日本環境感染学会誌
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28 巻, 2 号
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原著論文
  • 福田 治久
    2013 年 28 巻 2 号 p. 63-73
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      手術部位感染率の病院間比較は効果的な感染対策であるが,その成否は患者重症度調整にかかっている.本研究の目的は,感染率の病院間比較手法について検証することである.
      本研究の解析対象は,APPY, BILI, CHOL, COLN, GAST, RECの6術式である.患者重症度調整変数として,(1) NNISリスク・インデックスを構成する変数,および,(2)サーベイランス対象の全変数,を投入した多変量ロジスティック回帰分析を実施した.モデルのパフォーマンス評価にはc-indexを用いた.また,共変量に,手術時間と内視鏡有無の2変数を投入・除外したモデルを構築し,各モデルにおいて算出される標準化感染比(SIR)の変化を検証した.
      解析対象は37病院における37,251症例である.SSI発生に関するオッズ比は術式間およびリスク要因間で大きく異なっていた.APPYを除いて,サーベイランス対象の全変数を用いたモデルはc-indexが有意に高かった(p<0.001).SIRは,構築モデルによって大きく異なり,その結果,病院パフォーマンスの解釈が相反する事象が観察された.
      従来のNNISリスク・インデックスによる層別解析よりも,SSIサーベイランスの全収集変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析によるモデル解析の方がパフォーマンスの高い結果が得られた.
  • 高橋 一人, 木村 繭, 埜畑 有子, 浜田 順子, 濱 豊秋, 榎波 洋子, 八幡 範勝, 酒井 好幸
    2013 年 28 巻 2 号 p. 74-78
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      我々は電子カルテ内に分散した細菌検査関連情報を一元管理して解析することを目的とした独自の感染管理システムを構築した.感染管理システムは多剤耐性菌検出,抗菌薬感受性率(アンチバイオグラム),病棟マップ等の機能を実装した.感染管理システムの利用により,迅速で客観的な感染状況の把握が可能となった.また,煩雑な事務作業が軽減したため,ICTメンバーが各職種の特色を活かした感染管理業務を実施することが可能となった.独自の感染管理システムは自施設の意向を反映しやすく,適切な感染管理に有用であった.
  • 野口 周作, 望月 徹, 吉田 奈央, 上野 ひろむ
    2013 年 28 巻 2 号 p. 79-85
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      病院の感染制御において,薬剤耐性菌対策は重要な問題である.当院では2004年8月にInfection Control Team (ICT)が発足して以来,段階的に抗菌薬適正使用強化策を行った.その取り組みと効果について検討し,若干の知見を得た.2007年にオーダリングシステムと連動した特定抗菌薬使用届出制導入をはじめ,2010年より積極的に症例に関わる方法としてICT抗菌薬ラウンド導入に至るまで段階的に強化策を行った.その効果判定の指標として,カルバペネム系抗菌薬の使用量,投与日数,緑膿菌の感性率及び多剤耐性緑膿菌(MDRP)の年間検出件数を調査した.カルバペネム系抗菌薬の使用量は,1277バイアル(V)(2004年11月)から327V(2010年6月)に,平均投与日数は8.40日(2006年)から5.97日(2010年)に減少し,緑膿菌のmeropenemに対する感性率は72%(2008年)から90%(2011年)に回復した.MDRPの年間検出件数は28件(2008年)から1件(2011年)に減少した.段階的強化策を講じたことで,大きな問題なく医療従事者の抗菌薬適正使用に対する意識を高めることができ,緑膿菌の薬剤感受性の回復とMDRP検出件数の顕著な減少効果が表れたと考える.本結果を踏まえ,今後はより高い水準の抗菌薬適正使用と感染症治療支援に携わっていきたい.
報告
  • 松島 幸慧, 白坂 大輔, 松井 隆, 守殿 貞夫
    2013 年 28 巻 2 号 p. 86-90
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      東日本大震災後,避難所である岩手県の高校体育館でインフルエンザが集団発生した.今回我々は,その時間経過と感染拡大防止策について報告する.
      近くの基幹病院退院後,避難所体育館に戻った60歳代女性患者が,2011年4月4日に発熱のため救護所を受診し,迅速キットを使用してインフルエンザA型と診断された.空き教室を利用して隔離治療を開始したが,その後から発症者が増加した.発症者が体育館の壁際に偏っていたことから,4月9日より保険適応基準でのオセルタミビルリン酸塩(オセルタミビル)の予防投与を開始した.加えてマスクと擦式消毒用アルコール製剤の設置場所を増やし,校内放送やポスターで実施を呼びかけた.また感染場所として体育館内以外に,給食の列と風呂の脱衣所を疑い,給食の列でのマスクの着用と脱衣所の掃除方法の確認を行った.同時に発熱患者に対して積極的な救護所への受診を呼びかけた.4月16日以降発生患者が減少し,4月20日を最後に新規発生はなく,4月24日に隔離を終了した.この間,発症者の総数は40名であった.
      今回重症例を発生することなく,インフルエンザ集団発生を終息に導くことができた.1例目からの隔離治療,一般的感染予防策の徹底,オセルタミビルの予防投与,発熱患者への積極的な受診の呼びかけが終息に寄与したと考えられた.
  • 久留野 紀子, 笠原 敬, 三笠 桂一, 柗浦 一, 徳谷 純子
    2013 年 28 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      医療関連感染予防においては,手指衛生の遵守率の向上と維持が重要な課題である.そこで今回,奈良県内における手指衛生の現状と手指衛生の遵守率向上維持に向けての活動の実態を調査した.
      2011年10月15日に開催された奈良県医療関連感染予防ネットワーク研究会に参加した23施設の看護師宛てに2011年11月1日に調査票を送付し,11月30日までに郵送で回収した.
      23施設中18施設から回答があり,回答率は78.3%であった.回答した全ての施設が液体石けん及び速乾性手指消毒薬を設置していた.手指衛生遵守率調査は8施設(44%)が行っていると答えた.しかし,遵守率を回答した施設は1件(5.6%)のみであった.全ての施設が最低年1回は実技指導やビデオ,洗い残しチェックなどを用いた啓発活動を行っていた.
      今回のアンケート調査から,多くの病院で手指衛生遵守の向上維持への取り組みはなされているが,直接観察法などを用いた手指衛生遵守状況を把握,評価している病院は稀であることわかった.
  • 青木 雅子, 北川 洋子
    2013 年 28 巻 2 号 p. 97-100
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      新生児は医療従事者の手指を介して微生物を獲得する危険性が高いため,当院のNICUでは手指衛生実施後に未滅菌手袋を着用し,接触予防策も導入してきた.今回,医師と看護師が処置やケアの場面において適切なタイミングで手指衛生が実施できているのか,ビデオ撮影し,「医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン」と「WHO医療施設における手指衛生ガイドライン」の「手指衛生の5つのタイミング」に基づいた観察フォームを使用し,実態調査を行った.その結果,手指衛生が適切に実施されているタイミングと実施されていないタイミングが明確になった.遵守率の低いタイミングは,汚染部位から清潔部位に移る時23.1%,体液曝露後33.3%であった.新生児の唾液や外陰部に対するスタッフの認識が成人とは異なることが考えられた.また,清潔操作前も41.2%と低く,気管内吸引や点滴管理などの処置が,保育器内での操作が多いこと,また安全管理の側面からの問題が考えられた.手指衛生の遵守率向上に向けて安全性と感染防止を組み合わせた一連の処置・ケアの流れと対策が示唆された.
  • 池ヶ谷 佳寿子, 加瀬澤 友梨, 土屋 憲, 濱田 敦子, 難波 真奈美, 明貝 路子, 小路 毅, 丸尾 啓敏, 増田 昌文
    2013 年 28 巻 2 号 p. 101-108
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/05
    ジャーナル フリー
      医療関連感染の発生を減少させるために,サーベイランスの実施は重要である.これまでの当院のサーベイランスは,アウトブレイク監視のためのデータ収集および統計解析に膨大な労力を要していた.また,1) 週,月単位の解析のためにアウトブレイク探知が遅れる,2) 月をまたいだ菌の増加に気づきにくい,3) 監視対象以外の菌種の増加に気づきにくい,4) 他部署での異常な菌の増加を知る術がない,5) 感染対策実施内容を院内で共有できない,などいくつかの問題点もあった.これらを改善すべく2010年に導入した感染管理支援システム内に菌種を限定しないリアルタイムアウトブレイク監視とラウンド記録管理機能を構築した.アウトブレイク監視対象菌種やアウトブレイク探知方法を見直したことにより,院内で発生している状況を正確かつリアルタイムに把握し,周知することが可能となった.また,感染対策実施内容を記載したラウンド記録の管理機能により,病院全体で過去の事例を参考とした感染対策を実行できている.今後さらに現在のシステムを成熟させ,より充実した感染対策を目指していこうと考えている.
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