A. baumannii は,ICUなどの急性期病棟における人工呼吸器関連肺炎の原因菌として注目されているが,本邦における抗菌薬耐性や院内環境汚染実態は,ほとんど把握されていない.今回我々は,東北地方のA総合病院のNICUにおいて本菌による院内感染例を確認したため,その伝播状況等を調査した.
使用菌株は2008年5月~2009年2月に東北地方のA総合病院NICU入院患者44名より分離された
A. baumannii 51株とし,微量液体希釈法によりMICを測定した.さらに2009年3月にNICUにおける環境調査を実施した.また,臨床および環境より分離された
A. baumannii株に対してAP-PCRおよびERIC-PCRによるDNA-typingを行った.
今回の調査において多剤耐性株は確認されなかった.この期間中に,3回の院内感染が確認され,それらのDNA typeは各々異なっており,数種類の
A. baumannii株が外部からNICU内に持ち込まれている可能性が考えられた.また,一人の患者専用の体温計から分離された
A. baumannii株と,この体温計を使用することのない2名の患者の便より分離された株が同一のDNA typeであり,医療従事者を介した伝播が容易に起こることが示唆された.今後,
A. baumanniiの抗菌薬耐性や院内感染について監視していく必要があると思われる.
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