血清蛋白結合率の最も高いセフェム系抗生剤の一つであるcefpiramide (CPM) の蛋白結合性について, 健常人および慢性腎不全患者の血清を用いて平衡透析法により検討した.
Hemodialysis (HD) 施行, continuous ambulatory peritoneal dialysis (CAPD) 施行および非透析 (保存期) の慢性腎不全患老におけるCPMの蛋白結合率は, 健常人と比較して有意に低下していた. これらの蛋白結合率は, 血清中のアルブミンと高い正の相関を示した. また, HD施行患者におけるCPMの蛋白結合率は, 透析開始前と比較して, 透析開始直後および終了後で有意に低下していた. これらの蛋白結合率は, 血清中の非エステル化脂肪酸 (NEFA) と負の相関を示した. CPMの蛋白結合性の強さを示すパラメータlog nKは, 健常人と比較して, HD施行 (透析開始前), CAPD施行および保存期患者でやや低下し, HD施行患老の透析中および終了後で明らかに低下していた. 代表的なNEFAの一つであるパルミチン酸を添加した健常人プール血清を用いた検討において, CPMの蛋白結合率はパルミチン酸の添加量が増すとともに低下した. ワルファリン, ジアゼパム, ジギトキシン加健常人プール血清における検討においては, ワルファリンを添加した血清でCPMの蛋白結合率の明らかな低下が認められた. しかし, 他の2剤の添加ではCPMの蛋白結合率は変化しなかった. 以上の結果より, HD施行中および施行後の蛋白結合性の低下は, 透析時に使用されるヘパリンによりリパーゼが活性化され, 血清中のNEFA濃度が増加し, そして, アルブミン分子上のsite I (ワルファリンサイト) およびその近傍におけるCPMとの競合的置換またはアルブミンへのアロステリック効果により生じたものと思われる.
慢性腎不全患者へのCPMの投与に際しては, 腎排泄能の低下だけでなく, このような蛋白結合性の減少による副作用発現の可能性にも十分留意する必要がある.
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