日本環境感染学会誌
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29 巻 , 2 号
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総説 (疫学・統計解析シリーズ)
  • 操 華子
    2014 年 29 巻 2 号 p. 67-79
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      Gleenhalgh は彼の著作の中で、“ゴミ箱行き”の論文の科学と題した章の冒頭で、以下のように述べている。
      発表された論文の中には(正直者は99%にも及ぶと言うだろう)ゴミ箱行きのものがあること、そしてそのような論文は実践現場に有用な情報をもたらすことがないので、活用すべきではないことを学生たちが学ぶと、きまって驚いた表情になる。1979年、Dr. Stephen Lock(当時のBMJ の編集長)は、『よいアイデアには基づいているが、用いられた方法に取り返しのつかない欠点があり、その論文を不採用にしなければ ならないことほど医学雑誌の編集者にとってがっかりすることはない』と書いている。その15年後、Doug Altman は方法論上の欠点のない医学研究は、全体のたった1%のみであると訴えた。そして最近でも、“質の高い”雑誌に掲載された論文にでさえ、重大かつ基本的な欠点が一般的に見受けられることが確認された。
      厳格な査読制度のある学術雑誌で発表されている研究論文でさえ、結果の真実を歪める、別の表現をすると偽りの統計学的有意性を作り出すような問題を孕んでいる論文が少なくないことをGleenhalgh は指摘している。そのため、既存の研究論文をエビデンスとして活用する臨床家・実践者には、批判的吟味(Critical appraisal)の能力が求められる。また、エビデンスを作り出す研究者には、偽りの統計学的有意性を作り出す要因についての知識を持ち、その問題を最小限にするための配慮と努力が求められる。
      本稿では、研究成果として偽りの統計学的有意性を作り出す要因である偶然誤差、系統誤差(交絡)について概説する。感染制御の領域で頻用される研究デザインを使用した研究例を紹介し、各研究デザイン特有の問題を説明する。
  • 藤田 烈
    2014 年 29 巻 2 号 p. 80-92
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      アウトブレイク発生時にデータを整理、分析し、効果的な対策を提案する、あるいはその対策の効果を適切な方法で検証することは、アウトブレイクの早期収束、再発予防を図る上で、感染対策担当者が果たすべき重要な役割の一つである。また、幸運にもアウトブレイクを経験していない施設の職員、あるいはデータの解析に直接携わる機会を持たない職員にとっても、アウトブレイク事例を紹介する研究発表や論文から正確な情報を読み解き、自施設の感染予防プログラムに活用することは重要な役割となる。いずれにおいても、アウトブレイク調査の場面で用いられる統計解析手法に関する一定の理解は必要である。
      感染症のアウトブレイク調査に用いられる統計手法には、いくつかの特徴、特殊性がある。基本となる統計理論は他の医療分野で用いられる統計手法と同じであるものの、他領域との違いを理解しておくことも大切である。とりわけ、アウトブレイクデータ解析の場面で頻繁に利用される統計学的推定の手法、リスク・予防因子探索場面でのP 値の解釈、交絡への対応方法などを理解しておくことは、限られた情報と時間の中で適切な判断を下す感染対策担当者にとって必須の要件といえる。また、薬剤耐性菌アウトブレイクや医療器具関連感染症のアウトブレイクデータ解析の場面では、イベント数が少ないデータからその時点での最適解を探索する、高度なデータ分析が求められる。この種の解析は、疫学や統計学に関する系統的な教育をうけた者にとっても容易なことではなく、このような場面で発生し得る感染対策のミスリードを回避するためには、相応の知識が必要となる。
      本稿では、アウトブレイクデータ解析の場面で一般的に用いられる統計手法を紹介し、データ解析の観点から、散見される問題をいくつか取り上げ、その対処方法について解説を行う。
原著論文
  • 吉田 真由美, 益田 洋子, 井上 大奨, 平木 洋一, 河野 文夫
    2014 年 29 巻 2 号 p. 93-99
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      多剤耐性Acinetobacter baumannii (MDRA)は世界的に流行しているが,本邦でのMDRAの検出は比較的に稀である.この様な状況の中,当院に入院中の患者の喀痰からMDRAが検出された.感染兆候は認められず保菌状態であったが,その後5名の入院患者よりMDRAが検出された.我々は,MDRAの検出が疑いの段階で,患者を個室管理とした.また,これら6名の患者から検出されたMDRAが同一株であるか判断するためPulsed-field gel electrophoresis (PGEF)解析を行った.その結果,同一菌株が院内伝播している事が明らかとなった.さらに,検出されたMDRAはblaOXA–23–likeを保有し,MLST分析の結果International clone II (IC–2)株であることが明らかとなった.我々は,病棟の一部を閉鎖するゾーニングを実施し,同一菌株のMDRAが院内伝播している情報提供と,スタッフの手指衛生の重要性について研修会を実施した.その結果,MDRAは5名の患者に伝播したが,それ以降の院内伝播は認められていない.感染症の原因となる薬剤耐性菌の検出が疑われる場合,細菌検査の結果確定を重視するより,疑いの段階であっても早期の隔離予防策を図り,全職員へ現状の情報伝達や,日常的な手指衛生の周知徹底と改善が,院内伝播の拡大を防止する感染制御策であると示唆する.
報告
  • 山田 景土, 佐野 美樹, 久原 嘉子, 中村 造, 足立 拓也
    2014 年 29 巻 2 号 p. 100-104
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      Enterobacter cloacaeは近年多剤耐性化が著しく,特に免疫力が低下した患者に対して感染した場合,治療が困難となる可能性がある.今回,我々は当院の集中治療室(ICU)の滅菌水手洗い装置の蛇口部分を培養し,そこから第4世代セファロスポリン系抗菌薬にまで耐性を獲得したE. cloacaeを分離した.ICUでの患者伝播を疑い,半年間のうちにICUに入院歴のある患者を調査した.環境由来のE. cloacaeと同じ薬剤感受性を示したE. cloacaeはICU患者2名から分離された.環境および患者由来菌株の疫学解析のためにPulsed-field gel electrophoresisとplasmidプロファイルを実施した結果,泳動パターンは同一であり環境由来および患者由来菌は同一起源である可能性が示唆されたが,詳細な感染経路の特定や院内感染の確証を得るには至らなかった.その後,汚染が確認された滅菌水手洗い装置のフィルターを除去し水道水へ変更し,手洗い装置のメンテナンスを見直したことで蛇口部分への汚染菌の定着を防止した.積極的に環境調査を実施することは,大規模なアウトブレイクを未然に防止することが出来るため有用であり,環境調査により滅菌水手洗い装置に対する管理の重要性が示された事例であった.
  • 松本 健吾, 星野 輝彦, 今泉 隆志
    2014 年 29 巻 2 号 p. 105-111
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      抗菌薬の適正使用をすすめる上で,「介入とフィードバック」による監査は重要である.当院における「介入とフィードバック」をより推進するため,抗菌薬適正使用支援システム(本システム)を構築した.本システムにより,細菌検査結果に基づいた検出菌一覧やアンチバイオグラムのような有用な情報を速やかに作成できた.これらの情報に基づいて,抗菌薬の適正使用状況を確認し,必要に応じて,薬剤師は処方医へ薬剤変更などの処方提案を速やかに実施した.その結果,細菌検査を実施した患者の中で処方提案を行った件数は,10件(3.6%)より57件(17.5%)へ大きく上昇した.またシステム構築前後の処方提案に対する受入れ率は,それぞれ90.0%と75.4%となった.またシステム構築後において,処方提案に対し受入れた方が,受入れなかった場合よりも臨床効果の有効率が高い傾向が見られた.本システムは,短時間で抗菌薬の適正使用を監査するうえで有用である.今後,病棟薬剤師と連携し,対象患者は抗菌薬療法を行うすべての患者へ広げる予定である.
  • 小菅 康史, 長島 悟郎, 中谷 佳子
    2014 年 29 巻 2 号 p. 112-116
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      脳卒中診療では,地域連携パスを使用した急性期病院から回復期リハビリテーション病院,在宅へと至る,途切れなく医療が提供されるシステムの構築が進んでいるが,耐性菌の検出が転院とその後の治療の阻害因子となることがある.そこで,今回我々は亜急性期または慢性期医療を提供している回復期リハビリテーション病院,療養病床を有する病院,及び介護施設における耐性菌に対する意識調査を行った.入院時に保菌チェックを行っていると回答した病院は4病院,介護施設は12施設であった.MRSAの保菌が確認されている場合,19施設の介護施設で入所を原則不可としていた.ICD, ICN両者ともに配置がない病院は2病院であり,介護施設では全施設でICD, ICNの両者とも配置がなかった.MRSAなどの耐性菌に対する正確な情報の提供と施設職員の指導体制の確立のため,地域におけるより緊密な関与が可能なシステムの構築が必要であると考えられた.
  • 平野 龍一, 手代森 隆一, 立花 直樹
    2014 年 29 巻 2 号 p. 117-121
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      Vancomycin (VCM)の副作用に腎障害があり,発生頻度は血中濃度と相関するためTherapeutic Drug Monitoring (TDM)の実施が好ましい.当院における2010年度のTDM実施率は40%であり,2011年6月より実施率改善を目的に介入を行った.本研究は介入の効果,ならびにTDMの重要性を確認するため実施した.2010年4月から2011年3月までの30例を介入前,2012年4月から2013年1月までの35例を介入後とし,計65例を解析した.方法はVCMが投与された症例を抽出し,母集団薬物動態パラメーターから推計トラフ濃度を計算した.投与2日目に付箋を電子カルテの診療録に貼ることで推計トラフ濃度を報告し,TDMの実施を提案した.統計解析はχ2検定を行った.TDM実施率は介入前の40%(12/30)から介入後は80%(28/35)となり有意に改善した.腎障害発生率やVCM治療の有効率は介入前後で改善傾向にあるが有意な差は無かった.TDM実施群における有効率は70%(28/40),腎障害発生率は17.5%(7/40)であり,それぞれ有効率はTDM未実施群と比べ有意に高く,腎障害発生率は有意に低かった.電子カルテの付箋機能を用いた介入はTDM実施率改善に有効であり,VCMの適正使用に貢献したと考える.
  • 多湖 ゆかり, 谷 久弥, 森兼 啓太
    2014 年 29 巻 2 号 p. 122-127
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/05
    ジャーナル フリー
      CDCのGuidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011の発出を受け,末梢静脈カテーテルの標準的な留置期間を4日毎から7日毎に変更した.留置期間が適切か否かを評価するため変更後6ヶ月間(2011年7月~12月)の末梢静脈カテーテルに関連するBSIと静脈炎のデータ解析をした.延べ留置日数2,784日,ライン使用本数989本に対して,BSI発生は2件であり,1000ライン日あたり0.72件であった.発生日はどちらも留置3日目であった.静脈炎(INS基準:2+以上)は14件で,3日以内と4日以上を比較して静脈炎発生率に有意差は見られなかった.従って,末梢静脈カテーテルをルーチンに3~4日毎に刺し替える必要はない.刺入部の観察を重視した上での7日毎の刺し替えは,患者の苦痛軽減やスタッフの労力削減を図る上でむしろ好ましいと考える.
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