日本透析医学会雑誌
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41 巻, 8 号
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原著
  • -DOPPSより-
    斎藤 明, 秋葉 隆, 秋澤 忠男, 福原 俊一, 浅野 泰, 黒川 清, Jennifer L Bragg-Gresham, Margar ...
    2008 年 41 巻 8 号 p. 473-482
    発行日: 2008/08/28
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    血液透析療法のうち修正可能な6つの治療分野(指標)において,推奨レベル(目標値)を達成していない患者割合を算定するために,DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study:血液透析の治療方法と患者の予後についての調査)から得られた日本人血液透析患者の代表サンプルを用いた.死亡の相対リスクの推定にはコックス生存モデルを患者背景で補正して使用し,6つのそれぞれの治療分野(指標)に起因する患者生存年数を推定した.また,推定生存延長年数(患者年)を計算するために,現行の日本人血液透析患者人口の実際の死亡率に基づいた過去5年間の生存曲線を,全ての患者が6つの治療指標(ガイドライン)推奨レベルを達成したと仮定した場合に予測される5年間の生存曲線と比較した(日本透析医学会ガイドラインと米国腎財団KDOQIガイドラインの双方に基づき比較・計算した).日本における6種の治療目標値を達成していない患者割合とそのことに起因する死亡の相対リスクを全ての生存年数(患者年)推定のベースとした.その結果,日本人の血液透析患者の内,ごく少数の患者では5つないし6つの指標で目標値を達成していたが,殆どの患者(78.1%)で達成した指標は2つないし4つであり,20.5%の患者では1つ以下と,かなりの割合の患者が治療指標の推奨レベル(目標値)を達成していなかった.一方,生存年数の延長に最も良い効果をもたらしたのは,2つの治療指標であり,血清アルブミン4.0g/dL以上の患者の割合を増やすこと(全ての患者が目標値を達成した際には43,525患者年,3.1%増加)とヘモグロビン値11g/dL以上の患者の割合を増やすこと(全ての患者が目標値を達成した際には24,878患者年,1.8%増加)であった.また,生存年数の合計延長年数(72,958患者年)は,6つの治療指標から独立モデルで別々に算出された患者生存年数の単純合計(99,815患者年)より27%低いものであった.日本において,ヘモグロビン値がもたらす効果はどの目標値が適用されたかで異なり,もし11g/dLの代わりにヘモグロビン目標値≥10g/dLが使われた場合,前述の患者生存延長年数は16,580(患者年)となる.日本においては,今後,前向きの無作為比較試験を実施して,ガイドラインの更新を検討すべきと考えられた.
症例報告
  • 一色 啓二, 中澤 純, 杉本 俊郎, 坂口 正芳, 小山 哲朗, 田中 敬, 武田 尚子, 田中 裕紀, 安田 真子, 津田 安都子, 久 ...
    2008 年 41 巻 8 号 p. 483-488
    発行日: 2008/08/28
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    症例は,67歳の維持透析施行中の男性.5年前に血液透析導入.2年後に関節リウマチ(RA)と診断,プレドニンを経口投与されていた.2006年3月,2週間前から右上肢の脱力が出現し入院となった.画像所見にて,頸部X線で頸椎C5/6間の狭小化,頸部MRIにて頸椎C3/4間に腫瘤を認め,脊髄腫瘍の圧迫による頸髄症と診断し,椎弓形成術および腫瘤切除術を施行した.切除した腫瘤は高度に石灰化しており,病理組織標本にて石灰沈着を伴う異物型巨細胞性肉芽腫形成を認め,頸椎腫瘍状石灰沈着症(cervical tumoral calcinosis)と診断した.本症例は,血清リン(P)濃度や,カルシウム(Ca)・P積,副甲状腺機能が良好にコントロールされていたにもかかわらず,稀な発症部位である頸椎にtumoral calcinosisを認めた.本症例では,頸椎単純X線写真で腫瘤像や石灰化を捉えられず,MRIにても腫瘤は認めるも明らかな石灰化が同定できずに,術中所見と摘出した腫瘤の病理組織所見によりtumoral calcinosisの診断が得られた.維持透析患者の頸髄症の一因としてcervical tumoral calcinosisも考慮する必要があると考え報告する.
  • 忽那 俊樹, 松永 篤彦, 南里 佑太, 小澤 哲也, 齊藤 正和, 高木 裕, 羽切 佐知子, 吉田 煦, 増田 卓
    2008 年 41 巻 8 号 p. 489-495
    発行日: 2008/08/28
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    血液透析(HD)患者の運動機能やquality of life(QOL)を改善させる方法として,HD時に施行する運動療法が注目されているが,高齢患者に対して安全に運動療法を実施するためには,運動療法中の身体状況を詳細に評価する必要がある.今回,高齢なHD患者2症例に対して,HD時の運動療法を週3日,3か月間施行した.症例1は75歳,男性.糖尿病性腎症を原疾患とし,HD導入からの期間は31か月であった.症例2は65歳,男性.多発性嚢胞腎を原疾患とし,HD導入からの期間は25か月であった.運動療法は,自転車エルゴメータをリクライニングベッドに固定し,座位姿勢で穿刺後1時間以内に実施した.2症例とも,運動療法によって血圧や心拍数に著しい変動を生じたり不整脈を誘発することはなく,運動療法施行時の血圧,心拍数および経皮的動脈血酸素飽和度は運動療法の介入前とくらべて同等な変化であった.運動療法介入前後の血液生化学検査や心エコー検査では,2症例ともHb,Alb,BUN,Crおよび左室駆出率に変化を認めなかった.一方,症例1は,運動療法介入前と比較して,介入後に最高酸素摂取量,等尺性膝伸展筋力,Sit-to-stand test,SF-36v2による健康関連QOLの日常役割機能・身体,体の痛み,全体的健康感,活力および心の健康の項目において改善を認めた.症例2は,最高酸素摂取量,Sit-to-stand test,健康関連QOLの全体的健康感と社会生活機能の項目において改善を認めた.以上より,HD時の運動療法は高齢患者に対しても安全に施行可能であり,運動機能やQOLを改善させる効果的な介入手段と考えられた.
  • 大田 真理, 大貫 隆子, 潮平 俊治, 矢吹 恭子, 赤尾 正恵
    2008 年 41 巻 8 号 p. 497-502
    発行日: 2008/08/28
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.近医へ外来透析通院中の患者で,2006年6月中旬より頭痛が出現したため21日近医の救急外来を受診した.頭部CTを施行し,脳出血や梗塞巣などの異常所見は認められず鎮痛薬を処方され帰宅した.しかしその後も頭痛は消失せず,6月26日見当識障害にて当院へ入院.当初の頭部CTでは異常所見は認められず,意識障害,ごく軽度の項部硬直,髄液所見(単核球優位の細胞増加83/3mm3,蛋白増加295mg/dL)よりウイルス性髄膜脳炎と診断し,アシクロビルの投与を行った.しかし呼吸状態も悪化してきたため一時人工呼吸管理となり,さらにステロイドパルス療法も併用し治療を行った.2週間後には人工呼吸管理から離脱でき,意識状態も完全に回復しリハビリ病院への転院を考慮するほどになっていた.しかし9月より再び意識状態が悪化し,頭部CT上造影剤で増強される腫瘤様陰影を認めたため,単なる髄膜脳炎ではなく中枢神経原発悪性リンパ腫の可能性を考慮し,2回目のステロイドパルス療法を施行した.これらの治療にもかかわらず11月よりさらに意識レベルは低下し,CT上の陰影も増大傾向となった.血清IL-2レセプター919IU/mL,髄液中IL-2レセプター259IU/mLと高値を示し,髄液細胞診上classIIIb,クロマチン増加の高い異型リンパ球を認めたため,画像所見などから中枢神経原発悪性リンパ腫が最も疑われると判断した.その後の治療にも反応せず12月26日永眠された.本症例のように当初はウイルス性髄膜脳炎様症状のみであり,後に画像所見上造影剤にて増強される腫瘤陰影の変化が現れ,中枢神経原発悪性リンパ腫が強く疑われた症例を経験した.亜急性の意識障害を呈する患者の鑑別診断のひとつとして,一般的な髄膜脳炎のみならず,中枢神経原発悪性リンパ腫の可能性を考慮する必要があると考えられた.
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