クロライド・トランスポーターは, 膜電位の修飾, 細胞内pH, 細胞容積やクロライドのホメオスタシスの調節などの生理的機能に重要な役割を果たすことが以前から知られている.しかし, これまで, 多くの研究に用いられてきた「クロライド・トランスポーター阻害薬」のほとんどは, クロライド・トランスポートの特異的な阻害薬ではなく, 非特異的な作用を有することが明らかになっている.DIDS (4, 4'-diisothiocyanostilbene-2, 2'-disulfonic acid) , SITS (4-acetamido-4'-isothiocyanostilbene-2, 2'-disulfonic acid) , DNDS (4, 4'-dinitrostilbene-2, 2'-disulfonic acid) あるいはDADS (4, 4'-diaminostilbene-2, 2'-disulfonic acid) を含むスチルベン誘導体は, クロライド・トランスポート阻害作用を有するばかりでなく, K
+, Na
+, Ca
2+チャネルなど種々のイオンチャネルに対する抑制作用ももっている.DIDSは, Cl-HCO
3-交換系をプロックする濃度で, 電位依存性あるいはCa
2+-活性化CI
-チヤネル, ATP感受性K
+チヤネル, IP
3感受性Ca
2+チャネル, Na
+チャネルを含むいくつかのイオンチャネルの活性化に影響を及ぼすことが示されている.また, 各種の細胞においてクロライド・トランスポーターの特異的な阻害剤とされている9-AC (anthracene-9-carboxylic acid) は, ラット骨格筋細胞においてミオトニーの誘導物質としての作用があることも報告されている.
したがって, クロライド・トランスポーターには様々な種類があるだけではなく, それに対する阻害薬の作用にも様々な非特異的薬理学的側面があり, これらの阻害薬を用いての生体や細胞生理機能の解析にあっては注意が必要となる.本総説では, クロライド・トランスポーターについての現在までの知見をまとめ, さらにクロライド・トランスポーター阻害薬の特異的, 非特異的な薬理作用について解説することを目的とした, これらの物質を使用して生体や細胞の生理機能を解析するに当たり, 正しい薬理学的解釈が得られることを期待したい.
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