日本環境感染学会誌
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24 巻, 6 号
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原著論文
  • 三宅 典子, 下野 信行, 前原 依子, 権藤 多栄, 長崎 洋司, 内田 勇二郎, 村田 昌之, 林 純
    2009 年 24 巻 6 号 p. 381-387
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      Stenotrophomonas maltophiliaは悪性疾患や長期入院,広域抗菌薬投与などの危険因子をもつ免疫抑制患者においては,一旦発症すると致死的となる日和見病原体として重要である.2007年6月,当院の無菌病棟において,S. maltophiliaのアウトブレイクを認めた.病棟内の環境調査を行った結果,風呂場の椅子,シャワーヘッド,自動おしぼり機から同菌が分離された.患者検体より分離されたS. maltophilia 4株と環境調査で分離されたS. maltophilia 4株に対して分子疫学的解析を行ったところ,血液より分離された2株および自動おしぼり機内の貯留水から分離された株が一致し,同一株と考えられた.以上の結果より今回のアウトブレイクには自動おしぼり機が関与していると考えられた.またこの事例をきっかけにその他の病棟に設置されていた自動おしぼり機内の貯留水についても調査した結果,多種類の菌種が分離された.他の病棟での医療関連感染は確認できなかったが,病棟内での水を使用する器具に対しては十分な注意が必要であると考えられた.
  • 清水 優子, 牛島 廣治, 北島 正章, 片山 浩之, 遠矢 幸伸
    2009 年 24 巻 6 号 p. 388-394
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      ヒトノロウイルス(HuNoV)は,未だ細胞培養系が確立されていないため,各種消毒薬のHuNoVに対する有効性について十分な知見が得られていない.そこで,HuNoVに形態学的にも遺伝学的にも類似し細胞培養可能なマウスノロウイルス(MNV)を用い,塩素系およびエタノール系消毒薬の不活化効果をTissue Culture Infectious Dose 50% (TCID50)法を指標に評価した.次亜塩素酸ナトリウムおよびジクロルイソシアヌル酸ナトリウム(塩素系消毒薬)は,200 ppm, 30秒間の接触でMNVは99.998% (4.8 log10)以上不活化して検出限界以下となり,125 ppmの場合でも30秒間で99.99% (4 log10)以上の不活化が認められた.70 v/v%エタノール,0.18 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有72 v/v%エタノールおよび0.18 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有75 v/v%エタノールは,30秒間の接触で検出限界以下までウイルス感染価を低下させた.
      本研究で対象とした2種類の塩素系消毒薬は,いずれも終濃度125 ppmで高いMNV不活化効果を示した.また,3種類のエタノール系消毒薬については,エタノール濃度70 v/v%以上で使用すれば,いずれも短時間でMNVの不活化が達成できることが分かった.以上の結果から,これらの市販の消毒薬はHuNoVに対しても高い不活化効果を有することが期待され,ノロウイルス感染症の発生制御および拡大防止の感染対策を目的とした環境用消毒薬として有用であると考えられる.
  • 小井土 啓一, 島田 知子, 平松 玉江
    2009 年 24 巻 6 号 p. 395-399
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      手術部位感染予防には抗菌薬の予防投与が重要である.当院感染対策チームでは,手術時のcefazolin(CEZ)およびcefmetazole(CMZ)の3時間毎投与を推奨してきたが,長時間手術では追加投与が適切に行われていないケースがみられた.そこで,抗菌薬供給方法を処方せんによる個人セット払いから手術室への定数配置へ変更し,追加投与実施状況の改善を試みた.併せて術前・術中投与の指示出し用スタンプを各病棟に配置した.供給方法変更前(2005年8月),供給方法変更後(2006年8月),ならびに電子カルテ稼動後(2007年8月)の3期間において,6時間を越える手術での抗菌薬術中追加投与の実施割合を調査した.各期間における対象件数と平均手術時間は2005年45例483分,2006年46例524分,2007年44例510分であった(p=0.46).必要投与回数の総和は各期間でそれぞれ99回,114回,106回であったのに対して,実投与回数の総和(実施率)は20回(20.2%),101回(88.6%),104回(98.1%)と,供給方法変更後に増加した(p<0.001).なお,2007年における前投与からの投与間隔は平均181分であり,210分を超えたのは全104回中2回のみであった.抗菌薬の供給を手術室定数配置に変更するなどの介入によって,抗菌薬術中追加投与の実施率を劇的に改善することができた.
短報
報告
  • 木村 丈司, 甲斐 崇文, 西海 一生, 高橋 尚子, 佐々木 秀美
    2009 年 24 巻 6 号 p. 405-410
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      抗菌薬適正使用の推進は院内感染対策において最も重要な課題の一つである.当院では2006年4月より第4世代セフェム系,カルバペネム系,ニューキノロン系抗菌薬と抗MRSA薬を対象として使用届出制を開始した.使用届出制の開始後,特に第4世代セフェム系,カルバペネム系抗菌薬の使用量が減少し,また投与期間が14日以上に及ぶ長期投与の処方件数も減少した.また2008年4月からはpharmacokinetics/pharmacodynamics理論に基づく抗菌薬の投与方法に関する資料の配布を開始した.資料の配布開始以降,cefozopran (CZOP)では1000 mg×3回/day及び2000 mg×2回/dayの投与方法が,meropenem (MEPM)では500 mg×3回/dayの投与方法がそれぞれ増加した.緑膿菌のCZOPに対する耐性株率は2005年度から2006年度で一時増加したが,2007年度では2005年度と同程度まで減少し,またMEPMに対する耐性株率は年々減少が見られた.このように,抗菌薬適正使用の推進及び抗菌薬耐性菌の増加防止において,infection control teamによる積極的な介入は重要であると考えられる.
  • 吉澤 裕義, 三好 幸三, 原 敏博
    2009 年 24 巻 6 号 p. 411-416
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      当院職員530名を対象として麻疹抗体価を測定し,年齢階層別に解析した.測定はゼラチン粒子凝集法(PA法),酵素免疫蛍光法(ELFA法)でおこなった.この2法により得られた結果には相関が見られたので,麻疹抗体価測定には安価で簡便なPA法で十分と考えられた.
      PA法による抗体価を用いて感染防御能別に年齢の平均値を求めた.抗体陰性群(8倍以下),抗体陽性だが感染防御は出来ない群(16倍~64倍),感染防御可能群(128倍以上)の3群に分けると,それぞれ27.29±5.35歳,41.05±13.69歳,37.70±11.63歳であり,抗体価陰性群は有意に年齢が低かった.
      ELFA法による麻疹抗体価の平均値は,29歳以下群では1.83±0.94であり,30歳以上群の2.60±1.12に比較して有意に低値であった.これは,29歳以下は麻疹予防接種が定期接種とされた年代であるので,ワクチン接種との関連が示唆された.
      当院職員の中にも,二次性ワクチン不全と考えられる職員が見つかった.現在18歳以下は麻疹ワクチン2回接種となったが,19歳以上は2回目が定期接種の対象となっていない.二次性ワクチン不全者を可能な限り減らすために,医療機関就職時に抗体検査をおこない,必要な場合はワクチン接種を実施し,「感染を受けない,感染源とならない」準備をしておく必要がある.
  • 前田 修子, 滝内 隆子, 小松 妙子
    2009 年 24 巻 6 号 p. 417-424
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      我々は“訪問看護師を対象とした感染管理教育プログラム”全12回のうち,第8回『膀胱留置カテーテル挿入・管理』研修会を開催し,参加者の学習効果を検証した.対象は,2ヶ所の訪問看護ステーション訪問看護師20名とした.研修会は,それぞれ平日の夕方1時間で開催した.参加者の学習効果は,膀胱留置カテーテル挿入・管理に関する感染管理の知識・技術27項目の修得度を研修会前(「事前修得度」)と研修会後(「事後修得度」)に調査し,その変化を分析した.なお,項目毎の修得状況は,{全くできない}1点~{十分できる}5点とし,平均値を算出し,事前と事後修得度の比較にはWilcoxonの順位和検定,各修得度と訪問看護師属性との比較には,Spearmanの順位相関係数を用いた.27項目の修得度は,事前修得度3.6点から事後修得度4.6点に上昇した.項目別では全項目の修得度が上昇し,26項目で統計学的有意差がみられた.訪問看護師属性との比較では,事前修得度では10項目が看護職経験年数で正の相関がみられ,事後修得度では2項目が訪問看護経験年数で正の相関がみられた.研修会は膀胱留置カテーテル挿入・管理に関する感染管理の知識・技術を向上させる上で効果的であったと考えられた.ただし,修得状況があまり上昇しなかった項目は,今後,教育方法の検討が必要である.
  • 寺島 朝子, 竹村 知子, 前澤 佳代子, 小林 典子, 木津 純子
    2009 年 24 巻 6 号 p. 425-431
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/10
    ジャーナル フリー
      手洗いは感染制御の基本的手段であり,臨床実習に臨む薬学生は事前に手洗いの正しい方法を身に付けておくことが望まれる.本学薬学部では手洗い検査器を3年生後期の男女学生200名を対象に手洗い実習を行い,この実習の効果について検討を行った.
      学生は手指に専用の蛍光塗料を塗布し,石けんと流水で日常行っている手洗いを実践した後,蛍光塗料の洗い残しをスケッチした.その後手指衛生の重要性,手洗いの種類や目的,衛生的手洗い手順などについて講義と演習を行った.次に,学生は衛生的手洗いの手順に従って手洗いを行った後に同様に洗い残しのスケッチを行った.評価はスケッチに基づき,部位ごとに洗い残しが確認された人数を集計し,講義前後で比較した.また,実習の終了時に学生の手洗いに関する意識を調査するためアンケートを行った.
      本実習は短時間にも関わらず,学生は汚れが落ちにくい部位や自分の癖を意識して衛生的な手洗いに取り組むことができた.今後の6年制薬学教育の中では実習内容をさらに充実させるとともに,実習を繰り返し行うことで,薬学生の手指衛生に対する意識を高め,手洗いの習慣づけを行う予定である.
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