日本環境感染学会誌
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24 巻, 2 号
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原著論文
  • 岩沢 篤郎, 田澤 節子, 阿南 晃子, 宇賀神 和久, 中村 久子, 菊池 敏樹
    2009 年 24 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      同時期にインターフェロン-γ遊離試験キット(IGRA)と細菌学的検査を実施し分離同定し得た34例において,Mycobacterium tuberculosis陽性・IGRA陽性が14例,M. tuberculosis陽性・IGRA判定保留が5例,M. tuberculosis陽性・IGRA陰性が2例(抗癌剤治療中)であった.M. tuberculosis陰性・IGRA陽性が3例あり,M. avium, MAC, M. intracellulareが分離されていた.M. tuberculosis陰性でIGRA陰性は8例,判定保留・判定不可が各1例であった.また,今回の検討期間中,判定不可の結果が多かったために,次の検討を行った.実験的に単核球数を濃縮したが,測定値Mの値は変化しなかった.また,抗原刺激後の培養時間を長くしたが,逆に低値を示した.抗原刺激を倍量にすると測定値M値の上昇が認められた.
      以上,ESAT-6, CFP-10抗原,陰性コントロール,陽性コントロールの4つの吸光度の値で総合的に判断し,IGRAの結果のみで活動性結核症の判定はすべきではなく,診断の補助的なものにすべきと考えている.
  • 山本 満寿美, 狩山 玲子, 光畑 律子, 公文 裕巳, 千田 好子
    2009 年 24 巻 2 号 p. 85-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      A県3施設で2001年から2006年の6年間に入院患者より分離されたメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生緑膿菌123株のバイオフィルム形成能と薬剤耐性状況を検討し,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法による分子疫学的解析を行った.材料別内訳は,尿79株,喀痰10株,便10株,膿5株,血液2株,その他17株であった.123株中,106株(86.2%)がイミペネム(IPM),シプロフロキサシン(CPFX),アミカシン(AMK)の3剤に耐性を示す多剤耐性緑膿菌(MDRP)であった.バイオフィルム高度形成群(OD570≧1)は29株(23.6%),中等度(1>OD570≧0.5)47株(38.2%),低度(0.5>OD570≧0)47株(38.2%)であった.123株のバイオフィルム形成能の平均OD570値は0.71±0.04 (mean±SE)であり,比較対象として用いたMBL非産生緑膿菌122株の0.28±0.04よりも有意に高い形成能を示した.バイオフィルム高度・中等度形成群76株のうち,MDRPは71株(93.4%)で,尿由来株は57株(75.0%)であった.MBL産生緑膿菌123株のPFGE解析において同一株はなかったが,類似係数85%の株を12組認めた.分離日は同日ないし4日から約3ヶ月の隔たりがあった.バイオフィルム形成能が高い菌株は環境中に長期に生息する可能性が高い.MBL産生緑膿菌やMDRPの伝播・拡散防止のためには,徹底した標準予防策の実施とバイオフィルムを形成させないための医療・療養環境の管理が重要である.
  • 野中 栄治, 中村 博昭, 岩嵜 徹治, 小林 寅喆, 辻 明良
    2009 年 24 巻 2 号 p. 93-99
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      院内感染対策として様々な抗菌性繊維材料が用いられており,抗菌性と安全性を両立させた抗菌性繊維材料が望まれている.今回,我々は口腔殺菌薬として使用されている塩化セチルピリジニウムと,無機系抗菌物質である亜鉛をカルボキシメチルセルロースに化学結合させたカルボキシメチルセルロース-セチルピリジニウム/亜鉛(CMC-CP/Zn)繊維布を開発し,その抗菌活性をCMC-CP繊維布,CMC-Zn繊維布を対照にStaphylococcus aureus ATCC25923, Staphylococcus epidermidis ATCC12228, Enterococcus faecalis ATCC33186, Escherichia coli ATCC25922, Serratia marcescens ATCC8100,及びPseudomonas aeruginosa ATCC33348について検討した.その結果,グラム陽性のS. aureus, S. epidermidis, E. faecalisに対し,CMC-CP/Zn繊維布では,作用1分間で接種菌量から生菌数1.3 log (cfu/布)以下まで減少し,CMC-CP繊維布と同様に強い短時間殺菌効果が認められた.また,グラム陰性のE. coli, S. marcescens及びP. aeruginosaに対するCMC-CP/Zn繊維布の短時間殺菌効果では,グラム陽性菌と比較して弱いものの,作用10~30分間で接種菌量から生菌数1.3 log (cfu/布)以下まで減少した.
      薬剤耐性菌を含む臨床分離株7菌種53菌株に対するCMC-CP/Zn繊維布の抗菌性は,標準株とほぼ同等の強い抗菌効果が認められた.
  • 坂本 史衣
    2009 年 24 巻 2 号 p. 100-105
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      稼動病床数520床の臨床研修指定病院において2002~2007年に採用された安全装置付き翼状針,静脈留置針,ランセット,埋込みポート穿刺針が,針刺し発生率に与える影響について検討した.471件の針刺しが報告され,中空針によるものが60%以上を占めた.安全装置のある器材(安全器材)と無い器材(従来品)による針刺し発生率を比較すると,翼状針(11.0対25.1/10万本,p<0.01)と静脈留置針(1.0対6.6/10万本,p<0.01)で安全器材の発生率が有意に低く,安全器材は,翼状針(RR=0.44, 95%CI=0.31~0.61)と静脈留置針(RR=0.16, 95%CI=0.05~0.50)の針刺しリスクを低減することがわかった.各年の全器材本数に占める安全器材の割合と針刺し発生率の相関をみると,翼状針では強い負の相関を(r=−0.94, p<0.01),静脈留置針では中等度の負の相関(r=−0.53, p=0.15)を認めた.安全器材の使用期間が1年以下のランセット(0.0対0.8/10万本,p=0.42)と埋込みポート穿刺針(0.0対41.2/10万本,p=0.19)は,安全器材による針刺し発生率が従来品より低かったが,有意差はなかった.安全器材は針刺し予防に有効だが,採用後は従来品に代わり,安全器材の使用を推進することが予防効果を高めることが示された.
短報
  • 吉田 順一, 湯川 順子, 松原 伸夫
    2009 年 24 巻 2 号 p. 106-108
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      手術部位感染(SSI)を比較する場合,リスクを調整した標準化感染比(SIR)が指標となる.米国疾病予防管理センター(CDC)の公開ソフトウェア等でSIRを検定し,SSIを比較する方法を提言する.
      観測SSI数(SSI観測)を予測SSI数(SSI予測)と比較する際,リスク度の総和であるRisk Index Category (総リスク度)にて調整する.SIR=SSI観測/SSI予測にて,分母SSI予測は当該術式の総リスク度別にSSI割合(%)を0.01倍し,全例に合計する.比の検定は二項分布をz変換して正規分布に近似させるが,近似上の問題により目安として,(観測数)×(予測確率)=SSI予測≧5または<5により2分することが勧められる.
      SSI予測≧5の場合はz検定を行い,ExcelTMにてp値を容易に得られる.SSI予測<5の場合は二項検定またはPoisson検定を行い,共にCDCの無償ソフトウェアEpi InfoTM 6が日本語コンピュータも容易に使用できる.
      なお総リスク度毎に検定を繰り返す多重検定は,第1種過誤(帰無仮説を“正しいのに棄てる過誤”)となりえるが,これは上記の一括的な検定で補える.
  • 吉田 志緒美, 富田 元久, 露口 一成, 鈴木 克洋
    2009 年 24 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      2007年12月1日から2008年1月31日までの期間に,外来受診患者の喀痰材料から分離されたMycobacterium chelonae 20株と院内環境から分離されたM. chelonae 2株について,パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)およびenterobacterial repetitive intergenic consensus PCR (ERIC-PCR)を用いた遺伝子多型性解析を実施した.すべての患者由来株は,院内環境由来株のうち,外来に設置されている服薬用飲料水供給装置由来株と同じ遺伝子型を持つM. chelonaeと判定された.したがって,服薬用飲料水供給装置を汚染源としたM. chelonaeによる疑似アウトブレイクの可能性が強く示唆された.
報告
  • 鈴木 高弘, 伊藤 章, 佐々木 由香, 佐々木 隆, 篠永 正道, 廣井 みどり, 石井 良和, 山口 惠三
    2009 年 24 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      当院において,膵臓がん患者と急性膵炎患者よりバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が2006年5月から6月に2症例から分離された.分離されたVREをパルスフィールドゲル電気泳動法により解析した結果,同一の遺伝子パターンを示し,病棟内で伝播した可能性が高いことが示唆された.さらなる伝播を防止するために,インフェクションコントロールチーム,リンクナース,病棟職員が連携して,接触感染予防策の徹底,担当看護師の専従化,感染性廃棄物用足踏み式ゴミ箱の導入などを実施した.その結果,新規にVREが検出されることはなかった.また今回の事例から,vancomycin以外の抗菌薬の使用が,VREによる感染の一因となる可能性が示唆された.
  • 西岡 達也, 岡本 和恵, 甲斐 幸代, 井澤 初美, 但馬 重俊, 服部 英喜
    2009 年 24 巻 2 号 p. 119-122
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      抗methicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA)薬におけるtherapeutic drug monitoring (TDM)システムの導入や抗MRSA薬の使用鑑査体制の構築によるinfection control team (ICT)活動を行い,抗MRSA薬の適正使用推進を試みた.結果,抗MRSA薬のTDM実施率は年度の経過とともに有意な上昇を認め,2007年度の実施率は55.7%であった.抗MRSA薬の総使用量は,年度の経過とともに減少傾向を示し,2007年度の使用量は2005年度に対して29.8%の減少であった.また,製剤別の使用量については,vancomycin (VCM)の使用量減少が大きく,2007年度の使用量は2005年度に対して53.2%の有意な減少であった.これらの結果より,当院でのICTによる抗MRSA薬の適正使用に向けた取り組みは,抗MRSA薬のTDM実施率向上をもたらし,病院全体での抗MRSA薬の使用量減少に効果的であったと考える.
  • 島田 泉, 坂野 昌志, 雲井 直美, 中野 学, 伊藤 眞奈美, 近藤 由里子, 権野 さおり, 長嶋 美由紀, 井端 英憲
    2009 年 24 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      看護師を対象に携帯用擦式手指消毒薬の効果について検討した.携帯用擦式手指消毒薬導入群・非導入群を設定し,4週間毎で交代するクロスオーバー法で使用量の変化を指標に検討した.また,擦式手指消毒薬使用量に差がでる要因を,手指消毒を行う行動パターンの調査から推測した.さらに,擦式手指消毒薬の使用量と手荒れの関係について検討した.その結果,擦式手指消毒薬の使用量は携帯用擦式手指消毒薬を導入している時の方が増加し,擦式手指消毒薬使用の啓蒙効果が示された.しかし,どのような時に手指消毒が必要かなどまだ十分に理解しているとは言い難く,適切な場面での手指消毒が統一して行われていない可能性が示唆された.手荒れ評価として,皮膚レプリカ法,皮膚テープストリッピング法とアンケートを実施したが,手指消毒回数と手荒れの間に相関はなく,必ずしも使用量の増加が手荒れを増加させるとは限らない可能性が示唆された.
症例報告
  • 押川 志津子, 境 美代子
    2009 年 24 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
      クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が疑われる患者が大腿骨頸部骨折の手術目的で入院となり,初めてCJD患者を想定した人工骨頭置換手術を経験し,感染予防対策上重要と思われる幾かの具体的な問題点に遭遇した.今回の手術を前提にした入院受け入れの決断には,メーカーからの借用手術器具の汚染処理などに関する約束書が取り交わせたことが大きな要素であった.以後手術まで2日間に最低限使用する鋼製器械の選択と使用後の処理方法及び手術室環境面に関し,CJD手術対応における消毒滅菌方法を含めたマニュアルを急遽作成した.2002年の厚生労働省マニュアルではCJD患者に使用の器械処理にはドデシル硫酸ナトリウムや蟻酸の薬液処理が完全であるとしているが,小規模病院ではこれら特殊薬品で処理を行う設備が無く,また金属の腐食性を考え,当院購入器具は余儀なく焼却廃棄を選択した.一方借用器械は,次亜塩素酸ナトリウム液120分浸漬後,さらに高圧蒸気滅菌(132℃,1時間)で処理を行い返却した.経済面では器械処理作業に通常の5倍の時間を要し,消毒薬の大量使用や器械の廃棄などを考えると病院の負担は大きいといえる.2008年「プリオン病感染予防ガイドライン」では,CJD二次感染リスクの低減のため,CJDの感染性が高いハイリスク手技に用いられた手術器械の処理方法が提示された.整形外科領域では脊椎手術についてハイリスク手技対応で実施すると提示されていることについては,病院としての対応について今後さらに検討することになる.
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