日本環境感染学会誌
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30 巻, 1 号
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原著論文
  • 佐藤 昭裕, 中村 造, 福島 慎二, 水野 泰孝, 松本 哲哉
    2015 年 30 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      当院で2010年から2014年の間に血液培養が陽性となり,末梢静脈カテーテル関連血流感染症(peripheral line-associated blood stream infection: PLABSI)と診断された38例について臨床的検討を行った.PLABSIと診断されるまでの入院日数は,中央値17日(3~86日),菌血症となるまでのカテーテル留置期間は,中央値が5日(2~15日)だった.PLABSIもしくはその合併症に対して抗菌薬が投与された期間は7~100日と幅広く,中央値は18日間であり,骨髄炎等の合併があると長期投与となっていた.起因菌はグラム陽性球菌が23例(60.5%),グラム陰性桿菌は20例(52.6%),Candida属は5例(13.2%)でみられ,複数菌検出例が10例でみられた.カテーテルの先端培養は,感染症医が診察に行ったときにはすでに抜去されていることが多かったが,7例でカテーテル先端培養が陽性となった.合併症としては化膿性血栓性静脈炎が8例(21.1%),蜂窩織炎が3例(7.9%),椎体炎が2例(5.3%)でみられた.菌血症判明から30日以内に死亡した症例が4例みられた.末梢静脈留置カテーテルは多くの患者に挿入される医療器具であるが,PLABSIの存在は,十分に認識されていない可能性が示唆された.また,重大な合併症を伴う症例が存在することも確認された.観察を十分に行い,顕在化されていないPLABSIを未然に防ぐ対策を今後検討すべきである.
  • 西 圭史, 中村 貴枝子, 高橋 陽子, 種岡 貴子, 佐野 彰彦, 小林 治, 河合 伸, 池田 俊也, 操 華子, 山田 治美
    2015 年 30 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      米国感染症学会ガイドラインや日本感染症学会(the Japanese Association for Infectious Diseases: JAID)と日本化学療法学会(Japanese Society of Chemotherapy: JSC)共同編集のJAID/JSC感染症治療ガイド2011では,カテーテル関連血流感染(catheter-related bloodstream infection: CRBSI)治療には,分離菌に対して感受性を示す抗菌薬の投与が推奨されている.しかし,臨床ではカテーテル抜去のみしか行われなかったり,分離菌に対し感受性のない抗菌薬が投与されることがある.本研究ではCRBSIについて,分離菌と投与された抗菌薬を調査し,カテーテル抜去のみを行った症例と感受性のある抗菌薬の投与を行った症例,感受性がない抗菌薬の投与がされた症例の3群を比べ,その後の菌血症再発に対する影響を解析した.分離菌に対し感受性のある抗菌薬を投与した群の菌血症再発率は,カテーテル抜去のみの群(p=0.004)や,分離菌に対し感受性のない抗菌薬が投与された群(p=0.031)に比べて有意に低かった.この結果から,CRBSIが疑われる場合は適切な抗菌薬の使用が推奨され,このことがCRBSI再発リスクを低減することが示された.
  • 國重 龍太郎, 大湾 知子, 富島 美幸, 武加竹 咲子, 久田 友治, 小出 道夫, 健山 正男, 比嘉 太, 藤田 次郎
    2015 年 30 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      当院では浴室のシャワー水におけるレジオネラ調査を毎年行っている.2010年度では5階精神科病棟浴室のシンクタップ1件のみにレジオネラが検出された.2011年度では4階産婦人科・周産母子センター,NICUのシャワー,シンクタップ,浴室以外の洗面台等水系設備の複数の箇所からレジオネラが検出された.対策としてホース交換と放水を長期間行ったのち再検査した結果,1ヶ所を除いてすべて陰性であった.聞き取り調査によると,陽性であった周産母子センター面談室手洗いシンクは放水による対策が十分に行われていなかった事が判明した.
      今回はレジオネラ発生箇所と水系設備の配置や使用状況から,組織連携を主とするレジオネラ対策活動指針を考察した.4階は水系設備の最下層であり水が淀みやすい.さらに給水管の使用頻度が低いためにレジオネラの検出が多くなり,レジオネラ感染症への危険性が高まると推定される.レジオネラ対策では,給水設備の配置や水系設備の使用頻度を正しく把握する必要がある.このため調査者は感染対策室,該当部署,設備課との連携と協力,情報交換を迅速に対応することが不可欠である.これを円滑に行えるよう支援できるシステムを構築した.
  • 村端 真由美, 加藤 はる, 笈西 一樹, 矢野 久子
    2015 年 30 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      がん患児においては,Clostridium difficile感染症(C. difficile infection, CDI)のリスクが高いことが報告されている.一方,成人病棟とは異なり小児病棟においては,多くの場合,排泄ケアが医療従事者ではなく付き添いの家族によって行われることが多く,C. difficileによって環境が汚染されることが多いと考えられる.
      本検討では,大学附属病院の小児病棟の環境におけるC. difficile汚染状況を調査した.環境調査は5回繰り返し行い,検体採取を行った113ヶ所中28ヶ所(25%)から少なくとも1回以上,のべ502ヶ所中のべ39ヶ所(7.8%)から,C. difficileが分離された.分離された39株においてPCR ribotypingによる解析を行ったところ,異なる12タイプが認められた.39株のうち,13株は同一タイプPCR ribotype trf株であり,病棟の広範囲の環境表面から検出された.一方,急性リンパ性白血病の患児の糞便検体から繰り返し分離された菌株と同一タイプ(PCR ribotype smz)の菌株が,本患児の病室環境および車椅子利用者用トイレから検出された.以上より,小児病棟におけるCDIの感染予防のために小児および家族に対して標準予防策の教育に加え,適切かつ慎重な環境清掃の必要性が示唆された.
短報
  • 松元 一明, 黒田 裕子, 寺島 朝子, 前澤 佳代子, 木津 純子
    2015 年 30 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      先発医薬品と後発医薬品では添加物が異なるため,溶解性が異なる可能性が考えられる.そこで本研究ではコールター原理に基づいた自動細胞計数装置を用いて,バンコマイシン塩酸塩点滴静注用5製剤をそれぞれ生理食塩液に溶解し振とうした際の不溶性微粒子数を測定し,各製剤の溶解性を比較検討した.各振とう時間において5製剤の不溶性微粒子数には有意差が認められ,1製剤は先発医薬品よりいずれの時間においても有意に低値を示した.他の4製剤は振とう時間を長くすることで,有意に不溶性微粒子数は低値を示した.したがって,製剤毎の溶解性には差があり,溶解時間が異なることが確認された.バンコマイシン塩酸塩点滴静注用を適正に使用するには,溶解性の差を理解し,適切な溶解時間を現場の医療スタッフに周知徹底する必要がある.
報告
  • 寺島 憲治, 矢野 久子, 脇本 寛子, 金子 和可子
    2015 年 30 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      重症心身障害児(者)施設の入所者の多くは,長期に滞在し日常生活動作の全てを多職種職員に依存している.彼らの中には胃瘻ボタン/経鼻胃管や気管カニューレ等を留置し,経管栄養や気管内吸引等の医療的ケアを受ける者もいる.これら医療関連器具の留置部位は,耐性菌保菌のリスクファクターであり,急性期病院のみならず,長期療養型施設においても耐性菌の伝播予防は重要な課題である.そこで,本研究の目的は,入所者と直接関わる職員とのケア場面とその時の手指衛生遵守状況を直接観察し,重症心身障害児(者)施設内における耐性菌伝播を防止する為の課題を明らかにする事とした.観察されたケア内容は,入所者への感染リスクから,高・中・低水準に区分した.高水準ケアは,医師と看護師のみが実施していた.医師の気管カニューレ前後の手指衛生遵守率は低く改善が望まれた.中水準で最も多いケアは,看護師の経管栄養と看護師の他に保育士や訓練士や教員が共に実施していたオムツ交換であった.経管栄養前後の手指衛生遵守率は前14.3%,後23.2%であり,ケア時の手袋の使用方法には課題が認められた.低水準に含まれるケア前後の手指衛生遵守率は,看護師,保育士,訓練士,教員において低率であった.教育背景の異なる多職種に対して手指衛生の方法やタイミングを中心とした標準予防策についての教育的働きかけが必要不可欠であると考えられる.
  • 渡邉 珠代, 丹羽 隆, 土屋 麻由美, 外海 友規, 太田 浩敏, 村上 啓雄
    2015 年 30 巻 1 号 p. 44-55
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      岐阜県では,2012年4月より県内の全感染防止対策加算算定病院(以下,加算病院)を対象に,感染対策チーム(ICT)活動の質についてのサーベイランスを開始した.今回,このサーベイランス結果について報告する.2012年4月から2014年2月までの23ヶ月間の,ICT活動(会議およびラウンド回数),薬剤耐性菌等[メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌,Clostridium difficile(CD)トキシン)]の検出,血液培養,擦式アルコール製剤および抗菌薬の使用量についての毎月のデータを解析した.その結果,ICT会議の開催回数,血液培養の複数セットの採取率,擦式アルコール製剤の使用量の増加が認められた.一方,MRSAの新規検出率は増加,ESBL産生菌の新規および総検出率は軽度増加傾向にあり,MRSAの総検出率,CDトキシンの検出率には,明確な増加や減少傾向は認めなかった.抗菌薬の使用状況にも大きな変化は認めなかった.本サーベイランスにより,岐阜県内の加算病院の感染対策活動の実態把握が可能となった.また,一部の調査項目,特にICTの努力で比較的改善しやすいと考えられる項目に関しては,有意な改善が認められた.他の項目の動向も含め,引き続き解析を継続したい.
  • 栃倉 尚広, 中馬 真幸, 今井 徹, 菊池 憲和, 小林 広和, 伊藤 美和子, 下口 和雄, 矢越 美智子, 矢内 充
    2015 年 30 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/05
    ジャーナル フリー
      Antimicrobial stewardship program (ASP)の一環として,当院では2006年から医師,薬剤師,微生物検査技師,看護師など多職種から構成された「抗methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)薬適正使用カンファレンス」を定期的に開催し,使用状況の評価,フィードバックを行っている.抗MRSA薬が投与された全症例を対象に,診療録や細菌検査結果から「抗MRSA薬の投与が必要な感染症」,「その可能性が高い」,「臨床的に投与が必要」,「発熱性好中球減少症」を適正使用とした.培養検体未提出で「評価不能」や定着や汚染菌と考えられ「投与不要」と判定された場合には主治医に使用目的を確認し,必要に応じて介入を行った.ASPの効果の指標として抗MRSA薬の使用動向,薬剤感受性動向を調査した.積極的な介入の結果,抗MRSA薬使用患者数は年間420~476名の間を,抗MRSA薬のantimicrobial usage densityは12.9~16.5を増減している結果であり,著明な変化はみられなかったが,評価結果については「適正使用」と判断される症例は2006年と2012年を比較すると65.3%から82.3%に増加(p<0.01),de-escalation実施率も33%から85%に増加した(p<0.01).また,MRSAに対するvancomycin, teicoplanin, arbekacin, linezolidの感受性率は良好に維持されていた.多職種連携によるカンファレンスを行いその評価をフィードバックすることは適正使用の推進をもたらすと考えられた.
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