日本環境感染学会誌
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25 巻, 2 号
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総説
原著論文
  • 岡本 一毅, 奥西 淳二, 渡邉 幸彦, 西原 豊, 池田 雅裕
    2010 年 25 巻 2 号 p. 68-72
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      現在,アルコールベースの消毒薬は手指衛生において重要な役割を担っている.しかし,臨床的なニーズを充足できていない点も有している.その一つとして,近年その感染拡大が社会問題となっているノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスに対する薬効が挙げられる.今回,我々はアルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた処方を用いノンエンベロープウイルスに対する薬効(in vitro)と皮膚刺激性(in vivo)に着目した検討を行った.アルコールに有機酸を添加した処方では,ネコカリシウイルスに対して接触時間30秒以内に4 log以上の不活化効果を示したが,アデノウイルスに対しては消毒用エタノールと同程度の薬効であった.一方,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を添加した場合,ネコカリシウイルスとアデノウイルスの両ウイルスに対して30秒以内に4 log以上の不活化効果を示し,消毒用エタノールよりも優れた薬効を示した.また,ウサギ皮膚を用いてこれら処方の皮膚刺激性試験を実施した結果,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた場合,刺激をほとんど示さないことが明らかとなった.このように,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた処方は,ノンエンベロープウイルスに対して従来にない有効性を示すと共に,スキンケアの観点から皮膚への刺激にも配慮した新しいアルコールベースの消毒薬を創出できる可能性が示唆された.
  • 吉川 和朗, 満田 正樹, 山崎 勝利, 上門 康成
    2010 年 25 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      清潔間欠導尿を施行している排尿障害患者53例を対象に,導尿や消毒の状況についてアンケート調査を行った.また,尿および導尿時に使用している消毒綿の細菌培養検査を行い,尿路感染症との関連性を検討した.1年間に53例中40例(76%)に尿路感染症がみられ,年齢,1日の導尿回数,カテーテル保存液交換の期間が有意な因子であった.消毒綿の培養検査を行った患者37例中17例で菌が検出され,これら17例中2例の検出菌が尿培養の検出菌と一致しており,消毒綿の汚染が尿路感染症に寄与する可能性が示唆された.1年間に53例中35例(66%)に対し抗菌薬が投与されており,35例中21例(60%)は2週間を超える長期間抗菌薬を投与されていた.抗菌薬投与患者35例中14例で投与薬剤と同系統の抗菌薬耐性菌が検出された.耐性菌検出14例中7例が投与期間2週間以内であり,短期間の投与でも耐性菌が発生することが示唆された.これらの所見より,清潔間欠導尿施行患者の尿路感染症予防には適切な導尿法,カテーテル管理の指導が重要であると考えられた.さらに適切な指導で尿路感染症を予防することにより,抗菌薬投与を減らし,耐性菌の発生を予防する必要がある.
  • 佐藤 法仁, 渡辺 朱理, 苔口 進, 大原 直也
    2010 年 25 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      ATP測定法を用いて,歯科医師が着用している歯科用ゴーグルと眼鏡の清浄度調査を実施した.
      歯科診療の環境で歯科用ゴーグルのレンズ部表面は,診療開始前は平均11 RLU(Relative Light Unit)であったが,診療1時間後には平均11,638 RLUに増加していた(t検定:p<0.05).これは比較対象とした勉強会1時間後の平均値46 RLUよりも,有意に清浄度が悪化していた(p<0.05).また,眼鏡のレンズ部裏面は,診療開始前は平均7 RLUであったが,診療1時間後には平均306 RLUに増加していた.これは,歯科用ゴーグルの同部分より57 RLUも有意に清浄度が悪化していた(p<0.05).
      歯科医師が眼部の感染予防対策としては,眼鏡は防護具としては完璧なものではなく,歯科用ゴーグルを着用することが望ましい.また,ATP測定法による清浄度調査は簡便で迅速であるため,歯科診療における感染予防対策に有効活用できると考える.
  • 堀 良子, 高野 尚子, 葭原 明弘, 宮崎 秀夫
    2010 年 25 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      歯科関係者の専門的な口腔ケアが要介護高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐことに関する研究報告は多いが,リスクのある入院患者の看護者による日常的な口腔ケアを評価した報告は殆どない.そこで,われわれは一般病棟入院患者に実施されている口腔清掃と院内発症肺炎の起炎菌と同じ菌株の口腔からの検出および発熱との関連について検討した.
      新潟県内4病院の口腔清掃に介助を必要とする40歳以上の入院患者69名を対象とし,清掃の回数および実施内容を記録した.また,黄色ブドウ球菌,MRSA,緑膿菌を対象として口腔内細菌の検出と菌数測定を行い,過去7日間の37.5°C以上の発熱の有無を調査した.これらを経口摂取群と非経口摂取群に分けFisherの直接確率法で評価した.その結果,経口摂取群において口腔清掃が3回/日以上の者で,発熱ありの割合と黄色ブドウ球菌の検出された割合が有意に低かった.一方非経口摂取群においては,歯ブラシを使用している者の方が発熱ありの割合が有意に低かった.以上より,経口摂取者においては頻回の口腔清掃が発熱と口腔内の日和見菌の定着を防止することが示唆され,非経口摂取者においては歯ブラシを用いた機械的な口腔清掃を行うことによって発熱が防止できることが示唆された.
報告
  • 森 みずえ, 山本 満寿美, 千田 好子, 狩山 玲子
    2010 年 25 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      療育センター入所中の重症心身障害者(児)を対象に,歯垢内に存在する日和見感染症の主たる原因菌の検出状況を調査した.その後,検出菌種および菌数の減少を目的に,より消毒・除菌効果が高いと期待できる口腔ケア方法に変更し,その効果を細菌学的に評価した.対象とした障害者(児)56名のうち11名は観察室,45名はデイルームで医療・生活管理を受けていた.56名中24名の歯垢から,検査対象菌が1名につき1~3菌種検出され,主たる検出菌である MRSA(methicillin resistant S. aureus), Pseudomonas aeruginosa, Serratia marcescensの3菌種は,それぞれ14名(25.0%),14名(25.0%),5名(8.9%)に検出された.このため観察室とデイルーム別に変更した口腔ケア方法を障害者(児)全員に実施し,これら3菌種のいずれかが検出された20名の追跡調査を行った.ケア変更前/変更5ヶ月後の概算菌数別検出者数は,MRSA(+++1名/0名,++2名/0名,+11名/7名),P. aeruginosa(+++8名/0名,++5名/10名,+1名/2名),S. marcescens(+++5名/3名,+0名/1名)であった.変更した口腔ケア方法は,歯垢からの検出菌種と菌数の減少に一定の効果を認めたが,P. aeruginosa の除菌は困難であった.今後,重症心身障害者(児)の個々の口腔内の状態や検出菌種および菌数に応じた口腔ケア方法の開発を行う必要がある.
  • 横内 淳子
    2010 年 25 巻 2 号 p. 99-103
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      高齢者施設でノロウイルスによる感染が拡大した要因のひとつに,初動期に下痢や吐物等の汚物処理が適切に行われなかったことが挙げられる.当院では,汚物処理の実技演習を取り入れた実践的な研修を試み,看護師とそれ以外の職員・清掃員を対象として研修を行い,アンケートによる事後評価を行った.汚物処理方法と手順に関する自己評価については,介護職員90.5%,調理関係職員,清掃・事務員他では70~80%が手順通りできたと評価していた.また,アンケートに回答した人のうち,感染症発生時の初期対応では,「その時にならないとわからない」が受講前には約三分の一を占めていたが,受講後には66.6%が「行動できると思う」と答えていた.それらの自由記載の中には「印象に残る」,「万が一,発生した場合でも,うろたえずに対応できそうである」という反面,「頭の中では知っているつもりでも実施してみると抜けることがあった」という記述もあった.これらの結果から一回の研修で全てを修得することは難しいが,繰り返し行うことができれば,より一層の効果が期待できると考える.したがって,実技を取り入れた研修は,初動期での具体的な行動に結びつくものとして有効な方法のひとつであると考えられる.
  • 髙橋 真由美, 金子 俊幸, 平 浩幸
    2010 年 25 巻 2 号 p. 104-110
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
      2005~2007年の3年間,当病院入院患者において,カルバペネム系薬を対象とし,そのantimicrobial use density (AUD),緑膿菌の耐性率及び交差耐性率を検討した.また,耐性緑膿菌検出関連要因の疫学的検討も行った.
      カルバペネム系薬全体のAUD (2005年13.63±3.43, 2006年17.06±2.31, 2007年17.97±4.37)は有意な増加であった.なかでもmeropenem (MEPM)のAUDの増加が顕著であった.MEPM耐性率は2005年の6.9%と比べ2007年では12.0%と有意に上昇した.Imipenem/cilastatin (IPM/CS)耐性株及びpanipenem/betamipron (PAPM/BP)耐性株のMEPM耐性率は2005年ではそれぞれ50%, 44.2%であったが,2007年には79.5%, 65.3%と急激に上昇した.症例対照研究からカルバペネム系薬使用歴(オッズ比:7.55, 95%信頼区間:2.96-19.23, p<0.0001),中心静脈カテーテル挿入(オッズ比:2.89, 95%信頼区間:1.19-7.02, p=0.019)の2因子が危険因子と考えられた.また,耐性群では有意に総使用量が多く(耐性群16.8±11.2 g,感性群10.2±5.25 g),延べ投与期間が長かった(耐性群17.1±11.6日,感性群9.96±4.85日).一処方当りの最大投与期間(耐性群11.5±5.3日,感性群9.25±3.74日)に有意差はなかった.本研究により,耐性菌出現防止には不必要な抗菌薬投与を避け,必要な場合でもその使用を10日までに止めることが重要であると考えられた.
  • 小林 寬伊, 松村 千夏
    2010 年 25 巻 2 号 p. 111-112
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
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