日本透析医学会雑誌
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49 巻, 9 号
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総説
  • 竹口 文博, 中野 広文, 菅野 義彦
    2016 年 49 巻 9 号 p. 561-569
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    透析医にとって, 透析の見合わせが刑法上許容されるのかは重要な関心事である. 透析の見合わせは, 不作為といえるところ, 医師は患者との診療契約に基づく刑法上の作為義務を負っていることから, 不作為犯に問われる可能性がある. このため, 刑法的許容性の問題は, 生じた作為義務が解除される要件は何かという形で問題となる. 透析見合わせの正当化根拠は, 患者の自己決定権に基づく透析拒否権に求められる. したがって, 患者の透析拒否の意思表示を要件として作為義務が解除され, 透析の見合わせは刑法の規定する「人を殺した」行為に当たらず許容される. 患者本人に意思決定能力がない場合には, もし患者に意思決定能力があれば透析を受け入れないであろう, と他者が代行判断することが許容されるかが問題となるが, 意思決定能力がない患者でも, 患者の現在の推定的意思に基づく透析拒否権を尊重すべきであり, 慎重にされた場合には代行判断を許容すべきである.

原著
  • 永野 伸郎, 伊藤 恭子, 本多 雅代, 須永 悟, 田ヶ原 綾香, 野原 ともい, 野原 惇, 星 綾子, 溜井 紀子, 安藤 哲郎, 筒 ...
    2016 年 49 巻 9 号 p. 571-580
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    【目的】透析患者に処方される経口薬剤錠数に占めるリン吸着薬の割合を把握し, 錠剤に含まれるマグネシウム (Mg) の影響を検討する. 【方法】血液透析患者520名に処方中の経口薬剤を薬効別に分類後, 総処方錠数に占める割合を算出した. また, 血清Mg値をリン吸着薬の処方有無別, 錠数別に解析するとともに, リン吸着薬のMg含量をICP-MSにより実測した. 【結果】1日に17.8錠/人の経口薬剤が処方されており, このうちリン吸着薬の割合は35% (6.2錠) であった. リン吸着薬処方患者の血清Mg値は非処方患者よりも高値であった. 処方錠数が最多である沈降炭酸カルシウム錠500mg「三和」の単剤処方患者169名において, 血清Mg値は処方錠数と正相関し, 処方錠数五分位は独立した有意な説明変数であった. また, 本剤のMg含量は1.8mg/gであり, 他剤よりも高値であった. 【結語】リン吸着薬は服用錠数が多いため, 一部の製剤に含まれるMgが血清Mg値に影響する可能性が示された.

  • 鈴木 美帆, 酒井 友哉, 笹原 成人, 後藤 和也, 土屋 麻衣子, 中嶌 美佳, 清野 由美子, 政金 生人
    2016 年 49 巻 9 号 p. 581-587
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    サルコペニアを有する血液透析患者の栄養状態の特徴と食事摂取状況について調査したので報告する. 血液透析患者90人を対象にサルコペニアのスクリーニング, 栄養スクリーニング, 食物摂取頻度調査を実施し, サルコペニアのリスク解析を行った. 対象者のうち22%がサルコペニアに該当し, サルコペニア患者の10~50%に栄養障害のリスクが認められた. 年齢とたんぱく質摂取量不足がサルコペニアの有意なリスク因子であった. サルコペニア群は非サルコペニア群より豆類, 魚介類・肉類, 菓子類・嗜好飲料・砂糖類の摂取量が有意に低かった. サルコペニアの予防には, 十分なたんぱく質摂取が必要であるが, 低栄養に関連するサルコペニアは10~50%であり, 半数以上が低栄養に関係なく筋肉量と筋力が低下していた. 現在透析患者に用いられている栄養評価には, 筋力や身体機能を含めた評価はほとんどない. 今後は運動習慣を含めた調査が必要である.

短報
  • 杉崎 健太郎, 小杉 繁, 小俣 百世, 岩本 八千代, 杉崎 弘章
    2016 年 49 巻 9 号 p. 589-592
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    透析支援現場は血液が飛散し曝露されやすい環境であるにもかかわらず, 肉眼的に自覚しにくい微細な血液飛散に対しては無防備になりやすく, 感染に晒されていることを理解しにくい環境である. われわれはルミテスターPD-30 (キッコーマン社, 日本) を用いて, 血液に含まれるATP+AMP値を発光量 (relative light unit : RLU) で測定することによって定量的に血液飛散の程度を調べた. 対象は穿刺時に用いた手袋・ゴーグルとした. 肉眼的に血液の飛散を認める場合は除外した. 穿刺直前後右手袋 : 64.3±48.2 (RLU) →493.8±304.4 (RLU), 左手袋83.3±55.8 (RLU) →407.1±251.5 (RLU) と左右ともに有意な上昇 (p<0.01, p<0.05) を認め, 穿刺前後ゴーグル : 59.5±37.8 (RLU) →134.2±94.0 (RLU) と有意に上昇 (p<0.01) を認めた. 透析支援場面の穿刺前後において, 手と眼への血液飛散に曝露されていることが定量的に示唆された.

症例報告
  • 河野 郁枝, 清水 英樹, 要 伸也, 軽部 美穂, 高昌 京, 齋藤 督芸, 中島 瑛里子, 片岡 郁穂, 前園 知宏, 塚田 弘之, 内 ...
    2016 年 49 巻 9 号 p. 593-597
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は67歳女性. 慢性糸球体腎炎による慢性腎不全に対し7年前から維持透析を施行中であった. 4年前に両側の手指・手関節, 肩関節および両膝の腫脹と疼痛が出現し, 画像所見・検査所見より他院で関節リウマチと診断されていた. プレドニゾロン12.5mgに加え, 疾患修飾性抗リウマチ薬としてサラゾスルファピリジンとレフルノミド, さらに生物学的製剤のエタネルセプトが投与されたが効果は不十分であった. 3年前に当院を紹介されアバタセプトを開始したところ, その後は徐々に関節症状と検査所見は改善し機能面も改善した. 維持透析患者の関節リウマチに対する生物学的製剤の報告例は少ないが, アバタセプトは有力な治療の選択肢になると考えられ報告する.

  • 笹本 洋子, 松村 正, 小林 由佳, 内古閑 修, 長澤 利彦, 十川 裕史, 佐々木 環
    2016 年 49 巻 9 号 p. 599-604
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    7X歳女性, 血液透析 (HD) 歴1年. 透析当日, 来院時から全身倦怠感と発熱 (37.5°C) を認め入院となった. 血液培養検査でG群β溶血性レンサ球菌を検出した. 一時40°C近い発熱と敗血症様の症状を呈し全身状態が悪化したが, 抗菌薬の点滴により全身症状は速やかに改善した. しかし同時に両眼の視力低下を認め, 敗血症による両眼の内因性細菌性眼内炎と診断された. 内因性細菌性眼内炎は, 視力予後不良な疾患として知られているが, 幸いにも速やかな診断の上で抗菌薬の全身投与と抗菌薬の頻回点眼により最終的には視力回復を得た. 今回, われわれは早期の診断と適切な抗菌薬の全身投与によりG群β溶血性レンサ球菌 (GGS) の敗血症から発症した内因性眼内炎から視力回復した症例を経験した.

  • 山本 信, 櫻田 勉, 上原 圭太, 柴垣 有吾
    2016 年 49 巻 9 号 p. 605-609
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は56歳, 男性. 4年前に慢性糸球体腎炎による末期腎不全にて腹膜透析を開始. 6か月前から網膜動脈分枝閉塞症に対し抗血小板薬を投与されていた. バスに乗車中に突然の嘔気・嘔吐および左季肋部痛を自覚し, バッグ交換時に血性排液を認めたため当院受診. 腹部単純CTで脾周囲に血腫を認めたため脾破裂による血性排液と診断した. 外傷の既往はなく, 感染性疾患や悪性腫瘍などの基礎疾患もないため, 正常脾の自然破裂と考えられた. 同日より入院管理とし, 抗血小板薬を中止のみで保存的に経過観察したところ, 血性排液は徐々に改善し, 単純CTでの血腫の消退傾向が確認されたため退院した. 一方で, 非外傷性脾破裂は出血性ショックに至ることがあり, 脾臓摘出術を要することもある. 腹膜透析患者において原因不明の血性排液が持続する際には, 脾破裂に伴う出血の可能性を考慮した画像診断を遅滞なく行うことが肝要である.

  • 三宅 克典, 徳本 直彦, 小林 修三
    2016 年 49 巻 9 号 p. 611-615
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー

    常染色体優性多発囊胞腎 (ADPKD) 患者の囊胞感染は治療に難渋することが多い. 今回われわれは, 遷延する感染性肝囊胞に対して肝囊胞開窓術にて感染を鎮静化後に生体腎移植を行った症例を報告する. 58歳女性. 2012年6月に肝囊胞破裂による腹腔内出血で救急受診. その後囊胞内に感染を伴い経皮経肝穿刺ドレナージを行って軽快退院したが, 約1年の間CRP 2.0~4.0mg/dLを推移していた. 特記すべき症状はなかったが生体腎移植を希望したため, 2013年8月に肝囊胞開窓術を施行した. 囊胞壁は壊死し, 囊胞内から黄白色に混濁した排液が多量に流出したため洗浄とデブリドマンを施行した. 囊胞液の培養結果は陰性であった. 術後経過は良好で, CRP 0.5mg/dL以下と陰転化したことを確認して2014年5月に夫をドナーとしてABO血液型不一致生体腎移植を施行した. 移植後2年を経過して感染症や拒絶反応なく生存生着している.

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