日本環境感染学会誌
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23 巻, 3 号
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原著論文
  • 小泉 祐一, 木村 健, 畑中 重克, 門谷 美里, 高橋 陽一
    2008 年 23 巻 3 号 p. 175-180
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      近年,抗菌薬関連下痢症(AAD : antibiotic-associated diarrhea)によって死に至る症例が報告されている.そのようなAADの発生要因を調査するため,過去4年間の抗菌薬の使用実態調査とともに,院内で発生したAADの症例数ならびにその原因として推察される抗菌薬の調査を行い,その関連性について検討した.調査期間は2003年度から2006年度の4年間とし注射用抗菌薬の使用量を調査し,さらに同様の期間においてAADの発症患者数を調査した.またAAD発症と抗菌薬の使用との関連性を解析するため,AAD発症患者に使用された抗菌薬を各系統別にし使用率やオッズ比を算出した.
      抗菌薬使用量とAAD発症患者数との相関については,2006年度は抗菌薬使用量が減少したにも関わらず発症患者数は増加していた.2005年度と2006年度の抗菌薬使用の系統別差異を分析するとセフェム系第3世代および,セフェム系第4世代の使用量は増加していた.よって,これらの抗菌薬群の使用がAAD発症に大きな影響を与えているものと推察される.コントロール群とAAD発症患者群との使用抗菌薬の系統については,AAD発症患者群においてセフェム系第3世代,セフェム系第4世代,カルバペネム系の使用率やオッズ比が高いことから,広域な抗菌スペクトルをもつ抗菌薬がAADを発症しやすいことが示唆される.
  • 上木 礼子, 米澤 弘恵, 長谷川 智子, 荒木 真壽美
    2008 年 23 巻 3 号 p. 181-186
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      本研究では,血液曝露の危険性のある看護場面において,手袋着用行動への,看護師の意図とその影響要因を明確にすることを目的とした.
      α県内の総合病院に勤務する看護師1,128名を対象に,4つの血液曝露場面(真空採血管採血場面など)を設定し,手袋着用の行動意図を調査した.さらに,手袋着用の行動意図に影響する要因として,上司/同僚のサポートを含む組織的要因,手袋着用の教育経験を含む個人的要因,リスク認知を含む心理的要因について調査した.影響要因は,手袋着用行動意図の高い高意図群(以下高群)と行動意図の低い低意図群(以下低群)の2群に分け比較した.
      その結果,組織要因では,行動意図高群は低群に比べ有意(p<0.01)に手袋の使いやすさ,上司/同僚のサポート,施設の方針を認識していた.個人的要因では,高群は低群より有意(p<0.01)に手袋着用の教育を受けたと認識していた.心理的要因では,リスク認知と行動への態度,行動コントロール感が有意な正の相関を示した.
      これらの結果より,組織環境が手袋着用をサポートする傾向にあるとき,および個人に教育経験のあるときには,手袋着用への行動意図が高くなることが示された.
  • 小林 恵理, 府川 憲子
    2008 年 23 巻 3 号 p. 187-191
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      当病棟は造血器悪性腫瘍・循環器疾患を主とした混合病棟で,中心静脈カテーテル(central venous catheter以下CVC)は,移植前処置を含めた抗癌剤治療,循環器疾患急性期など多岐に渡って挿入され,挿入期間も長期に及ぶ.当院ではCVCを挿入時絹糸で固定し,ポピドンヨード消毒にて管理していた.しかし,刺入部・絹糸固定部の発赤,ドレッシング剤の剥離など多数の問題が生じていた.またポピドンヨードの乾燥に時間を要し,刺入部観察のためハイポアルコールを使用し,包交に時間と手間を要した.このため,新たに絹糸縫合不要のデバイス,70%アルコールによる消毒,伸縮性・発汗性の強いドレッシング剤を一部の患者に導入した.導入後の2006年2月~5月,CVC関連血流感染(以下CVC-BSI)サーベイランスを行い,手技変更後CVC-BSIの増加がないことを確認した.同年6月より全ての患者に統一した消毒剤,ドレッシング剤を使用し,サーベイランスを継続した(固定法は現状では不統一である).CVC-BSIの発生頻度は,管理手技統一前のポピドンヨード,ハイポアルコール使用例で5件(8/1000),新たな管理手技では0件であった.手技統一後は5件(2/1000)で,CVC-BSIは増加しなかった.絹糸固定例48人中16人に皮膚発赤が起こったが,デバイスによる固定例では皮膚トラブルを生じなかった.
報告
  • —針刺し事故防止対策—
    西村 瑞穂, 渡邉 三恵子, 西迫 富士子, 寺田 喜平
    2008 年 23 巻 3 号 p. 192-195
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      これまで,本院では使用済み自己注射針は病院が廃棄するので,使用済み針をペットボトルや紙パックなどに入れて持って来るよう患者に指導していた.2006年7月,使用済み自己注射針を薬袋に入れて持参した患者から受け取った看護師が,薬袋を突き破った針で針刺し事故を経験した.これを契機に,在宅で使用した自己注射針の回収方法の改善を行なった.まず,当院における問題点の検討を行ったところ,在宅使用自己注射針に対して職員のリスク認識が低かったこと,耐貫通性のないペットボトルや紙パックなどを使用していたこと,患者への説明が不足していたこと,病院内で様々な職種の人がそれぞれの場所にて直接手で受け取っていたこと,自己注射針が多種類あること,廃棄方法や回収場所が統一されていなかったことなどに問題を認めた.関連した針刺し事故0を目指して,すべての自己注射針について病院全体で統一した対策をとること,病院から安全な自己注射針の廃棄容器を提供すること,職員が直接手で受け取らず患者に回収場所に持参してもらうこと,安全な廃棄方法の変更について患者へ説明と協力をお願いすること,また医師や看護師,職員への啓発,各科病棟との連携について改善を行った.この方法へ変更後,在宅使用済み自己注射針の回収時の針刺し事故は発生しておらず,有効な方法と思われた.
  • 本多 領子, 野村 賢一
    2008 年 23 巻 3 号 p. 196-200
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      抗菌薬の適正使用とは,宿主の病態に応じ,適切な抗菌薬を選択し,適切な用量を,適切な用法で,適切な期間にわたり抗菌薬投与を行うことである.抗菌薬適正使用の方法としては,抗菌薬使用届出制や使用許可制を取り入れている病院もあるが,JA愛知厚生連渥美病院(以下,当院)では,2004年4月から医師に処方の制限をすることなく,院内メールを活用し,抗菌薬適正使用に取り組んできた.Infection control team (ICT)は,各病棟のリンクナースより症例のプレゼンテーションを受け,病棟ラウンド終了後,当院が定めた抗菌薬について,使用に関するコメント表を作成し,医師全員にメールしている.抗菌薬の選択不適切,投与期間が長い,抗菌薬使用前に培養検査がされていない等,適正使用でないと判断したコメントを記載した症例は,院内メールを開始した2004年度は79件あったが,2005年度は30件に減少した.2006年度についてはTDM未実施が7件あったため,32件であった.一方,抗菌薬の使用量では,セフピロム,イミペネム/シラスタチン,パニペネム/ベタミプロンの使用本数は大きく減少した.院内メールを活用した抗菌薬適正使用取り組みは,全医師にメールすることでホーソン効果(Hawthorne effect)が働き,有効な方法であることが示唆された.
  • —指定抗菌薬使用届出制導入後におけるMRSA陽性患者数の推移も含めて—
    久保 裕子, 酒井 義朗, 有馬 千代子, 靏田 美恵子, 三宅 美穂, 升永 憲治, 本田 順一, 渡邊 浩
    2008 年 23 巻 3 号 p. 201-205
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      久留米大学病院では2001年5月に感染制御チーム(以下,ICT)が発足し,積極的な病院感染対策を開始した.また「指定抗菌薬使用届出制」の導入,「抗菌薬使用マニュアル」作成,クリニカルパス(以下,CP)による予防的抗菌薬の見直しを行い,抗菌薬適正使用に取り組んだ.その結果,注射用抗菌薬の使用量が減少した.病棟毎の使用量調査では重症患者や免疫低下状態の患者の多い病棟での使用量が多かった.methicillin resistant Staphylococcus aureus (以下,MRSA)陽性患者数は年々減少し,抗MRSA薬の使用量も減少した.抗MRSA薬の病棟毎の使用量調査では,重症患者や免疫低下状態の患者の多い病棟での使用量が多く,MRSA発症者が多いことが推測された.免疫低下状態の患者の多い病棟では,第4世代セフェム系薬,カルバペネム系薬の使用量も多く,グラム陰性菌感染を含む難治性重症感染症の発症の多いことも示唆された.抗菌薬使用状況やMRSAなど抗菌薬耐性菌の検出状況を病棟毎に調査することは,抗菌薬適正使用を推進するうえで有用と考えられる.
  • 徳井 健志, 佐々 弥栄子, 田村 秀代, 川島 誠
    2008 年 23 巻 3 号 p. 206-212
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      抗菌薬における耐性菌の発現防止には,薬剤師による抗菌薬適正使用の確立に向けた積極的な参画が必要とされる.そのためには医師の抗菌薬使用に対するコンセプトを把握する必要があると考え,医師の抗菌薬使用時の基本的な考え方についてアンケート調査を行った.その結果,73%の医師が添付文書に基づいて使用しているものの,67%の医師が細菌培養・感受性検査を行っていないことが判明した.その理由は,38%の医師が手術・検査の予防投与のため,26%の医師が外来・救急外来などの軽症例のためと回答している.また,投与期間としては3日間または7日間と決めている医師が62%を占めていたが,21%の医師は明示していなかった.一方,感受性検査結果を待たずに第4世代セフェム抗菌薬やカルバペネム系抗菌薬を使用するとの医師が52%を占めていた.本結果を踏まえ,我々は抗菌薬使用適正化小委員会において,抗菌薬の適正使用を目指した医師への教育方法を検討する予定である.
  • 舩越 真理, 森 佳寿, 村上 稔子, 向井 忠晴, 山城 裕子, 大野 聖子
    2008 年 23 巻 3 号 p. 213-215
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      京都第一赤十字病院感染対策チーム(以下ICT)は抗菌薬の適正な投与法の実践のため,2006年6月に各抗菌薬の具体的推奨投与法を示したもの(抗菌薬推奨投与法)をイントラネットで全職員に公開した.さらに2006年10月から導入された薬剤のオーダーリングシステムにこの抗菌薬推奨投与法を組み込み,適正な使用法が簡単にオーダー可能とした.この対策の効果を判定するため,SBT/ABPCを例にとり,対策導入前後での抗菌薬の使用実態調査を行った.その結果,1日3, 4回投与が2006年5月には12%だったのが2007年2月には65%に上昇した.薬剤オーダーリングシステムを使った戦略の有用性が証明された.
  • 斉藤 容子, 石角 鈴華, 高橋 俊司, 上田 晃, 川本 典子, 寒河江 英子
    2008 年 23 巻 3 号 p. 216-220
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      市立札幌病院静療院が運営する,第一種(医療型)自閉症児施設のぞみ学園において,2005年12月,ノロウイルス胃腸炎のアウトブレイクが発生した.6日間で,入所者16名中12名,職員31名中4名が感染した.市立札幌病院ICTに要請があり,静療院感染対策委員会と合同チームを設置し対応に当たった.感染経路は,外泊中に感染した入所者により,本ウイルスが園内に持ち込まれ,閉鎖環境内で接触を主体としたヒト—ヒト感染によって拡大したと推定された.本園入所者は,重度の精神遅滞合併者が多く,意志疎通や衛生行動が困難な上,病室隔離や,職員の防護具装着が入所者の精神面に影響するなどの感染対策上の障害があった.対策の目標を隣接する静療院への感染拡大と職員の二次感染阻止におき,職員の防護具はやむを得ず最小限にせざるを得なかったが,本園の早期閉鎖,人の移動・交流制限に加え,園特有の対策として,床を含めた日に複数回の環境清掃・消毒,園外へ出る職員の手と衣服のバリアなどを付加した.対策開始後まもなく,防護不足や手指衛生などの技術的破綻が誘引と思われた職員感染者が出たが,4日目以降は制御し,園限局のアウトブレイクで速やかに終息した.その要因として,これらの感染対策の複合的な効果の他,合同対策チームの設置,連携窓口の一本化,報告・指示体制などを速やかに構築し,対策の決断と導入が迅速に行われたためと考えられた.
  • 河口 忠夫, 尾家 重治, 神谷 晃
    2008 年 23 巻 3 号 p. 221-223
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      7日間ごとに消毒を行っていたジェットネブライザーで用いられていた吸入液の残液の微生物汚染について調べたところ,26検体中13検体(50%)が102~107 cfu/mLレベルの汚染をうけていた.これらの主な汚染菌はBurkholderia cepacia, Acinetobacter haemolyticus, Pseudomonas aeruginosa, Pseudomonas fluorescensおよびAcinetobacter baumannii complexなどであった.一方,ジェットネブライザーの消毒を24時間ごとに変更後に,ジェットネブライザーで用いられていた吸入液の残液の微生物汚染について調べたところ,調べた21検体いずれも<10 cfu/mLであった.
  • 小原 知美, 石川 清仁
    2008 年 23 巻 3 号 p. 224-226
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/16
    ジャーナル フリー
      ネームホルダーストラップの導入後6ヶ月目にMRSAの汚染調査を行った.当院職員の各職種から無作為に100名を選出しスタンプ培地で調査した.病棟看護師45名中6名(13.3%),外来看護師15名中2名(13.3%),事務職員5名中1名(20.0%),医師16名中2名(12.5%)からMRSAが検出された.MRSA検出数はMRSA感染・保菌割合が高い病棟で多い傾向にあった.また褥創ケアにかかわる看護師から検出されたMRSAの菌数は顕著に多く,ネームホルダーストラップの汚染危険度はMRSA患者との接触回数,接触の密度と密接な関係があると考えられた.
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