【目的】血液透析患者における,体組成の長期変化を縦断的に検討する.【方法】1995年から15年後の2010年まで追跡できた,血液透析患者84例を対象とした.全身および四肢,体幹部の除脂肪量と脂肪量を測定し,その変化を検討した.【結果】15年の経過において,体重には有意な変化を認めなかった.しかし,除脂肪量は全身,四肢,体幹部ともに,有意な低下が認められた.一方,脂肪量は四肢では有意な変化を認めなかったが,全身,体幹部では有意な増加が認められ,その体幹部/全身の比率が増加していた.体幹部の脂肪量は,内臓脂肪を反映するとされており,皮下脂肪よりも内臓脂肪が増加した可能性が示唆された.【結語】15年間の経過において,サルコペニア肥満の状態が進行していた可能性があるものと考えられた.一方,体重には有意な変化を認めず,体重だけではこのような変化を評価できない可能性が示唆された.
症例は67歳,男性.透析歴5年.3年前に冠動脈バイパス術(CABG)を施行.内シャントの過剰血流で通院中に,胸部違和感を訴え,冠動脈造影を行ったところ,バイパスグラフトの内胸動脈(シャント側)の逆流を認め,高度盗血現象を認めた.内シャントを閉鎖することで,造影上,逆流所見は消失し盗血現象は改善した.今回,シャント側の内胸動脈の盗血現象に,過剰血流の影響が示唆された症例を経験したのでこれを報告する.
症例は76歳男性.喉頭癌と肺腺癌の既往がある.来院時点ですでに無尿を呈する高度腎不全を認め,緊急血液透析を行った.血清学的検索にて抗糸球体基底膜(GBM)抗体強陽性(>350 U/mL)が判明し,抗GBM抗体腎炎と診断した.ステロイドパルス療法と血漿交換を行ったが,抗体価は検出範囲上限を超えた状態が持続し,維持透析に移行した.ステロイドは漸減し,ニューモシスチス肺炎(PCP)予防としてペンタミジン吸入を行った.退院後,発熱と血痰,血清β‒D‒グルカン上昇を認め,気管支鏡検査にてPCPおよびびまん性肺胞出血と診断した.ST合剤とステロイド投与により肺炎と肺胞出血は改善し,血漿交換を追加したところ抗体価は低下した.本例は高抗体価の抗GBM抗体腎炎患者が,PCPを契機に肺胞出血を生じた経過であり,抗GBM抗体の陰性化しがたい症例では,免疫抑制療法中の厳密な肺感染症予防が肺胞出血回避に重要と考えられた.
81歳,男性.2年半前から腹膜透析(PD)中.腹痛とPD排液混濁を認めCAPD腹膜炎と診断した.PD排液培養はMALDI‒TOF MSを用いることでCAPD腹膜炎の起炎菌として本邦初となるStreptococcus vestibularisが同定された.
症例:33歳女性.既往:末期腎不全,高血圧,知的障害.現病歴:X-6年,急速進行性腎炎再発による末期腎不全で腹膜透析導入.入院1か月前から発熱と咳嗽あり,肺門リンパ節腫大,喀痰PCRで結核菌陽性のため当院入院となった.抗結核薬(イソニアジド+リファンピシン(RFP)+エタンブトール+ピラジナマイド)を開始したが,次第に血圧上昇し,5日目より200 mmHg以上の重症高血圧となり6日目にけいれん,意識消失をきたしICU管理となった.降圧薬の静注などで意識障害,呼吸状態も改善したが,重症高血圧が持続した.RFPによる降圧薬との相互作用と考えRFPからリファブチン(RBT)に変更後,速やかに血圧低下し退院となった.RFPはCYP系酵素を強力に誘導するためCYP代謝を受ける種々の降圧薬の効果減弱が血圧上昇の原因と考えられCYP誘導の少ないRBTへの切り替えが有効であった.腹膜透析患者への抗結核薬投与は蓄積や薬物相互作用があり注意を要すると考えられた.
症例は66歳,男性.慢性糸球体腎炎による末期腎不全に対し血液透析を導入され,35年の長期透析歴がある.便秘を主訴に消化器内科を受診しCT撮像したところ,偶発的に右腎腫瘍および静脈腫瘍栓,リンパ節転移,骨転移,肺転移を認めた.転移性右腎細胞癌,cT3bN2M1,IMDCリスク分類poor riskと診断し,ニボルマブ・イピリムマブ併用療法を開始した.4コース終了後のCTでは多発肺転移はほぼ消失し,右腎原発巣,静脈腫瘍栓,腹部リンパ節転移,骨転移もいずれも縮小し,partial response(PR)の判定となった.9コース終了後もPRを維持している.副作用としては2コース終了時にGrade 2の甲状腺機能低下症を認めたが,内服加療のみで管理可能であった.長期血液透析歴を有する患者に発生した進行腎細胞癌に対するニボルマブ・イピリムマブ併用療法は,安全かつ有効に施行可能であった.
尿毒症性心膜炎の治療として透析療法が報告されているが,その際の除水の必要性については検討されていない.今回無除水血液透析を行い,多量の心囊液が消失した症例を経験した.血液透析導入時の67歳患者に無症候性の心囊液貯留を確認し,尿毒症性心膜炎と診断した.無除水血液透析を継続したところ,心囊液は消失した.多量の心囊液を有する尿毒症性心膜炎例においても,無除水透析のみで心囊液は改善する可能性があり,除水を契機にlow pressure cardiac tamponadeとして循環動態が破綻する危険性も考慮すると,過剰な除水は尿毒症性心膜炎の治療においては不要と思われる.