日本透析療法学会雑誌
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22 巻, 11 号
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  • 森田 博之, 新里 高弘, 高井 一郎, 藤田 芳郎, 小早川 裕之, 前田 憲志
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1175-1181
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    我々はβ2-microglobulin (β2-MG) に関し, 間質及び血しょうスペースよりなるtwo pool kinetic modelを作製した. この際には以下の2点を前提とした. 1) β2-MG generation rateは血清β2-MG濃度の変動とは無関係に一定である. 2) β2-MG elimination rateは治療間けつ時には生体内クリアランスと血清濃度との積としてもとめられ, 治療時にはこれにダイアライザークリアランスと血清濃度との積を加え合わせた値として求められる. 次にこれを利用し, 治療時及び治療間けつ時における長期透析患者の血清β2-MG濃度の推移を2週間以上の期間に渡りシュミレートした.
    その結果, 1回4時間の, 血液透析施行直後に血清β2-MG濃度を劇的に低下させることは現在のダイアライザーの性能を考え可能なことであるが, 治療間けつ期は血清β2-MG濃度の緩徐な上昇, 即ちrebound現象があることがわかった. (間けつ治療におけるβ2-MGのkineticsは基本的にこのパターンの繰り返しである.) β2-MGクリアランスが50ml/minのダイアライザーを用い, 一回4時間の治療を週3回行うとするこのrebound現象のために, 治療前値が60, 40, 20mg/lの患者の2週間後の治療直前値はそれぞれ39.2, 30.8, 18.4mg/lにすぎない. (治療前値が60mg/lの患者の場合ある程度は下がるが, 治療前値が20mg/lである患者の場合, ほぼ元の値に戻ってしまうことに着目される.) 同様に, 治療前値が30mg/lの患者の場合, ダイアライザークリアランスをたとえ80ml/minに増大させたとしても2週間後の治療直前値に少しの差しか認められない. このことは (特に透析患者としては比較的血清濃度の低い患者で著名な傾向であるが,) 透析患者のβ2-MGを持続的に低下させることが現在の維持透析療法では困難であることを示唆する.
  • 宮本 忠幸, 宮本 忠幸, 小松 文都, 橋本 寛文, 竹中 章, 寺尾 尚民, 桑原 和則, 山本 博司
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1183-1188
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析アミロイドーシスとcystic radiolucency (CRL) との関係を明らかにするため, 手根骨のCRLをGroup 1-4の4つの段階に分類し, 年齢, 透析歴, 慢性腎不全の原因疾患, 遠位橈尺関節におけるvariant, 各種血液生化学的パラメーターについて検討した. また嚢胞化に対する種々の因子の影響度を知るために, 多変量解析を行った. 対象は, 維持透析を受けている150名, 男性85名, 女性65名, 平均年齢53.5±12.2歳, 平均透析期間, 71.9±49.0か月であった. また対照群として, 健康な成人36名, 男性13名, 女性23名を選んだ. CRL陽性率は, 患者群34.7%, 対照群19.4%であり, 患者群の方が有意に陽性率が高かった. また手根管症候群合併患者で87.5%と頻度が高かった. Cystと年齢との関係は, CRLの重症化につれ, その平均年齢が高くなる傾向にあった. Cystと透析期間との関係は, Group4のみが有意に透析期間が長く, 他のgroup間には有意差を認めなかった. 透析期間別のCRL陽性率は透析6年未満までは, 対照群と有意差がなく, 6年以上で有意差を認めた. CRLとulnar varianceとの間には一定の傾向は認められなかった. CRLと血液生化学的パラメーターでは, 血清Ca値がgroup分類に大きく寄与しており, CRLが重症化するほど血清Ca値が上昇する傾向にあり, 血中β2-microglobulin値はgroup分類には影響していなかった. 以上よりアミロイドーシスの診断には治療期間が6年以上の患者で, Group 4 (CRLを3個以上認めるもの) に属するものであることが基準となると考えられた.
  • 趙 秀憲, 今城 保定, 西谷 博, 野崎 寛爾, 山川 眞, 西沢 良記, 森井 浩世
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1189-1193
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    長期透析患者における消化器系疾患の定期検診を行ない, その成績について報告した. 当院の透析患者延べ1404例を対象として, 上部消化管造影検査については1983年より5年間, 腹部超音波検査については1986年より2年間, 各患者の誕生月に, 年1回実施した. 上部消化管造影検査の平均受診率は55.5%, 有所見者についての内視鏡検査の平均受診率は30.7%であった. 5年間に胃潰瘍30例 (3.9%), 十二指腸潰瘍44例 (5.6%), 早期胃癌2例 (0.3%) を認めた. 腹部超音波検査の平均受診率は70.3%であった. 2年間に胆石34例 (7.6%), 胆嚢ポリープ15例 (3.4%), 肝臓癌1例 (0.2%) を認めた. 透析患者は自覚症状の少ない場合も多く, 早期発見のための定期検診の重要性を認識した.
  • 山木 万里郎, 草野 英二, 進藤 靖夫, 細井 春久, 永島 弘文, 武藤 重明, 鈴木 宗弥, 浅野 泰, 櫻林 郁之介
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1195-1200
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    顆粒球エラスターゼ (PMN-E) の血液透析 (HD) 中の変動に及ぼす種々の因子について検討した. 維持透析患者37例でHD前後のPMN-Eを酵素免疫法により測定し各条件で比較した. 慢性腎不全の原因疾患の検討ではDM群と非DM群とでは有意差は認められなかった. HD期間の検討では導入期群と安定期群とで有意差は認められなかった. 透析膜の検討では同一症例15例について再生セルロース膜とポリメチルメタクリレート膜とを交互使用し比較したが有意差は認められなかった. 抗凝固薬の検討では同一症例18例についてヘパリンとFUT-175とを交互使用し比較したが有意差は認められなかった. カルシウム (Ca) 剤とビタミンD3剤の影響をみたところ, 両者を投与すると両者無投与ないしはCa剤投与のみの場合に比して有意にPMN-E上昇率は抑えられた. HD中の血清Ca濃度の変化とPMN-Eの変化をみると全症例では全く相関が認められなかったが, 一部の症例 (3症例) では強い正の相関係がみられた. 以上よりHD中にみられるPMN-Eの上昇の機序として一部ビタミンD3剤, Ca剤や血清Ca濃度の変化が関与する可能性が示唆された.
  • 吉田 克法, 後藤 佳雄, 石田 正史, 貴宝院 邦彦, 本宮 善恢, 坂井 よし, 別所 直子, 森澤 正代, 高梨 直樹
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1201-1206
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    維持透析患者26名を対象として透析日及び非透析臼の2回にわたり血漿α-ANP (ヒト心房性Na利尿ペプタイド), 血漿レニン活性 (PRA) を測定し, 平均血圧 (MAP), 体重増加率との関係を検討し, 血圧調節への影響についで考察した.
    Dry weightの3%以内の体重増加例では血漿α-ANP濃度はほぼ正常を示したが, 3%以上の体重増加例では明らかに体重増加量に比例した上昇を示した (p=0.662, P<0.001).
    しかしながら, 体重増加による血圧上昇との比較では血圧上昇抑制効果は認められず, この結果はPRA 2.5ng/ml/hr以上の高レニン血漿例においても, PRA 2.5ng/ml/hr未満の非高レニン血漿例における比較でも同様であった.
  • 横山 啓太郎, 川口 良人, 山本 裕康, 森田 隆, 百瀬 光生, 小川 愛一郎, 若林 良則, 中山 昌明, 酒井 聡一, 酒井 紀
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1207-1210
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全患者に, 悪性腫瘍を併発することは稀ではなく, その診断のために画像診断と同時に血清診断がしばしば用いられる. 腎不全血清中の腫瘍マーカーの正常域の偏位についての報告は少なく, 臨床上その評価が困難な場合がある. 従って腎不全時の腫瘍マーカー値の偏位を明らかにし, 腎不全血清における基準値を新たに設定することは日常臨床上意義があると考え以下の検討を行なった.
    慢性腎不全74例 (保存療法17, 血液透析30, CAPD 27) でCEA, TPA, AFP, ELI, CA125, CA19-9, γ-Smを測定し, それぞれについて健常人81例のそれと比較検討した. 腎不全群ではCEA, TPA, AFP, EL1, が有意に高値で, γ-Smは陽性率が高かったが, CA125は両群とも測定感度以下であった. 各治療群間比較では, CEA, TPA, AFPは保存療法群に比べ血液透析群が有意に高値を示し, CAPD群と保存療法群では差を認めなかった. EL1では各治療群間に有意差を認めなかった. 腫瘍マーカーそれぞれの測定方法が夾雑物質の影響を受けにくいradioimmunoasseyであること, あるいは, 腎不全の程度と基準値の間に殆ど相関がないことから, 腎不全患者の腫瘍マーカー測定値が偏位する要因の主体はその分画も含む排泄の遅延によるものと考える.
  • 中村 隆, 渡辺 有三, 坂本 信夫, 山本 尚哉, 伊藤 晃, 山崎 親雄, 島岡 清, 島岡 みどり
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1211-1218
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    維持透析 (HD) 患者の運動耐容能が極めて低下している理由の一つに貧血が考えられているが, 未だ定説化していない. そこでHt 25%未満の貧血を合併したHD患者25名 (男9名・女16名) を対象にrecombinant-human erythropoietin (r-HuEPO) を投与し, その治療前後に同一強度の運動負荷テスト (Ex1, Ex2) を行い, 血圧, 心拍数, Rating of perceived exertion (RPE: 主観的運動強度), 血液諸指標の変化について比較検討した. Ht値は22.7±1.5%より29.0±2.2%と有意に上昇した. それにより, Ex2ではEx1に比し, 運動完遂例は増加し, 心拍数, RPE指数, 通動負荷後乳酸値, 運動負荷前CPK (pre CPK) 値は有意に低下した. また, Ex1完遂例のpre CPK値はEx2のpre CPK値と差を認めなかったが, Ex1非完遂例に比し, pre CPK値は有意に高値を示し, かっEx2では有意に低下した. その他の諸指標はEx1とEx2の間に統計的差異を認めなかった. 以上の結果より貧血改善により, HD患者の運動耐容能は向上したが, その理由としては好気的代謝, 骨格筋の虚血, 心血行動態の改善が示唆された.
  • 宮島 真之, 豊島 良一, 豊島 裕子, 松井 和隆, 長谷川 節, 川口 良人, 下條 貞友, 宮原 正
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1219-1223
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    指尖容積脈波のデジタル処理解析による交感・副交感神経機能検査法を用いて慢性腎不全患者の自律神経機能を検討した. 対象は慢性腎炎 (62例), 嚢胞腎 (3例), 腎盂腎炎 (2例), 痛風腎 (1例) 由来の慢性腎不全68例 (非透析群17例, 血液透析群30例, CAPD群18例, 腎移植群3例) で, 糖尿病, SLE等の全身性疾患による腎不全例は除外した. 指尖容積脈波は安静臥位で非シャント側, 第2指より2分間連続記録, デジタル処理解析し, 脈波波高変動係数 (CVWH), 脈拍間隔変動係数 (CVPP) を算出した.
    CVWH, CVPPはそれぞれ腎不全群7.44±3.58, 2.41±0.94, 非透析群7.92±3.68, 2.88±0.94, 血液透析群7.57±4.04, 2.29±0.76, CAPD群6.69±2.96, 1.96±0.83, 腎移植群8.20±1.92, 3.70±1.32であった. CVWHは健常群に比して腎不全各群で有意の低下を示し, CVPPは非透析群では健常群との間に有意差はないものの低値を示す例が多く認められた. 透析群では明らかに有意の低下を示した. また, 透析法別にみた群間比較に有意差を認めなかった. CVWHとCVPPの関係を見ると腎不全例, 透析例で有意の相関を認めた.
    以上より, 今回検討した慢性腎不全例のCVWH, CVPPは共に低下し, 交感・副交感神経機能に障害を認めた. 非透析群間に差を認めなかったことから, 腎不全で認められる自律神経障害は透析療法では改善困難であると考えられた. また, 腎不全群と透析群のCVWHとCVPPとに相関が認められたことより交感・副交感神経が同時に障害されることが推察された.
  • 大津 稔彦, 村瀬 繁樹, 伊藤 達雄, 薄井 泰子, 吉田 精吾, 稲垣 豊, 天野 泉
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1225-1230
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    最近慢性腎不全, 新生児, 妊婦, 肝疾患等において, 内因性のジゴキシン様免疫反応物質 (digoxin-like immunoreactive substance: DLIS) が検出されるという報告が多数なされている. そこで我々は, 今回ジゴキシンを服用していない慢性腎不全患者を対象として螢光偏光イムノアッセイ法を用いたTDX Digoxin II (ダイナボット社) の DLIS検出頻度について検討した.
    その結果, 50例中5例 (10%) に高濃度 (0.4ng/ml以上) のDLISが検出された. また5例中4例が重篤な肝疾患 (症例1: 肝硬変+肝癌, 症例2: 肝硬変, 症例3: 急性肝障害, 症例4: 薬剤性肝障害) を合併していた. 症例1, 2及び3は, DLIS検出後1か月以内に死亡した. これらのDLISは内因性であると考えられ, 内因性のDLISは予後の指標になる可能性がある. 症例4は血漿交換によってDLIS濃度を低下させることができ現在も生存している. 肝疾患を合併していない症例5においても高濃度のDLISが検出されたが, その後の検索の結果市販の漢方薬が原因であることが判明した.
    肝疾患を合併している腎不全患者9例の内4例 (症例1-4) に高濃度のDLISが検出された (44%). このような患者にジゴキシンの投与を行う場合はジゴキシン血中濃度におよぼすDLISの影響に注意すべきである.
  • 黒河 達雄, 志摩 泰生, 村上 努士, 下山 均, 吉田 栄一, 梅田 政吉, 小林 省二
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1231-1237
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    昭和53年8月から63年7月までの10年間に, 慢性透析患者において, 限局した全周性の特発性腸壊死の手術例を3例経験した. いつれも50-60歳台で, 特徴としては, 1) 大量除水例が多く既往として全例, 透析中の低血圧および腹痛を有し, 透析後の急激な腹痛と腹膜炎症状をもって発症する. 2) 病変部位は回腸末端部から上行結腸にかけての右側であり, いわゆる虚血性大腸炎の好発部位とは明らかな差異がみられる. 3) 腸間膜の動静脈に閉塞は認めず, 罹患腸管は壁の全層が凝固壊死に陥り, 一部穿孔して腹膜炎を合併している. 境界部では粘膜下組織のうっ血が著明である. 4) 腸管切除後も口側へ壊死が進行し, 2例を失った. 5) 原因は低血圧と血液濃縮による腸管壁の血流停滞によると思われ, 昇圧処置と共に, 抗凝固療法が重要である.
  • その3・透析患者の抗HTLV-I抗体陽性率の推移 -特に日赤スクリーニング検査開始後の結果について-
    五十嵐 かおる, 若杉 和倫, 山根 伸吾, 佐々木 正明, 富永 和喜, 延藤 卓生, 東 仲宣, 松金 隆夫, 鈴木 満
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1239-1243
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析 (HD) 患者527名 (1988年1月) の血清中の抗HTLV-I抗体をゼラチン粒子凝集法 (particle agglutination test; PA法) およびWestern blotting (WB) 法にて測定し, 1984年5月332名, 1985年5月407名の結果と比較した. また, 1984年, 1985年, 1988年のPA陽性者の推移も合わせて検討した. 1986年11月より日本赤十字社にて抗HTLV-I抗体のスクリーニング検査が施行された. そこで, スクリーニング検査開始前, 後の抗体陽転者についても検討した. その結果,
    1. 1988年1月のHD患者のPA陽性率は6.8% (36/527名) で, 1984年5月の10.2%はやや高値であったが, 1985年5月の6.4%との差異は認められなかった. また, PA陽性例の陰転化は認められなかった.
    2. 1988年1月のPA陽性36名にWB解析を施行したところ, WB陽性は30名でWBによる陽性率は5.7% (30/527名) であった.
    3. 1985年5月から1988年1月までに5例のPA陽転例がみられた. 5例中2例はWB陽性でいずれも日赤による抗体検査が開始された1986年11月以前の輸血による陽転と推定された.
    4. また, 5例中3例はWB保留であり, 今後PA低力価領域でかつWB保留症例については経過観察とともにさらに検討を要すると思われた.
  • 片山 江里子, 谷合 一陽, 村上 和春, 槇野 博史, 松本 諄, 太田 善介
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1245-1247
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    腹膜炎は, CAPD (continuous ambulatory peritoneal dialysis) における重大な合併症の1つである. 大多数の腹膜炎は, 細菌感染によるものであるが, まれに無菌性のものがあり, 中でも好酸球の割合の多い好酸球性腹膜炎の存在が, CAPD開始後早期に発症し, 良性の経過をとり, 自然寛解をみるものとして注目されている. 寺岡記念病院には9人のCAPD患者がいるが, 今回, 好酸球性腹膜炎と思われる1例をはじめて経験した. 症例は55歳男性で, CAPD開始後19日目に, 排液の軽い混濁が認められたが, 腹痛や発熱等自覚症状はなく, 経過中, 排液の培養は常に陰性であった. 排液中の好酸球増多が証明されたため, 抗生剤も中止して経過観察していると, 自然に治癒していった. 好酸球性腹膜炎の原因としては, アレルギーの関与が考えられているが, 発症の詳細は不明である. しかし, 好酸球性腹膜炎は無症状で自然治癒していくものなので, その存在を常に頭におき, 特にCAPD導入期の無症状腹膜炎の際には, 好酸球を測定して, 好酸球性腹膜炎と診断されれば, 無用な治療はしないことが大切である.
  • 献眼率日本-の静岡県小山町に学ぶ
    内出 幸美, 泉田 スミ子, 泉 ハシメ, 佐々木 キヨ, 荒 隆一, 木川田 典弥
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1249-1252
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    日本での腎移植普及を考える場合, 最大の課題は死体腎提供者の確保であると思われる. そこで著者らは, 献眼登録率・献眼率日本-である静岡県小山町を訪れ, その独創的と思われる活動方法を調査した.
    その活動の中心はライオンズクラブである. この小山ライオンズクラブは1970年より献眼運動を推進している. 全町民への熱心な啓蒙活動, 献眼に際しての, 手術医への連絡, 交通の手配から献眼者の葬儀まで全会員を揚げての誠意ある活動, 献眼者の遺族への感謝状の伝達式や様々な催し物を通して後々まで遺族との心の触れ合いを前提とし, 町民との交流を大切にしている.
    その結果, 町全体に献眼の思想が行き渡り, 多少の抵抗感はありながらも献眼するのが当り前へと云う雰囲気につつまれている.
    著者らは, 死体腎の提供者不足は多くの日本人が遺体に原始的な執着心を持っており, その独特の死生観・倫理観・心情等があることが最大の要因と考えている. このような日本人の心情は, 社会が進歩したからと云ってそう急激に変わるものではないと思われるが, 著者らには日本人のこの心情をどのように変えてゆくかと云うことが死体腎提供者拡大への最大の課題であると思われる. 今回, 静岡県小山町の調査をした結果, 日本人の心情などは, 国民に対する熱心な限りない推進運動と啓蒙活動によって少しずつ変化し, 欧米並みの意識レベルまで達するとの確信を得た. それらの活動の重要点は, まず地域単位の推進母体の体制確立とその組織の明確化, そして推進員の行動力と誠意あるアフターケアが必須条件であると考えられた.
  • 小野 慶治
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1253-1257
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    まだ解明されていない慢性腎不全に合併する蓚酸カルシウム (OxCa) の心筋内沈着促進因子について腎不全ラットを使い実験的検討を行った. 蓚酸ナトリウム (OxNa) 投与による血漿中蓚酸値の単純な上昇だけでは心筋内にOxCaの沈着は起こらなかった. また, 血中のイオン化カルシウム値の上昇も沈着促進因子ではなかった. しかし両腎摘わずか2日後に心, 肝をはじめ諸臓器に小さなOxCaの結晶の沈着を認めた. 蓚酸は尿中に過飽和の状態で排泄されるので腎内で結晶化沈着され易すく, 例え機能が落ちた腎といえども血中蓚酸値を低下させる大きな働きがある. したがって両腎摘は血中の高蓚酸値を持続させて他臓器への蓚酸沈着を起こすと考えられる.
    本研究で最も興味ある結果は異所性移植心と自分自身の正常な心臓を持つ腎不全ラットにOxNaを与えるとOxCaが移植心だけに沈着する事である. しかも拒絶反応によって組織学的に変性が起きている部位にのみ選択的に沈着していた.
    これらの結果から慢性腎不全に合併する心筋内OxCa沈着には血中蓚酸値の上昇だけではなく, 心筋の局所的な組織学的な変化がきわめて重要な因子である事を明確に示している.
  • 徳永 真一, 小口 寿夫, 古川 猛, 寺島 益夫, 古田 精市, 長田 敦夫, 田村 泰夫
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1259-1263
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全患者に膵障害の発生率の高いことが剖検により報告されているが, 本邦での慢性透析患者に急性膵炎を発症した報告例は比較的少ない. 我々は慢性血液透析の経過中に急性膵炎を発症した3例を経験したので報告する. 3症例は臨床症状 (嘔気, 嘔吐, 心窩部痛, 発熱), 血清膵酵素の上昇 (アミラーゼ700SU以上, 膵成分80%以上), および膵腫大 (腹部超音波検査, CT) より急性膵炎と診断された. 2症例は中心静脈栄養, 短時間頻回透析 (5と7日間) を施行した. 3例とも抗生物質, 蛋白分解酵素阻害剤の投与を行なった. 2例は完全寛解したが1例は膵炎再発後11日にグラム陽性菌による心筋炎に伴う心不全のため死亡した. 急性膵炎発症の成因の可能性としては2例で高カルシウム血症が, 1例で副甲状腺機能亢進症が疑われた. 以上, 血液透析患者に発生した急性膵炎の3例を提示した. 透析療法の長期化に伴い種々の合併症の増加が予測され, 急性膵炎もそのひとつと考えられる. その成因についてはいまだ不明の点も多いが, 血液透析患者には膵炎発症の誘因が多数存在し, また膵炎は発症すると重症化する例もあるため, 発症の早期発見と充分な治療が必要と思われた.
  • 小松 康宏, 川口 洋, 服部 元史, 鈴木 隆, 甲能 深雪, 伊藤 克己
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1265-1269
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    Acquired cystic disease of the kidney (ACDK) は成人長期透析患者で高率に発生することが知られているが, 小児期長期透析によるACDK発生に関する報告は極めて少ない. 今回我々の施設において維持透析を行っている小児期に血液透析導入となった患者15名に対し自己腎の嚢胞発生の有無を検索した.
    年齢は5歳より28歳 (平均24.9歳) 導入時平均年齢は13.1歳, 平均透析歴は6.6年である. 15例中4例 (26.6%) にはcystを認めず, 2例 (13.3%) ではsingle cystのみを認めた. 9例 (60%) に両側性多発性腎嚢胞を認めた. 透析期間と嚢胞発生には正の相関が認められ, 透析期間が長期化するほど嚢胞発生率が高かった. 透析歴7年以上の症例では全例に嚢胞形成を認めた. 血液化学所見, 血算, 血液エリスロポエチン濃度と嚢胞発生には関係は認められなかった. 小児期に透析導入となった患者でも成人と同様ACDKの合併が高頻度にみられる. 年齢に関わらず透析患者に対して定期的なUS, CT等によるscreeningを行うことが勧められる.
  • 芦沢 厚志, 木村 玄次郎, 今西 政仁, 河野 雄平, 小嶋 俊一, 佐内 透, 倉持 衛夫, 尾前 照雄, 安藤 太三, 中島 伸之
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1271-1274
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は47歳男性. 左前腕に内シャントを造設後, 徐々に左上半身の腫脹, 静脈怒張が進み, 多彩な症状を呈した. 静脈造影で左鎖骨下静脈閉塞と側副血行路の発達を認め, シャントを結紮したところ左上半身腫脹は軽快し, 新たに造設した右前腕内シャントを用いて, 再び維持透析を続行している症例を報告する.
  • 張 邦光, 嶋津 良一, 赤松 信, 栗山 学, 河田 幸道
    1989 年 22 巻 11 号 p. 1275-1278
    発行日: 1989/11/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    61歳の男性が血液透析導入のため, 当科へ入院した. 透析療法導入1か月後, 高熱, 全身倦怠感, 黄疸などの症状が出現し, CT検査で肝右葉に膿瘍を認め, 抗菌剤の全身投与と超音波誘導下ドレナージにより2か月後, 膿瘍が消失して, ドレナージを中止した. 以降の経過は順調で, 再発なく外来透析を行っている.
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