日本環境感染学会誌
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27 巻, 3 号
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原著論文
  • 工藤 綾子, 佐久間 志保子, 稲冨 惠子, 池田 恵, 仁科 聖子
    2012 年 27 巻 3 号 p. 171-177
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      集団避難生活中の被災者の健康維持には,医療・保健関係者のみならず,環境を調整する防災担当者の感染症に対する認識が求められる.そこで,47都道府県の県庁・市役所の防災担当関係者等(以下自治体)の,災害時の感染症対応とその知識・認識を明らかにするために,942自治体に郵送法による調査を行った.結果は611自治体(回収率64.8%)から回答を得た.災害時の対応は,89%以上の自治体が「不充分である」,「どちらともいえない」と回答し,充分な対応ができないという認識であった.その要因は,自治体が対応できる人数の少なさ,災害時の感染症に対する研修の少なさや知識不足であった.感染症に対する知識は,「充分である」22自治体(3.6%),「不充分である」459自治体(75.6%),「どちらともいえない」126自治体(20.8%)であった.残差分析の結果,感染症知識が「不充分である」と災害時の対応が「不充分である」との間,感染症知識が「どちらともいえない」と災害時対応が「どちらともいえない」との間に,それぞれ有意な相関が認められた.264自治体(43.5%)が最も注意する感染症は「呼吸器系の感染症」であった.また,対策が必要な細菌・ウイルスは「インフルエンザウイルス」,「ノロウイルス」であった.研修等の企画に,自治体・地域住民に対する集団避難生活中の感染予防対策を取り入れ,知識の充足を図る必要がある.
  • 長尾 さおり, 大西 誠, 西山 智恵美
    2012 年 27 巻 3 号 p. 178-182
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      当院では2008年度季節性インフルエンザの職員罹患数が22名に及び,職員の欠勤に伴う患者サービスの低下を招いた.そこで2009年度は猛威を振るっていたインフルエンザ(H1N1)2009対策としてオセルタミビルリン酸塩(以下オセルタミビル)による予防及び早期治療を行い,その効果を検討した.予防内服とは同居人がインフルエンザと考えられた場合にオセルタミビル1カプセルを4日間内服.早期治療内服とは本人が発熱しインフルエンザが疑われる場合に出勤停止の上オセルタミビル2カプセルを2日間内服した.それぞれの罹患・内服状況をアンケートで調査した.オセルタミビルは全職員に事前に4カプセルずつ配布し,シーズン終了後回収した.予防内服者は延べ43名で,看護師・看護助手が30名,PT・OT 6名,事務2名,薬剤師1名,医師1名,検査技師1名,その他2名だった.予防内服する契機となった同居家族の状況は子供37名,配偶者2名,友人その他4名だった.予防内服した職員に家族等からのインフルエンザ感染はなく,内服時の副作用もなかった.早期治療内服をした者は17名で,看護師・看護助手が13名,医師1名,事務1名,検査技師1名,その他1名だった.同居人がいる者が9名いたが,同居人への感染はなかった.オセルタミビルの予防内服と早期治療内服を実施する事はインフルエンザ(H1N1)2009院内感染対策に有効だったと考えた.
  • 東 知宏, 荒川 満枝, 池原 弘展, 森本 美智子, 鵜飼 和浩
    2012 年 27 巻 3 号 p. 183-188
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      医療施設では擦式アルコール製剤を用いた手指消毒が推奨されているが,実際には製剤の使用量が規定より少なく,指先を擦り込んでいないと報告されている.そこで手指消毒時の指先擦り込みの有無,製剤使用量の違いが除菌効果に影響を与えるか検証した.
      研究協力者は指先擦り込み実施群と指先擦り込み非実施群に分け,それぞれ製剤を規定の3 mLと半量の1.5 mL使用し手指消毒を行った,手指消毒前後の細菌をスタンプ法により指先,指中央,手掌から採取し除菌効果の差を検証した.
      指先擦り込み非実施群では,指先の除菌率が指中央,手掌と比較して有意に低かった(製剤使用量3 mL, 1.5 mLともにp<0.001).また,指先擦り込み非実施群は,実施群と比較して指先の指数減少値が有意に低かった(製剤3 mL使用時p<0.01, 1.5 mL使用時p<0.001).指先擦り込み非実施群では,製剤使用量が1.5 mLの場合,3 mL使用した場合と比較して指先の指数減少値が有意に低かった(p<0.01).指中央,手掌では製剤使用量の違い,指先擦り込みの有無による除菌効果の差はなかった.これらより,手指消毒時に指先を擦り込まなければ除菌効果が低下することを認識し,指先擦り込みを意識して手指消毒を行う必要があるといえる.さらに,製剤使用量を規定の半量以下とすると,除菌効果がより低下することを認識しておく必要がある.
  • 細田 清美, 森兼 啓太, 谷口 弘美, 宮田 貴紀, 前多 香, 上野 一枝, 家入 裕子, 高橋 陽一, 大澤 忠, 村田 弘美, 伊藤 ...
    2012 年 27 巻 3 号 p. 189-194
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      透析関連感染は,他臓器への感染の波及を来たすなど透析患者の予後に大きく影響し,また余分な医療費を発生させ,社会保障や医療機関経営に悪影響を及ぼす.日本における透析関連感染の現状把握と透析関連サーベイランスシステムを構築する目的で,2008年3月に定型的透析関連感染サーベイランスシステムフォーマットによる透析関連サーベイランスを開始した.2010年3月までのアクセス種類別のべ透析日数は,シャント304,684,動脈表在化17,141,人工血管14,082,長期留置カテーテル5,567,短期留置カテーテル4,311であった.我々のデータは,ほぼ同じ疾患定義を使用しているDialysis Surveillance Network (DSN)に比べ,シャント・グラフト長期カテーテルでは感染率が低く,短期留置カテーテルでは高かった.また,透析関連サーベイランスシステムを用いて収集されたデータから,感染例の詳細な解析や挿入手技や管理方法など,ケアの標準化が必要であると明らかになった.今後,精度の高いサーベイランスシステムを構築し継続すること,施設間の比較を行うことなどにより,対策の評価と感染を減少させる対策へとつなげることができると考える.
  • 菅原 民枝, 大日 康史, 具 芳明, 川野原 弘和, 谷口 清州, 岡部 信彦
    2012 年 27 巻 3 号 p. 195-198
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      感染症流行の早期探知のための薬局サーベイランスでは,抗インフルエンザウイルス薬,抗ヘルペスウイルス薬,解熱鎮痛剤,総合感冒薬,抗菌薬の薬効分類で処方件数のモニタリングをしている.近年,抗菌薬耐性菌感染症の問題があり,諸外国では使用量が算出されて国際比較が行われているが,日本全国でのモニタリングはなされていない.そこで,薬局サーベイランスによる1年間の処方件数を用いて日本全国での外来診療における使用量を算出する方法について検討した.抗菌薬処方を5分類(ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,キノロン系,その他)し,それぞれの処方件数を算出し,先行研究の投与量の分布を用いて,使用量を算出した.それを抗菌薬標準使用量(Defined Daily Dose: DDD)を人口1000人の1日あたりで示した.期間は,2010年8月~2011年7月処方の12ヶ月分である.抗菌薬処方件数は,12月が最も多く,8月が最も少なく,種類ではマクロライド系が多かった.抗菌薬標準使用量DDDは,全国で10.16であった.都道府県別では,西日本が高い傾向があった.
報告
  • 森 尚義, 垣内 由美, 倉田 みち子
    2012 年 27 巻 3 号 p. 199-205
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      TQM活動は「総合的質経営」とも言われ,問題解決・理想実現の手段として広く企業などで行われている.患者の要求に合った医療サービスを経済的に作り出すことから,医療領域でも活動が盛んである.
      2006年当時,院内には消毒薬管理の中心となる部門がなく,適正な消毒薬を使用できないケースが相次いでいた.そこで,TQM活動のQCストーリーに則って,消毒薬の管理方法と採用品目を一度に整理し,問題の解決を図ることを考えた.
      消毒薬の管理部門を明確にし,さらに採用品目を20%削減することを目標に設定した.その結果,消毒薬選定に関する権限がICTに設定され,責任の所在が明文化された.採用品目数が39.4%削減され,単年度で合計1,118,598円の費用削減に繋がった.手洗い石鹸の使用量が前年比185%に増加し,MRSA感染率の低下を認めた.経済効果はTQM活動後も持続し,MRSA感染率は2006~2010年で統計学的に有意な低下が見られた(p=0.0260).
      ICTという職場横断的な組織がTQM活動に参加することで,病院全体が抱えていた消毒に関する問題を解決し,同時に手洗いが接触感染防止に有効であることをMRSA感染率という数値で示すことができた.今後はこの取り組みを風化させることなく,消毒に関してより意識の高い職場環境を作ることが必要であると考える.
  • 南家 貴美代, 前田 ひとみ, 藤本 陽子, 石井 美奈, 家入 裕子, 東 陽子, 本田 法子
    2012 年 27 巻 3 号 p. 206-214
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      地域での抗菌薬耐性菌の拡がりが懸念される中,患者の直接ケアに関わる看護師が連携し地域全体で適切な感染管理が実践されることが重要である.そこで,ある地域の医療施設で感染管理に携わる看護師による感染管理ネットワークを構築するために医療施設の感染管理の実態と看護師による感染予防ネットワークへのニーズを調査した.104施設(有効回答率19.6%)を無床診療所,有床診療所,病院の3群に分けて分析した.感染予防対策マニュアルに標準予防策について記載している無床診療所は22.9%,有床診療所は60.6%,病院は86.1%であり,手指衛生の方法や実施のタイミングについては無床診療所は45.7%,有床診療所は54.5%,病院は86.1%が記載していた.
      看護師による感染管理ネットワークについては多くの感染管理担当看護師が必要性を感じていたが,無床診療所では多忙で時間が取れないといった理由から,参加の希望は71.4%に留まっていた.感染管理ネットワークへ求めるニーズは無床診療所,有床診療所,病院では異なっていた.
      今回の結果から中小規模医療施設では感染管理体制の整備の遅れが推察された.インターネットの活用などマンパワーが不足している中小規模医療施設もネットワークに参加しやすい環境を整え,それぞれの施設が情報交換や助言ができるようなネットワーク体制を構築することが必要と考えられた.
  • 福田 哲也, 高橋 恭久, 佐藤 利香, 黒柳 展子, 原 かおり, 井戸 彩恵子, 山口 禎夫
    2012 年 27 巻 3 号 p. 215-219
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      病院所属の薬剤師と看護師を対象に,接触予防策に関する意識調査のためアンケートを実施した.アンケートは2009年2月~4月に,薬剤師119名,看護師299名より回答を得た.薬剤師有意な項目(p<0.05)は,“Clostridium difficileに対する認識と手洗い実施”,“Pseudomonas aeruginosaに対するアルコール消毒有効性の認識”,“カルテによる間接的接触感染の意識”であった.看護師有意な項目は,“速乾性擦式アルコール消毒の使用タイミング”,MRSAにおける“接触感染に対する意識”,“保菌と感染症患者の把握”,“手洗いや手指消毒の実施”であった.薬剤師と看護師で特に大きな有意差が生じた項目は,“病衣(27%,66%),白衣(65%,82%),聴診器(6%,71%),ベッド柵(56%,84%),オーバーテーブル(49%,71%)における間接的接触感染の意識”であった.水平感染予防に寄与するため,チーム医療の中で薬剤師と看護師の専門知識をさらに活かす活動が求められた.
  • 藏前 仁, 犬飼 ともみ, 奥川 勝, 夏目 美恵子, 佐藤 浩二, 杉浦 充, 伊藤 誠, 中村 不二雄
    2012 年 27 巻 3 号 p. 220-225
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      愛知県西三河地区の市中病院で2008年から2010年までの3年間に分離同定され,抗菌薬感受性検査を実施した緑膿菌1343株を対象に,抗菌薬感受性結果の推移を分析した.その結果,カルバペネム系抗菌薬に対する耐性率はIPM/CSで6.4% vs 3.3% (2008年対2010年のデータを対比,以下同様),MEPMで2.7% vs 1.4%と低下傾向を示した.同時にCPFXの耐性率も13.4% vs 5.5%と低下した.アミノグリコシド系抗菌薬であるAMKの耐性率は0.2% vs 0.6%と低率を維持した.対照的にβ–ラクタム系抗菌薬に対する耐性率は上昇傾向を示した.この推移は同期間におけるカルバペネム系抗菌薬の投与量の減少や相対的な第3,第4世代のセフェム系抗菌薬の使用比の増加と連動していた.緑膿菌の耐性率の改善の背景には,カルバペネム系抗菌薬の適正使用に向けた取り組みのみならず,感染制御活動の成果やDPC導入に伴う入院期間の短縮など複合的な要因が挙げられる.多剤耐性緑膿菌の検出は他院からの持ち込みの1例のみであった.今後も抗菌薬感受性サーベイランスに基づく抗菌薬の適正使用に向けた質の高い活動の継続が必要である.
  • 浅沼 秀臣, 吉崎 清美, 岩井中 里香, 卸川 紘光, 佐藤 正幸
    2012 年 27 巻 3 号 p. 226-233
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
      2009年4月からバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクを経験した.当院は382床8病棟を持つ急性期病院であるが,小児科,産婦人科病棟を除く6病棟において合計30例にVRE保菌を確認した.
      東4病棟(脳神経外科)入院中の66歳女性が発端.交差が考えられた4例からVREが検出されたため,同病棟全入院患者に検査を拡大したところ新たに2例の保菌者が発見された.同時期に西4,東5病棟において8例が保菌者と判明したため検査を全病棟に拡大.その後,西5,東6,西6病棟からも順次保菌者が判明した.保菌者が確認された病棟では全患者の保菌状態が確定するまで,入退院,転棟を制限した.確定後は保菌者をコホート隔離とし,新規入院患者の監視培養,非保菌者の定期的監視培養を実施した.各病棟において環境消毒と接触感染予防の指導を徹底した.しかし新たな保菌者が出現したため病棟毎の管理は限界と判断,東4病棟にすべての保菌者を集め集中的に隔離管理した.また,医療スタッフに対する指導のみならず,清掃スタッフへの指導を強化したところ保菌者は激減した.アウトブレイクが終息するまでは14ヶ月を要した.保菌者30例から分離されたVREはすべてvanB型で,パルスフィールド電気泳動法により,すべて同一菌株由来である可能性が指摘された.
  • 小林 寬伊, 黒須 一見
    2012 年 27 巻 3 号 p. 234-235
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/05
    ジャーナル フリー
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