維持血液透析(HD)患者の日常生活活動(ADL)を評価するためには,自立度のみの評価指標ではADLの特性を十分に把握できない可能性がある.われわれは先行研究において,自立度に加えて動作時の自覚的な困難さに注目した疾患特異的移動動作評価表(HD患者移動動作評価表)を開発し,その信頼性と妥当性を検証した.本研究では,外来HD患者16例(男性3例,女性13例,年齢63±9歳)を対象に6か月間の観察期間を設けて,HD療法が安定して行えていることや運動機能とADLに変化がないことを確認した後に3か月間の運動療法を実施し,運動療法の効果に対するHD患者移動動作評価表の反応性を検証した.測定項目は運動機能として膝伸展筋力,最大歩行速度,functional reachおよび移動に関するADLとした.移動に関するADLの評価には自立度を評価尺度とする機能的自立度評価法(FIM)と,動作時の自覚的困難さを「とても楽だ」から「できない」までの5段階尺度で評価するHD患者移動動作評価表(全12項目)を用いた.なお,全ての測定項目は観察期間前と運動療法介入前後の3時点で調査した.運動療法を完遂した11例について解析を実施した結果,観察期間において運動機能とADLのすべての評価項目は有意な変化を認めなかった.一方,運動療法介入前後において,運動機能は膝伸展筋力のみ有意な改善を認め(p<0.05),ADLのFIM得点は有意な変化を示さなかったのに対して,HD患者移動動作得点は有意な改善を示した(p<0.05).また,運動療法介入前後のHD患者移動動作得点の変化量と膝伸展筋力の変化量の間に有意な正の相関を認めた(r=0.63,p<0.05).さらに,評価表の反応性の大きさを示すstandardized response meanはFIMでは0.45と小さい値を示したのに対して,HD患者移動動作評価表は1.17と大きい値を示した.以上のことから,HD患者移動動作評価表は運動機能の変化を鋭敏に反映し,運動療法の効果指標となることが示された.
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