日本環境感染学会誌
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30 巻, 5 号
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原著論文
  • 東野 督子, 神谷 和人
    2015 年 30 巻 5 号 p. 309-316
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      ICUの患者療養環境へのmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)の汚染状況を検討した.
      人工呼吸器を装着した33例の患者周辺環境の調査を行った.調査期間は2006年6~8月,および2007年4~9月と2009年6~10月とした.
      患者周辺環境にあるベッドシーツ,ベッド柵,人工呼吸器の消音ボタン,ジャクソンリース,聴診器より合計395の試料を採取した.入室期間中に患者からMRSAが検出された11例の患者では,患者周辺環境より20.0%(28/140試料)のMRSAが検出された.ICU入室48時間以降のMRSAの検出率は,ベッドシーツより35.3%(6/17試料),人工呼吸器の消音ボタンより29.4%(5/17試料)であった.
      MRSA検出患者の環境汚染は早期に出現し(<24時間7/55),時間経過とともにさらに高率となる(≧48時間21/85).一方,MRSA検出なし患者は,入室から24時間の環境からのMRSAの検出はなく,48時間以上の経過でもわずか2か所にとどまった.また遺伝子学的検討で,MRSA検出なし患者の病室でも,先に入室したMRSA検出患者による療養環境からのMRSAが検出された.施設内の患者周辺環境にMRSAは生存し,医療従事者の手指や器具を介して同一の菌の汚染が周辺環境へ拡大していく可能性が疑われた.
  • 林 三千雄, 中井 依砂子, 藤原 広子, 幸福 知己, 北尾 善信, 時松 一成, 荒川 創一
    2015 年 30 巻 5 号 p. 317-324
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      2007年1月から2012年12月までに当院血液内科病棟の入院患者より分離されたmetallo–β-lactamase (MBL)産生緑膿菌24株について細菌学的,遺伝子学的解析を施行すると共に,その患者背景を調査した.POT法を用いた遺伝子タイピングでは24株すべてが同一株と判定された.患者リスク因子では抗緑膿菌活性のある抗菌薬使用が21例,末梢静脈カテーテル留置が20例,過去一年以内のクリーンルーム入室歴が18例であった.器具の洗浄消毒方法の見直し,手指衛生や抗菌薬適正使用の徹底などを実施したが血液内科病棟における新規発生は減少しなかった.環境培養の結果などから伝播ルートとして温水洗浄便座を疑い,同便座ノズルの培養を行ったところMBL産生緑膿菌保菌者が使用した便座ノズルの27.2%から同菌が検出された.2013年1月,温水洗浄便座の使用を停止したところ新規のMBL産生緑膿菌検出数は減少した.その後,同便座の使用を再開したところ再び増加したため,2014年1月以降使用を停止した.血液内科病棟への入院1000 patints-daysあたりの新規MBL産生緑膿菌検出数をMBL産生緑膿菌感染率とすると,温水洗浄便座使用時は0.535,中止中は0.120であった(p=0.0038).血液内科病棟における温水洗浄便座の使用はMBL産生緑膿菌院内伝播の一因となり得ると考えられた.
報告
  • 岡上 晃, 小澤 智子, 小倉 憂也, 野島 康弘, 菊野 理津子, 白石 正
    2015 年 30 巻 5 号 p. 325-330
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする複合型塩素系除菌・洗浄剤(RST)が病院で使われている機器などの素材に対して腐食性を有するか否かについて,0.1%次亜塩素酸ナトリウム液(0.1%NaOCl)および日本薬局方消毒用エタノール(EtOH)と比較試験を行った.腐食性の影響を調べる素材として,ステンレス(SUS304),銅,アルミニウム,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリカーボネート,アクリル,ポリスチレン,ラテックスゴム,シリコンゴムを用いた.実際の使用方法とは異なるが,これらの素材を各消毒液に7日間浸漬して素材表面を観察した.その結果,通常使用の2倍濃度である2%RST調製液は銅に対し浸漬1日後に,またアルミニウムに対し浸漬2日後にそれぞれ変色および光沢消失の影響を与えたが,その他の素材に対しては浸漬7日後においても外観的な影響を与えなかった.一方,0.1%NaOClは浸漬3日後にステンレス,銅,アルミニウムに対し影響を与えた.また,EtOHは浸漬1日後にアクリルを白濁させ,浸漬3日および7日後の重量測定では重量増加が認められた.以上,RSTは金属あるいは樹脂素材に対する影響が少ないことから感染リスクの高い透析室,手術室等の医療機器表面および感染性の高い病原微生物が検出される部署の環境表面の衛生管理に有用な除菌・洗浄剤であると考えられた.
  • 山本 景一, 大隈 雅紀, 池田 勝義, 大林 光念, 安東 由喜雄, 藤本 陽子, 手塚 美奈, 宮川 寿一, 川口 辰哉
    2015 年 30 巻 5 号 p. 331-335
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の監視培養は,高リスク病棟で実施されるが,検査頻度や検体種類は施設によって様々であり,過剰検査を避けるためにも費用対効果は十分検討されるべきである.当院では2005年から2010年までに細菌培養検査件数が1.5倍に増加し,特に糞便や鼻腔ぬぐい液など監視培養に用いられる検体数が急増していた.そこで,この傾向が顕著な新生児集中治療室(NICU)に着目し,監視培養の実態やMRSA検出状況を調査した.NICUでは,2008年にMRSA検出数が増加したために,全症例で毎週1回,鼻腔ぬぐい液と糞便の監視培養行われ,検体数増加の主因となっていた.後方視的にMRSA検出状況を調べると,糞便からMRSAが検出された患児は,鼻腔ぬぐい液からも同時に検出されており,しかも,いったん定着したMRSAは長期間検出され続けることが明らかとなった.これらの結果を踏まえ,2011年より監視培養は鼻腔ぬぐい液のみとし,MRSA定着後は監視培養を中止するなどの変更を行った.その結果,同科のMRSA検出率に変化はなかった.一方で,検体数が前年度比で32%減少し,監視培養に関わる費用は74%の削減となった.このように,疫学データをもとに監視培養方法を見直すことで,無駄のない効果的なMRSA監視が可能になると考えられた.
  • 下間 正隆, 小野 保, 近藤 大志, 澤田 真嗣, 森下 ひろえ, 西川 靖之
    2015 年 30 巻 5 号 p. 336-340
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      2008年から2014年まで7年間の当院の結核発生届のうちの32例に関連してIFN–γ遊離試験(IGRA)を用いて病院職員の接触者検診を行った.IGRA前値陰性で10週後陽性となった職員は16人で,全員が潜在性結核感染症として労災申請して認定された.労災申請は2011年8人,2012年6人と多かった.2013年,2014年は各1人に減少したが,まだ完全になくなったわけではなく,常に結核を念頭においた診療が重要であると考えられた.
  • 峯 麻紀子, 松原 祐一, 山本 稔, 栁原 克紀
    2015 年 30 巻 5 号 p. 341-347
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      2013年1月末,55床の整形外科病棟で季節性インフルエンザのアウトブレイクを経験した.1月25日に50代女性の入院患者がインフルエンザ様症状を呈し,27日に別病室の入院患者3名が,翌28日には入院患者と病棟看護師各1名がインフルエンザAを発症したためアウトブレイクを宣言し,感染対策の強化を図った.しかし,1月31日には発症者が13名に達したため,病棟を閉鎖して入院患者と職員の計78名にオセルタミビルリン酸塩の予防投与を行い,第1症例発生から18日目に終息した.
      発症患者の11名中9名がリハビリ室を利用していた.また1名の理学療法士が担当した患者の発症が相対リスク3.43 (95%信頼区間1.05~8.44, p=0.025)と有意に高かったが,これは直接的な伝播要因としては断定できなかった.今回,感染源や感染経路の特定には至らなかったが,整形外科入院患者は日常生活動作が良好なため行動範囲が広いことや,リハビリ室での濃厚接触機会が多いこと等が感染拡大に関与していると考えられた.したがって,整形外科病棟の特性を考慮すると,インフルエンザ流行期の第1症例発生時には早期より患者への手指衛生や咳エチケットの徹底指導と,飛沫および接触予防策の実施が必要であるとの教訓を得た.感染拡大を最小限に食い止めるためには,予防投与以前にこれらの対策を迅速に行うことが今後の課題と考えられた.
  • 小林 謙一郎
    2015 年 30 巻 5 号 p. 348-353
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      歯科診療所における針刺し・切創の実態や,B型肝炎ワクチンの接種状況は明らかではない針刺し・切創を原因とする血液・体液媒介性感染症の予防を目的とし,実態を把握するためアンケート調査を行った.東京都墨田区内の歯科診療所に勤務する医療従事者(歯科医,歯科衛生士,歯科助手)を対象とした.墨田区内130施設中69施設よりアンケート調査票を回収し,計97名(歯科医師74名,歯科衛生士13名,歯科助手10名)の回答を得た.歯科医師の70.3%,歯科衛生士と歯科助手を合計した中の77.2%が針刺し・切創を経験していた.歯科医師は,診療中の麻酔用注射針による針刺しが多く,歯科衛生士や歯科助手では,針刺し・切創の原因器材や状況は様々であった.歯科診療所に勤務する医療従事者のB型肝炎ワクチン接種率は59.4%であった.歯科衛生士,歯科助手,50歳以上の歯科医師において特にB型肝炎ワクチンの接種率が低かった.また,針刺し・切創発生時に適切な対応(流水による創部の洗浄と病院の受診)を行ったものはわずか9%であった.歯科診療所では,多くの医療従事者が針刺し・切創を経験しているが,B型肝炎ワクチンの接種率や針刺し・切創発生時の対応は十分ではない.
  • 勝田 優, 小阪 直史, 村田 龍宣, 舩越 真理, 井上 敬之, 山下 美智子, 杉田 直哉, 勝井 靖, 澤田 真嗣, 大野 聖子, 清 ...
    2015 年 30 巻 5 号 p. 354-361
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/05
    ジャーナル フリー
      病棟での輸液調製では,調製時の汚染防止により注意を払う必要がある.病棟での輸液調製の現状把握のため,空気清浄度,調製環境,輸液メニューについて血液内科と外科病棟を対象に多施設間調査を実施した.空気清浄度調査は,5施設9部署にて実施し,パーティクルカウンターとエアーサンプラーを用いて浮遊粒子数と浮遊菌の同定・コロニー数を測定した.環境と輸液メニューの調査は,9施設13部署を対象に,調製現場の確認と10日間の注射処方箋(7,201処方)を集計した.空気清浄度は,0.5 μm以上の粒子数が,最も多い部署で3,091×103,少ない部署で393×103個/m3であった.浮遊菌は,黄色ブドウ球菌は3部署のみの検出であったが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Micrococcus属,Corynebacterium属やBacillus属は全部署より検出された.調製台は,9部署で空調吹き出し口の直下にあり,10部署でスタッフの動線上に設置されていた.混合のあった4,903処方のうち,3時間以上の点滴が31%を占めた.病棟での輸液調製マニュアルを整備していたのは,9施設中3施設のみであった.調査から,輸液調製台エリアの空気清浄度は低く,3時間を超える点滴が3割以上を占めるなど,細菌汚染が生じるリスクが高い可能性が示唆された.輸液汚染リスク軽減のため,日本版の病棟での輸液調製ガイドラインの策定が望まれる.
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