本邦にある限り地震や風水害の報告が後を絶たず,関東地方でも首都直下型地震の話題が絶えることはない.一方透析医療は,たとえ災害時でも継続することこそが重要な特殊な医療である.埼玉県では,東日本大震災以来,行政とともに災害対策に取り組み,被災者に対する災害急性期医療の骨組みが完成した.しかし透析療法の特殊性を念頭に入れた,大規模災害時の継続する医療という観点では不十分であった.そこで,広域関東圏(東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,栃木県,群馬県,新潟県)で連絡を取り合い,「透析医療確保に関する広域関東圏連携」を開始した.ここでは,災害亜急性期における透析医療の確保と継続に関する会議を行っている.会議では行政が窓口となり設置要項を定め,災害時の窓口を確認し合い,受け入れ依頼と支援応需のルールを設定した.コロナ禍では感染に関する情報交換を行い,無事乗り切ることができた.また災害時情報伝達の机上訓練も行った.今後は,広域関東圏の連携をより強化し,関東以外の地域との連携も視野に入れ,話し合いを発展させていく予定である.
災害時はその被害の大きさによって,近隣の都道府県が支援する必要がある.そのため行政と透析医療が平時から協同してネットワークを構築しておくことが望まれる.新潟県はこれまで2004年の新潟県中越地震,2007年の新潟県中越沖地震を経験し災害時の透析医療の確保を施設間連携で実施した.また2011年の東日本大震災では,他県からの透析患者受け入れを経験した.これらの経験から災害時の透析医療の確保は各施設,各地域で行えることが理想であるが,被災の大きさによっては地域外,県外との連携が必要と考えた.そのため新潟県では定期的に新潟透析災害対策会議を開催し,のちに新潟透析医学会内に災害・危機管理委員会を設置した.医師,臨床工学技士,看護師,行政,そして企業が参加し,災害対策マニュアルの制定,施設間の連携強化に努めてきた.また最近では,県災害対策本部に透析リエゾンを設置し,災害に関連する他領域との連携も進めている.能登半島沖地震では透析リエゾンと地域支部が連携し,断水・節水による透析継続困難な施設への支援と,受け入れ病院の準備を行った.また他県からの透析患者受け入れの準備も進めた.近年,新潟県は広域関東圏連携会議に参加し,発災時の患者依頼,受け入れの対策を進めている.関東での発災を想定して,遠方の受け手側としては,透析患者の受け入れに協力するべく,県内透析施設,行政との議論,準備を進める必要がある.受け入れの際は,行政と透析リエゾンが患者受け入れの中心となる.県内施設の受け入れ可能施設の把握を透析リエゾンが行い,行政が患者移送と滞在の支援を行う.県内体制,県外連携の実際に関する課題も多く,今後も行政と透析スタッフを中心に災害対策の充実が望まれる.
症例は54歳男性.入院の2か月前から呼吸困難があり,間質性肺炎の進行を認めたため紹介された.特徴的な皮疹,抗MDA5抗体陽性などから抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎による急速進行性間質性肺炎(RP-ILD)と診断し,入院した. PSL 65 mg/日,Tofacitinib,Tacrolimusなどを含めた多剤免疫抑制療法を開始し,抗MDA5抗体は低下傾向だったが間質性肺炎の進行,高フェリチン血症が持続し,入院57日目頃から呼吸状態が悪化したため血漿交換を開始した.その後呼吸状態,肺炎像などの改善を認めた.既報によると多剤免疫抑制療法施行下でも同疾患の死亡率は約2~3割と高いが,血漿交換の追加により救命できた報告も散見される.SARS-CoV-2の流行に伴い抗MDA5抗体陽性RP-ILDの症例が増加したとの報告もあり,今後患者数の増加が予想される.本症例の治療経過と既報からの考察について報告する.
症例は維持血液透析実施中の67歳女性.5か月前から徐々に増悪する労作時呼吸困難とともに透析時低血圧を認め,胸部X線上,心拡大が進行しドライウェイト(DW)の下方修正がなされたが心拡大や症状は改善せず透析中の血圧維持が困難となった.シャント血流が約2,006 mL/minと高値であり心臓超音波検査では心収縮能は保たれておりシャント過剰血流に伴う心不全の疑いで当科紹介,入院となった.第二病日に右上腕動脈表在化術および左内シャント閉鎖術を施行した.術前と比較して術後の運動負荷心臓超音波検査所見は,負荷強度は改善し,負荷時の収縮期肺動脈圧と心拍出量はすべて減少していた.しかしながら術後は透析時血圧を維持できるようになっておりシャント閉鎖に伴う全身血管抵抗指数の上昇による血圧上昇が示唆された.ハイフローシャントの病態把握において運動負荷心臓超音波検査が有用であると考えられた.