腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は循環動態に優しい在宅の腎代替療法として普及が期待されている.しかし,PD患者の体液管理は半数以上で過剰状態にあり,これが治療継続や患者予後に重篤な影響を与えている.透析患者が体液過剰となる主因は食塩の過剰摂取であるが,PDの場合,PD治療に特有な要因の関与も考慮する必要がある.PD透析液自体に関連するものとして,透析液による浸透圧物質の負荷(グルコース,イコデキストリン代謝物),そして腹膜ナトリウム(Na)篩効果による低張性除水(PD限外濾液Na濃度<血清Na濃度)は,ともに血漿浸透圧の上昇を惹起し,それにより,結果的に体液量は増加する方向に傾く.この方策として,代謝物の蓄積を低減するイコデキストリン液の使用方法,等張性除水が可能な透析液Na濃度の調整(低Na透析液)などを検討する必要があるだろう.これらの治療開発はPD治療の質向上に大きく寄与すると期待される.
Ⅱ型糖尿病を原疾患とする末期腎不全の透析患者(51歳,女性)に後天性反応性穿孔性膠原線維症(acquired reactive perforating collagenosis:ARPC)を合併した症例.2017年頃より顔面,体幹および上下肢伸側に固着性の痂皮や角質物質を付す掻痒の強い紅色丘疹が多発するようになった.各種外用薬を処方するも難治性であったため皮膚科専門医の受診を勧めたところ,ARPCが疑われた.ステロイド外用薬と抗アレルギー薬などが処方されたが効果は乏しかった.その後,本症に対してミノサイクリン(200 mg/日)の内服を開始したところ,内服1か月後には頑固な掻痒が軽減するとともに皮疹も改善した.透析患者の掻痒を伴う皮疹の鑑別疾患としてARPCを念頭に置くことは大変重要であり,ミノサイクリンは有効な治療薬であろう.
症例は全身性エリテマトーデス(SLE)にループス腎炎と抗リン脂質抗体症候群(APS)を合併し26歳で血液透析導入となった31歳女性.19歳よりAPSに対して抗凝固薬を開始したがその後肺胞出血を合併したため内服を中止していた.SLEとAPSの病勢が落ち着いたことを確認し31歳で母親をドナーとする血液型不適合生体腎移植を施行した.APS合併レシピエントに対する生体腎移植では血栓症合併リスクが高く,抗血栓療法を行うことが一般的である.本症例では手術7日前から抗血栓療法を開始し術後は血栓症を含め大きな合併症なく経過した.出血合併症のリスクを考慮し術後67日目に抗血栓療法を終了した.しかし術後150日経過した頃から左上肢シャント部より末梢の血流途絶を認め,血栓症として抗血栓療法を再開した.APS合併レシピエントにおける血栓症発症リスクの層別化や抗凝固薬の終了時期に関するコンセンサスは得られておらず今後検討が必要である.