基礎疾患や薬剤使用のない, 洞機能不全症候群の51歳男性, 標準12誘導心電図は, 心拍数50/分の洞調律で, 左軸偏位を伴う完全右脚ブロックを呈す。His束心電図上, AH時間100msec, HV時間40msecと正常だが, PA時間が160msecと延長していたため, 右房, 冠静脈洞, および左房の各部位での電位記録と電気刺激を行った。洞調律でのP波の始まりから心房各部位までの心房内伝導時間は, 右房側で著明に延長し, 特に上位および中位の心房中隔側では, 心房波の低電位化と, fragmented activityがみられた。一方左房側では全く心房電位が記録されず, また左房側から最大10mAの電気刺激を加えたが, 心房の興奮は生じなかった。1週間後に施行した左房造影および左房圧記録にても左房収縮のないことが確認されたため, 左房は電気的にも機械的にも持続性に静止していると思われた。右房側の心房内伝導異常, 洞機能不全を含め, 本例には広汎な心房の興奮伝導障害が存在すると思われる。
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