日本透析医学会雑誌
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54 巻, 11 号
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総説
  • 岡田 一義
    2021 年 54 巻 11 号 p. 547-551
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    透析professionalは,アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning: ACP)と共同意思決定(shared decision making: SDM)を理解し,わが国の法律や社会状況を熟慮して作成した「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」に準拠して,保存的腎臓療法(conservative kidney management: CKM)の情報を適切な時期に提供することが求められている.医療チームは,透析の開始が必要になった時点で患者が腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)を選択しない場合にCKMの情報を提供するが,6か月以内に透析の開始が必要になると予測した患者がRRTを選択しない場合には,RRTの開始に伴う不安や精神的・社会的問題を抱えている時には,これらを解決するための介入を検討する.透析professionalは,コミュニケーションスキルを駆使し,患者の真意を見抜いて対応することが重要である.尿毒症症状の出現により透析を受け入れると判断した患者に対しては,行動変容を促すために患者の気持ちを考えながら関わり,物語りを自己修正するように支援する.一方,透析を受け入れないと判断した患者に対しては,家族らと医療チームとのACPを促すとともに,患者・家族らとの話し合いを通じて,患者の利益に資する方策を模索する.繰り返しの話し合いにより,患者が事前指示書を提出したり,患者・家族らが透析の見合わせを申し出た時には,医療チームはCKMの情報提供を検討する.透析professionalは,より良質な医療とケアを提供するために,ACPの実施体制を整備するとともに,SDMを実施する際には関係者全員の合意形成を目指し,尊厳生の立場で患者が人生を全うできるように支援する.

原著
  • 永野 伸郎, 林 秀輝, 斎藤 たか子, 宮 政明, 溜井 紀子, 武藤 重明, 安藤 哲郎, 筒井 貴朗, 小川 哲也, 伊藤 恭子
    2021 年 54 巻 11 号 p. 553-559
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    【目的】服薬アドヒアランス向上の一助として,患者自身が確実に服薬できると思う錠剤数を調査した.【方法】維持血液透析患者455人を対象に,服薬状況ならびに「1回あたり何錠までの薬剤ならば確実に飲むことができるか?」(服薬可能錠数)を聞き取り,患者背景および実際に処方されている1日あたりの処方錠数(処方錠数)との関係を解析した.【結果】服薬可能錠数の中央値は5.5(4.5~7.0)錠/回であり,最頻値は5錠(19.8%)であった.服薬可能錠数は,性別および透析歴と関連しなかったが,年齢と負相関し,糖尿病患者および準夜透析患者で多かった.処方錠数の中央値は16.8(11.4~23.3)錠/日であり,服薬可能錠数と正相関した.重回帰分析の結果,服薬可能錠数の正の説明変数として,糖尿病,準夜透析,処方錠数が選択された.【結語】服薬可能錠数は実際の処方錠数と正相関する.その背景に,high pill burdenに対する患者自身の馴化や受容が潜在する可能性が考えられた.

  • ―自記式ピッツバーグ睡眠質問票による主観的睡眠評価とアクチグラフによる客観的睡眠評価による検討―
    池 睦美, 中村 勝, 小西 健一, 津畑 豊, 五十嵐 宏三, 齋藤 徳子, 森岡 哲夫, 島田 久基
    2021 年 54 巻 11 号 p. 561-570
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    【背景】透析患者において睡眠障害の訴えの頻度は高いものの,その実態については十分に解明されていない.【目的・方法】透析患者の睡眠評価のため,維持血液透析患者41名に自記式ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)による主観的評価とアクチグラフによる客観的評価を行った.【結果】PSQIでは,睡眠薬群では全例,睡眠薬なし群でも40%が睡眠障害ありと判定された.アクチグラフでは,入眠障害・中途覚醒の指標が不良で,総睡眠時間が短縮していた.睡眠薬なし群は,睡眠薬群より中途覚醒が多く,これは日中の覚醒困難の訴えと関連していた.【考察】健常人の報告例と比較し,主観では中途覚醒が頻回で,客観には入眠障害を示し中途覚醒も頻回であった.【結論】透析患者の睡眠は不良であり,睡眠薬の服用は中途覚醒に一部奏効しているが,入眠障害は残っている.睡眠薬なし群では入眠障害の訴えが表れにくく,日中覚醒困難を伴う中途覚醒とともに問題となる.

  • 神野 卓也, 中原 大揮, 西川 繁, 櫻井 淳子, 西口 和美, 奥田 成幸, 和田 直也, 西野 立樹, 辻野 麻里, 三ッ石 一智, ...
    2021 年 54 巻 11 号 p. 571-581
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    血液透析患者20例に対し透析中の運動療法を6か月間施行した.身体運動機能,栄養評価を介入前,3,6か月後に行い,統計解析はHolmの多重比較検定を用いた.Quality of life(QOL)は介入前後に評価し,Wilcoxon符号付順位和検定を用い比較した.いずれもp<0.05を有意差ありと判定した.身体運動機能は介入3か月後に握力(非シャント肢),膝伸展筋力,足趾把持力,外転筋力,30秒立ち上がり試験,6分間歩行が向上し6か月後も維持または向上した.血中ヘモグロビン濃度を含む栄養評価項目に有意な変化は示さなかった.QOL評価は身体機能,心の健康,全体的健康観,活力が有意に上がった.身体機能の向上が日常的な疲労感を緩和させ,活動意欲が生まれたことで日常活動量が増加したと推察される.透析中の運動療法は身体機能の向上とともに精神心理的QOLを高めることが示唆された.

症例報告
  • ―類似症例を踏まえての抗血栓療法に関する提言―
    岡 英明, 本間 義人, 恩地 芳子, 櫻井 裕子, 関本 美月, 安藤 翔太, 岩本 早紀, 岩本 昂樹, 近藤 美佳, 梶原 浩太郎, ...
    2021 年 54 巻 11 号 p. 583-589
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,男性.7年前に糖尿病性腎症で血液透析を導入,冠動脈ステント留置後で抗血小板薬を内服中であった.接触者検診で新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)と診断され当院に入院した.肺炎像は軽微であったが,D‒dimerが陽性でありヘパリンの予防投与を開始した.第2病日より38℃台の熱が続くため第4病日にデキサメタゾンを開始した.第6病日に腰痛が出現し,翌日には腹痛に変化した.同日の透析中にショックを呈し,貧血も進行しており透析を中止した.造影CTで左後腹膜出血と造影剤の漏出を認め,輸血を開始し感染対策を行った上で血管造影を行った.腰動脈出血を同定しコイル塞栓術で止血した.以後は貧血の進行を認めず,第60病日に転院した.COVID‒19では血栓性合併症が多くしばしば予防的ヘパリン投与が行われる.一方で抗血小板薬内服例や透析例は出血合併症のリスクが高く,抗血栓療法に関して慎重な判断が求められる.

  • 野田 竜之介, 權 杞映, 松永 典子, 吉川 隆広, 内田 梨沙, 大瀬 貴元
    2021 年 54 巻 11 号 p. 591-596
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    78歳女性.X-11年に妊娠高血圧症候群を原因とした慢性腎不全に対して血液透析を導入された.X-1年10月頃から透析中に意識障害を呈し,他院で高アンモニア血症による意識障害と診断され,ラクツロース,分岐鎖アミノ酸製剤を開始された.X年3月末から再び透析終了時に意識障害が出現し,5月に当科に入院した.血清アンモニア値190 μg/dL,造影CTで胃腎・脾腎シャントを認め,非アルコール性脂肪肝炎による肝硬変と診断した.透析後に意識障害を呈する経過から,血液透析によって肝外シャント血流が増加することで肝血流が低下し,肝性脳症を発症したと考えられた.IVRや手術などの侵襲的な処置は希望しなかったため,アンモニア産生菌抑制の目的でリファキシミンを開始した.血清アンモニア値は速やかに100 μg/dL前後まで低下し,意識状態も改善した.退院後1年にわたり内服を継続し,再発を認めずに良好な状態を保てている.

  • 原 明子, 河野 圭志, 藤井 秀毅, 出口 雅士, 西 慎一
    2021 年 54 巻 11 号 p. 597-602
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    症例は38歳女性.第2子妊娠30週より尿蛋白の指摘があったが高血圧はなかった.36週で経腟分娩に至った直後より収縮期血圧180 mmHgの高血圧を認め,血小板減少,肝機能障害,溶血性貧血の所見からHELLP症候群と診断.肝機能障害は自然に改善したが腎機能悪化,胸腹水増加があり分娩後3日目に当院搬送となった.Cre 6.69 mg/dL,肝胆道系酵素上昇,血小板減少,JCSⅠ‒2相当の意識障害を認めHELLP症候群に対する血漿交換の適応と考えられた.計3回の血漿交換,血液透析を施行し透析離脱となったが腎機能低下が遷延したため腎生検を施行し,糸球体係蹄内皮下浮腫,内皮細胞障害の所見を認めた.また,血管内皮細胞障害と関連する因子として知られるADMA(asymmetric dimethylarginine)を測定すると,入院時点で上昇を認め,腎機能の改善後もADMAは高値であった.分娩後に急性腎障害をきたした重症HELLP症候群に血液透析・血漿交換を行った報告や,腎生検やADMA測定を行った報告は少なく文献的考察を含めて報告する.

短報
  • 松田 奈緒子, 上林 沙希子, 平山 智也, 金川 匡一, 石田 裕則
    2021 年 54 巻 11 号 p. 603-605
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/28
    ジャーナル フリー

    【目的】電解水透析は酸化・炎症ストレス低減や疲労回復効果が報告されているが,栄養関連の報告は少ない.電解水透析移行前後の栄養状態の変化について検討した.【方法】電解水透析移行1か月前から移行12か月後までに在籍していた血液透析患者51名(男性40名,女性11名,全平均年齢63.8±13.3歳)を対象にドライウェイト(DW),Body Mass Index(BMI),血清アルブミン(s‒Alb),Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI),標準化蛋白質異化率(nPCR)を電解水透析移行前後で比較検討をした.【結果】DW,BMI,GNRIは全患者,男女別ともに変化を認めなかった.s‒Albは男性において移行後3か月で有意に増加した.nPCRは全患者および女性において移行後6,9か月で有意に増加した.【結論】電解水透析は維持血液透析患者の栄養状態を改善し得る可能性があるが,より長期的な検討が必要である.

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