日本環境感染学会誌
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28 巻, 4 号
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原著論文
  • 鹿角 昌平, 上條 泰弘, 御子柴 雅樹, 吉澤 裕義, 小口 敬伸, 高橋 一豊
    2013 年 28 巻 4 号 p. 201-206
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      手指衛生手技としてのスクラブ法では流水下で手を擦り合わせることによる物理的除去効果が期待され,その評価には蛍光物質を用いた目視確認が汎用されているが,洗い残しの定量的な把握は困難であった.そこで,本研究では一定量の蛍光物質を手指に塗布して手洗いを行い,手洗いにより水中に移行した蛍光物質を定量し,質量除去率を算出する手法について検討した.その結果,洗い残し面積を目視して算出した面積除去率よりも質量除去率の方が有意に低かったとともに,面積除去率と質量除去率の乖離の程度が被験者により大きく異なっており,目視確認による主観的評価の問題点が明らかとなった.よって,手指衛生手技における物理的除去効果を定量的に把握することは評価の客観性向上に資するものと考えられ,各種介入効果や手指衛生手技の具体的手順の検討等に際し,質量除去率という指標が有用である可能性が示唆された.
  • 神谷 あかね, 牧野 朱未, 窪田 徹, 宮沢 直幹, 高橋 幸子, 深沢 貴志, 金子 美玲, 甲斐 純夫
    2013 年 28 巻 4 号 p. 207-212
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      感染症診療の質を向上させる目的で,当院において血液培養検査推進活動を行った.その成果を評価するために,2009年度から2011年度の3年間の入院患者を対象として血液培養実施状況,血液培養陽性率,コンタミネーション率,血液培養検出菌について調査を行った.その結果,3年間で血液培養検査件数は1404件,1631件,1833件と増加した.1000患者日あたり年間採取セット数は9.2セット,11.4セット,13.3セットと増加した.成人の2セット以上採取率は52.0%,56.5%,87.4%と上昇した.コンタミネーション率は4.1%,3.4%,2.4%と低下した.検出菌では腸内細菌の分離率は21.8%,28.5%,33.9%と上昇し,感染症診断の向上につながった.2セット以上採取率の顕著な上昇は感染制御チームによる啓蒙活動によって,現場の医療者に2セット以上採取の重要性が周知されたためと考えられた.またコンタミネーション率の低下の理由として,検体採取講習会の実施,検体採取マニュアルの作成および電子カルテ端末上への公開などの成果があらわれたことが考えられる.
  • 渡邊 真裕子, 吉永 正夫, 櫛田 千晴, 谷口 潤, 吉満 桂子, 花田 修一
    2013 年 28 巻 4 号 p. 213-218
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      A病棟で2009年12月から2010年4月にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の伝播件数が増加した.感染対策チーム(ICT)および院内感染防止対策委員会(ICC)が感染対策の強化を図ったが効果が得られなかった.そこで,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によるMRSAタイピングを行い,患者・職員間の伝播の存在を証明することがMRSA伝播防止対策に効果があるか検討した.2010年3月にA病棟全職員に行った鼻腔培養での陽性者8名と,2009年1月~2010年3月に検出された42名の患者株のタイピングを行った.A病棟における伝播数は,2009年12月2件,2010年1月3件,2月6件と増加していた.2月にICTから感染対策の強化を指導し,伝播数は3月1件に減少したが,4月には再び3件と再上昇した.PCR法により職員株は4タイプに患者株は16タイプに分類された.職員株4タイプは患者株と同一であった.これらの結果を4月にA病棟およびICCに報告し,保菌している職員の除菌も行った.介入前後の5ヶ月間の伝播数/新規入院患者数は13.4%(15件/112名)から0.6%(1件/154名)と有意に減少した(p<0.001).MRSAの保菌調査とタイピングを実施し,職員・患者間のMRSA伝播の存在を証明することは,職員の意識の変容と伝播防止対策に効果があると考えられる.
報告
  • 内田 信之, 五十嵐 恒雄, 嶋村 洋子, 後藤 恵, 染谷 由香里, 冨沢 陽子
    2013 年 28 巻 4 号 p. 219-222
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      群馬県では2010年12月に群馬県ICD連絡協議会が設立され,2011年8月に当院を対象に第1回院内感染対策支援調査(相互チェック)が行われた.当院は第三者から評価を受けたことで,病院内の職員に感染対策の重要性を認識してもらう機会を得た.一方調査に来た各医療施設の職員にとっても,他施設の感染対策の実状を確認できる機会を得た.つまり今回の活動は,訪問する側,受ける側双方にとって利益があるものと考える.
      群馬県内で院内感染対策支援調査をいち早く受けた施設として,今回の経験を多くの施設と共有し,今後の感染対策に生かしていきたいと考えている.
  • 水谷 文香, 山本 圭一, 石井 幸枝, 東 禎二, 川端 厚
    2013 年 28 巻 4 号 p. 223-230
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      近年,さまざまな背景を有する入院患者に対して,誤嚥性肺炎の予防,経口摂取可能な口腔状態の維持などに重点を置いた標準的口腔ケアを実施することが望まれている.しかし,患者の口腔状態を評価する標準的なアセスメント表はなく,各施設が独自の方法で実施しているのが現状である.本稿では,当院における口腔ケアアセスメント表の作成から改良に至るまでの経緯を文献的考察とともに報告する.
      当院はICTとNST活動の一環として病棟における口腔ケア回診を開始した.当初は,電子カルテの医師記録に口腔所見と評価や指導内容を回診者の主観で判断しそれぞれの言葉で記録していた.そこでアセスメント表Ver.1を作成し,客観的で統一された記録,評価を試みた.Ver.1の運用から得られたデータでは,口腔ケアを評価するにあたりポイントとなる症状は乾燥と汚染,好発部位は口唇・口蓋・舌,無歯顎に比べて有歯顎の方が汚染が付着停滞しやすいことが推測されたため,Ver.2では入力項目を絞り込み,新たにリスク項目を加え,それらを点数化した.今回,口腔ケア対象患者のリスク評価として客観的指標に基づいたアセスメント表を使用したことにより,的確な現状分析が可能になった.今後も院内外との連携を見据えた視点から,共通のアセスメント表の検討,汎用性の高い口腔ケアプロトコールの導入など,口腔ケアシステムに係る戦略を立てていきたいと考えている.
  • 棚町 千代子, 橋本 好司, 田代 尚崇, 堀田 吏乃, 矢野 知美, 三浦 美穂, 石井 一成, 中島 収
    2013 年 28 巻 4 号 p. 231-234
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      当院の各病棟に設置されている製氷機は,納入業者による定期的な製氷機内部の清掃・メンテナンスを実施している.製氷機の清掃・メンテナンス時に汚れがひどく,水皿の上部壁にバイオフィルムが形成されていた.感染制御部(ICT)より細菌汚染調査の依頼を受け,水皿の細菌培養検査を行った結果,従属栄養細菌と糸状菌が分離された.我々は,製氷機で作製された製氷も同様に従属栄養細菌等に汚染されているのではないかと考え,3 ヶ所の病棟に設置されている製氷機から作製された製氷について調査した.また,3 件の家庭用冷蔵庫にて作製された製氷を比較対象とした.病棟製氷機の製氷から,従属栄養細菌が検出され一部からは糸状菌も検出された.今回の結果より,病棟内の製氷機および水道水の細菌汚染の管理が重要であると考えられる.
  • 平野 龍一, 坂本 勇一, 手代森 隆一, 赤平 恵美, 今 めぐみ, 立花 直樹
    2013 年 28 巻 4 号 p. 235-239
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/05
    ジャーナル フリー
      緑膿菌は院内感染症の起炎菌として重要な微生物であり,施設により抗菌薬に対する感受性に違いが見られる.本検討は当院の入院患者から分離された緑膿菌を対象に,重症例に対する最適投与方法を検討することが目的に広域抗菌薬の感受性を調査した.
      当院で検出された緑膿菌の約9割がpiperacillin/tazobactam (PIPC/TAZ)やmeropenem (MEPM)に感受性を示したが,imipenem (IPM)やcefepime (CFPM)に対する感受性は他の2剤と比べ低下していた.緑膿菌感染症例に対する広域抗菌薬の使用状況を調査し,モンテカルロシミュレーションによって最大殺菌効果が得られる投与方法を検討した.MEPMやPIPC/TAZによって最大殺菌効果を得られる投与方法は1日3回以上であり,当院で広く用いられている投与方法と一致した.しかしIPMやCFPMによって最大殺菌効果が得られる投与方法は1日3回以上であり,当院における使用方法と異なっていた.特にIPMでは投与回数を増やしても最大殺菌効果を得られず,緑膿菌感染疑い症例などの初期治療に用いることは治療が失敗する可能性が高いと考えられた.各施設により耐性菌の検出状況は異なるため,自施設の臨床データをもとに薬剤選択することが重要である.今回得られた結果を院内に周知させ,投与法の再検討をする必要性が示唆された.
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