日本環境感染学会誌
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26 巻, 4 号
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原著論文
  • 蓮沼 智子, 飯島 肇, 高附 真樹子, 菊野 理律子, 駒形 安子
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 4 号 p. 203-209
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      米国では「手術部位の皮膚消毒」を効能とする殺菌消毒薬の評価方法として,米国食品医薬品局から公表されたTentative Final Monograph(FDA-TFM)が用いられている.それでは,2週間以上,被験者に全身性又は局所性の抗菌薬などを使用制限し,かつ非抗菌性の衛生ケア用品を使用させて順応させた後,試験薬を塗布し,その10分後に皮膚常在細菌数が,腹部では2.0 log10 CFU/cm2,鼠径部では3.0 log10 CFU/cm2減少することを要求している.このため,被験者は試験薬塗布前に十分な細菌数を持つことが必要であるが,日本人の皮膚常在細菌数が上記条件下で十分に増加するか否かの情報はない.
      そこで,被験者をFDA-TFMを参考に順応させ,日本人の腹部及び鼠径部の皮膚常在細菌数と代表的な常在菌属を含む5種類の菌属の菌数を確認した.その結果,腹部では順応させても細菌数の有意な増加が認められず,細菌数減少を評価するために十分な細菌数を持つ被験者を確保することが難しいことが示唆された.しかし,鼠径部の細菌数は順応によって有意な増加をし,十分な細菌数を持つ被験者を高い割合で確保できると考えられた.また,順応により,特に菌叢の乱れは生じないことが示唆された.FDA-TFMに基づいた試験を実施する場合,腹部の被験者確保は難しいものの,日本人でも細菌数減少を指標とした新規殺菌消毒薬の有効性評価は可能ではないかと考えられた.
  • 山下 ひろ子, 小山田 玲子, 奥 直子, 西村 正治, 石黒 信久
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 4 号 p. 210-214
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      当院職員を対象に,麻疹,風疹の感染防御に十分な抗体価を有していない者(麻疹PA抗体価128倍未満,風疹HI抗体価16倍未満)に麻疹,風疹ワクチン接種を行った.麻疹ワクチン接種後に128倍以上の抗体価を獲得したのは123名中92名(74.8%)で,256倍以上の抗体価を獲得したのは123名中70名(56.9%)であった.風疹ワクチン接種後に16倍以上の抗体価を獲得したのは130名中118名(90.8%)で,32倍以上の抗体価を獲得したのは130名中101名(77.7%)であった.幼児に麻疹,風疹ワクチンを接種した場合の抗体陽転率は95%以上とされているが,医療従事者に麻疹,風疹ワクチンを接種して(単に抗体陽転ではなく)感染防御に有効とされるレベルの抗体獲得を期待する場合,接種後の抗体獲得率は95%よりも低いことに留意するべきである.
  • 中嶋 一彦, 竹末 芳生, 一木 薫, 高橋 佳子, 和田 恭直, 石原 美佳
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 4 号 p. 215-221
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      結核の接触者検診にはインターフェロン-γリリースアッセイ(QFT)が推奬されているが,結核病床を有さない一般病院での導入は十分でなく,運用法も一律でない.当院は接触者検診にQFTを導入し,アルゴリズムを用いた運用を行った.(方法)塗抹検査陽性の肺結核で,空気感染予防策がされていない事例に接触者検診を実施した.曝露後2週間以内に曝露時検査(ベースライン検査)を行い,曝露後8-12週間後に再度QFTを行った(曝露後検査).曝露後2週間以上経過し,ベースライン検査を行わないものは曝露後検査のみ行った.曝露後検査が判定保留,判定不可の場合4-8週間後に再度をQFT行った(曝露後再検査).(結果) 23事例で,医療従事者,学生,同室患者あわせて434名の検診を行った.ベースライン陰性から陽転したのは5/215名(1.4%),陰性から判定保留へは9/215名(4.2%)であった.曝露後再検査で2/10名が陽性となった.曝露後検査のみの事例では9/159名(5.8%)が陽性,判定保留18/159名(11.3%)であり,判定保留15名の再検査で2名(13.3%)が陽性となった.(考察) QFTを導入することにより,感染の有無を明確化でき,実効性のある院内結核感染が可能となった.接触後検査のみの事例では,直近の曝露による感染か否か不明であり,入職時検診のQFT検査の導入が必要と考えられた.
  • 玉澤 佳純, 玉澤 かほる, 高橋 正美, 國島 広之
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 4 号 p. 222-227
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      血液・体液曝露の内,眼への曝露は,感染のリスクからは針刺し事例に匹敵することから,眼および眼周辺部への曝露に着目して,医科と歯科の統合後の当大学病院の2年半における,曝露者の職種,曝露物,曝露時の場所について検索した.
      その結果,統合後の当大学病院では,血液・体液曝露事例は,全部で67件発生していた.そのうち,眼および眼周辺部への曝露事例は41件発生したが,職種では,看護師19名,医師9名,医学生4名,助産師3名,歯科医師2名,臨床工学技士2名の順であった.曝露物では,血液14件,体液7件,喀痰4件,注射液2件等であった.曝露場所では,手術室14件,一般病室10件,ICU4件,救急部3件,人工透析室3件,分娩室2件,採血室2件,歯科外来2件等であった.特に出産関係でまとめると,6件と多かった.また,曝露事例の総数は67件であったが,その内,眼および眼周辺部への曝露事例は41件であり,全体の61.2%を占めていた.当大学病院の調査結果から,手術室での眼および眼周辺部への曝露が最も多かったことから,手術室のスタッフはゴーグルの着用が必須であることが判明した.
  • 宇賀神 和久, 火石 あゆみ, 阿南 晃子, 新井 祐司, 中村 久子, 丸茂 健治, 田口 和三, 川野 留美子, 長島 梧郎
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 4 号 p. 228-233
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      当院における2003年から2007年のextended-spectrum β-lactamase(以下ESBL)産生菌の検出状況について,院内発生株および他施設からの持ち込み株を調査した.ESBL産生菌年度別推移は2003年4株であったが,その後,2007年29株まで増加した.2007年ESBL産生菌はProteus mirabilisEscherichia coliで全体の80%を占めた.この中で,2007年ESBL産生菌(P. mirabilisE. coli)はパルスフィールドゲル電気泳動(以下PFGE)型別を行ない,院内発生株と持ち込み株を後ろ向きに調査した.PFGE型別で4型に分かれたCTX-M2 β-lactamase群産生P. mirabilis 11株中,A型5株は院内発生1株,持ち込み2株,不明2株であった.しかし,PFGE型別で7型に分かれたCTX-M9 β-lactamase群産生E. coli 10株は,院内発生が確認されず,持ち込み6株,不明4株であった.今回の調査でCTX-M2群産生P. mirabilisの院内発生株と持ち込み株でPFGE型別が一致したことは,連携病院間での交差伝播の可能性を強く示唆するもので,ESBL産生菌感染対策上,入院時における積極的な監視培養実施の必要性が確認された.
  • 本多 領子, 野村 賢一
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 4 号 p. 234-238
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      コメディカルは,院内全職員を対象とした感染の勉強会を開催しても出席率は低く,感染対策に関する知識は不足していると思われる.しかし,感染に対する知識は,院内感染防止や医療安全の視点から,コメディカルに対しても医療従事者として必要である.今回,感染に関する最低限の知識をコメディカルが習得することを目的として,ICTメンバーの薬剤師が主導で,コメディカル全員を対象に,集合研修ではなく,開催回数を増やした部署毎の勉強会を企画した.開催回数を増やし各部署の所属長に全員出席を協力要請したことで勉強会出席率は95%に向上し,各部署の特徴に合わせた教育内容にアレンジすることも可能であった.また,教育効果を検証する目的として,勉強会前後に記名式の確認テストを取り入れ,1年後に再度テストのみを行い,確認テストを取り入れた勉強会の教育効果を検討・考察した.確認テストの正解率は職種や問題により差がみられたが,勉強会前後に確認テストを行うことで,勉強会前の正解率66.8%から勉強会後の正解率は88.2%に上昇し,勉強会の教育効果は確認できた.さらに,知識の定着を確認するため1年後に同一問題で確認テストを実施したが,勉強会前よりも正解率は81.6%と高く,知識の定着が図られた.コメディカルに確認テストを取り入れた勉強会は教育効果に影響を及ぼすことが示唆された.
Concise communication
  • 吉田 理香, 小林 寛伊
    2011 年 26 巻 4 号 p. 239-242
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
    背 景
    病院の滅菌供給業務に携わっている医療従事者の何人かは,過酸化水素滅菌器周辺で眼や咽頭部に刺激を体験している.
    方 法
    過酸化水素滅菌器(過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌器:ステラッド NX®,ステラッド100S®,ステラッド200®,ジョンソン&ジョンソンと過酸化水素ガス低温滅菌器:アムスコ V-PRO1®サクラ精機)における環境の過酸化水素濃度について電気化学検出器を用いて調べた.
    結 果
    環境における過酸化水素濃度は予測される濃度より高い値を示した.
    結 論
    過酸化水素滅菌器を使用する時の医療従事者の安全を守るために,滅菌器周辺の換気,滅菌物に触れる時の手袋着用,滅菌器のドアを開けるときのマスク着用などを再評価する必要がある.
報告
  • 久斗 章広, 宮良 高維, 森山 健三, 戸田 宏文, 山口 逸弘, 松島 知秀, 田中 加津美, 吉田 理香, 竹山 宜典
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 4 号 p. 243-248
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      接触感染が主となる耐性菌の医療施設内感染及び拡散防止には,職員の手指衛生コンプライアンスの向上と維持が重要な課題である.しかし,この手指衛生コンプライアンスの評価指標で定まったものが無い.我々は,アルコール性手指消毒薬(以下手指消毒薬)及び手指洗浄薬の使用量を手指衛生コンプライアンスの間接的指標として,手指衛生推進に関する企画強化(2007年4月)前後,それぞれ24ヶ月間の入院症例におけるmethicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA)検出率および分離率と共に比較検討した.手指消毒薬の月平均使用量は2.93±0.84(L/1,000 patient days)から8.58±2.93(L/1,000 patient days)と,また手指洗浄薬の月平均使用量も2.88±1.04(L/1,000 patient days)から5.09±1.20(L/1,000 patient days)と両者共に有意に増加した(p<0.01).またMRSA検出率には有意な減少が認められなかったが,MRSA分離率では,12.6±2.5(%)から10.4±1.5(%)と有意な減少を認めた(p<0.01).手指衛生に関する多面的かつ複数回の強調は,手指衛生コンプライアンスの向上と維持に有効と考えられた.
症例報告
  • 富成 伸次郎, 島本 裕子, 谷口 美由紀, 谷口 智弘, 白阪 琢磨
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 26 巻 4 号 p. 249-252
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/05
    ジャーナル フリー
      ノロウイルス胃腸炎に罹患したHIV感染者の便から3ヶ月以上にわたりノロウイルスが検出された2症例を経験した.うち1症例では下痢症状も持続しており,入院中に同一病棟内において二次感染者も出現した.2症例ともHIV感染症のため免疫不全状態であった.ノロウイルスの持続感染とそれに伴う二次感染は,HIV感染者以外にも造血器腫瘍患者や原発性免疫不全症候群の患者,ステロイドなど免疫抑制薬使用患者からの報告がある.病院などの施設においてノロウイルス感染者が発生した場合,免疫機能が低下した患者においては感染が数ヶ月以上にわたり長期化する可能性があることを認識し,感染対策を継続することが重要であると考えられた.
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