日本透析医学会雑誌
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43 巻, 3 号
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第54回日本透析医学会シンポジウムより
原著
  • 西谷 陽志, 坂井 瑠実, 申 曽洙, 森上 辰哉, 清水 康, 稲田 紘
    2010 年 43 巻 3 号 p. 287-295
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    透析患者に対し,治療を円滑に行うために必要なシャントの日常管理のうちでも,特に狭窄の診断は極めて重要である.シャント音の聴診はシャント狭窄を簡便に診断する方法として日常的に用いられている.臨床経験上,狭窄の進行に伴って高調なシャント音が聴診されることが知られているが,この診断には客観的な基準がなく,聴診者の主観に頼っているのが現状である.そこでわれわれはこの診断基準の確立に向けた基礎的研究として,シャント音を周波数解析し,狭窄度と周波数スペクトルの関係について解明することを試みた.方法としては,まず患者のシャント(動静脈吻合)の吻合部より中枢部に向けて3~6箇所の部位で複数のシャント音を記録し,短時間フーリエ変換により周波数スペクトルを算出した.次にシャント狭窄度とシャント音の周波数スペクトルとの関係をスペクトルの平均値の有意差により解析した.その結果,吻合部(シャント狭窄部より上流域)および狭窄部上では,狭窄の進行に伴い高周波数帯域のスペクトルの割合が有意に大きいことが確認された.一方,中央部(狭窄部より下流域)では基本的に狭窄度と周波数帯域との間に有意差は確認できなかったが,狭窄部直後の部位については中間周波数帯域のスペクトルを中心に有意に大きくなることが確認された.流体力学理論上,特に吻合部,狭窄部,また,狭窄部直後の中央部では狭窄の進行に伴って乱流が発生し,その影響で高周波数帯域のスペクトルが上昇するものと考えられる.以上の結果から,シャント音による客観的な狭窄度診断のアルゴリズムが確立できることが期待された.
  • 伊藤 豊, 岡田 玲, 木村 慶子, 高橋 亮, 三輪 尚史, 櫻井 寛, 坪井 正人, 春日 弘毅, 佐藤 隆
    2010 年 43 巻 3 号 p. 297-301
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    バスキュラーアクセス(以下VA)閉塞の治療としてインターベンション治療(VAIVT)が発展してきたが,その治療成績が従来の外科的治療と比較されたデータは少ない.そこで,VAIVTと外科的治療の成績について検討した.対象はVA閉塞により2004年1月より2008年12月までの間に外科的治療を施した533例,延べ879回と,2006年4月より2009年3月までにVAIVTにより閉塞治療を施行した54例,延べ156回(VAIVT群).外科的治療を行った症例を,血栓除去および狭窄部位に対するballoon angioplastyを追加した群56例,延べ189回(外科的balloon angioplasty群)と吻合部の変更などを追加し,狭窄部位そのものをVAから除外した群477例,延べ690回(外科的修復群)に分けて,次回のVA治療までの期間(1次開存率)につき検討した.さらに,VAが自己血管で作製されている場合と人工血管が使用されている場合に分けて,比較検討した.2年開存率は,外科的修復群,外科的balloon angioplasty群,VAIVT群でそれぞれ34.0%,11.5%,11.1%であり,外科的修復群は他の2群にくらべて有意に良好であった(p<0.0001).自己血管VAでは,それぞれの2年開存率は59.8%,35.7%,33.7%(p=0.0005),また,人工血管VAでは,それぞれ22.8%,9.2%,5.9%であり,同様の結果が得られた(p<0.0001).今回の検討では,VA閉塞の治療として,VAIVTを施行した場合の一次開存率はルート修正を含めた外科的治療には劣るものの,外科的血栓除去+balloon angioplastyと同等なものであった.ルート修正を含む外科的治療の一次開存率は良好であるが,長期的にみた場合,VA作製可能部位が減じていくことになり,VAを温存できる利点を持つVAIVTとの比較は難しい.少なくとも短期成績からはVAIVTを第一選択とする根拠となりうると思われた.
  • 栗山 哲, 大塚 泰史, 上田 裕之, 神崎 剛, 菅野 直希, 細谷 龍男
    2010 年 43 巻 3 号 p. 303-308
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    目的:腹膜透析(PD)患者の腎性貧血管理は不十分であることが知られているが,その一因にerythropoesis stimulating agent(ESA)投与量の絶対的不足が指摘されている(PDではrecombinant human erythropoietin(rHuEPO)で6,000 IU/週以内,血液透析(HD)は9,000 IU/週以内が保険適応).一方,長時間持続型ESAダルベポエチン(darbepoetin-α:DA)は,保険適応量はrHuEPOよりも高用量である.本研究は,腎性貧血管理が不十分なPD患者において,rHuEPOからDAに変更・増量することにより,腎性貧血が改善するか否かを検討した.対象と方法:rHuEPO 12,000 IU/2週(皮下注)治療下に24週以上経過観察したPD患者44例を検討の対象とした.治療経過中にHb濃度11 g/dLに達しない患者は,44例中31例(31/44=70%),また,Hb濃度10 g/dL以上に達しない患者は14例(14/44=32%)であった.後者の14例をrHuEPO投与下で24週間の観察期間を終了した後,DA 60 μg/2週(静注)に変更し,貧血状態を2週間ごとに評価しHb濃度に増加がみられない場合はDAを段階的に20 μg/2週ずつ増量した.結果:1)rHuEPOからDAの切り替え増量によって14例のうち13例がHb濃度の上昇を認めた(有効率13/14=93%).この反応は統計学的に有意であった(p=0.016,Fisher's direct method).Hb濃度でみると,rHuEPO投与期間の観察開始時は9.4±1.4 g/dLであり,終了時には9.2±0.9 g/dLと変化がなかった.一方,DA投与開始時は9.2±0.9 g/dLのHb濃度は,観察終了時には10.7±1.4 g/dLと有意に上昇を認めた(p<0.001 by Student's t test).2)rHuEPOからDAの切り替え増量によって14例中7例(50%)がHb濃度11 g/dL以上を達成した.この際,DAの投与量は60 μgから140 μg/2週であった.3)rHuEPOからDAの切り替え増量によって14例中13例(90%)がHb濃度0.5 g/dL以上の上昇を観察した.この際,DAの投与量は60 μgから140 μg/2週であった.4)観察期間中,高血圧の増悪など重大な副作用は認められなかった.結論:PD患者においては,現行のrHuEPO治療では大多数の患者でHb濃度11 g/dL以上を達成することは困難である.この原因は,現行のrHuEPOの保険適応量の絶対的不足が考えられる.DAの比較的高用量使用は,これらの患者の腎性貧血改善に有用性を認める.
  • 福本 和生, 野口 智永, 酉家 佐吉子, 島津 栄一, 三宅 晋
    2010 年 43 巻 3 号 p. 309-315
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    二次性副甲状腺機能亢進症治療薬シナカルセト塩酸塩(以下シナカルセト)の有害事象として上部消化管症状が頻繁に認められる.これは消化管に存在するカルシウム受容体(以下CaSR)の影響が考えられる.上部消化管機能を胃酸分泌能(胃内pH・血中ガストリン濃度・血中ペプシノーゲン濃度)と胃排出能(アセトアミノフェン法)にて評価した.シナカルセト使用後に血中ガストリン濃度の上昇はみられたが胃酸分泌に明らかな変化はみられなかった.シナカルセト非使用時とくらべ使用時には胃排出能の遅延が認められた.シナカルセトによる胃排出能抑制の強い症例に上部消化管症状がよくみられた.シナカルセトを服用することで消化管に存在するCaSRに擬似的なCa2+負荷が加わり,アセチルコリン遊離が抑制され副交感神経系の抑制による症状が起こることが示唆された.この上部消化管症状に対する対策としては,胃の内容物ができるだけ少ない時間帯や胃排出能が亢進している透析後にシナカルセトを服用し,胃排出能を促進するような健胃消化剤・アセチルコリン作動薬・プロスタグランディン製剤などを使用することが有効であった.制酸剤の効果は定かでなかったが,シナカルセトを使用する前に上部消化管内視鏡を行い,胃疾患・胃内酸状況・胃粘膜状態・胃の運動機能を把握することが望ましい.これらの工夫によってシナカルセト服用のコンプライアンスは向上し,今後の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に有用になることが期待された.
  • 大前 清嗣, 小川 哲也, 吉川 昌男, 新田 孝作
    2010 年 43 巻 3 号 p. 317-323
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    慢性透析患者において,心電図(ECG)上のST-T変化と心臓超音波検査(UCG)上の異常所見は,それぞれ独立して心不全死の予測因子となることが報告されている.今回われわれは,維持透析患者を対象に安静時ECG上のST-T変化に関連する因子を同定した.対象は,吉川内科小児科病院の外来透析患者のうち,6か月以上安定した透析が行われUCGを施行している149例(男性88例,女性61例)である.安静時ECG上のST-T変化の有無を目的変数に,左房径(LADs),左室拡張末期径(LVDd),左室後壁壁厚(PWT),左室短縮率(%FS),左室心筋重量(LVM)のほか,年齢,性別,原疾患(糖尿病DM,非糖尿病nonDM),冠動脈疾患(CAD)の合併,透析歴,血圧,透析間の体重増加量,生化学末梢血検査値,使用薬剤を説明変数に用い多変量解析を行った.UCGは透析後もしくは透析翌日午前に施行され,検査値については6か月間の透析前平均値を用いた.多変量解析はステップワイズ法による多重ロジスティック解析を用いた.特定されたST-T変化関連UCG異常について,ST-T変化の有無により2群に分類し,重回帰分析を用い各群のUCG異常に影響する因子の抽出を行った.平均年齢は66.7歳で,平均透析期間は14.4年であった.原疾患はDMが41例で,26例にCADの合併が認められた.UCG所見は,平均LADs 42.4 mm,LVDd 52.4 mm,PWT 10.8 mm,%FS 36.3%,LVM 224.4 gであった.内服治療は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬8例,アンジオテンシンII受容体拮抗薬103例,βもしくはαβ拮抗薬52例,カルシウム拮抗薬(CCB)116例であった.ST-T変化は79例に認められ,多重ロジスティック解析ではCADの合併,LADsおよびCCBの使用が関連因子であった.オッズ比は,それぞれ5.141,1.087,0.339であった.ST-T変化を有する症例ではLADsがLVMと正に相関し,左室肥大を反映する可能性が示唆された.
透析技術
  • 古薗 勉, 森 義博, 太田 雅顕, 長谷川 晋也, 坂巻 正倫, 松本 良平, 横山 和巳, 坂井 瑠実
    2010 年 43 巻 3 号 p. 325-328
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    在宅血液透析における患者による自己穿刺の容易性を高めるため,自己穿刺補助具を開発した.補助具のプロトタイプは三次元立体造形技術により,アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)樹脂を用いて製造された.当該補助具は,台座部,延設部,アーム部,突起部,および血管を圧迫固定するための弾性的な付勢手段としてのトーションバネから主に構成された.穿刺する際,アーム部をトーションバネの付勢力に抗して揺動させて腕を挿通し,突起部にて血管を押圧する.さらに,その押圧状態から患者の腕を穿刺方向にわずかにずらすことにより,血管を伸展固定できるように設計された.
症例報告
  • 春山 直樹, 柳田 太平, 西田 英一, 安永 親生, 原 由紀子, 安達 武基, 椛島 成利, 田村 雅仁, 柴田 英治, 合屋 忠信
    2010 年 43 巻 3 号 p. 329-333
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は37歳,女性.平成11年9月にIgA腎症からCAPDを導入された.平成17年3月より挙児希望から近医で体外受精―胚細胞移植(IVF-ET)を始め,同年9月より週1回血液透析を併用した.平成19年3月に3回目のIVF-ETで妊娠6週を確認することができた.その後,血液透析を週2回5時間併用として貧血,透析量の管理を行っていたが,妊娠14週より週3回各5時間の血液透析へ完全に移行し,徐々に透析量を増やした.妊娠17週に切迫早産と診断されて,近医大学病院に入院した.妊娠32週で胎児は生下に十分耐えうる大きさとなり,帝王切開で2,284 gの健康な女児を出産した.その後母体,出生児ともに合併症なく,妊娠36週で退院となった.その後血液透析を継続していたが,母親は育児のためにCAPDの再開を希望した.腹腔洗浄を試みたが,カテーテルは子宮の圧排で上腹部へと転位し注排液不可能だった.そこで腹腔鏡下にカテーテルの整復術を行い,CAPDを再開することができた.CAPDの妊娠は,透析液による腹腔内の高浸透圧環境が卵子の着床に不適であるとされており,体外受精―胚細胞移植がより確実かもしれない.また,本症例のように腹膜透析導入後7年経過し,残存腎機能のない症例においては,妊娠早期より血液透析を併用,ないし一時的な移行が必要と思われた.
  • 富田 祐介, 関島 光裕, 小山 一郎, 中島 一朗, 渕之上 昌平, 寺岡 慧
    2010 年 43 巻 3 号 p. 335-339
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.IgA腎症を原疾患とする慢性腎不全で5年前より維持血液透析中であった.数回の一過性の下血に対し下部消化管内視鏡を施行したが,出血源は不明であった.適宜,輸血療法を施行し経過観察していたが,その後も下血を反復するため,精査加療目的で当科に転院となった.入院後,下部消化管内視鏡,腹部CT,腹部血管造影を行ったものの,出血源が特定できなかったため経カテーテル的動脈塞栓術は施行できなかった.小腸出血の疑いで試験開腹術を行った.術中小腸内視鏡を施行し,Meckel憩室潰瘍出血と診断が確定したため,憩室を含めた回腸部分切除術を行った.術後経過は良好で,術後10日目に退院となった.一般的にMeckel憩室からの出血は消化管出血の原因として稀ではないが,維持透析患者での報告は少ない.透析患者では血管の脆弱性や血小板機能の低下,透析時の抗凝固剤の使用などに伴い出血傾向が潜在すること,輸血療法に際して水分過剰や電解質異常をきたしやすいこと,診断や治療の経過においても維持透析が不可欠なことから時間的な制約を免れないこと等を念頭におく必要がある.今回,術前の確定診断が困難であったMeckel憩室からの出血に対して,開腹手術,術中小腸内視鏡検査により診断,治療を行った症例を経験したので報告する.
  • 吉原 良祐, 大山 美納子, 中尾 一清, 藤森 明
    2010 年 43 巻 3 号 p. 341-346
    発行日: 2010/03/28
    公開日: 2010/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,男性.関節リウマチ(RA),糖尿病,虚血性心疾患を合併し,2003年より維持血液透析を施行中.RAの活動性が高いため,2005年5月よりエタネルセプト週2回の投与を開始したところ著効し,継続投与されていた.しかし2007年7月上旬に咳・血痰が出現したため胸部画像検査を施行したところ右肺S3に3 cm×2 cm大の空洞性病変が出現していた.喀痰検査にてノカルジア属を検出.直ちにエタネルセプトを中止するとともにST合剤の投与を開始したところ約4か月で瘢痕治癒した.一方RAは再燃し,ステロイド剤増量や白血球除去療法で対応するもコントロールは困難であった.透析療法を受けているRA患者では多くの抗リウマチ薬が使用困難である中,強力な抗リウマチ作用をもつTNF阻害薬は使用可能であるが,透析患者の免疫能はすでに低下しており,その使用にあたってはより一層の慎重さが要求されるものと考えられる.
委員会報告
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