日本透析医学会雑誌
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40 巻, 9 号
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総説
  • ―第51回日本透析医学会教育講演より―
    今井 圓裕
    2007 年 40 巻 9 号 p. 763-768
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    1990年代の末に骨髄由来幹細胞がlinage (細胞の系列) を超えてさまざまな臓器に分化すること, および障害を受けた臓器の再生にこれらの骨髄幹細胞が応用可能である可能性を示す報告が出され, その可能性についての探索研究が多くの分野で開始された. 腎臓の再生に関する研究は, 動物の急性腎炎モデルや急性腎不全モデルを使用して, 主に骨髄幹細胞, 腎臓幹細胞, 胎児由来幹細胞 (ES細胞) を使って行われてきた. 骨髄幹細胞は造血幹細胞, 間葉系幹細胞, 内皮前駆細胞の3種類の細胞系からなり, 骨髄細胞全体として投与するか, それぞれの細胞を単離培養して急性期病変に対する治療効果が検討されてきた. 2000年ごろには, これらの幹細胞が, 腎臓固有の細胞である尿細管細胞や糸球体のメサンギウム細胞, 内皮細胞, さらには糸球体のポドサイトにまで分化転換 (transdifferentiation) するのではないかといわれたが, 実際に細胞の系列を超えて細胞が分化転換したかどうかは明確にされていない場合が多い. 最近の報告では, 幹細胞を急性期病変に対して投与すると, 組織修復が早くなり, 腎機能も改善するが, 幹細胞が尿細管細胞などに分化転換することは少ないのではないかと考えられている. また, 間葉系幹細胞を培養した上清を急性腎不全ラットに投与することで修復が促進されたことから, 幹細胞は直接には障害組織に影響を与えず, むしろ幹細胞が分泌する因子により, 組織修復が促進するのではないかとも考えられる. 腎臓内の成体幹細胞は近位尿細管S3部位, ボーマン嚢, 乳頭部などでの存在が報告されており, 組織修復にどのように関与するかについての研究が期待される. ES細胞は腎臓に投与すると奇形腫を形成するため, 現在のところ使用は困難である. 今後, 幹細胞から分泌される液性因子の同定とその作用目標である腎幹細胞の同定と機能解析が待たれる.
原著
  • 江口 圭, 池辺 宗三人, 金野 好恵, 山田 祐史, 金子 岩和, 峰島 三千男, 秋葉 隆
    2007 年 40 巻 9 号 p. 769-774
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    透析効率の飛躍的な向上の背景には, 高性能透析器やHDFフィルタなどのデバイスの開発ならびにその性能を引き出すための治療モード, 治療条件の考案をあげることができる. しかし, 個々の患者に対する適正な溶質除去を考えた場合, その対象となる患者体内環境の影響も重要な因子の一つと考えられる. 限られた透析時間の中で行われる除水操作は, しばしば血圧低下や筋痙攣をもたらし, 末梢循環不全の状態を作り出すことになる. 今回われわれは, 間歇的な補液を繰り返すことによって, 一時的に末梢循環を改善し, (1) 血液分配の是正, (2) 体液の撹拌, (3) 溶質の洗い出し効果促進による除去効率の向上を目的とした新しいHDF療法 (間歇補液HDF : intermittent infusion hemodiafiltration, I-HDF) を考案した. 通常のボトルタイプHDFは置換補充液を静脈側血液回路部から連続注入するが, I-HDFでは間歇的な補液操作 (3~4回/hr, 一回400~600mLの急速補液) を行い, 患者の循環血液量を約5%の範囲で振幅させた. 対象は維持透析患者7例にI-HDFと従来のHDFをクロスオーバーで施行し, 各溶質のクリアスペースを比較した. この際, 置換補充液は各セッションで同量とした. 結果はクリアスペースが増加する群と不変な群の2群に分れた. 皮膚表面の微小循環を評価できるレーザー血流計により, 間歇補液後の末梢循環の改善が得られた4例を再評価すると, クリアスペースにおいてI-HDFの方が高値を示し, 特にクレアチニン, 尿酸, β2-MGで有意な差が認められた. この4例はいずれも安定した維持透析患者であったが, 間歇補液の効果が認められなかった3例は, (1) 高齢者 (74歳), (2) 閉塞性動脈硬化症合併, (3) 僧帽弁閉鎖不全合併の症例であった. ゆえに種々の患者背景が間歇補液の効果に相違をもたらすものと考察した. 今後, 従来からの外部デバイスに依存した溶質除去の手法に加えて, 患者の末梢循環を視野に入れた治療法を考案する必要がある.
  • 安藤 哲郎, 田丸 裕子, 石崎 さゆり, 才木 多恵子, 石田 秀岐, 関口 博行, 伊藤 恭子, 松尾 英徳, 安藤 義孝
    2007 年 40 巻 9 号 p. 775-780
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    陥入爪は彎曲した爪甲の縁が軟部組織に食い込み爪周囲炎をひきおこす, 日常で遭遇する頻度が高い疾患である. 超弾性ワイヤーを用いた陥入爪矯正術は, 彎曲した爪にワイヤーを挿入し, その復元力によって爪を矯正する治療法である. 本研究では維持透析患者における下肢の陥入爪に対して超弾性ワイヤーを用いた矯正術の有効性について検討した. 対象は2004年7月から2006年4月の間に陥入爪に対して超弾性ワイヤーを挿入し2か月以上の観察が可能であった維持透析患者22症例22趾. すべての症例で陥入爪による症状の改善を認めた. 重大な合併症は認められなかった. 本方法は低侵襲的であり, 比較的容易な方法でありながら十分な効果が得られたことから, 透析患者の陥入爪に対しての有効な治療法と考えられた.
  • 加藤 陽子, 岡田 美帆, 吉田 学郎, 横山 温子, 小田 寛, 大野 道也, 大橋 宏重
    2007 年 40 巻 9 号 p. 781-787
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    血清C反応性蛋白 (CRP) 値は透析患者での心血管系合併症の独立した危険因子と考えられている. 近年, HMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチンは脂質異常を改善する作用を有するだけでなく, 内皮細胞機能障害の改善, 抗凝固作用, 抗炎症作用, プラークの安定化といった多面的効果を有することが報告されるようになった. Non-HDL-コレステロール (Non-HDL-C) が130mg/dL以上の28名の腹膜透析 (PD) 患者に少量のロスバスタチンカルシウム (ロスバスタチン) 1日2.5mgを24週間投与し, その服薬の継続性とともに脂質異常改善作用とロスバスタチンの有する多面的効果について検討した. 高感度CRP (hsCRP) は0.41mg/dLから0.12mg/dLへと低下した. Non-HDL-Cは155.3mg/dLから97.4mg/dLへ, 中性脂肪 (TG) は143.1mg/dLから116.5mg/dLへと減少したが, HDL-コレステロールに有意な変化は認められなかった. また, リポタンパク(a) [Lp(a)] は41.8mg/dLから31.8mg/dLへと低下し, 血清アルブミンは3.5g/dLから3.6g/dLへと軽度ではあるが上昇した. なお, CKの上昇はなく, 1名が筋肉痛の自覚症状にて服薬を中止した. ロスバスタチンはPD患者に安全に投与でき, 総コレステロール, Non-HDL-C, TGを低下させるだけでなく, CRP, Lp(a), フィブリノーゲンを減少させ, アルブミンを上昇させる効果を有することが示唆された.
  • 忽那 俊樹, 齊藤 正和, 松永 篤彦, 南里 佑太, 石井 玲, 米澤 隆介, 松本 卓也, 山本 壱弥, 高木 裕, 羽切 佐知子, 吉 ...
    2007 年 40 巻 9 号 p. 789-797
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    維持透析を受ける血液透析 (HD) 患者は身体機能が低下しているため, 習慣的な運動を続けることが困難な場合が多い. HD患者の身体機能を維持・向上するためには, HD患者の特徴を考慮した効果的な運動療法の介入方法を構築する必要がある. 本研究は, 維持HD患者の運動継続に影響を及ぼすセルフ・エフィカシー (SE) を評価し, 身体機能とSEとの関係からHD患者に対する運動療法の効果について検討した. 維持HD患者122例を運動群と非運動群に分類して, 運動群には運動療法としてelastic resistance training (ERT) を2か月間施行し4か月間の観察期間を設けた. 6か月の研究期間を終了した運動群24例と非運動群20例を対象に, 患者背景因子としてHD期間, dry weight, body mass index, ヘマトクリット, 血清アルブミン, 症状得点, 身体機能 (PF) 偏差得点を, 身体機能の指標として握力と等尺性膝伸展筋力を測定した. 日常身体活動に対するSEの評価として身体活動SE尺度を用い, 上肢の運動に対するSE (上肢SE), 下肢の運動に対するSE (下肢SE) を算出した. 上肢SEを規定する因子として握力とPF偏差得点 (p<0.01, p<0.01), 下肢SEを規定する因子としてPF偏差得点, 等尺性膝伸展筋力, 年齢が認められた (p<0.01, p<0.01, p<0.05). ERT介入前後の等尺性膝伸展筋力は, 非運動群で有意な変化を認めなかったのに対し, 運動群では有意に改善した (p<0.05). 一方, 非運動群の上肢SEと下肢SEは有意に低下したのに対し (p<0.01, p<0.05), 運動群の上肢SEと下肢SEは有意な変化を示さなかった. 以上より, 維持HD患者のSEは身体機能やADLと密な相関を示し, 本研究で実施したERTはHD患者の身体機能を改善するとともに, SEを維持する一つの手段となることが示された.
症例報告
  • 渡部 公二, 河田 哲也, 名和 伴恭, 山城 勝重, 田島 邦好
    2007 年 40 巻 9 号 p. 799-803
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    劇症型レンサ球菌 (人喰いバクテリア) に起因するStreptococcal Toxic Shock Syndrome (STSS) により, その経過があまりにも急激なため, 充分な検査や治療が非常に困難であった貴重な症例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告する. 症例は60歳女性で, 透析歴16年, 特別な家族歴も既往歴もない慢性腎不全患者である. ある日突然, 心窩部痛と四肢の筋肉痛および不穏状態を訴え, 原因不明のままショック状態に陥り, 主訴から2日後に多臓器不全で死亡した. この症例は, 剖検後の顕微鏡検査でその確定診断を得られた. 劇症型レンサ球菌感染症の本邦における年間発生数は約50~60例であるが, その病態は劇的であり重篤である. しかし, 本症例の経験からこの疾患を早期に診断, 治療することにより, 患者の救命が期待されると考えられた.
  • 対馬 義人, 遠藤 啓吾, 岡部 和彦, 佐野 孝昭
    2007 年 40 巻 9 号 p. 805-810
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    症例はnephrogenic systemic fibrosis (NSF) 発症時に44歳の男性である. 36歳で糸球体腎炎と診断され, 血液透析導入となった. 44歳で生体腎移植が行われたが, 移植2日目より無尿となり, 4日目より血液透析を再開した. 移植23日目にGadodiamide 15mLを用いてmagnetic resonance angiography (MRA) が行われ, 動脈吻合部狭窄と診断された. MRA実施後約1か月にて左前腕の腫脹, 疼痛, 熱感, 皮膚硬化が出現し, 徐々に増悪, 手指関節の拘縮も出現した. 症状は次第に四肢に広がり, 両側肩関節を含む上下肢関節も拘縮となった. 数か月後にはほぼ症状が固定し, 四肢の皮膚硬化と関節拘縮に改善はなく, 50歳の現在かろうじて歩行が可能な程度である. 発症から約7年後にNSFの可能性に気づかれ, 左前腕より皮膚生検を行い, 真皮に炎症細胞浸潤の乏しい密な膠原線維の肥厚増生と, 真皮樹状細胞や組織球の増生がみられ, NSFに矛盾しない所見であった. 以上のような経過, 臨床所見, 病理所見はGadodiamide投与が契機となったNSFに合致するものと考えられた. NSFは, 腎不全患者に生じる全身の皮膚硬化と関節拘縮を特徴とする疾患である. 最近, 核磁気共鳴検査 (magnetic resonance imaging [MRI]) に用いられているガドリニウム造影剤が原因であるとの報告が相次いでいるが, Gadodiamide投与後に発症したとされる報告が圧倒的に多い. その発症機序には不明な点が多いが, キレートより遊離したガドリニウムが皮膚などに沈着し, 線維化を生ずると考察されている. なんらかの大きな組織侵襲 (外科手術や感染症) が存在する場合に発症の可能性が高いともいわれる. いずれのガドリニウム造影剤でも生じ得る重篤な副作用であり, 腎機能障害のある場合, あるいは透析患者には原則的に投与すべきではないと考えられる.
  • 岡 真知子, 浜崎 敬文, 真栄里 恭子, 真野 勉, 池江 亮太, 守矢 英和, 大竹 剛靖, 小林 修三
    2007 年 40 巻 9 号 p. 811-815
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2008/11/07
    ジャーナル フリー
    今回われわれは, 肝性脳症のコントロールのため腹膜透析液に肝不全用アミノ酸製剤 (アミノレバン®) を混注使用することで, 脳症のコントロールが容易になった症例を経験した. 症例は62歳, 男性. 難治性腹水合併肝硬変を有する患者で, 慢性腎不全のため2004年12月 (61歳) 腹膜透析導入. 2005年5月交通外傷によりバッグ交換操作が不能となり当科入院. 入院中から高NH3血症, 肝性脳症が出現し, 肝不全用アミノ酸製剤投与 (アミノレバン®) の点滴加療を開始. 内服薬に変更し8月退院. 退院後, 頻回に脳症を生じアミノレバン®内服のみでの脳症コントロールが困難となりアミノレバン®点滴も週1~2回受けていた. 肝性脳症悪化のため, 同年9月当科再入院. 点滴注射のための血管確保困難, 退院後の脳症コントロールを考慮し, 1日1回アミノレバン®腹腔内投与を開始. 以後順調に高NH3血症ならびに脳症は改善. アミノレバン®内服時はNH3値100μg/dL台もしばしばであったが, 腹腔内投与後は30~50μg/dLと良好. アミノレバン®を腹膜透析液に混注時, 混濁は認められずpHは6程度であり腹腔内注入時の腹痛は認めなかった. アミノレバン®腹腔内投与前は肝不全時に認められる分岐鎖アミノ酸低下が認められ, フィッシャー比1.0 (正常値2.2~4.3), NH3値133.9μg/dLであったがアミノレバン®腹腔内投与後は分岐鎖アミノ酸の上昇が認められ, フィッシャー比も6.1に上昇, NH3値は37.3μg/dLに改善した.
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