日本透析医学会雑誌
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47 巻, 6 号
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原著
  • 水口 隆, 平石 好江, 三宅 直美, 岡田 和美, 川島 周
    2014 年 47 巻 6 号 p. 343-349
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     CERA治療中の血液透析患者において, 静注用鉄剤の投与法の違いによる赤血球造血, 鉄代謝, 酸化ストレスへの影響を検討した. 対象は4週に一回CERA投与中でsFtn値100ng/mL未満の血液透析患者20例. 静注用鉄剤 (フェジン®静注40mg) 1 AをCERA投与同日から週1回で連続8回投与 (連続群), CERA投与日から週1回で2回投与, その後2週休薬を繰り返しで計8回投与 (非連続群) の2群に分け, 鉄剤投与前後のHb値, Ret, sFe, TSAT, Hep-25, CHr, sFtn, sTfR, 8-OHdGを経時的に測定した. Retは両群ともCERA投与1週後をピークとして増加した. sFe値, TSAT値, Hep-25値, CHr値は両群とも1~2週後に低下し, 3~4週後に上昇するパターンを繰り返したが両群間に有意差はなかった. sFtn値は鉄剤投与後に連続群が鉄剤投与前に比して有意に上昇したが, 非連続群は上昇しなかった. また, 連続群が3~9週で有意に高値であった. 8-OHdG値は連続群が鉄剤投与前から有意に高値であったが正常範囲内で, 経過中も有意の変化を示さず, 両群間に有意差もなかった. CERA投与後に赤血球造血が亢進する時期があり, 静注用鉄剤を投与しているにもかかわらず鉄欠乏となる恐れがある. 今回の連続投与, 非連続投与ともこの鉄欠乏を予防することはできず, また非連続投与は貯蔵鉄を補うためには投与量が少ないと考えられた. CERAの薬剤特性にあった静注用鉄剤の投与法の開発が必要である.
  • —当院における過去6年間の臨床的検討—
    宮澤 晴久, 大河原 晋, 伊藤 聖学, 植田 裕一郎, 賀来 佳男, 平井 啓之, 星野 太郎, 名畑 あおい, 森 穂波, 吉田 泉, ...
    2014 年 47 巻 6 号 p. 351-357
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
    【目的】当院で緊急消化管内視鏡検査を要した症例をretrospectiveに集計し臨床的背景を明らかにすること. 【対象と方法】対象は2005年1月から2010年12月までの6年間に消化管出血もしくはその疑いのために当院で緊急消化管内視鏡検査を施行した維持血液透析 (HD) 症例44例. 各症例で緊急消化管内視鏡検査施行前後の臨床経過について解析を行った. 【結果】緊急内視鏡検査は重複例を含めて, 上部消化管内視鏡41例, 下部消化管内視鏡17例, 小腸内視鏡6例, カプセル内視鏡4例であった. 初発症状として黒色便が26例, 吐血が13例, 血便が4例, その他が1例であった. 内視鏡所見より原因疾患として, 胃潰瘍が13例と最も多く, 次いでangiodysplasiaが11例, 消化管原発悪性腫瘍が5例 (胃癌4例, 大腸癌1例) であった. しかしながら3例では原因疾患を特定することができなかった. 対象症例の入院時ヘモグロビン (Hb) 濃度の中央値である7.0g/dLをもとに2群 (Hb<7.0g/dL, Hb≧7.0g/dL) に分け, 臨床的背景の差異についての検討も施行した. その結果, Hb<7.0g/dLの群で, 輸血量およびプロトンポンプ阻害薬/ヒスタミンH2受容体拮抗薬の使用頻度が有意に高く, 入院期間も有意に長い結果であった. 両群間における原因疾患の比較でも有意な相違を認め, Hb<7.0g/dLの群ではangiodysplasiaが, Hb≧7.0g/dLの群では消化管原発悪性腫瘍が多かった. 【結語】緊急消化管内視鏡検査を施行した維持HD症例では, 消化管出血の原因として潰瘍性疾患とともにangiodysplasiaおよび消化管原発悪性腫瘍の頻度が高かった.
  • 藤尾 耕三, 眞井 佳子, 石井 真澄, 桃谷 直美, 藤井 正司, 椎木 和子, 高須 伸治
    2014 年 47 巻 6 号 p. 359-365
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     血液透析患者では, 栄養障害が予後を悪化させるため, 栄養状態を評価して積極的に治療介入することが勧められている. Mini nutritional assessment short form (MNA-SF) による栄養障害スクリーニングの有用性を検討するために, 65歳以上の維持血液透析患者82人をMNA-SF, malnutrition-inflammation score (MIS), geriatric nutritional risk index (GNRI) で評価し, 2年後までの全死亡を前向きに調査した. MNA-SFのスコアはMISやGNRIと有意に相関し (ρ=−0.660, p<0.001, ρ=0.482, p<0.001), MNA-SF, MIS, GNRIにより, それぞれ55%, 59%, 35%が栄養リスク群に抽出された. 2年間で14人が死亡し, 栄養リスク群の相対危険度はそれぞれ10.7, 2.6, 4.6であり, MNA-SFとGNRIの栄養リスク群が有意 (p=0.002, p=0.004) に死亡と関連した. Receiver operating characteristic解析では, MNA-SFのスコア, MIS, GNRIのいずれも有意に死亡と関連したが, MNA-SFのarea under the curveが最大 (0.829, 95% confidence interval 0.723-0.935) であった. ロジスティック解析で, MNA-SFは食事量 (p=0.048) と神経・精神的問題 (p=0.005) が, MISは食事量 (p=0.033) と身体機能 (p=0.035) が有意に死亡と関連した. 高齢者向けに開発され, ベッドサイドで実施できるMNA-SFは, 高齢血液透析患者において, 予後と関連した栄養障害スクリーニング法であると考えられた.
  • 深水 圭, 酒井 和子, 甲斐田 裕介, 大塚 紹, 和田 芳文, 杉 健三, 奥田 誠也
    2014 年 47 巻 6 号 p. 367-374
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     血液透析 (HD) 患者におけるカルニチン欠乏は, 貧血や低栄養を惹起しQOLを低下させる. 最近わが国において透析患者に対するL-カルニチン経口・静注治療が可能となり, その効果が期待されている. 今回, HD患者に対する6か月間のL-カルニチン900mg経口投与が貧血や栄養状態にいかに影響するかについて, さらに500mg, 1,000mg静注への切り替えによりカルニチン濃度がどのように推移するかについて観察した. 総カルニチン50μmol/L未満の102人のHD患者を単純無作為化によりコントロール群, L-カルニチン群に分け, 6か月後の時点で観察し得た患者を比較検討した. カルニチン投与群 (n=23) では, コントロール群 (n=24) と比較しすべてのカルニチン濃度は有意に上昇し (p<0.001), アシルカルニチン/遊離カルニチン (A/F) 比は低下した (p=0.006). コントロール群と比較しL-カルニチン群ではHt (p=0.02), 総コレステロール (p=0.002), 中性脂肪 (p=0.022) が上昇し, AST (p=0.008), ALT (p=0.013) は低下した. 経口900mgから静注1,000mg (n=8) への切り替えはHD前後, 静注10分後においてすべてのカルニチン濃度を上昇させたが, 500mg (n=6) への切り替えは経口投与と同等であった. 500mgと比較すると1,000mgへの切り替えはHD前後ともに遊離カルニチンを上昇させたが有意差は認めなかった. カルニチン欠乏HD患者に対するL-カルニチン900mg経口投与は貧血や栄養状態, 肝機能を改善しうる可能性を見出した. カルニチン濃度, 患者アドヒアランス, 医療経済効果, トリメチルアミン-Nオキシド産生等を考慮すると静注が推奨されるが, 今後はどちらの投与方法が透析患者に有用であるかを検証するための比較試験が必要である.
透析技術
  • 島本 佳昌, 宮田 賢宏, 松下 誠吾, 粕本 博臣, 山本 貴敏, 鎌田 亜紀, 海本 浩一
    2014 年 47 巻 6 号 p. 375-379
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     ポリスルホン (PS) 膜ダイアライザから親水化剤ポリビニルピロリドン (PVP) が溶出することは, 透析療法における問題の一つである. 透析治療を施行するうえでは膜溶出PVPの迅速測定が望ましい. 本研究では, PVPの紫外線スペクトルを用いた簡易的かつ迅速測定法 (UV-s法) を確立すべく, 従来のヨウ素呈色法であるMüller法 (M法) と比較検討した. その結果, PVP溶解液に対して, PVP濃度10mg/L以下ではM法とUV-s法はr=0.970と有意な相関関係があり (p<0.001), 10~100mg/LのPVP濃度でもr=0.993と有意な相関が認められた (p<0.001). また, PS膜ダイアライザPS-1.6UW (n=5) を用いて, 生理食塩液1.0Lによる洗浄開始0.5Lおよび1.0L時点におけるPVP溶出量の比較では, 0.5L洗浄時はM法 : 2.8±2.9mg/L, UV-s法 : 3.6±2.1mg/L, 1.0L洗浄時はM法 : 2.0±2.1mg/L, UV-s法 : 3.1±0.9mg/Lと両測定法の間に差を認めず, UV-s法を用いたPVP測定は可能であった. 以上より, PS膜から溶出するPVPをUV-s法を用いることでM法よりも迅速的に測定できることが示唆された.
症例報告
  • 松橋 秀典, 若佐 友俊, 田北 貴子, 古橋 三義
    2014 年 47 巻 6 号 p. 381-385
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     漏血警報は透析膜の破損により, 血液と透析液が透析膜の壁を隔てずに直接接触することを意味する重大な警報である. 近年, 透析液清浄化の技術が広く普及し, 透析液の水質は多くの施設で清浄化レベルが確保されてきているが, 透析液の水質の確保されていない透析施設での漏血事故は, 血液へのエンドトキシンや細菌混入などをひき起こす危険な事故である. 今回われわれは目視にて透析液ダイアライザー出口側より赤褐色様濾液が確認できる漏血警報発生時に, ダイアライザーを交換しても警報を回避できず, 偽漏血が疑われた1例を経験したので報告する. 症例は77歳女性, 心不全に伴う腎機能悪化にて維持透析を実行. 透析治療はHD3時間とECUM1時間の4時間治療を行っていた. 除水の多かった治療日に, HDからECUMに変更後, 漏血警報が発生. ダイアライザーを同器種に交換し治療を再開したが, 再度漏血警報が発生した. さらにダイアライザーを他種膜に変更したが, 再び漏血警報が発生し, 漏血警報が回避できなかった. 漏血警報発生の原因として, 使用していたダイアライザーに膜破断などの異常は認められなかった. 当日の装置漏血検知器の状態にも問題はなく, 誤警報である可能性はなかった. 血中ハプトグロビンの値が10mg/dL未満であり, 溶血が起こっていると考えられたが, 透析由来の溶血は否定的であり, 心臓の人工弁による機械的溶血が原因となる偽漏血であると考えられた. 心臓の弁置換の行われている透析患者で漏血警報が発生した場合には, 溶血による偽漏血の可能性も考慮する必要があると考えられた.
  • 松村 実美子, 今井 恵理, 多田 真奈美, 加藤 麻美, 濱野 直人, 佐々木 絵美, 勝木 俊, 勝馬 愛, 柴田 真希, 日ノ下 文彦
    2014 年 47 巻 6 号 p. 387-393
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     症例は73歳女性. 69歳のとき腎硬化症による慢性腎不全のため, 腹膜透析を導入した. 73歳のときランソプラゾールの内服を開始し, 3か月後, 3回目の腹膜炎で入院となった. セファゾリンとセフタジジムを経静脈, その後腹腔内投与に切り替え計2週間投与し, 軽快退院した. 入院中に軟便であったが便Clostridium difficile抗原は陰性であった. 退院後から水様~泥状便が持続し, 外来にて便Clostridium difficile抗原陽性となり, 偽膜性腸炎の診断でメトロニダゾールを14日間内服した. その後も下痢は持続し, 食思不振, 炎症反応高値を認めたため, 精査加療目的に当科入院となった. 絶食・中心静脈栄養を開始した. 大腸内視鏡検査を施行し, 肉眼で上行結腸に炎症瘢痕を認めた以外は異常所見を認めなかったが, 直腸, 盲腸, および結腸の粘膜生検で粘膜表層上皮下にリンパ球浸潤を認め, Masson Trichrome染色で特徴的なcollagen bandの形成を認めたため, collagenous colitis (CC) と診断した. CCは慢性水様性下痢の原因として知られ, 本邦での報告数はまだ少ないが, 年々増加傾向にある. 原因は不明だが, 薬剤や自己免疫の関与などが考えられている. 本例では被疑薬であるランソプラゾールを休薬し下痢が消失したことから, その関与が考えられた. 透析患者は消化管出血のリスクが高いためプロトンポンプインヒビター (proton pump inhibitor : PPI) を内服していることが多いが, 文献上, 国内外において腹膜透析患者におけるCCの報告はなく, 慢性下痢の鑑別疾患の一つとして念頭におくことが重要であると考え, 報告した.
  • 生方 政光, 雨宮 伸幸, 新田 孝作, 武井 卓
    2014 年 47 巻 6 号 p. 395-399
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/28
    ジャーナル フリー
     症例は49歳, 男性. 巣状糸球体硬化症による慢性腎不全のため維持透析施行中であったが, 発熱, 感冒症状, 炎症反応上昇があり, 感冒薬, 抗菌薬にて経過をみていた. 1週間後に, 頸部腫脹がみられたため甲状腺ホルモンを測定したところTSH (0.021μU/mL) と低値で, free T3 (5.3pg/mL), free T4 (1.62ng/mL) は高値であったが, 甲状腺自己抗体は陰性であった. 甲状腺エコーでは, 軽度の腫脹と低エコー域がみられ, 亜急性甲状腺炎と診断しprednisolone (20mg/日) を投与開始した. 1週間後には症状は軽快し甲状腺ホルモン, 炎症反応ともに正常化した. prednisoloneを漸減, 1か月後中止, 外来加療のみにて軽快した. 透析患者の甲状腺機能亢進症の報告はまれであり, そのほとんどはGraves病である. 今回, われわれは透析歴13年の維持透析患者に亜急性甲状腺炎を発症した症例を経験したので報告する.
平成25年度コメディカル研究助成報告
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