日本透析医学会雑誌
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43 巻, 6 号
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原著
  • 江崎 真我, 南郷 智香, 宮岡 良卓, 林 亜美, 為國 時世, 権藤 麻子, 和田 憲和, 長岡 由女, 岡田 知也, 松本 博, 中尾 ...
    2010 年 43 巻 6 号 p. 487-491
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2010/07/28
    ジャーナル フリー
    透析患者は多様な身体的症状に加え社会的活動障害を有することから,これに基づく不安抑うつ状態をきたしやすい.このためうつ病を早期発見する医療者の働きかけが求められる.そこで2007年12月から2008年3月の期間において,当科で透析療法を行った61例を対象とし,日本版精神健康調査票(The General Health Questionnaire)短縮版(以下,GHQ-28)による調査を行った.調査対象では健常者と比較して,総合点と要素因子A(身体的症状),B(不安と不眠),D(うつ傾向)の得点が高値であった.次に精神医学の専門医によって米国精神医学会のDSM-IV-TRにおける大うつ病性障害(以下,うつ病)に該当するかを判定したところ,該当者は米国と同水準の24.6%であり,日本都市部の一般住民の有病率である1.2%を大きく上回った.うつ病あり群となし群との間でGHQ-28得点を比較すると,総合点,要素因子ともにうつ病あり群で高値であり,うつ病のスクリーニングを行うのに適切なカットオフ値は,GHQ-28総合点では8点,要素因子D(うつ傾向)では1点であった.透析患者に対してGHQ-28を用いることは,うつ病のスクリーニングに有用であると考えられた.
  • 水口 隆, 岡田 和美, 水口 潤, 川島 周
    2010 年 43 巻 6 号 p. 493-499
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2010/07/28
    ジャーナル フリー
    血液透析(HD)患者における鉄代謝指標の日内変動を観察した.HD患者の血清鉄(sFe)値は19時54±29 μg/dLに比して10時74±35 μg/dLと有意(p=0.0064)に10時が高値であった.総鉄結合能(TIBC)と血清フェリチン(sFtn)値は19時と10時で有意差はなかった.トランスフェリン鉄飽和率(TSAT)は19時22.6±11.9%に比して10時30.8±15.7%と有意(p=0.0060)に10時が高値であった.sFe値とTSATには午前中が夕方に比して高値を示す日内変動が観察された.sFtn値100 ng/mL未満のHD患者を採血の時間により午前中の採血群(A群:8:30~10:30),午後の採血群(B群:13:30~14:30),夕方の採血群(C群:17:00~19:00)に分類すると,sFe値はB群56±20 μg/dLおよびC群55±21 μg/dLに比してA群70±24 μg/dLと有意(p=0.015,0.011)にA群が高値であった.TSATはB群22.2±7.9%およびC群20.8±7.8%に比してA群27.1±9.5%とA群が有意(p=0.031,p=0.009)に高値であった.貯蔵鉄欠乏の症例においてもsFe値とTSATの日内変動の存在が考えられた.TSATのcut off値20%による鉄欠乏の診断効率は全体で34.2%,A群で22.9%,B群で50.0%,C群で27.8%であり,いずれも低値であった.静注用鉄剤投与後にHb 1.5 g/dL以上上昇した症例は,sFtn値100 ng/mL以下の症例90例中33例(36.7%)であった.このなかでTSAT 20%以下の症例では19例中36例(52.8%)で過半数であった.HD患者には午前中高値で夕方が低値なsFe値やTSATの日内変動が存在する.このためTSATによる鉄欠乏の診断効率は低値であり,TSATは鉄欠乏の指標としては不適である.
  • 大坪 茂, 矢島 愛治, 内藤 順代, 石原 美和, 植田 修逸, 杉本 久之, 大坪 公子, 木全 直樹, 内田 啓子, 秋葉 隆, 新田 ...
    2010 年 43 巻 6 号 p. 501-506
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2010/07/28
    ジャーナル フリー
    【目的】エリスロポエチン抵抗性貧血の原因の一つとして,二次性副甲状腺機能亢進症が知られている.シナカルセトは2008年に日本で使用可能となった二次性副甲状腺機能亢進症に対する新しい薬剤である.今回,シナカルセトが腎性貧血における赤血球生成刺激剤の反応性を改善させるか検討した.【方法】シナカルセトを1年以上使用した20名を対象とし,開始前,開始後1,4,8,12か月後のintact parathyroid hormone(i-PTH),ヘモグロビン,トランスフェリン飽和率,CRPを比較した.赤血球生成刺激剤はダルベポエチンα(DPO)を使用し,その投与量も比較した.【結果】i-PTH値はシナカルセト開始前854±293 pg/mLと比較し,1か月後503±421 pg/mL(p<0.0001),4か月後402±371 pg/mL(p<0.0001),8か月後291±199 pg/mL(p<0.0001),12か月後283±243 pg/mL(p<0.0001)と有意に低下を示した.シナカルセト開始前のヘモグロビン値(10.2±1.2 g/dL),トランスフェリン飽和度(23.5±10.4%),CRP(0.27±0.35 mg/dL)は有意な変化は示さなかった.DPOの使用量は開始前24.0±16.7 μg/週で,1か月後23.5±16.9 μg/週,4か月後17.7±16.6 μg/週と徐々に低下した.開始前と比較し,8か月後15.0±20.1 μg/週(p<0.05)ならびに,12か月後14.0±16.4 μg/週(p<0.05)と有意に低値となった.シナカルセト投与によって二次性副甲状腺機能亢進症の改善とともに,赤血球生成刺激剤の投与量の減量が可能となった.シナカルセトは二次性副甲状腺機能亢進症を改善させることにより,貧血に対する赤血球生成刺激剤の反応性を改善させる可能性がある.
  • ―エリスロポエチン製剤とダルベポエチンαとの比較―
    稲荷場 ひろみ, 崔 吉永, 井上 圭右, 久米田 靖郎, 岡崎 博一, 岡村 幹夫
    2010 年 43 巻 6 号 p. 507-513
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2010/07/28
    ジャーナル フリー
    維持血液透析症例124例を対象に,erythropoiesis stimulating agent(ESA)をエリスロポエチン製剤(rHuEPO)からダルベポエチンα(DA)に切り替え,切り替え前24週(EPO期)と切り替え後24週(DA1期)さらにその後24週(DA2期)でHb変動について検討した.Hb変動は1.Fishbaneらのヘモグロビン(Hb)サイクリング,2.YoungらのHb標準偏差(SD),残差標準偏差(RSD),3.Ebbenらの6群分類の3種類の方法を用いて評価した.rHuEPOからDAへの変更により,平均Hb値は上昇し,10 g/dL≦Hb≦12 g/dLの目標を達成している症例の割合は薬剤切り替え時55%が24週後には69%,48週後には60%と増加していた.Hb変動についてはexcursionのみられる症例の割合がEPO期で56%に対しDA1期では67%に増加していたが,DA2期では57%となっていた.SD,RSDについては,EPO期はそれぞれ0.581±0.227 g/dL,0.445±0.183 g/dLであった.DA1期にはSDは0.681±0.293 g/dL,RSDは0.517±0.202 g/dLといずれもEPO投与期にくらべて有意に大であったが,DA2期にはEPO投与期との有意差はみられなかった.6群分類ではEPO期にくらべDA1期で高変動群が2.4%から23.4%と有意に増え,DA2期では14.5%であった.EPO投与期にくらべ,DA導入期にはHb変動が大であったが,維持期にはその差は消失する傾向にあった.DAのより強力な造血作用により目標値に達していなかった症例でHbが上昇したことが,DA導入期にHb変動を大きくした原因と考えられ,継続投与ではHb変動に対するEPOとDAの作用はほぼ同等と考えられた.
  • ―運動療法の効果に対する反応性の検討―
    小澤 哲也, 松永 篤彦, 忽那 俊樹, 松嶋 真哉, 小林 主献, 松沢 良太, 逸見 房代, 高木 裕, 本橋 佐知子, 吉田 煦, 増 ...
    2010 年 43 巻 6 号 p. 515-522
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2010/07/28
    ジャーナル フリー
    維持血液透析(HD)患者の日常生活活動(ADL)を評価するためには,自立度のみの評価指標ではADLの特性を十分に把握できない可能性がある.われわれは先行研究において,自立度に加えて動作時の自覚的な困難さに注目した疾患特異的移動動作評価表(HD患者移動動作評価表)を開発し,その信頼性と妥当性を検証した.本研究では,外来HD患者16例(男性3例,女性13例,年齢63±9歳)を対象に6か月間の観察期間を設けて,HD療法が安定して行えていることや運動機能とADLに変化がないことを確認した後に3か月間の運動療法を実施し,運動療法の効果に対するHD患者移動動作評価表の反応性を検証した.測定項目は運動機能として膝伸展筋力,最大歩行速度,functional reachおよび移動に関するADLとした.移動に関するADLの評価には自立度を評価尺度とする機能的自立度評価法(FIM)と,動作時の自覚的困難さを「とても楽だ」から「できない」までの5段階尺度で評価するHD患者移動動作評価表(全12項目)を用いた.なお,全ての測定項目は観察期間前と運動療法介入前後の3時点で調査した.運動療法を完遂した11例について解析を実施した結果,観察期間において運動機能とADLのすべての評価項目は有意な変化を認めなかった.一方,運動療法介入前後において,運動機能は膝伸展筋力のみ有意な改善を認め(p<0.05),ADLのFIM得点は有意な変化を示さなかったのに対して,HD患者移動動作得点は有意な改善を示した(p<0.05).また,運動療法介入前後のHD患者移動動作得点の変化量と膝伸展筋力の変化量の間に有意な正の相関を認めた(r=0.63,p<0.05).さらに,評価表の反応性の大きさを示すstandardized response meanはFIMでは0.45と小さい値を示したのに対して,HD患者移動動作評価表は1.17と大きい値を示した.以上のことから,HD患者移動動作評価表は運動機能の変化を鋭敏に反映し,運動療法の効果指標となることが示された.
症例報告
  • ―Erythropoiesis stimulating agent(ESA)投与中止が血小板数に及ぼす影響―
    斎藤 孝子, 斎藤 修, 菅生 太朗, 上野 幸司, 山本 尚史, 佐々木 信博, 安藤 康宏, 武藤 重明, 草野 英二
    2010 年 43 巻 6 号 p. 523-530
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2010/07/28
    ジャーナル フリー
    ESA中止後に生じる貧血以外の血球系変化,とくに血小板に対する影響についてほとんど報告されていない.今回,われわれはダルベポエチン休薬により血小板減少を認めた2例を経験し,ESA中止後の血小板数の変化について維持透析患者72例において検討したので報告する.症例1:59歳,女性.多発性嚢胞腎にて透析導入となり透析歴7年である.Hb 11.1 g/dL,Ht 37.4%,血小板(Plt)12.4万で,ダルベポエチン20 μgを中止した.その6週間後にはHb 6.7 g/dL,Ht 21.8%となり,Plt 6.5万と血小板減少も認めた.症例2:80歳,男性.ANCA関連糸球体腎炎にて透析導入となり透析歴は2年である.Hb 12.3 g/dL,Ht 37.4%,Plt 10.9万に達しダルベポエチン30 μgを中止した.2週間後にはHb 10.3 g/dL,Ht 35.9%であったが,Plt 5.0万と減少を認めた.2例とも透析条件・投与薬剤変更はなく,ほかに貧血および血小板減少をきたす疾患は認められなかった.ダルベポエチン再開後,血小板数は元のレベルに戻った.次にESA中止後の血小板数の変化について当院の維持透析患者72例に対してretrospectiveに検証した.2006年10月から2008年9月までの2年間において,28例において延べ37回(エポエチン中止17回・ダルベポエチン中止20回)の投与中止を行っていた.エポエチン中止者・ダルベポエチン中止者いずれにも休薬前の80%以下まで血小板数が減少する患者を認め,その比率には有意な相違は認めなかった.また,血小板減少患者において血小板数の変化はHbやHtの変化より早期に出現し,両者の間に有意な正の相関関係を認めた.ダルベポエチンに限らず,ESA中止時には貧血に先行して血小板数が減少する患者が一部存在しており,ESA休薬時には血小板数にも留意する必要があると考えられた.
平成21年度コメディカル研究助成報告
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