アミオダロンの薬理作用の特徴は多彩な分子標的をもつことと, 短期作用と長期作用が異なることである.短期作用として, アミオダロンは内向き電流だけでなく, 外向き電流も抑制する.Na
+チャネル電流 (I
Na) に対する抑制作用は不活性化チャネルブロックが主体であり, 薬物とチャネルの結合・解離キネティクスが速い点でリドカインに類似している.L型Ca
2+チャネルに対してもかなり強い抑制作用がある.アミオダロンは膜電位作動性, リガンド作動性いずれのタイプK
+チャネルに対しても抑制作用をもつ.前者のうちの遅延整流K
+電流 (特にI
Kr) や後者のアセチルコリン感受性K
+電流 (I
K, ACh) などに対しては, 低濃度から強い抑制が現れる.この他, Na/K ATPase抑制作用 (Na
+感受性低下) , 交感神経β受容体密度減少作用, 交感神経終末のノルエピネフリン枯渇作用, 抗酸化作用 (ラジカル除去作用) などもある.長期作用の主体は刺激頻度非依存性のAPD延長と不応期延長である.APD延長の機序についてはI
K (特にI
Ks) とI
to (―過性外向き電流) の電流密度減少が重要である.心筋の交感神経α, β受容体密度を減少させる作用や, Na/KATPase活性を低下させる作用, 血球細胞の炎症性サイトカイン産生抑制作用などもある, アミオダロンの長期投与を行うと, 未変化体だけでなく, その活性代謝産物 (デスエチルアミオダロン) が血漿中および心筋組織に蓄積し, 全体としての薬理作用をいっそう複雑にする.アミオダロン長期投与の心臓作用は甲状腺機能低下と共通点が多い.アミオダロンが甲状腺ホルモン (T3) の作用を妨げ, 心筋に甲状腺機能低下様の状態をつくる仕組みについては, (1) T3またはT4の細胞内取り込み抑制, (2) 核内T3受容体へのT3結合阻害, (3) T3受容体サブタイプ (特に心筋に多く存在するα1, β1) の発現低下などが考えられている.アミオダロンの臨床有用性を妨げている最大の理由は心臓外の副作用 (特に肺毒性) である, このためアミオダロンに匹敵する抗不整脈作用をもち, かつ副作用の少ないアミオダロン類似薬を開発する試みが進められている.
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