日本環境感染学会誌
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25 巻, 4 号
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原著論文
  • 土橋 ルミ子, 松本 みゆき, 山口 友子, 金澤 美弥子, 奥田 聖子, 内海 文子
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 25 巻 4 号 p. 195-200
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      長崎県看護協会では,感染管理の知識・技術を理解し,施設内で感染看護を推進するためにリーダー的立場としての役割・実践力を身につけ,患者・家族に安全・安心な医療,看護を提供できることを目的として,1995年から看護師を対象にした長期の感染管理スタッフ研修(ICS研修)が実施されてきた.現在までに,約500名が受講し,研修後も各施設で感染看護を実践している.
      ICS研修受講者の受講前と受講後に,標準予防策における看護師の知識,態度,実践について調査することにより,研修の効果を検討・考察した.その結果,研修前は知識と態度,態度と実践に,研修後は態度と実践に関係性があった.受講前後,いずれも知識と実践には関係性はなかった.研修において重要なことは,知識および態度を身につけた後の実践であり,行動変容であると考えられる.
      また,知識・態度・実践得点は,受講前後で増加し,実践得点において有意差が見られた.ICS研修を受講することで,特に実践力が身に着くのではないかと考えられる.標準予防策の具体的対策別得点の変化については,個人防護具で知識得点が,器具・環境,咳エチケットで実践得点に有意差があり,今後の研修で重点的に実施すべき項目が明らかとなった.
  • 坂野 昌志, 島田 泉, 青田 真理子, 秋田 憲志
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 25 巻 4 号 p. 201-205
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      アルコール手指消毒薬は,高い消毒効果を得るために正しい手技が必要である.しかし,正しい手洗いを身につけるための取り組みについてはあまり検討されていない.そこで,正しい使用手技を評価できる方法について検討した.検討は,視覚による確認と細菌培養試験でおこなった.その結果,視覚による確認法で消毒不十分と考えられた場所と検出される細菌数に相関関係を認めた.手指消毒薬使用法の手技指導は重要であり,簡便な方法での指導を行う必要があると考える.
  • 平岡 康子, 市川 ゆかり
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 25 巻 4 号 p. 206-210
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      鏡視下手術の増加により,管腔器材の確実な洗浄は滅菌保証の観点からも重要である.今回,管腔を有する実験器材を用い洗浄の評価を実施した.器材は,長さ40 cm,I群はシリコン製管(内径4 mm)・II群はステンレス管(内径2 mm)とし,各々編み込み式ワイヤーを入れた.人血をI群に各1 cc,II群に各0.5 cc注入し19時間40分放置した.I・II群各5本をA~Eの方法で洗浄した.A法・B法は1%酵素系弱アルカリ洗剤で30分浸漬洗浄した.さらにA法は,ワイヤーを管腔から抜きウォッシャーディスインフェクタ超音波槽で洗浄し,B法は,A法と同条件で水流式ウォッシャーディスインフェクタ下段にて洗浄した.C法は,真空超音波・吸引・噴射機能付き管腔洗浄機,D法は吸引付き管腔専用洗浄機を用いた.C法・D法は,前浸漬洗浄は実施せず,また管にワイヤーを挿入したまま洗浄した.E法は,A法と同様の浸漬洗浄後,ワイヤーを管腔から抜き用手洗浄後,ウォーターガンで内腔のすすぎを十分実施した.洗浄効果は,ナイスチェック応用法で判定した.抽出液は,比色計を用いて計測し残留蛋白量で数値化し,5本の平均残留蛋白量を求めた.各法のI・II群残留蛋白質量(μg)は,A法(141・154),B法(1410・707),C法(5・2),D法(14・5),E法(2426・129)であった.C法・D法の管腔洗浄機にて洗浄した群は格段に残留蛋白値が低く,洗浄効果が高いことが示された.
  • 佐藤 葉子, 一ノ渡 学, 水野 大, 若林 剛, 鈴木 健二, 佐藤 成大
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 25 巻 4 号 p. 211-216
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      我が国における手術時手指消毒法の検討においては,2002年のCDCによるガイドラインの発表から速乾式擦式消毒剤を用いたWaterless (WL)法が注目されている.感染制御の見地から手術時手指消毒法の検討にとって,細菌の抗菌薬感受性を検討することは必須であるが,実際は細菌の減少効果のみの報告が多い.そこで,当大学附属病院で実施した実際の手術時におけるWL法による手指消毒の有効性について検討した.
      2009年3月~8月に実施した手術を担当した医療従事者(医師および看護師)を対象とした.従来からのスクラブ洗浄および0.2 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有アルコール製剤を用いた洗浄によるTwo-stage (TS)法,または0.5 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有アルコール製剤を用いたWL法により手指消毒した直後および手術実施後における手指細菌数をグローブジュース法により算出し,両消毒法による消毒効果を比較検討した.
      TS法による生菌数の指数減少値(RF値)は,術前値1.50から術後値1.35と示され,WL法によるRF値は,術前値2.77から術後値2.68と示された.したがって,WL法による消毒持続効果においてTS法による効果より有効である事が示唆された.さらに,検出菌種の中に抗菌薬耐性菌が見られた事からも有効な消毒法の必要性が示唆された.以上の結果から,WL法は医療従事者の経験および教育的効果によらずに有効な手術時手指消毒法であると示唆された.
  • 奥西 淳二, 和田 祐爾, 尾家 重治
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 25 巻 4 号 p. 217-222
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      近年普及しつつあるアルコールラビング剤を用いた手術時手指消毒手技(ウォーターレス法)の有用性について,当院内の医療従事者38名を対象に評価を行った.まず,ウォーターレス法と院内で従来行われているスクラブ剤とアルコールラビング剤を用いた手術時手指消毒手技(2剤併用法)の消毒効果をグローブジュース法で比較した結果,手指菌数は消毒直後,消毒3時間後の何れの場合も消毒前より有意に減少していた.但し,両手技間の消毒効果を菌数の指数減少値(平均±SD)で比較したところ,消毒直後ではウォーターレス法が1.58±0.73,2剤併用法が1.24±0.76と両者の間には差を認めなかったが,3時間経過後ではウォーターレス法が1.98±1.26であったのに対して2剤併用法では0.87±0.63を示し,ウォーターレス法の方が持続効果で有意に優れていた.また,ウォーターレス法を習得した看護師を対象に調査したアンケートではウォーターレス法の印象が良好であったこと,および消毒1回あたりの費用を試算した結果から示唆された経済効果を考え合わせると,ウォーターレス法は手術時手指消毒の1手技として有用であることが示唆された.
報告
  • 菅原 正秋, 小林 寬伊, 大久保 憲, 比江島 欣慎, 梶浦 工, 菅原 えりさ, 黒須 一見, 坂井 友実
    原稿種別: 報告
    2010 年 25 巻 4 号 p. 223-228
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      感染制御の観点から鍼灸師養成学校(鍼灸学校)の実技実習で使用されている鍼の種類や衛生的取扱い方法の指導について把握する目的で,鍼灸学校を対象にアンケートを実施した.2008年12月~2009年3月に全国の鍼灸学校に調査用紙を郵送し,回答を求めた.質問項目は,実習で使用している鍼の種類,鍼の取扱い方法の質問などから構成され,回答は選択形式とした.
      回収率は69.9%であった(107/153施設).実習で使用している鍼の種類について調査したところ,「単回使用毫鍼のみ使用している」が58%,「単回使用毫鍼と再使用可能な毫鍼を併用して使用している」が40%,「再使用可能な毫鍼のみ使用している」が2%であった.しかし,単回使用毫鍼を使用していても,本来の使用目的どおり,単回使用を指導している割合は25%であった.また,施術する際,鍼を直接手指で触れないためにゴム手袋や指サック等を使用しているかを調査した.「常に使用するように指導している」が17%,「使用するかどうかは各教員に任せている」が35%,「使用するようには指導していない」が48%であった.
      以上の結果から,単回使用毫鍼の使用率は高いが,適正な使用法が指導されていない場合があること,無菌的な刺鍼法の実施率は低く,未だ教育の中で標準化されていないことなどが明らかとなった.
  • 前田 ひとみ, 多田隈 和子, 家入 裕子, 東 陽子, 川口 辰哉
    原稿種別: 報告
    2010 年 25 巻 4 号 p. 229-236
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      熊本市内の医療機関における職業感染防止対策の実態を把握するために,2008年2月に,511の医療機関に対する質問紙調査を行った.解析は病院,有床診療所(医院),無床診療所(クリニック)に分けて行った.
      206施設(40.3%)から回答があり,「感染制御の組織あり」は病院が93.6%,医院が58.9%,クリニックが8.4%であった.医療従事者に対する抗体検査の実施率で最も高かったのは病院規模に関わらずHBV抗体であった.一方,水痘は6.8%,風疹が8.7%,麻疹が10.2%,耳下腺炎が6.3%と実施率が低かったが,産科や小児科の実施率は高かった.また,ワクチン接種を推奨している施設で費用を施設が負担していた割合は,施設規模が小さいほど高かった.
      針刺し後の抗体検査の実施率は,クリニックが低かったが,組織的に介入をしている施設が多かった.しかし,針刺し予防対策としてリキャップ禁止は,医院とクリニックは6割と低かったことから,教育とともに低コストで安全な器具の開発が求められる.
      施設の規模に関わらず,安全管理に対する意識が高い施設は,安全管理体制が整っていることがわかった.小規模施設では,感染症の専門家が少ないことから,地域での情報交換の場や相談システムの構築が求められる.
  • 岡崎 千絵, 堀 賢, 森本 景子, 下嶋 和代, 佐瀬 一洋
    原稿種別: 報告
    2010 年 25 巻 4 号 p. 237-241
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      新型インフルエンザA/H1N1型ウイルス(新型ウイルス)に対する新型インフルエンザ用ワクチン(新型ワクチン)の安全性について,当院の医療従事者に副反応発生に関するアンケートを行い,その安全性について評価した.
      ワクチン接種者568名に対し,アンケート回答者は男性147名,女性268名,合計415名(回答率73.1%)であった.「副反応あり」の回答は男性15名(10.2%),女性56名(20.9%)合計71名(17.1%)で,主な副反応としては接種部位の腫脹・硬結38名(9.2%),倦怠感26名(6.3%),感冒様症状15名(3.6%)であった.Grade 3以上の重篤な副反応の発症例はなく,接種後に医師に受診した者が2名(0.5%)いたが,いずれもワクチンとの因果関係は認められなかった.
      以上のことから,当院の職員を対象とした新型ワクチンの接種は,安全に実施が可能であったといえる.しかしながら,対象者が少ない上ほとんどが医療従事者という条件下であったため,正確な副反応発現率を推定することには限界があり,今後大規模な調査が必要であると思われる.
  • 高根 秀成, 藤村 茂, 中野 禎久, 布施 克浩, 五味 和紀, 菊地 利明, 貫和 敏博, 渡辺 彰
    原稿種別: 報告
    2010 年 25 巻 4 号 p. 242-246
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
      A. baumannii は,ICUなどの急性期病棟における人工呼吸器関連肺炎の原因菌として注目されているが,本邦における抗菌薬耐性や院内環境汚染実態は,ほとんど把握されていない.今回我々は,東北地方のA総合病院のNICUにおいて本菌による院内感染例を確認したため,その伝播状況等を調査した.
      使用菌株は2008年5月~2009年2月に東北地方のA総合病院NICU入院患者44名より分離されたA. baumannii 51株とし,微量液体希釈法によりMICを測定した.さらに2009年3月にNICUにおける環境調査を実施した.また,臨床および環境より分離されたA. baumannii株に対してAP-PCRおよびERIC-PCRによるDNA-typingを行った.
      今回の調査において多剤耐性株は確認されなかった.この期間中に,3回の院内感染が確認され,それらのDNA typeは各々異なっており,数種類のA. baumannii株が外部からNICU内に持ち込まれている可能性が考えられた.また,一人の患者専用の体温計から分離されたA. baumannii株と,この体温計を使用することのない2名の患者の便より分離された株が同一のDNA typeであり,医療従事者を介した伝播が容易に起こることが示唆された.今後,A. baumanniiの抗菌薬耐性や院内感染について監視していく必要があると思われる.
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