血液濾過法 (HF) は血液透析法 (HD) に比較し, 低血圧, 高血圧, 不均衡症候群, 酢酸不耐症等の面において短期的には優れていると言われているが, 長期単独療法に関する報告は少ない. 今回我々は, HF単独療法を約26ヵ月間の長期にわたり糖尿病性腎症腎不全症例に施行しえたので報告する.
症例は67歳, 男性. 約30年前, 糖尿病が発症し, インスリン療法を受けていた. 昭和51年, 視力低下が, 同55年1月, 初めて浮腫, 蛋白尿が出現した. 同年6月, 当院の他科にて腎不全の指摘を受け当科に入院した. 入院時, 肥満なく, 意識清明で呼気アセトン臭はなかった. 起立性低血圧, 糖尿病性網膜症, 右眼白内障があり, 視力低下, 両足アキレス腱反射の消失を認めた. またBUN 106mg/d
l, s-Cr 6.6mg/d
lと腎不全があり, 中等度の正球性正色素性貧血, 代謝性アシドーシス等を認めた. 骨X-p上, 腎性骨異栄養症はなかった. そこで糖尿病性腎症腎不全と診断しHDに導入した. HD中低血圧が頻発し, 高Naおよびバイカーボネイト透析液にても同様であった. さらに緑内障を併発したため, 昭和58年5月より181置換によるHF (ザルトリウス社・血液濾過システム, 清水製薬・HFソリタ
®) へ変更した. 変更直後より低血圧の頻度, 程度ともに著明に改善した. 約26ヵ月間のHF単独療法においてs-Crが軽度上昇した. 貧血も増悪したが, HFの直接効果か否か不明である. 他の検査データおよび自他覚症状に著変なかった. また, 我々はHF中の血糖の急激な低下を見出したが, これは糖無添加の補充液の使用によるものと判断し, ブドウ糖を添加したところ, 血糖の推移は非HF日と同様の緩徐なものとなった.
以上より, 1) HF療法は低血圧頻発症例に有効であり, 2) HFの長期単独療法において重篤な副作用は発現せず, 3) HF施行にあたり補充液へのブドウ糖添加が, 特に糖尿病性腎症腎不全症例に, 必要であると思われた.
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