日本環境感染学会誌
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30 巻, 6 号
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原著論文
  • 小澤 寿子, 中野 雅子, 池野 正典, 高尾 亞由子
    2015 年 30 巻 6 号 p. 379-384
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      当院に設置した微酸性電解水(SAEW)による歯科用チェアユニット水回路(DUWL)清浄システムの汚染対策効果を評価した.搭載したSAEW生成装置からSAEW (有効塩素濃度10~30 ppm,pH6.3~6.8)をDUWLに診療中,診療後に連続的に供給した.2本のハイスピードハンドピース回路の内,1本は清浄システムに接続し(H1),もう1本は比較のためにシステムから分離して水道水を使用した(H2).
      毎月1回診療前に,H1,H2から水を採取し,有効塩素濃度を測定後,R2A寒天培地上で25°C,7日間培養,コロニー数を測定した.さらに検出された優勢菌種のコロニーに対して,16S rRNA遺伝子の塩基配列解析を行った.その結果,H1のサンプルはH2サンプルに比べ高い有効塩素濃度を維持していた.H1のサンプルからはコロニーの発育はほとんど認められなかったが,H2サンプルからはしばしばコロニーの発育が認められ,その優勢菌種は,Methylobacterium spp., Mycobacterium spp., Sphingomonas spp. であった.したがって,SAEWを使用したこの清浄システムはDUWLで使用される水の清浄化に効果的であることが示唆された.したがって,SAEWを使用したこの清浄システムはDUWLの水の清浄供給に効果的であることが示唆された.
  • 日馬 由貴, 本間 功武, 増田 満伯, 後藤 博一, 小野寺 昭一
    2015 年 30 巻 6 号 p. 385-390
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      当院において,2009年,産科病棟で発熱する新生児症例が急増した.また,ほぼ同時期に,同院新生児室に入院した症例からBacillus cereus (B. cereus)が高頻度に検出された.院内インフェクション・コントロールチームと協力し環境調査を行ったところ,産科病棟のリネンに幅広くBacillus属菌の汚染が認められた.このため,産科病棟における新生児発熱の増加の原因はB. cereusのアウトブレイクであると判断し,感染対策を行った.アウトブレイクの原因は,委託クリーニング業者におけるリネン汚染が強く疑われた.感染対策により新生児室からB. cereusが検出されることはなくなり,産科病棟における発熱症例の増加にも終息がみられた.B. cereusは環境常在菌であり,ほとんどの消毒薬に耐性を示すため,委託クリーニング業者に完全な対策を求めることは困難である.病院は常にB. cereus検出の動向に注目し,急速な検出数の増加がみられた場合はアウトブレイクを疑い,環境調査を行うことが求められる.
報告
  • 小倉 憂也, 小澤 智子, 野島 康弘, 菊野 理津子
    2015 年 30 巻 6 号 p. 391-398
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      本研究では,ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする環境除菌・洗浄剤(RST)の有効性について,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),多剤耐性緑膿菌(MDRP),ノロウイルス代替のネコカリシウイルス(FCV)およびC型肝炎ウイルス代替のウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)を対象として評価した.懸濁試験において,1%RSTは,0.03%ウシ血清アルブミンを負荷物質とした試験条件では1分間の作用時間で,MRSA,MDRPに対して4 log10以上の殺菌効果を示し,またFCVに対し4 log10以上のウイルス不活化効果を示した.1分間作用の懸濁試験による評価において有効塩素濃度が同じ次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)よりもRSTはウイルス不活化効果が高かった.浸漬試験においてはキャリアに付着させたBVDVに対して0.1%NaOClは0.9 log10の,また1%RSTでは3.3 log10の減少であった.また,試験薬含浸ワイプによる拭き取り試験では,1%RST含浸ワイプは,FCVに対し4.5 log10以上の除去効果を示した.これらの結果からRSTは,病院環境における日常の衛生管理において,選択肢の一つになり得る製剤であることが示唆された.
  • 村松 有紀, 山岸 由佳, 松島 由実, 犬塚 和久, 大曲 貴夫, 三鴨 廣繁
    2015 年 30 巻 6 号 p. 399-404
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      血流感染診断目的での血管内留置カテーテルからの血液培養検体採取は一般的に推奨されていないが,カテーテル由来血流感染(CRBSI)の診断目的でのカテーテルからの検体採取,カテーテル先端培養は推奨されている.しかし,それらは汚染との鑑別が困難であるという事実もあり臨床現場での実施率は不明である.
      今回,それらの実施状況を把握する目的で,東海・北陸地区の感染管理認定看護師が在籍している188施設にアンケートを郵送し回収されたデータを解析した.回答は114施設(回収率61%)から得られた.
      アンケートの結果,CRBSIが疑われる場合,カテーテル先端培養は98%の施設で実施されていたが,培養方法は施設により異なっていた.また,カテーテル採血と末梢血の同時培養を全例に実施している施設が2%しか無いなど,CRBSI診断目的での血液培養が効果的に実施されていない施設が多いことが明らかになった.
      CRBSIの診断のためには,医療スタッフにルート類からの血液培養採取が効果的であることを理解してもらい,ルート類から血液培養を採取する場合は,末梢血を採取した場合と同程度まで汚染率を下げるために,教育的な介入をすることが必要と考えられた.
  • 西川 敦, 児玉 泰光, 永井 孝宏, 田村 隆, 高野 操, 内山 正子, 田邊 嘉也, 高木 律男
    2015 年 30 巻 6 号 p. 405-410
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      口腔外科手術における予防的抗菌薬投与に明確な指標はない.また適正使用に向けた取り組みについての報告も少なく,医療施設の特徴や術者の経験などに依るところが大きい.当科では2011年7月のICTラウンドを契機に,予防的抗菌薬投与が検討され,これまで多用されていたセフェム系第二世代に替え,セフェム系第一世代を推奨することにした.この変更が抗菌薬適正使用に向けた取り組みとして適切であったかを検証するため,2009年1月から2013年12月まで予防的抗菌薬投与症例(1,160例)の中で,140症例中8例(4.7%)とSSI発生が多かった悪性腫瘍症例を対象に,SSI発生を指標として調査を行った.全調査期間における悪性腫瘍SSI発生症例は,CEZ群3例(4.8%),CTM群3例(4.1%)であった.CEZ群とCTM群とのSSI発生に差がなかったことから,口腔外科手術でのSSI原因菌に対して,セフェム系第一世代でも第二世代と同程度にSSI発生を予防することが可能であり,第二世代から第一世代への抗菌薬の変更は適切であったことが示唆された.今後は予防的抗菌薬の投与期間,内服抗菌薬への切り替えに加え,抗菌薬以外のSSI発生の要因について検討を続けていく必要がある.
  • 澤田 真嗣, 下間 正隆, 小野 保, 近藤 大志, 藤田 将輝, 堀内 あす香, 西川 靖之, 三上 正
    2015 年 30 巻 6 号 p. 411-417
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      Antimicrobial stewardship program(ASP)は,感染症の起因菌や感染部位を考慮した適切な抗菌薬の使用を促進することを意味する.今回,我々は薬剤師のASPにおける活動の一環として,感染対策ソフトを利用して情報を短時間で効率的に収集して抗菌薬適正使用支援を行った.2013年1月から2014年12月までの2年間において,支援件数は1年目81件であったが,2年目は272件と約3.4倍に増加した.その内訳は「de-escalation」が最も多く,次いで「投与の終了提案」,「empiric therapyにおける新規抗菌薬投与・変更提案」が多かった.コンサルテーション件数は1年目43件であったが,2年目は186件と約4.3倍に増加した.支援の結果,1年目と比較して2年目ではtazobactam/piperacillin(TAZ/PIPC)のantimicrobial use density(AUD)は有意に低下し,Pseudomonas aeruginosaのTAZ/PIPCに対する耐性率も有意に低下した.TAZ/PIPCのAUDが低下して,それに伴ってP. aeruginosaの耐性率も低下したと推測される.薬剤師が感染対策ソフトを活用して,効率的に感染症治療に参画することによって抗菌薬の適正使用が推進できることを示していると考えられた.
  • 北川 誠子, 藤井 哲英, 二宮 洋子, 河口 豊, 平田 早苗, 東田 志乃, 寺田 喜平
    2015 年 30 巻 6 号 p. 418-421
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      調理従事者からのノロウイルス感染集団発生は,特に病院などでは注意が必要である.病院調理従事者のべ370便検体について,イムノクロマト法による迅速抗原検査を実施した.またその1ヶ月以内に本人で嘔吐下痢症状のあった職員および陽性者はリアルタイムPCRで測定した.その結果,迅速抗原検査の陽性者はいなかったが,リアルタイムPCR法で2/44名が陽性であり,陰性化するまで1ヶ月以上かかった.迅速抗原検査法は簡便であるが,無症状の健康成人に対するスクリーニング検査では漏れのある可能性を示した.スクリーニングよりも現場で手指衛生の教育や徹底が重要である.
  • 有瀬 和美, 西崎 紗矢香, 森田 珠恵, 八木 祐助, 武内 世生
    2015 年 30 巻 6 号 p. 422-427
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
      自動尿量測定器によって耐性菌が伝播する危険性は以前から指摘されている.2011年11月,メタロβラクタマーゼ陽性のS.maltophiliaが10日間で4例検出された.当該病棟にある自動尿量測定器の細菌培養により,S.maltophiliaは検出されなかったが,メタロβラクタマーゼ陽性のMDRPが検出された.自動尿量測定器の使用は危険と考え,廃止に向けての介入を開始した.まず,病院内にあるすべての自動尿量測定器の細菌培養を行い,MDRP, S.maltophilia,およびESBL産生大腸菌が検出されたため使用中止すべき,と院内に広報した.その後,診療科別の自動尿量測定器使用患者数と蓄尿患者数を毎月集計し,公表する事とした.さらに,自動尿量測定器の使用目的や廃止の可能性について,各診療科医師や病棟看護師と個別に検討した.その結果,病院全体の自動尿量測定器使用患者数は,2011年11月の86人から,2012年6月には2人に減少した.そして,2012年7月末にすべての自動尿量測定器を撤去した.蓄尿患者数は,2011年11月の10人から,2012年6月には4人に減少した.その後,蓄尿は検査のために指定された日のみに行うだけとなった.危険の「見える化」,実態調査,調査結果の広報,スタッフとの個別検討などにより,自動尿量測定器の廃止を達成できたと考える.
正誤表
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