日本透析医学会雑誌
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46 巻, 6 号
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総説
  • 永野 伸郎, 安藤 哲郎, 筒井 貴朗, 溜井 紀子, 伊藤 恭子, 下村 洋之助, 小川 哲也, 安藤 義孝
    2013 年 46 巻 6 号 p. 519-533
    発行日: 2013/06/28
    公開日: 2013/07/09
    ジャーナル フリー
    二次性副甲状腺機能亢進症(2HPT)の発症機序は,“腎機能が低下すると副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が亢進し,尿中リン(P)排泄が増加することで高P血症の発症が回避されるものの,代謝性骨疾患の対価を支払う”とするtrade-off仮説で説明される.慢性腎不全ラットへのP吸着剤投与は,副甲状腺機能を低下させるとともに,骨の劣化も改善するため,改めてPの蓄積が2HPTの発症と病態の根幹をなすことが理解できる.また,透析患者へのシナカルセト塩酸塩(シナカルセト)投与により,PTH低下に付随して骨からのP動員が低下するため,血中Pは低下する.一方,保存期慢性腎臓病患者へのシナカルセト投与は,PTHの尿中P排泄促進作用を解除するため,血中Pを上昇させるとともに,著明な低カルシウム(Ca)血症をもたらす.すなわち,PTHは血中P上昇およびCa低下に抑制的に働いていることが確認できる.さらには,腎不全ラットへのfibroblast growth factor-23(FGF23)に対する中和抗体投与により,血中P,Ca,1,25(OH)2 vitamin D3[1,25(OH)2D3]の上昇ならびにPTH低下が認められる.すなわち,FGF23はPTHとともに尿中P排泄を促進させることで,腎不全末期まで血中Pを正常域に維持すると同時に,1,25(OH)2D3産生低下を介して,PTH分泌に対し促進的に作用していると考えられる.一方,腎不全ラットへFGF23中和抗体を長期投与した場合,骨組織改善が認められるものの,血管石灰化が促進し死亡数が増加する.したがって,腎機能低下時に上昇するFGF23は,代謝性骨疾患の対価を支払い,血管石灰化を抑制しているものと考えられる.これらに加えて,副甲状腺におけるCa受容体,1,25(OH)2D3受容体,FGF23受容体の発現低下や腎でのα-klotho発現低下も2HPTの発症・進展に寄与していると推定される.
原著
  • 脇川 健, 西平 綾子, 藤田 淳也, 仙頭 和可子, 松井 信子, 島谷 浩幸
    2013 年 46 巻 6 号 p. 535-543
    発行日: 2013/06/28
    公開日: 2013/07/09
    ジャーナル フリー
    血液透析患者103名を対象に口腔内衛生状況の調査を行い,非透析患者103名との比較を行った.透析患者の残歯数は15.2±10.1本であり,う蝕38名(36.9%),歯周病87名(84.5%)であった.義歯使用者は54名(52.4%)で,19名(35.2%)が義歯不適合であった.99名(96.1%)の透析患者が口腔ケア,治療が必要と診断された.非透析患者の残歯数は21.2±7.6本で,義歯使用者は37名(35.9%)であり,透析患者のほうが残歯数は有意に少なく,義歯使用者が多かった(p<0.05).歯周病は透析患者,非透析患者ともに高率に合併していた.糖尿病合併者では透析患者に歯周病が多く,4 mm以上の歯周ポケットを有する透析患者が多かった.残歯20本以上有する透析患者は40名(38.8%)であり,非透析患者の71名(68.9%)と比較して有意に少なかった(p<0.05).透析患者では非透析患者と比較して55歳以上で残歯数は少なく,残歯20本以上の患者割合も55~79歳では少なかった.残歯数9本以下,10~19本,20本以上の3群に分けると,残歯10本以上でう蝕,歯周病の罹患率は有意に高率であった(p<0.05).残歯9本以下でAlb 3.4±0.5 g/dLを示し,ほかの2群と比較して有意に低値を示した(p<0.05).GNRI(Geriatric Nutritional Risk Index)も残歯9本以下で84.5±14.3と基準値91を下回り有意に低値を示した(p<0.05).残歯が10本以上あれば栄養状態と関連する臨床検査値の目標値達成率は高くなるが,う蝕,歯周病の罹患率も増大するため,歯を失わないために口腔ケアが重要であると考えられた.
  • 星野 慈恵, 木全 直樹, 石森 勇, 木崎 尚子, 鈴木 宏美, 塚田 三佐緒, 三和 奈穂子, 岡野 一祥, 坂井 瑠実, 松田 義雄, ...
    2013 年 46 巻 6 号 p. 545-549
    発行日: 2013/06/28
    公開日: 2013/07/09
    ジャーナル フリー
    [目的]透析妊婦は切迫流産に対する塩酸リトドリンの使用頻度が高いが透析除去率の報告はない.塩酸リトドリンを投与した透析妊婦で塩酸リトドリンクリアランス(CL),除去率,ダイアライザCLを計算した.[症例]36歳女性,透析歴5年.妊娠20週4日から切迫兆候を認め塩酸リトドリン投与.血液透析(HD)直後に症状悪化し,透析時に約25%増量投与し血液濾過透析(HDF)に変更,27週6日で経腟分娩に至った.[方法]HD(APS-15MD,QB 180 mL/min,QD 500 mL/min),HDF(サブラッドBD8L® (前希釈),APS-15MD,QB 180 mL/min,QD 450~500 mL/min,QF 33 mL/min)のダイアライザ前後,HDFで透析前,2時間目,終了4時間目に採血施行.塩酸リトドリンを非透析時126 μg/min,透析時160 μg/minで投与し患者側血中濃度,ダイアライザ出口側濃度,ヘマトクリット,血液流量および濾液流量を用いて,血漿基準CLを算出した.[結果]HDF時の塩酸リトドリン血中濃度は透析前62.03 ng/mL,2時間目69.08 ng/mL,終了後68.48 ng/mLでありダイアライザ前後ではHD時前68.52 ng/mL,後40.35 ng/mL,血漿CL 52.3 mL/minであった.HDF時はダイアライザ前75.82 ng/mL,後で37.10 ng/mLであり血漿CL 81.3 mL/minであった.[考察]HD,HDFいずれも塩酸リトドリン透析性は過去の報告から想定される透析性と比較して低かった.しかし塩酸リトドリン増量投与により妊娠期間が継続したことから,薬剤の透析性とは別に透析療法そのものが子宮収縮抑制剤の需要量を増すと考えられ,透析妊婦に塩酸リトドリンを投与する際は透析による切迫兆候悪化予防に増量投与する必要があると考えられた.
  • 樋口 輝美, 石川 由美子, 堀田 直, 榎本 伸一, 高崎 智也, 新倉 崇之, 山道 慎也, 瀬戸口 晴美, 中島 詩織, 柳澤 順子, ...
    2013 年 46 巻 6 号 p. 551-559
    発行日: 2013/06/28
    公開日: 2013/07/09
    ジャーナル フリー
     目的:透析患者は動脈硬化関連合併症の状態にさらされている.動脈硬化症の指標であるbrachial-ankle pulse wave velocity(baPWV)は簡易に測定することが可能なdeviceであり,透析患者のbaPWVを測定し,種々のパラメーターとの関連について検討した.対象・方法:安定した維持血液透析中の患者138名のうち,ABIが0.9以上1.3以下の正常患者98名.baPWVはform PWV/ABI(日本オムロンコーリン社)にて測定した.血液サンプルは週始めの透析前後に行い,DNAの酸化ストレスのマーカーの8-OHdG,炎症性サイトカインのIL-6,動脈硬化関係のfetuin-AはELISAにて測定した.栄養関連ではGNRIを算出し,ESAの過去1か月の使用状況でERIを検討した.結果:baPWVの性差,原疾患が糖尿病群と非糖尿病群との検討では,有意な差は認めなかった.年齢と有意な正の相関を認め,透析歴とも有意な正の相関を認めた.栄養関係の血清アルブミンとは有意な負の相関を認め,GNRIとも有意な負の相関を認めた.また体重とは有意な負の相関を認め,BMIとも有意な負の相関を認めた.炎症のマーカーであるIL-6とは有意な正の相関を認めたが,fetuin-Aや8-OHdGとは有意な相関は認めなかった.血清Crとは有意な負の相関を認め,補正カルシウムとは有意な正の相関を認め,TIBCとも有意な負の相関を認め,β2-MGとは有意な正の相関関係を認め,ERIとも有意な正の相関を認めた.多変量解析では,血清Crとβ2-MGと有意な相関を認めた.結論:baPWVは動脈硬化症に関連する炎症,栄養状態および年齢,透析歴,中分子量物質,TIBC,補正カルシウム,ERIなどにも関与し,特に血清Crとβ2-MGがその規定因子になることが示唆された.
症例報告
  • 伊藤 千春, 小倉 学, 森下 義幸, 武島 えり, 三木 敦史, 高橋 秀明, 秋元 哲, 草野 英二
    2013 年 46 巻 6 号 p. 561-569
    発行日: 2013/06/28
    公開日: 2013/07/09
    ジャーナル フリー
     維持血液透析症例では,再発性および両側性の慢性硬膜下血腫の発症頻度が多いことが報告されている.われわれは計4回の慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫除去術が施行され,その経過中に低フィブリノゲン(Fbg)血症と診断した症例を報告する.症例は50歳男性で,左大腿骨頸部骨折時に軽度のPT-INR延長を認めたが,経過観察とされていた.幼少期を含め,大出血イベントはなかったが,2012年1月に明らかな外傷の契機のない,両側硬膜下血腫を発症し,穿頭血腫除去術が施行された.術前の検査でAPTTは正常で,PT-INRの軽度の延長を認めた.同月に両側硬膜下血腫の再発があり,再穿頭血腫除去術が施行された.同年2月にも左硬膜下血腫の再発があり,術前の血漿Fbg値はClauss法で測定不能であったが,抗原定量法では106 mg/dLと低値を示した.正常血漿混合試験では因子欠損型を示した.抗Fbg抗体は検出されず,血栓塞栓症の既往がないことから,血腫悪化予防のため,Fbg製剤を投与したところ,in vivo recoveryは抗原定量法で69%であり,Fbg阻害因子の存在は否定的であった.低Fbg血症の原因として,薬剤性など後天的要素は否定的であった.本症例での血腫形成と凝固異常の因果関係については不明な点が多いが,凝固異常スクリーニングとして血漿Fbg値にも注意を払う必要があると考えられた.
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