日本環境感染学会誌
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29 巻, 1 号
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総説 (疫学・統計解析シリーズ)
  • 操 華子
    2014 年 29 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/05
    ジャーナル フリー
      本稿から疫学・統計学の基礎知識に関する連載が開始する.質の高い,エビデンスに基づいた感染制御活動を展開するためには,エビデンスとなりうる研究を実施する者(研究者),発表された研究論文を読み,臨床実践へその結果を適応させていく者(実践者),そして,星の数ほど発表される研究成果を実践家が使いやすい形に作り替え,世に発表する者(ガイドライン作成者)の3者がバランスよく機能することが必要である.この3者,いずれもがその機能を十分果たすためには,疫学と統計学の知識が求められる.
      質の高い研究成果を得るためには,質の高いデータを得る必要がある.その質の高いデータを得るためには,データの収集前に,「何を明らかにしたいのか?」,「どのように明らかにしていくのか?」ということをしっかりと決める必要がある.つまり,リサーチクエスチョン(research question,研究課題,研究上の問いとも呼ばれる)を明確にすることが質の高い研究成果を得るための第1歩である.このリサーチクエスチョンへの回答を得るために,適切な研究デザイン,研究方法を選択する.
      本稿では,感染制御の領域で頻用される研究デザインについて概説する.具体的な研究デザインについて述べる前に,研究のプロセス,リサーチクエスチョンの重要性,その種類,明確化したリサーチクエスチョンから適切な研究デザインを選択する方法についても説明する.
  • 藤田 烈
    2014 年 29 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/05
    ジャーナル フリー
      近年では,パーソナルコンピュータや統計パッケージソフトウェアの進歩により,複雑な統計解析手法を実施できる環境を,個人レベルでも容易に入手できるようになった.医学,看護領域の研究者が「統計」を道具として手軽に利用できる環境を得たことは大変喜ばしい事であるが,便利さと同時に「誤用」の危険性が増していることにも注意しなければならない.目的に合った解析手法を選択し,結果を正しく解釈するためには,統計手法に関する一定の理解が必要であり,この役割をコンピューターやソフトウェアに求めることはできない.さらに,研究やデータの解析に直接関わらない医療従事者にとっても,学会発表や学術論文から正確な内容を読み解き,正しく臨床応用していくためには,統計解析手法に関するある程度の知識が必要になる.
      本稿では,疫学・統計解析シリーズ連載の2回目として,感染制御領域の研究で取り扱うデータ(変数)の種類と代表的な2群比較検定手法について解説を行う.
原著論文
  • 武重 彩子, 山口 正和, 岩田 敏, 前澤 佳代子, 木津 純子
    2014 年 29 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/05
    ジャーナル フリー
      同意が得られた医療従事者838名を対象とし,麻疹,風疹,ムンプス,水痘の罹患歴,予防接種歴について自己申告するとともに,各ウイルス抗体価を測定し,抗体保有状況を調査した.麻疹はPA法(ワクチン接種対象者は128倍以下とした)およびEIA法(4.0未満),風疹はHI法(8倍以下)およびEIA法(4.0未満),ムンプスおよび水痘はEIA法(4.0未満)で測定し,抗体価の低い希望者にワクチンを接種した.いずれかの抗体価が低い医療従事者が28.0%おり,ワクチン接種の対象となった割合は,麻疹7.4%,風疹8.4%,ムンプス16.1%,水痘0.8%であった.罹患率,予防接種歴の自己申告と抗体価との関連性は低かった.抗体獲得率は,麻疹PA法86.3%,EIA法100.0%,風疹HI法93.3%,EIA法98.3%,ムンプス82.9%,水痘100.0%であった.ワクチン接種による有害事象は麻疹・風疹混合ワクチン44.7%,ムンプスワクチン37.1%,水痘ワクチン66.7%に発現したが,いずれも軽快し,直接ワクチン接種との因果関係が疑われる重篤な症状は認められなかった.本研究により,罹患歴,予防接種歴があると自己申告している者にも,ワクチン接種の対象者がおり,全職員の抗体価測定が有用であることが認められた.さらに,低抗体価の職員へのワクチン接種が有効であり,かつ安全であることが確認された.
報告
  • 室 高広, 北原 隆志, 伊東 弘樹, 入江 利行, 野中 敏治, 藤井 裕史, 松元 一明, 山崎 博史, 柳原 克紀, 佐々木 均
    2014 年 29 巻 1 号 p. 32-40
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/05
    ジャーナル フリー
      基質拡張型β–ラクタマーゼ(ESBL)産生菌の検出率は地域毎や菌種毎に異なることが報告されており,その分布状況を地域で把握することは感染症診療や感染管理上有益である.今回,九州山口地区の29施設におけるESBL産生菌の菌種と検出の地域分布の調査と,抗菌薬適正使用推進活動が注射用抗菌薬使用量に与える影響,抗菌薬適正使用推進活動および注射用抗菌薬使用量のそれぞれがESBL産生菌検出に与える影響を調査した.カルバペネム系抗菌薬届出制実施施設では非実施施設に比べ,カルバペネム系抗菌薬の抗菌薬使用密度(以下,AUD)が有意に低く(p=0.027),第3世代セフェム系抗菌薬のAUDが有意に高かった(p=0.001).ESBL産生菌検出に有意ではないが地域差が認められた.抗菌薬適正使用推進活動とESBL産生菌検出の間に有意な関係は認められず,第4世代セフェム系抗菌薬やカルバペネム系抗菌薬のAUDとESBL産生菌検出率の間にも有意な関係は認められなかった.本調査結果から,ESBL産生菌の拡散には,院内での抗菌薬使用だけでなく,院内水平伝播や外来での抗菌薬使用なども関係している可能性が推察される。このことから,拡散抑制には各施設において複数の方法を組み合わせた総合的な対策が必要であると考えられる.
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