) 8.0mg/dL台を推移していたが, 平成17年10月中旬にCrが1.8mg/dLに上昇し, 検尿異常 (尿蛋白+, 沈〓赤血球>100/HPF) を認め, LNの活動性再燃を疑いミゾリビン (MZ) 50mg/日が追加された. 服用開始数日後より気分不快, 倦怠感出現し内服を自己中止した. しかし症状は持続し, 乏尿が出現したため, 服薬自己中止2週間後に受診したところ, Cr14.2mg/dL, UA25.1mg/dLと急激な腎機能の悪化を認めた. MZ血中濃度は内服中止後2週間を経ていたが, 0.43μg/mLと検出された. 血液検査および尿所見上 (尿中Cr/尿酸比=1.47), MZの副作用が一因となった急性尿酸性腎症による急性腎不全 (ARF) と診断した. 乏尿性のARFであり, MZおよび尿酸除去を促すため血液透析を計8回施行したところ, 尿量は増加し, 腎機能は回復した. 本症例は進行する腎機能障害とMZ代謝の遷延, 高尿酸血症との間で悪循環が形成された結果, 尿酸性腎症, 乏尿性ARFを発症したと推察された.
  • 太田 英里子, 鈴木 一恵, 澁谷 あすか, 勝部 真衣, 中村 裕也, 齊藤 博, 川野輪 香織, 廣岡 信一, 船田 信顕, 安藤 稔
    2007 年 40 巻 4 号 p. 367-373
    発行日: 2007/04/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    症例は多発性嚢胞腎による慢性腎不全のため14年間血液透析療法を受けていた82歳女性である. 散歩中に右下肢痛が出現し, その夜から臥床がちとなり, 翌日から悪心嘔吐症状がみられ, 2日後に当院を受診した. 上部消化管内視鏡にて高度逆流性食道炎と診断され, 左下葉肺炎を併発しており, 同日緊急入院した. 絶食, プロトンポンプ阻害薬投与, 抗生物質投与にて肺炎, 消化器症状は一時改善したが, 第7病日に経口摂取を開始したところ, 翌第8病日より腹痛が出現し, 小腸イレウスが確認された. イレウス管を挿入して保存的治療を行ったが, 第10病日より発熱・血圧低下がみられ, 第11病日敗血症で死亡した. 剖検にて回盲部より30cm口側の回腸が右閉鎖孔に嵌頓しており, 腸閉塞の原因は閉鎖孔ヘルニアであったと判明した. 一般に閉鎖孔ヘルニアは腸閉塞の原因としては全体の0.5%と比較的まれな疾患であり, 内科医にとっての認知度は低いと思われる. 剖検所見で嵌頓した腸管粘膜にはびらん, 潰瘍, 壊死を認めなかったが, 腸管壊死に至る前の腸閉塞でも本例のように高齢で免疫能の低下した患者では急激な悪化から不幸な転帰をとることがある. 透析患者のイレウスの鑑別診断の一つとして, 本疾患に留意する必要があるとともに本疾患では開腹手術の時期を逃さないことが重要であると考え, ここに報告する.
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