日本環境感染学会誌
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31 巻, 1 号
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総説
  • 柴 孝也
    2016 年 31 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      本学会は1986年に上田泰らを中心に発足した.本学会の設立の趣旨として,病院感染症に限定することなく広く生活環境に関連する感染について討議するということ,医師のみでではなくコメディカルの人々をはじめ多くの関係者の参加によって底辺の広い会員層をめざした,と言うことが含まれていた.
      最近のエボラ出血熱,耐性菌の蔓延,震災での感染症の経験は,感染制御において病院と言う場所はその環境の一つに過ぎず,様々な環境とその社会的状況における感染の伝播と言うことを我々は常に意識しなければならないことを改めて認識させられた.また昨今チーム医療の重要性が言われるが,多職種による感染対策への取り組みは,今やチーム医療の典型例として診療報酬上も高く評価されている.その構築には幅広い職種によって構成される本学会が大きく寄与して来たことは言うまでもない.
      このように最近の国内外の感染症をとりまく状況は,本学会の設立の趣旨が30年経過した今でも重要な考えであることを我々に教えている.今後ともこの考えを忘れずに,本学会は地域,病院など地球上の様々な単位における感染症の防御に大きな役割を果たして行くべきである.
  • 坂本 史衣
    2016 年 31 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      医療関連感染(HAI)のリスクアセスメントとは,疫学的原則に基づくサーベイランスの実施を通じて,HAIのリスクを可視化し,評価することを繰り返すプロセスである.従って,リスクアセスメントは,医療の質の向上を目的とした,系統的かつ積極的なHAI予防活動である.本総説では,リスクアセスメントのプロセスについて解説するとともに,HAIリスクと改善活動の評価に使用する指標を紹介する.
原著論文
  • 武田 由美, 網中 眞由美, 坂木 晴世, 福田 哲也, 駒形 奈央, 藤田 烈, 森 那美子, 西岡 みどり
    2016 年 31 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      米国疾病予防管理センター(CDC)ガイドラインは,末梢静脈カテーテルを72~96時間ごとに刺し替える方法(定期交換)を推奨しているが,近年の研究では,臨床的に刺し替えざるを得ないイベント(静脈炎等)が生じた場合だけ刺し替える方法(イベント交換)の安全性が示された.本研究では,「イベント交換」が導入された一施設でヒストリカルコントロールを用いた後ろ向き調査を行い,イベント交換の安全性を確認したうえで費用効果を検証した.
      末梢静脈カテーテル関連サーベイランス記録と診療録より,患者属性とイベント発生率を調査した.費用は,輸液療法1回あたりの材料費,人件費,廃棄費を算出した.導入後1か月を除く前後2か月間のイベント(血流感染,静脈炎,血管外漏出,閉塞)の発生率とカテーテル刺し替えにかかる費用を比較した.末梢静脈カテーテルを「定期交換」から「イベント交換」に変更してもイベント発生率に有意な上昇はなかった.費用最小化分析の結果,「定期交換」を止め,「イベント交換」を導入したことによる増分費用は,輸液療法1回あたり−268円であった.
  • 刈谷 直子, 朝野 和典, 磯 博康
    2016 年 31 巻 1 号 p. 24-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      2012年の感染防止対策加算導入による院内感染対策と地域医療連携(他機関連携)の効果を検討することを目的として,2013年10月に大阪府内の医療機関395施設に質問紙調査を実施し,145施設(36.7%)から回答を得た.
      本調査により,加算導入後に加算医療機関,特に加算2医療機関において院内感染対策と他機関連携の取り組みが向上したことや,非加算医療機関における取り組みの向上の必要性が示された.
      院内感染対策の向上には加算医療機関と非加算医療機関との連携が必要であり,今後は加算医療機関や保健所等行政主導の感染防止対策ネットワークを活用し,地域全体の感染防止対策の向上を目指すことが望ましい.
短報
  • 浜田 幸宏, 岡前 朋子, 加藤 由紀子, 久留宮 愛, 高橋 知子, 末松 寛之, 川澄 紀代, 平井 潤, 山岸 由佳, 松浦 克彦, ...
    2016 年 31 巻 1 号 p. 32-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      手指衛生は感染防止技術の根幹をなす.今回,我々は当院において2013年2月から2014年3月までに手指消毒薬キャンペーンを実施し消毒薬の使用量とhealthcare-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus (HA-MRSA)検出率への影響を調査した.キャンペーン前の消毒量は5.8 (L/1000 patient-days)であったのに対し,キャンペーン後は11.6 (L/1000 patient-days)と有意に増大し(p<0.01),MRSA検出率(%)は2.5から1.5に有意に低下した(p<0.01).キャンペーンによる消毒薬の使用量の増大の結果,HA-MRSA検出率の低下に繋がった.
報告
  • 細川 浩輝, 三星 知, 細川 泰香, 霍間 尚樹, 武藤 浩司, 小池 由博, 継田 雅美
    2016 年 31 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      MRSA分離率に影響する因子を検討するために2010, 2011年度2年間における新潟県内5施設のMRSA分離率と速乾式手指消毒剤使用量,手指洗浄剤使用量,抗菌薬使用密度,看護必要度,その他施設概要を調査した.MRSA分離率に対して単変量解析を行った結果,MRSA分離率は看護必要度で有意な相関(R=0.8982, p=0.04)を認め,セファロスポリン系AUD(R=0.7606, p=0.14)と抗菌薬届出制の有無(63.0% vs 83.6%, p=0.15)に有意な傾向を認めた.また重回帰分析の結果,看護必要度のみが有意な独立因子(R=0.8982, p=0.04)として選択された.処置・ケアの多さを表す看護必要度が高くなると手指衛生の手技の質や個人防護具の遵守率の低下につながり,結果としてMRSA分離率の増加につながると考えられる.一方でセファロスポリン系AUD,抗菌薬届出制の有無に有意な傾向を認めたことから抗菌薬の適正使用を推進する事も重要と考えられる.本研究から看護必要度はMRSA分離率に影響する因子となる可能性が示唆された.
  • 佐藤 ひろみ, 佐藤 久子, 福原 賢治
    2016 年 31 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      感染防止対策加算の届け出医療機関においては,医療関係者に職業感染防止を目的としたワクチン接種が積極的に行われているが,その他の医療機関や介護福祉施設ではいまだ十分とはいえない状況と思われる.2012年から始まった風疹の流行を契機に161床のケアミックス病院の当院でもワクチン接種の気運が高まった.常勤職員の流行性ウイルス感染症の罹患歴・ワクチン接種歴を調査した.さらに,抗体価を測定し,ワクチン接種を勧奨した.罹患歴,抗体測定歴,2回のワクチン接種歴の記録の回収率は,対象者217名中14名(6.5%)と低率であった.EIA法による抗体価陽性率は,麻疹70.5%(153名),風疹78.3%(170名),ムンプス60.4%(131名),水痘100%(217名)であった.罹患歴やワクチン接種歴と抗体陽性率の関連性は低いことも確認された.ワクチン接種は一部自己負担で実施したが,接種率は低く課題が残った.適切に流行性ウイルス感染症対策を行うためには,罹患歴・ワクチン接種歴の有無にかかわらず抗体価測定を行い,その結果に基づいたワクチン接種勧奨が必要である.また,ワクチン接種にかかる費用は,医療施設負担とすることが望ましい.
  • 森 伸晃, 柏倉 佐江子, 高橋 正彦
    2016 年 31 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/05
    ジャーナル フリー
      医療関連感染は入院期間の延長や予後の悪化,医療費の増加をもたらすため,各施設の感染対策に関わる専従もしくは専任者に期待される役割は大きい.今回,専従もしくは専任者の存在によるClostridium difficile感染症(CDI)対策を含めた院内感染対策の違いを明らかにするためにアンケート調査を行った.アンケート調査は,「国立病院機構におけるC. difficile関連下痢症の発生状況と発生予防に関する研究」のデータを利用し,2010年8月に全国144の国立病院機構施設のうち感染制御チーム(ICT)がある47施設を対象に行った.調査項目は計22項目で,1)院内感染対策の体制,2)ICTの業務と権限,3)標準予防策,4)環境・設備,5)CDI対策に大別した.専従もしくは専任者がいるのは26施設(55.3%)であった.専従もしくは専任者がいる施設では,ICTのコンサルテーション対応,抗菌薬の届出制,一般病室の清掃頻度が週5日以上,CDIに関する患者および患者家族に対する指導の項目が,いない施設に比べて統計学的に有意に実施されていた.専従もしくは専任者のいる施設では院内感染対策に関して優れた点がみられ,その役割が示された.しかし,専従もしくは専任者がいたとしてもまだ十分にできていない項目があり,これらについては今後の課題である.
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