日本透析医学会雑誌
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44 巻, 9 号
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2011年版 社団法人日本透析医学会                                          「慢性血液透析用バスキュラーアクセス作製および修復に関するガイドライン」
原著
  • 齋藤 篤史, 田畑 勉, 辻本 吉広, 藤原 木綿子, 細見 由佳, 上田 恵利子, 伊藤 淑子, 安田 雅子, 山内 裕二
    2011 年 44 巻 9 号 p. 939-944
    発行日: 2011/09/28
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    腹膜透析(peritoneal dialysis,以下PD)患者において残腎機能は予後と至適透析を行う上で重要である.シスタチンC(Cystatin C,以下CysC)はすべての有核細胞でほぼ一定の割合で産生され,糸球体から濾過されるため優れた糸球体濾過率(glomerular filtration rate,以下GFR)のマーカーとなりえる.今回,外来通院中の残腎機能を有するPD患者68人の延べ96血清において,血清CysC値が残腎機能の評価に有効か血清β2ミクログロブリン値(β2 microglobulin,以下β2MG)と比較検討した.血清CysC値と週当たりの腎Kt/Vurea(r=-0.39,p<0.0001),週当たりの腎クレアチニンクリアランス(creatinine clearance,以下CCr)(r=-0.38,p<0.0001),GFR(r=-0.38,p<0.0001),24時間尿量(r=-0.19,p=0.024)と,ともに有意な負の相関関係を認めた.血清β2MG値も週当たりの腎Kt/Vurea(r=-0.69,p<0.0001),週当たりの腎CCr(r=-0.66,p<0.0001),GFR(r=-0.66,p<0.0001),24時間尿量(r=-0.60,p<0.0001)と,ともに有意な負の相関関係を認めた.血清CysC値はPD患者の残腎機能と相関関係がみられ,残腎機能を反映するものと思われる.しかし,血清β2MG値の方が残腎機能とより強い相関があり,PD患者において残腎機能を推測するのには血清β2MG値が優れていると思われた.
  • 森 崇寧, 吉田 和香子, 坂本 麻実, 高橋 大栄, 西垣 啓介, 安藝 昇太, 野村 尚弘, 青柳 誠, 田中 啓之, 田村 禎一
    2011 年 44 巻 9 号 p. 945-950
    発行日: 2011/09/28
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    【目的】化膿性脊椎炎は高齢者やcompromised hostでの発症例が多く,症例数自体も増加の一途にある.近年特に透析患者での報告が散見されるに至っている.透析患者における化膿性脊椎炎の動向を明らかにするため,当院で化膿性脊椎炎と診断された一般患者集団において,透析患者を中心に比較検討した.【方法】2003年10月から2008年10月までの5年間に当院整形外科で化膿性脊椎炎と診断され治療がなされた患者27名[男22名,女5名,平均年齢±標準偏差:66±12歳(最低年齢49歳,最高年齢89歳)]を対象とし,年齢,基礎疾患,発症背景,罹患部位,起因菌,膿瘍合併有無,治療法などに関して後ろ向きに検討した.この集団に含まれた透析患者群と一般患者群について各調査項目を比較検討することで,本疾患における透析患者に特徴的な傾向を把握するとともに,基礎疾患として占める割合の検討も行った.【結果】27例中透析患者は5例(18.5%)であった.5例中3例は穿刺部感染,カテーテル感染,人工血管手術後などの菌血症後に発症しており,残り2例は腰椎手術後の局所感染であった.発症年齢は非透析患者で平均年齢±標準偏差は68±11歳(最低年齢49歳,最高年齢89歳)であったのに対し,透析患者では平均56±7歳(最低年齢49歳,最高年齢68歳)とより若年で発症する傾向にあった(p value:0.020).症例全体のうち起因菌が判明したものは15例あり,MRSAを含めたブドウ球菌群は10例(67%)を占め最多であった.【結論】透析患者の罹患率は高く,より若年で発症する傾向にあることが示された.発熱・腰痛を呈する透析患者の鑑別診断として,疾患の重要性を再認識する結果であった.
症例報告
  • 鈴木 美貴, 杉浦 秀和, 秋山 健一, 唐澤 一徳, 武井 卓, 土谷 健, 秋葉 隆, 新田 孝作
    2011 年 44 巻 9 号 p. 951-956
    発行日: 2011/09/28
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.慢性糸球体腎炎による慢性腎臓病stage5にて1992年5月に血液透析を導入し,週3回の維持血液透析を施行していた.両肩の疼痛,汎血球減少,血清総蛋白の上昇を契機に,精査にて血清IgA高値を認め,2008年6月多発性骨髄腫(IgA-λ型)と診断された.2009年8月より多発性骨髄腫に対してMP療法(メルファラン6mg/日,プレドニゾロン60mg/日,4日間内服)が開始となった.血清IgAは751mg/dLから514mg/dLと減少し,MP療法は効果的で,副作用も認めなかった.MP療法1クール目から5週間後にMP療法2クール目を施行,さらにサリドマイド100mg/日の導入となった.サリドマイド導入1週間後より右下腿の浮腫が出現し,血液透析中に血圧低下を認めるようになった.2009年10月,浮腫精査・血圧低下精査目的に維持血液透析クリニックより当院当科紹介入院となった.入院時,呼吸困難と著明な右下腿浮腫と把握痛を認め,血液検査にてFDP 44.3μg/dL,Dダイマー22.75μg/mLと異常高値を認めた.胸部造影CT,肺動脈造影にて,左肺動脈主幹部に塞栓と考えられる造影欠損部位を認め,深部下腿静脈血栓症,肺塞栓症と診断した.へパリン持続投与を開始し,下大静脈フィルター留置術を施行した.加療により深部下腿静脈血栓症,肺塞栓症は改善を認めた.サリドマイドは多発性骨髄腫に対する有効性とともに,肺塞栓症の副作用も報告されている.サリドマイドは通常使用量は100~400mg/日であり,本症例では100mg/日と比較的低用量投与であったが,肺塞栓症を発症した.血液透析患者において,多発性骨髄腫に対して低用量でもサリドマイドの使用は,肺塞栓症の引き金になる可能性を示唆した症例であり,今後の血液透析患者におけるサリドマイド使用に関して重要な症例と考えられたため報告した.
  • 片岡 和義, 神戸 茂樹, 青沼 里奈, 石下 晃子, 棚瀬 みやび, 棚瀬 健仁, 岩嵜 友視, 田村 博之
    2011 年 44 巻 9 号 p. 957-962
    発行日: 2011/09/28
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,女性.SLEによるループス腎炎のため慢性腎不全に至り,2001年5月に腹膜透析を導入.2008年12月,急性大動脈解離を発症し上行大動脈置換術を施行.術後ワーファリンによる抗凝固療法を行っていた.2010年8月,CAPD腹膜炎にて入院した際,特に誘因はなく左腸腰筋出血を発症した.輸血,安静による保存的治療で止血し得た.また,頸部に血管雑音を聴取したため頸動脈エコー検査を施行.両側総頸動脈に広範な解離所見を認めた.このような多彩な血管病変を呈した背景としてSLEによる自己免疫異常,血管炎,ステロイド治療による動脈硬化への影響,腹膜透析によるリン,カルシウム代謝異常などさまざまな要因が関与していることが考えられる.SLEの治療法の向上に伴い長期予後は大きく改善している.その一方で今後,動脈硬化をはじめとした血管病変の発生頻度が高くなることが予想され,さらなる症例の集積,合併症予防についての検討が必要である.
  • 末光 浩太郎, 末光 聡子, 田中 裕基, 津久田 真広, 大植 麻衣, 中村 隆, 名波 正義, 中西 健
    2011 年 44 巻 9 号 p. 963-968
    発行日: 2011/09/28
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    78歳,女性.慢性腎不全(原因不明)にて通院加療されていたが,徐々に腎機能が増悪し,2009年4月全身倦怠感,食欲低下などの尿毒症症状のため,緊急入院し,血液透析導入となった.ヘパリン使用下に血液透析導入後11日目,透析回路内凝固,短期型バスキュラーカテーテル閉塞が出現し,その後採血にて著明な血小板低下,HIT抗体陽性を認めたため,HIT type IIと診断した.ヘパリン中止後17日目,アルガトロバン投与下に尺側皮静脈転位による左上腕自己血管内シャントを作製した.ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia:HIT)は,ヘパリンにより血小板減少が起こるとともに,血栓塞栓症を併発する疾患である.ヘパリンを使用する血液透析では特に注意を要するが,HIT症例におけるバスキュラーアクセスに関して統一された見解はない.一旦産生されたHIT抗体が陰性化するまで平均50~85日程度必要であることや,1か月以内は血栓塞栓症が高率に合併することが指摘されており,可能であればHIT抗体の陰性化を待つべきである.しかし,本症例のようにHIT発症早期にバスキュラーアクセスを作製せざるを得ない場合も存在する.1996年Warkentinらは,ヘパリン中止後30日間で52.8%が血栓症を発症し,そのほとんどが10日目までに発症すると報告しており,ヘパリン中止後10日目以降に作製するほうがバスキュラーアクセス閉塞の可能性が低いと考える.
  • 杉崎 健太郎, 中林 巌, 小島 糾, 冨安 朋宏, 明石 真和, 伊保谷 憲子, 吉田 雅治
    2011 年 44 巻 9 号 p. 969-975
    発行日: 2011/09/28
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は重度の視神経炎と脊髄炎を特徴とする炎症性脱髄性疾患である.抗アクアポリン4(AQP4)抗体は2004年にLennonらによって報告され,NMOの診断に有用な抗体として知られている.今回経験した2例はともに抗AQP4抗体陽性であり,NMOに特徴的とされている3椎体以上の病変を伴うが,視神経炎の所見は乏しく,NMO関連疾患であった.急性期にはステロイドパルス療法が有効とされているが,無効な場合は血漿交換療法が有効であるとの報告もあり,今回経験した2例ともステロイドパルス療法に抵抗性であったため,血漿交換療法を行った.血漿交換療法としては,単純血漿交換(PE)に比べて血漿補充を必要としない免疫吸着療法(IAPP)を選択した.IAPP開始後より,2例とも速やかに症状の改善を認め,ステロイドを含めた免疫抑制剤の減量が可能であった.IAPPはステロイド治療抵抗性のNMOに有効な治療法の一つであると考えられた.
委員会報告
Letter to the Editor
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