心電図
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29 巻, 1 号
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第25回 日本心電学会学術集会 学術諮問委員会提言シンポジウム
重症心室不整脈に対するリドカイン,ニフェカラント,アミオダロン静注薬の位置づけ
  • 加藤 貴雄
    2009 年 29 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    心室頻拍・心室細動(VT/VF)例の長期予後は,初期薬物治療の成否に依存する.我が国の救急臨床の現場では,VT/VF薬物治療の第一選択薬として多くの場合リドカインが用いられてきたが,近年のニフェカラント静注法の普及に加え,アミオダロン静注薬が市販されたことを受けて治療戦略が大きく変わりつつある.従来中心的に用いられてきたリドカインに関しては,最近の欧米における大規模無作為試験の結果,その有効性に疑問符がつけられている.実際の臨床現場では,リドカインが著効して救命しえた症例は枚挙にいとまがないが,客観的評価としてIII群薬に優るという成績はない.ニフェカラントは我が国でのみ承認されている薬剤で,アミオダロンに匹敵する有効性を示す.ただし,QT延長やtorsades de pointesの発生頻度が高いことが指摘されており,厳密な心電図モニターを必要とするなど使い方にやや熟練を要する.一方,アミオダロンは一昨年我が国でも静注薬が製造承認を受け市販されているが,まだ臨床経験が多くない.欧米とは多少承認用法・用量が異なるほか,心肺蘇生における投与法が確立していないなど,その使用にあたっては症例ごとに十分な注意を払い,使い方に慣れる必要がある.現在我が国では,VT/VFに対する静注薬としてリドカイン,ニフェカラント,アミオダロンの3剤が主として用いられており,いずれも高い有効性を示すが,3者を厳密に比較した研究は行われていない.これらの薬剤をより安全にかつ効果的に使い分けるためには,それぞれの薬物に関する十分な基礎知識と臨床経験をもって,投与中も慎重に経過を観察する必要がある.
  • 栗田 隆志, 野田 崇, 岡村 英夫, 里見 和浩, 清水 渉, 須山 和弘, 相原 直彦, 鎌倉 史郎, 安田 聡
    2009 年 29 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    ニフェカラント静注薬は我が国で開発された唯一の純粋なIKrチャネル遮断薬であり,重症心室不整脈に対する高い抑制効果が示されている.特に急性冠症候群など冠動脈疾患に合併した難治性の心室頻拍・心室細動(VT/VF)に対しては,8割を超える患者において有効性が示された.また,拡張型心筋症など慢性的な病変によるVT/VFに対する効果は若干劣るものの,6割を超える効果が確認された.ニフェカラントに残された最大の問題は,過剰なQT延長によるtorsade de pointesの誘発であろう.この合併症を避けるためには推奨されているよりも少ない量(loadingは0.15~0.2mg/kg,維持量は0.2mg/kg/時)から投与を開始し,モニター心電図による継続した監視と12誘導心電図でのQT時間の観察が必須である.同薬剤の中止または減量の目安はQTc時間が550msecを超えた場合と考えられる.また,アミオダロン静注薬との使い分けや,経口薬への移行などについては今後に残された課題である.
  • 志賀 剛
    2009 年 29 巻 1 号 p. 18-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    アミオダロンは,K+チャネル遮断作用ばかりでなく,Na+チャネルやCa2+チャネル遮断作用,交感神経抑制作用,甲状腺機能修飾作用などを有する.静注薬は,生物学的利用率が50%程度の低い経口薬と異なり,集中治療や緊急治療が必要な患者に確実な薬物投与を可能にした.
    アミオダロン静注の利点は,多彩な薬理作用を有していることと血行動態,心機能に関係なく使用できることにある.その薬理作用は急性作用と慢性作用とでは異なり,急性作用はNa+チャネル,Ca2+チャネルの遮断作用が主で,K+チャネル遮断作用はIKrの抑制が優位といわれ,交感神経抑制作用も絡む.とくに低心機能,心不全例に伴うリエントリー性不整脈の抑制効果が期待されるとともに,トリガー性不整脈の抑制効果も認められる.
    問題点としては,血圧低下と徐脈があげられる.緊急治療を要する例は血行動態が不安定で,なかにはショックをきたす例もある.また,QT間隔など心電図パラメータの変化が乏しく,薬理効果のモニタリングが困難である.さらに,血中アミオダロン濃度は,同じ用量で持続静注を行っていても時間とともに変化が認められ,薬物動態が複雑でその予測が難しいことがあげられる.
  • 草野 研吾, 中川 晃志, 多田 毅, 永瀬 聡, 中村 一文, 森田 宏, 西井 伸洋, 福家 聡一郎, 幡 芳樹, 大江 透
    2009 年 29 巻 1 号 p. 26-33
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    【背景】ニフェカラント抵抗性の重症心室不整脈〔心室頻拍・心室細動(VT/VF)〕に対する静注アミオダロンの効果を自験例で検討した.【方法・結果】基礎心疾患は急性心筋梗塞6例,心筋炎2例,拡張型心筋症1例,肥大型心筋症1例で,心機能がきわめて低下していた症例であった.急性期に大動脈内バルーンポンプ(IABP)あるいは経皮的心肺補助装置(PCPS)などの補助循環が必要とされた症例は7例であった.使用したニフェカラントは,平均で初期投与0.39±0.15mg/kg,持続投与0.34±0.12mg/kgで,QTc時間は平均0.47→0.55secへ延長し,停止効果を7例(70%)に認めたが,頻拍再発抑制効果は認められなかったため,静注アミオダロンに切り替えた.8例では初期から少量持続投与(平均484±166mg/日)が行われた.アミオダロン単独でVT/VF停止効果を80%に,VT/VF再発抑制効果も80%に認められた.心拍数は100→71bpmとニフェカラント前値(95bpm)よりも減少していたが,ニフェカラントによって延長したQTcは0.55→0.47secと使用前値に戻っていた.4例が死亡したが不整脈死は認められなかった.アミオダロン投与にて血圧低下が起きた症例,房室ブロックが悪化した症例がそれぞれ1例認められた.多くの症例で薬物治療以外に,期外収縮を抑制する目的でペースメーカ,鎮静,呼吸管理などが行われていた.【結語】ニフェカラント抵抗性のVT/VF症例に対してアミオダロン静注は有効である可能性が高いが,徐脈・低血圧・房室ブロックといった副作用発現に注意が必要とされる.また,心不全に対する抗不整脈薬以外の治療もきわめて重要であると考えられた.
  • 網野 真理, 吉岡 公一郎, 猪口 貞樹, 児玉 逸雄, 田邉 晃久
    2009 年 29 巻 1 号 p. 34-43
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    院外心肺停止(CPA)症例の救命が困難である一因として難治性の頻拍性心室不整脈の存在があげられる.日本においては,1999年に本邦発のIII群抗不整脈薬であるニフェカラントが発売されるまで,CPAに対してリドカインを使用することが慣例であった.当時,諸外国ではアミオダロン静注薬の使用が一般的であったが,我が国では使用許可がなかったため,ニフェカラントはアミオダロンに代わるIII群抗不整脈薬として大きな役割を担っていくこととなった.その後2007年6月,我が国でもアミオダロン静注薬の使用が認可された.本稿では,これまでの当院における自験例と基礎的研究を中心に,(1)リドカインとニフェカラント併用の問題点,(2)ニフェカラント抵抗性心室細動(VF)への対処法,(3)アミオダロンの除細動効果,について概説する.われわれは院外CPA患者におけるリドカイン抵抗性の心室頻拍(VT)/VFに,日本で初めてニフェカラントを使用した.CPA患者におけるニフェカラント追加投与による除細動効果は院内症例で89%,院外症例で75%と高く,リドカイン使用群に比較して有意に優れていることを報告した.しかしながら,院外CPA患者におけるおよそ25%のVT/VF患者はニフェカラント抵抗性であり,純粋なIKr遮断薬単独での治療限界を知った.そこで心臓選択的な交感神経抑制を目的とした左星状神経節ブロックとニフェカラントを併用したところ除細動効果が改善し,難治性心室性不整脈に対する新たな治療法となる可能性が示された.その後アミオダロン静注薬の発売をうけ,電気的除細動抵抗性のVT/VFを対象にニフェカラントとの前向き比較試験を行った.その結果,両群における除細動効率,入院生存率,生存退院率について有意差はなかった.しかしニフェカラント群においては除細動不可例が散見され,一方アミオダロン群においては心静止例が多く認められたことから,薬理作用の相異が明らかとなった.
  • 安田 聡, 澤野 宏隆, 筈井 寛, 鵜飼 勲, 横山 広行, 嘉田 晃子, 大橋 潤子, 佐瀬 一洋, 野々木 宏
    2009 年 29 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    【背景】ニフェカラントは,我が国で開発されたIII群静注抗不整脈薬である.治療抵抗性の致死的不整脈(心室頻拍;VT,心室細動;VF)に対して適応があり,その投与は心停止に陥った危機的状態において考えられる最大限の除細動治療の一つといえる.ニフェカラントは,純粋なK+チャネル遮断薬であり,心機能への悪影響が少ない,除細動閾値を改善させるなど,同じIII群薬であるアミオダロンとは異なる特性を有している.【目的】院外心停止症例を対象に電気的除細動(DC)補助手段としてニフェカラント使用実態を調査し,その有効性と安全性について検討する.【方法】多施設共同レジストリ研究(国立循環器病センター,千里救命救急センター,三島救命救急センター,大阪大学高度救命救急センター).対象は,(1)3回のDC,エピネフリン静注およびその処置移行のDCに抵抗を示す院外心停止症例,(2)生存例については患者自身より同意を得られた場合(ただし患者の状態によっては家族などの代諾者からの文書同意でも可)とし,生存入院を主要評価項目として検討した.【結果】2006年2月~2007年2月にかけて23症例(男性21例,女性2例,66±12[SD]歳)が仮登録され,うち2症例は同意が得られず,3症例が除外基準に抵触した.解析対象となった18症例(初期ECG波形:VF13例,心静止3例,その他2例)のうち,Dr. Car使用は8例(61%),生存入院は13症例(72%)であった.覚知からニフェカラント使用までの時間は38.5分,使用量は25mg(いずれも中央値)であった.QT延長に伴うtorsade de pointes(TdP)が認められたのは1例のみであった.【総括】院外心停止例に対するニフェカラント投与後のQT延長・TdPの合併は少数であった.今回の多施設共同レジストリ研究では,ニフェカラント投与はDCの有望な補助手段である可能性が示唆された.
原著
  • 戸叶 隆司, 中里 祐二, 土屋 洋人, 林 英守, 佐々木 玲聡, 関田 学, 河野 安伸, 安田 正之, 住吉 正孝, 代田 浩之
    2009 年 29 巻 1 号 p. 50-57
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    コハク酸シベンゾリン(CBZ)の経口単回投与による発作性および持続性心房細動(AF)に対する薬理学的除細動(CV)効果について検討を行った.対象は,左室機能正常のAF患者18例(発作性13例,持続性5例,平均58±13歳,男性13例)である.12誘導心電図にてAFの持続を確認しCBZ 200mgを経口投与,180分以内のCVを成功とし,CV成功率と所要時間,経口CBZによる慢性期洞調律維持率,CV成功例,不成功例の臨床的特徴を検討した.CVは発作性AFでは11例(85%)で成功し,持続性AFでは1例(20%)の成功であった.CVまでの時間は105±47(35~180)分であった.平均12ヵ月の経過観察中,CV成功例の78%でCBZ投与の継続により洞調律が維持されていた.またCV成功例では不成功例に比較し,左房径が有意に小さかった(37±3 vs 43±5mm).AF例に対するCBZ経口単回投与は,AF持続時間が短く左房拡大が進行しない段階で行われば比較的高いCV成功率が期待できる.
Editorial Comment
原著
  • 金子 睦雄, 米山 達哉, 山来 貴, 磯部 律元, 中沢 潔, 南家 俊彦, 岸 良示, 三宅 良彦, 桜井 庸晴, 松本 直樹, 西崎 ...
    2009 年 29 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    開発した合成心電図法を用い,標準12誘導心電図(St-ECG)から高位右側胸部誘導の波形を求め,Brugada型心電図自動検出に有用であるか検討を行った.対象はBrugada症候群と診断された19症例66件のSt-ECG,V1~V3誘導の一肋間上心電図(Hi-ECG),合成心電図法より求めた合成心電図(Syn-ECG)である.Hi-ECGとSyn-ECGではQRS-T部分の相関は0.74以上と高かった.循環器専門医がcoved型(A:J≧0.2mV),saddleback型(B),軽度coved型(C:J≧0.1mV)と判読したのはSt-ECGではそれぞれ29件,24件,0件で,Hi-ECGを加えると47件,19件,0件であった.Brugada型と判読された66件をSt-ECGのみで自動解析すると検出感度は68%(A:24件,B:20件,C:1件),Syn-ECGを加えると検出感度は85%(A:44件,B:11件,C:1件)に向上した.一肋間上の心電図と合成心電図は相関も高く,本法が臨床および検診でBrugada型心電図の自動検出に有用であることを確認した.
Editorial Comment
症例
  • 岡嶋 克則, 嶋根 章, 水谷 和郎, 吉田 雅美, 今村 公威, 林 孝俊, 谷口 泰代, 山田 慎一郎, 岩田 幸代, 松本 賢亮, 月 ...
    2009 年 29 巻 1 号 p. 70-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    器質的心疾患に伴う中隔起源心室頻拍(VT)を有する2症例について検討した.【症例1】56歳男性.2003年9月に冠動脈バイパス術,左室形成術を施行.2006年11月に持続性VTを繰り返した.左室substrate mapでは左室形成縫合部の中隔側は広範に低電位だった.VT中に記録された左室中隔の拡張期電位(DP:0.09mV)での通電は無効で,対側の右室中隔で大きなDP(0.37mV)を認め,通電によりVTは停止した.【症例2】71歳男性.拡張相肥大型心筋症で加療中,2007年2月に持続性VTで入院.臨床的VTは中隔が最早期で,左室中隔のDP(0.06mV)での通電は無効.右室中隔のDP(0.51mV)での通電によりVTは停止した.以上より,虚血性,非虚血性心筋症における中隔起源VTでは左室側で小さなDP(<0.1mV)しか記録できないが,右室側で大きなDPが記録できる例があるため,両室マッピングが重要と考えられる.
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